厳しい話になってしまうのですが、町おこしで地域活性化を狙う試みがことごとく失敗してしまうのが、「どこのまちでもできることをやっているためだ」という指摘がありました。逆に言えば、成功事例というのは、他が模倣することが困難なことをやっているというわけです。ハードルが高いですけど、実際の例を見るとヒントがわかります。
なお、どうも「むしろ失敗事例の方が知りたい!」という人もいらっしゃるようなので、成功事例の前に失敗事例についても紹介することに。紹介したくなる特異性ある成功事例の方がたくさんあるのですが、失敗事例についても見つけ出すようにして、今後追記していこうと考えています。
2番目に追記
2021/11/30追記:
●どの町でもできる町おこしとして「ゆるキャラ」が乱立した結果…
2022/05/27追記:
●公がやる事業がほぼ全部失敗する理由 例外とされた道の駅も…
2022/06/20追記:
●唯一の成功例とされた道の駅、実は赤字も多い 赤字の割合は? 【NEW】
●町おこし・地域活性化が失敗する理由 真似できる時点でもうダメ
2017/09/22:
プレミアム商品券で地域活性化は不可能 典型的な愚策である理由を書いたときにてっきり紹介したと思っていた町おこしの成功事例の話。まちビジネス事業家の木下斉さんの
地方はどうすれば「横並び」から脱出できるか | 地方創生のリアル | 東洋経済オンライン(2015年07月07日)で出ていた話です。
気づかなかったのですが、木下斉さんは最近追記した
日本の公共事業が無駄で効果がないことは親自民党の学者が計算済みでも出てきていました。こちらの投稿の場合は、公的機関がやる施設づくりは大体失敗するという話です。
町おこしでの地域活性化が失敗する理由の方ですが、これはプレミアム商品券のときに出てきたように、真似されてしまうため…というもの。当たり前な話、みなが同じことをしてしまうと差別化できなくなり、特殊性がなくなります。プレミアム商品券というのがそういった典型例でした。
こういうのは、企業活動でもよくありますよね。画期的な商品を出せたと思ったら、あっという間に真似されて旨味がほとんどなくなってしまうというありがちな話です。そのため、地域活性化事業に求められているのは、全国どこでもできるような「汎用性」ではなく、ここでしかできないという「希少性」だと、木下斉さんは指摘していました。
●どの町でもできる町おこしとして「ゆるキャラ」が乱立した結果…
2021/11/30追記:「成功事例は真似できない」と言うと、絶対成功は無理そうなのですが、後半で紹介している成功事例を見ると、不可能ではないということがわかるでしょう。ただ、「むしろ失敗事例の方が知りたい!」という人もいるようなので、成功事例の前に失敗事例についても紹介していくことにしました。
そういえば、うちで過去に書いた投稿でも、「真似できる町おこしは失敗してしまう」という話をやっていたのを思い出したので最初にこれを。
ゆるキャラで地域活性化・町おこしは無理だった…その理由とは?という投稿です。ゆるキャラは特別な町ではなくどの町でもできる典型的な町おこし策ですよね。
ただ、どこの地域でも作れるがために、全国で大量のゆるキャラが登場。供給過剰で差別化が難しく、これでは知名度を大きく高めることができません。ゆるキャラグランプリの上位キャラを誰も知らない…といった状態になり、グランプリそのものも消滅。どこでもできる「町おこし」であったはずが、町おこしそのものができない施策になってしまいました。
●公がやる事業がほぼ全部失敗する理由 例外とされた道の駅も…
2022/05/27追記:地域活性化に限らず、そもそも国や自治体がやる事業はほとんど失敗します。なぜか?と言うと、民間の場合は自己責任のために利益を出せるように努力する一方、国はそこまでしません。これは自分の懐が痛まないためでしょう。自宅では水をケチっても、会社や公共施設だとふんだんに使う…みたいな感覚です。
これにより、民間の銀行やファンドが無理だと思うダメ事業にも税金を投資。また、「これが失敗したら生活がやばくなる」という感覚がないため、税金を詰め込みすぎて、失敗の規模も大きくなりがち。さらに、そもそも普段商売をしている人たちではないため、根本的に商売が下手というのもあります。
ただ、そんな民間ではない事業でも唯一成功したと言われていたものがありました。「道の駅」です。今までの税金の無駄遣いが多すぎて到底プラス収支にはならないでしょうが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、たまには成功するようです。とはいえ、身近な道の駅を見ていると、この成功物語も昔の話のように感じます。
ここらへんの具体的なデータは次回やろうと思いますが、成功とされた道の駅の失敗に転じたのもやはり「真似できるから」で説明可能そう。数が少なかったときなら、道の駅があるというだけで差別化できます。しかし、道の駅が増えれば増えるほど、そのプレミアム効果は減少。失敗は必然だったと言えるでしょう。
●唯一の成功例とされた道の駅、実は赤字も多い 赤字の割合は?
2022/06/20追記:前回書いた道の駅のデータ。日本ではそもそも政府が政策を検証することが稀で、事後評価してもデータ的な根拠がない上に、成功という結果しか出てきません。検証されないために道の駅についてもデータが見つからなくて困ったのですが、ひとつだけ黒字・赤字に触れたレポートを見つけました。
これは国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 地域景観ユニット・緒方 聡さんらによる
(PDF)地域振興効果の発現からみた 「道の駅」の運営に関する考察(平成30年度)というレポート。北海道限定のようですが、参考になります。以下のような結果でした。
・年間収支と入り込み数(おそらく来客数といった意味)の関係
入り込み数70万人~ 黒字 1 少し黒字 1 ±0ゼロ 1 少し赤字 2 赤字 1
30~70万人 黒字 4 少し黒字 0 ±0ゼロ 3 少し赤字 3 赤字 2
10~30万人 黒字 4 少し黒字 5 ±0ゼロ 11 少し赤字 2 赤字 1
~10万人 黒字 4 少し黒字 4 ±0ゼロ 4 少し赤字 3 赤字 5
合計 黒字 13 少し黒字 10 ±0ゼロ 19 少し赤字 10 赤字 9
比率 黒字 21% 少し黒字 16% ±0ゼロ 31% 少し赤字 16% 赤字 15% 黒字の道の駅の方が赤字よりは多いものの、3割が赤字であり、「道の駅を作ればほぼ成功」というイメージからは程遠いです。「赤字でも入り込み数が多ければ経済効果で成功」と強弁した場合でも、入り込み数が少なくてなおかつ赤字という道の駅が結構あり、やはり道の駅なら必ず成功という感じではありません。
なお、「強弁」と書いたように、「赤字でも入り込み数が多ければ経済効果で成功」はかなり無理があります。正当化で多用される経済効果は根拠に乏しく、実態に合った数字とは言い難いため。道の駅が成功だと言う側に証明責任があり、私が考えてあげる必要はないものの、地域の税収増比較で証明するのは一つの手だと思われます。
●紫波町の「オガールアリーナ」はバレーの「練習」専用という超ニッチ狙い
2017/09/22:さて、成功事例の話。岩手県紫波町(盛岡から南へ電車で約15分)の「オガールアリーナ」というバレーボール専用練習体育館の話です。ちなみに、これは「民間資金だけで建てられた」ものだそうで、
日本の公共事業が無駄で効果がないことは親自民党の学者が計算済みで出てきた、民間がやった方が成功するという指摘に合う事例でもありました。
上記の説明で既に「バレーボール専用練習体育館」と書いてあるよううに、ここがユニークなのが多目的施設でないだけでなく、スポーツ専用でもなく、バレーボール専用ですらないということ。バレーボールの「練習」専用というめちゃくちゃ狭い用途の施設なのです。絞り込みに絞り込んでいますね。
こういう風に絞り込んだ方が良いという話は、
日本の公共事業が無駄で効果がないことは親自民党の学者が計算済みでもありました。結果、岩手県紫波町という相対的に不利な立地にもかかわらず、なんと全国各地から中学生からプロまでの練習需要を取り込み、フル稼働しているといいます。地域活性化としての意味もあるというのは、その集客を活かして、合宿施設として併設したビジネスホテルの稼働率も高めているというところでした。
●真似できそうなのに…紫波町の成功事例が真似できない理由
なぜこれが真似できないのか?と最初不思議に思いながら読んでいました。他でもできそうなものです。しかし、実はこの成功事例では、地元出身者という人材が要でした! オガールアリーナの社長も務める地元出身の岡崎正信さんというのは、バレーボールの指導者も務め、プロチームを含めて多方面に営業ができる人材だったんですね。
当たり前な話、この岡崎正信さんは紫波町以外の別の町の出身のわけがありませんし、岡崎正信さんのようなバレーボール関連の経歴を持った方がどの自治体にもいるわけではありません。だから模倣できないのです。言われてみれば、なるほど!というもので、言われてみればそこまで特別な考え方ではないような気がしてきそうです。
ただ、正直、このように人材によって差別化するというのは盲点でした。町おこしというと、そのまちにあるものを中心に考えてしまいますよね。しかし、ものではなく人に注目するというのは、かなりヒントになる話でしょう。バレーボールの「練習」専用といったもののように、むしろニッチで良いというのですから、ハードルもそれほど高くありません。
●絶滅危機にあるマイナー果物「へべす」で消滅危機集落の町おこし
この話を今回引っ張り出してきたのは、
限界集落でも人は呼べる:日経ビジネスオンライン(西 雄大 2017年8月9日)を読んだためでした。こちらは模倣できなくはないものの、やはりかなりマイナーなものなのです。宮崎空港から高速道路を経由し1時間半の小さな集落「宮崎県日向市大字塩見小原地区」。ここで生まれ育った黒木洋人さんは、この20人ほどしかいない集落を活性化させようと取り組んでいます
この活性化作戦の中心になっているのは、日向市の名産「へべす」というメジャーではない果物。柑橘類で、すだちよりも果実が大きく、かぼすより香りがマイルドとされているものですが、そもそも集落同様に消滅危機にあったという知名度が低すぎる不人気フルーツです。日向市内で約80人の農家がへべすを育てているものの、平均年齢が約70歳で、40歳以下が数人しかいません。収穫量も年々減少しており、高齢の農家のなかには栽培をやめ、耕作放棄地になっているところもあったといいます。
そこで、黒木さんは「へべす」を使ったカフェ「カフェ森みち」を開店してみました。へべすジュースや自身が栽培したトマトパスタなどを提供しています。「へべすを軸に町おこしをすれば、栽培量も増やせるかもしれない。そのためには知名度を上げる必要がある」と考えたためです。
記事によると、天気が良いとカフェのテラスを開放し、山林の景色が楽しめるため、週末になると県外ナンバーの車も多く訪れるようになったといいます。さらに、クラウドファンディングを活用して苗木のオーナーを募集し約150人が集まったとのことで、20人という集落の規模の小ささを考えると大成功と言って良いと思います。
宮崎県 へべす ヘベス お取り寄せ グルメ 九州産商 平兵衛酢 しぼり果汁 100% 150ml×2
●むしろ無名が良い?町おこしの題材がマイナーな方が良い理由
私がこの件で、むしろマイナーなものなのが良かったと思ったのは、真似できないわけではないものの、真似するメリットが低いため。メジャーな果物で愛好者が多い場合、マーケットが広いので模倣しようとするところも多くなると考えられます。ただ、小さな市場では、利益が小さいのでそこまで労力をかけて真似する魅力はありません。
先程模倣でダメになるのは企業でもよくあることだと書きましたが、この真似する価値がない市場を狙うというのもビジネスである話。エステー鈴木喬会長は、わざとあまり大きくない市場にこだわり、狙って商品を開発していました。市場が大きくなりすぎると、大手が参入してきて旨味がなくなってしまうためです。
(関連:
エステーからエステー化学に社名変更 鈴木喬会長が成長市場を嫌う理由)
このように、町おこしの考え方は、基本的にビジネスと同じだと考えて良いでしょう。ただ、町おこしをビジネスと同じと考えている人はあまりいないと思われます。最初の木下斉さんの名前で検索していたら、「
まちおこしがビジネスだって忘れてない!?」というタイトルの対談が出てきましたが、たぶん多くの方はその本質を理解していないのだと思います。
【本文中でリンクした投稿】
■
ゆるキャラで地域活性化・町おこしは無理だった…その理由とは? ■
日本の公共事業が無駄で効果がないことは親自民党の学者が計算済み ■
エステーからエステー化学に社名変更 鈴木喬会長が成長市場を嫌う理由 ■
プレミアム商品券で地域活性化は不可能 典型的な愚策である理由【その他関連投稿】
■
本当にある現代の村八分 南馬宿村の秋田県じゃなく新潟県関川村で ■
ゆるキャラの定義は?反対のキツキャラ・ガチキャラはいるのか? ■
伝統とは変わらないことではない 虎屋黒川光博社長は「伝統は変化の連続」と理解 ■
日本でプロスポーツチームがないのは和歌山県と宮崎県だけ 福井県、高知県、三重県にあるのは? ■
伝統を守るべきという無意味で非論理的な主張 なぜと聞かれて説明できない暗黙のルール ■
雑学・歴史についての投稿まとめ
Appendix
広告
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
|