イノベーションの話をまとめ。<アップルのスティーブ・ジョブズとイノベーションに対する誤解>、<日本が得意な高機能・多機能化…でも足し算より引き算が大事!>、<ドラッカーのイノベーション 3つのポイントと3つのタブー>などをまとめています。
2023/05/02まとめ:
●イノベーションを連発 アップルがすごかったところはシンプルなデザインではない 【NEW】
2023/01/12まとめ:
●ドラッカーのイノベーション 3つのポイントと3つのタブー
●アップルのスティーブ・ジョブズとイノベーションに対する誤解
2011/7/30:
『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』著者が語る 日経ビジネスオンライン 2011年7月20日は、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』という本の宣伝で、作者のカーマイン・ガロさんへのインタビュー記事。結構おもしろかったです。
まず、作者は、イノベーションとは必ずしも何か新しいものや技術を発明すること自体を指すわけでないと指摘。既にある技術やアイデアを、組み合わせて、全く新しい技術や製品・サービスに昇華する力を指すのだと考えています。つまり、イノベーションとは、組み合わせる力であり、「連結力」であるということです。
たとえば、「iPhone」も「iPad」も「iTunes」も、個々の技術をジョブズさんやアップルが発明したわけではありません。その一方で、既存の技術を組み合わせ、消費者に響く製品、サービスに仕立てあげました。こうした連結力こそが、ジョブズ氏のイノベーションの強さだとされていました。
●「熱い心」など…イノベーターが備えている7つの基本的な要件
そして、「イノベーターが備えている7つの基本的な要件」が挙げられていましたが、これもアップルの事例が中心。作者は様々な業種や立場の経営者にインタビューをして来たものの、イノベーターがもっている本質的な素養は、不思議なほど共通しているし、優れたクリエイターにも当てはまるものだと思うとされていました。
その1:仕事に没頭できる「熱い心」
当たり前のようですが、何かを新しく生み出すためには、仕事に対するやる気、モチベーションの源泉ともいえる熱い心が必要。
「まずは、あなたが今携わっている仕事を振り返ってみてください。本当に、情熱を注いで仕事に向きあっていますか?」と作者は言いますが、やる気がないのにバリバリすごい仕事をするのはちょっと難しいでしょう。
その2:何をしたいのか。鮮明なビジョンを持つ
要は、「自分は、何をしたいのか」がはっきりしているということ。
例えば、米ゼロックスは、アップルよりも先に、今日のパソコンが標準的に備えているグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)やマウスなどの基礎技術を開発しています。ただ、明確なビジョンがなかったため、それらの技術を、何のために使うのか、何をしたいのかがはっきりしていなかったと言います。
一方、ジョブズさんは30年以上も前から、パーソナルコンピューターで世界がどう変わるかということが見えていました。そのため、ゼロックスの技術を見て、「これで、自分が思い描いているパーソナルコンピューターが作れる」と興奮し、その技術をどう組み合わせればいいのかがわかったそうです。
●一見何の得にもならなそうなものも大事 創造力とはつなげる力
その3:創造力とは、つなげる力である
一見すると脈略のないような事柄が、思わぬイノベーションのヒントとなる可能性があるとのこと。
例えば、ジョブズさんは、カリグラフィー(欧文の文字を美しく書く技術)のクラスを大学で取りました。これはコンピュータと関係ないように思えますが、この経験からマックは開発当初から複数のフォントが搭載され、製品の特徴にもなりました。
「非効率に見えても、それが実は組み合わせる力を養うために有益な場合もある」と作者は言い、さらに「私が特に、おすすめしたいのは、旅をすることです。日常とは違う世界を体験することで、発想力がとても刺激されます」と言っています。
その4:製品はあくまでもビジョンを体現する手段
製品そのものを作ることが目的になってはならず、出来上がった製品は、あくまでも自分のビジョンを顧客に伝える手段でしかないとのこと。製品を売るのではなく、それを通して、描いたビジョンを顧客に体験してもらっているというのが、重要であるようです。
ですから、その製品を通じて、どんなメリットが得られるのか、何が具体的に経験できるのかを、考えるのが重要だともされていました。
●日本が得意な高機能・多機能化…でも足し算より引き算が大事!
その5:大事なのは何を足すかではなく、何を引くか
これは他でもよく聞く「足し算より引き算が大事」という話。アイデアをイノベーションへと昇華していくためには、「何をしたいのか」を極限まで絞り込んでいく必要があり、大事なのは、何を足すかということではなく、何を捨てるかだと言います。
例えば、iPhoneやiPad、MacBook Proなどの製品デザインを担当したジョナサン・アイブさんは、製品の無駄を削って、削って、最後に残ったエッセンスの部分だけを抽出し、世に送り出すそうです。一言で、その商品や作品がなにかを説明できていなければいけないともされていました。
「とかく人は多くを説明したがるとのこと。しかし、本当に受け手に何をいいたいのかを伝えるためには、逆にシンプルにしなければダメなのです」という言葉は、私も耳が痛いです。
また、日本メーカー自体が高機能・多機能化は得意なものの、シンプルで特化した製品は苦手な印象ですね。特に海外市場では、これで苦戦する場合も多いと思われます。
●モノより体験!ストーリーを語っているかどうかも大切である
その6:モノより思い出を提供する
これはよくわからなかったところなんですけど、「その4」と本質的には似ていて、「要するに、開発した製品を通じて、顧客が、どのような体験ができるかにまで、想いを巡らせていく必要があります」とされていました。
典型例は、世界に展開するアップルの直営店「アップルストア」で、ホテルのロビー、バー、サロンのような雰囲気。単純に、アップルの製品を売るのではなく、顧客に上質な体験、思い出を提供することを、第一に考えられているんだそうです。
その7:ストーリーを語っているか
自分が手がけた製品をどんな思いで作ったのか、何がもっとも大事なのか、ストーリーとして語ることが重要だということです。優れたイノベーターに、優れたプレゼンテーターが多いのは、彼らは皆、開発する過程をストーリーとして語られるからだとされていました。
ジョブズさんのプレゼンは、彼が考え、苦悩してきたプロセスをストーリーとして語り、その結果として生まれた製品を紹介していく…といったものだったそうです。最初読んだときにこれ、全然意味わからん!って思ったんですよね。「苦労話を聞かされても買う気にはならないし、むしろうざい」と思いました。
ただ、読み直してみると、これ、結構ありますわ。要するにテレビ的な演出でしょう。例えば、職人さんが素材にこだわって探し続けたり、試行錯誤して失敗品を積み上げながら作っていったり…といった様子をうまい具合に感動的に伝えるのだと思われます。なるほど、これなら売れるとわかりますわ! (ここらへん2020/04/23に修正)
●イノベーションを連発 アップルがすごかったところはシンプルなデザインではない
2023/05/02まとめ:以前もスティーブ・ジョブズさんとイノベーションについて書いた投稿があったことに気づきましたのでこちらにまとめ。「イノベーションを連発 アップルがすごかったところはシンプルなデザインではない」というタイトルで書いていた投稿でした。
2012/11/28:「アップルがすごかったところは」と過去形で書いたのは、スティーブ・ジョブズさんの亡くなった後のアップルは露骨に方針を変えているように見えるため。例えば、スティーブ・ジョブズさんが「決して作らない」と言ったアイテムに手を出すなど、大きくやり方が変わってきたように見えます。
この現在のアップルはともかく、過去のアップルがすごかったことは間違いなく、いろいろな記事で取り上げられています。今回読んだ記事は、< 非連続の中の連続(3)イノベーションは「いまそこにある」ニーズをとらえる>(【第25回】 2012年11月15日 楠木 建 ダイヤモンド・オンライン)という記事でした。
<このところイノベーションを連発しているアップルは、この10年で最もイノベーティブな企業だ。その一つの理由は、アップルほど「できる」と「する」の間のギャップに敏感な会社はないというところにある。顧客から見て明らかに非連続なものを提供する。その一方で、ユーザー(=ごく普通の大衆)の側にある大いなる連続性を直視する。多くの人々があからさまにそそられ、自然と「する」という確信がもてる製品しか出さない。だから、必然的に製品のバリエーションは小さくなる。あれほど巨大な企業になったのにもかかわらず、アップルの出している製品をすべて並べても、大きめのテーブルに収まってしまう>
http://diamond.jp/articles/-/27463 上記の説明で「必然的に製品のバリエーションは小さくなる」とあったのですが、ここらへんが今のアップルはちょっと違うんじゃないか?と思うところのひとつ。iPad miniは戦略的にはサイズの穴埋めで、バリエーションを豊富にするという戦略であり、安易にバリエーションを増やして稼ごうとするやり方でしょう。
また、一部で製品リリースの間隔が短くなっているものが出てきているのも気になるところ。製品リリースの間隔を短縮するのは、バリエーションを増やすというやり方とは少し違うのですけど、どんどん製品を投入することで安易に稼ごうとするやり方ですので、似た方向性だと感じてしまいました。
●ドラッカーのイノベーション 3つのポイントと3つのタブー
2012/9/4:有名なのに今まで取り上げてこなかったドラッカーの話。今回興味を感じたのが、
成功するイノベーションは 3つのタブーを注意深く避ける(要登録 ダイヤモンド・オンライン 2012/9/3 上田惇生 [ものつくり大学名誉教授])という記事でした。やるべきことではなく「タブー」というのがすごくおもしろかったんですよ。
なお、同じシリーズで
イノベーションは企業家の道具 イノベーションに成功するには3つの心得がある(要登録 ダイヤモンド・オンライン 2012/8/27 上田惇生 [ものつくり大学名誉教授])というのもありましたので、うちでは合わせて見ていくことに…。
作者の上田惇生さんいわく、タブーは"イノベーションに成功するための心得を反対側から見た注意事項"だとのことでした。うちで紹介するこれらのタブーとポイントの題名は私が勝手に解釈してまとめています。なので、別の点に重点を置くまとめ方もできるかもしれません。
・タブー1 凝りすぎてはいけない
<凝り過ぎてはならない。凝り過ぎは失敗の元であり、生産者側の自己満足にすぎない。懲り過ぎた財・サービスに大事な時間とおカネを使う者はいない。博物館で見せてもらえばよい>
逆に言うと「シンプルであれ」ということですね。同じページにまとめたスティーブ・ジョブズさんのイノベーションの話では、<日本が得意な高機能・多機能化…でも足し算より引き算が大事!>といった話もあり、スティーブ・ジョブズさんは完全にこれを会得していた感じ。関連して、以下のような話もあります。
「成功したイノベーションのほとんどが平凡である。単に変化を利用したものにすぎない。したがって、イノベーションの体系とは、具体的、処方的な体系である。すなわちそれは、変化に関わる方法論、企業家的な機会を提供してくれる典型的な変化を体系的に調べるための方法論である」(『イノベーションと企業家精神』)
前述の通り、上田惇生さんによる「イノベーションのタブー」は「反対側から見た注意事項」なので完全に1対1で対応するのかと思ったら、これに対応する「イノベーションのポイント」がわかりませんでした。なので、とりあえず、次のタブーに行ってしまいます。次のタブーはわかりやすくポイントと表裏一体となっていました。
・タブー2 分散してはいけない
<多角化してはならない。(中略)核のないイノベーションは、雲散してアイディアにとどまり、イノベーションには至らない>
・ポイント1 集中せよ
<集中しなければならない。複数の異なる分野でイノベーションに成功することはほとんどない。(中略)
イノベーションには、勤勉、持続、献身を必要とする。集中することなくして、これらのものを手にすることはできない。知識は多分野のものを必要とするであろう。だが、目指すものについては、集中がなければならない>
上記の中では、「知識は多分野のものを必要とするであろう」が入っているのが良いと思いました。視野を狭くせよと捉えてしまうと、全く違うことになりますからね。あと、この他分野についてもスティーブ・ジョブズさんを連想。
スティーブ・ジョブズの名言から五つを選り抜き ~スタンフォード大のスピーチなど~などで触れていますが、「英習字の勉強」という一見関係なさげな経験がコンピュータのフォントというところで役立ちました。
・タブー3 今必要でないものを作ってはいけない
<明日のためにイノベーションを行なってはならない。イノベーションはすべて、今日のために行なわなければならない。
イノベーションが完成するには日にちを要するかもしれない。しかし、「20年後には大勢の高齢者がこれを必要とする」といえるだけでは十分ではない。「これを必要とする高齢者はすでに大勢いる。20年後にはもっと大勢いる」といえなければならない。
医薬品の開発では、10年を要することが珍しくない。しかし今日、医療上のニーズがない開発に取りかかる製薬会社はない>
これは解釈が難しそうなところ。最近書いた
アップルVS日本の特許訴訟 イーパーセル、Googleに勝利や
バルミューダの優しい風の扇風機GreenFan2、市場に革命を起こすあたりは将来を見越した感があり、当時必十分な需要があったかどうかの評価は微妙です。
イーパーセルの場合は本元のアメリカが倒産・日本もピンチになっており、やはり時期尚早だったとも言えますが、そうなると特許技術で先行することはできなかったかもしれません。…それは良いとして、この「タブー3 今必要でないものを作ってはいけない」と対応しそうなポイントは以下でした。
・ポイント3 世の中に広く必要とされるものを作れ
<世の中を大きく変えるものでなければならない。イノベーションとは、あくまでも市場志向たるべきものである。誰かが買って、使ってくれなければ、イノベーションとはならない。イノベーションとは、市場に発し、市場で花開き、市場で実を結ぶべきものである。
イノベーションのためのイノベーションは、珍奇なものは生んでも、イノベーションとはならない>
タブーとポイントの対応がわからなかったので、ポイントが1つ余りました。これは、「ポイント2.得意なことをせよ」というものです。
・ポイント2 得意なことをせよ
<強みを基盤としなければならない。あらゆる人、あらゆる組織に、得意と不得意がある。イノベーションに利用できるのは、得意とする能力である。あらゆる機会を検討し、自らの能力を最も生かしてくれる機会を探す。
相性も必要である。狙いとするものの価値を心底信じていなければならない。さもなければ、忍耐を必要とするイノベーションの仕事はできない。
ありがたいことに、多くの場合、強みと価値観は一致する>
先に「集中せよ」というものがありましたが、
多角化はシナジーや本業との関連性より強みを出せるかどうかが大事というものも書いています。取り上げた事例は多角化であるものの、得意なことを生かしており、私はアリだと思っています。ということで、すべての例に当てはめられるかはわかりませんけど、十分に参考になりそうです。
【本文中でリンクした投稿】
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