信用乗車方式(信用降車方式)というのは、公共交通機関を利用する際、乗客が乗車券を自己管理することで駅員や乗務員による運賃の収受や乗車券の改札を省略する方式。この方式は欧米では結構あるんだそうです。日本の場合は珍しいらしいのですが、いくつかあるといいます。
この信用乗車方式系の話としては、<電車の信用乗車・信用降車はノーチェック 日本でも一部で運用>、<デメリットは不正乗車…信用乗車方式は、民度高い日本だから可能?>、<海外での無賃乗車は5~12%、罰金では数万円を課しているところも>などをまとめています。
その後、<安全確認中の踏切内を人が次々横断…で、なぜか鉄道会社に批判>、<大昔どころかかなり最近まで「不正乗車くらい構わない」の風潮>、<2割が不正乗車!4時間検査しただけで3万8000人がひっかかる惨状>なども追記しました。
2023/01/22追記:
●大昔どころかかなり最近まで「不正乗車くらい構わない」の風潮
2023/02/15追記:
●2割が不正乗車!4時間検査しただけで3万8000人がひっかかる
2023/04/26追記:
●不正乗車を広める会があり、メンバーが顔出しで雑誌に出てた時代 【NEW】
写真で綴る昭和の鉄道施設 東日本編

●電車の信用乗車・信用降車はノーチェック 日本でも一部で運用
2017/10/16:富山ライトレールの路面電車がICカード乗車券の利用者に限り、係員が運賃収受をチェックしない「信用降車」方式(一般的には、信用乗車方式の名称を使用)を終日に拡大するそうです。「拡大」とされているように、既に行われていました。これまでは、朝ラッシュ時のみ実施していたそうです。
乗客全員がこの「信用降車」方式で乗るわけではなく、通常は後部車両側のドアから乗車し、運転士がいる先頭車両側で運賃を支払って降車します。「passca(パスカ)」などのICカード乗車券利用者に限って、後部車両側のドアから自分で支払って降りてもらうんだそうです。
そもそも朝ラッシュ時に、なぜこのようなやり方をしていたのか?というと、乗降時間を少しでも短縮するため。そして、拡大の理由は、利便性向上の一貫としていました。乗降時間の短縮でダイヤの乱れをなくすことで信頼性の上昇も見込めるでしょうから、これによって、利用者増に繋げたいということでしょうか。
このケースは違いそうですが、一般的に信用乗車・信用降車は、人件費削減といったコスト的なメリットがあると考えられます。また、飛行機のLCCでは、乗降時間の短縮で運行本数を増やして稼ぐという思想もありますよね。使い方次第ではうまく利益を生み出せるやり方かもしれません。
(
富山ライトレール、係員ノーチェックの「信用降車」を終日実施へ 不正は大丈夫? 乗りものニュース | ライフ・美容 | 2017年10月16日より)
●デメリットは不正乗車…信用乗車方式は、民度高い日本だから可能?
ただ、その利益という観点では、不正乗車のデメリットも当然ながらあります。富山ライトレールの場合は、不正に対して3倍の運賃を設定しているそうですが、たぶんこれじゃあまり効かないでしょう。罰金の金額が少ないと、逆に不正が増加するという研究もあり、逆効果のおそれすらあります。
(関連:
成果主義と罰則がうまく行かない理由 行動経済学の実験の意外な結果)
日本では珍しいそうですが、信用乗車方式は他にも実施例があるとのこと。例えば、岐阜県と三重県を結ぶ第三セクターの養老鉄道(岐阜県大垣市)がそうです。
ワンマン運転の地方鉄道などでは無人駅に停車した場合、列車後方の一部の扉のみが乗車用に開放され、降車の際はバスなどと同様、運転士の前まで移動して運賃を支払い降りる方式が一般的ですが、養老鉄道では無人駅でもホーム側すべての乗降扉を開放。理由はやはり乗降に時間がかかるためだといいます。
こちらでは、一部の列車にアテンダントを乗務させ、車内で乗車券を販売するようにしていました。しかし、実際には「不正乗車は悩ましい」とのこと。日本人だから大丈夫…なんてことはないと考えた方が良いでしょう。
●海外での無賃乗車は5~12%、罰金では数万円を課しているところも
養老鉄道も不正乗車に対しては、目的の区間運賃の3倍ということで、罰金額が低すぎだと感じました。欧米の公共交通機関ではこの方式は一般的だとさっきありましたが、罰金額は日本とはかなり異なるかもしれません。
例えば、フィンランドにおける信用乗船方式の渡し船なんかは、正当な船賃(往復5ユーロ)を持たずに乗船した場合、80ユーロ(約1万600円、2017年10月11日現在)。16倍という金額になっています。これならある程度の効果があるでしょう。また、車内や駅で係員による抜き打ちのチェックが行われているということでした。
信用乗車方式 - Wikipediaを見ると、古いデータですが、罰金額だけでなく、無賃乗車率の数字もありました。ここでもアメリカのポートランドの罰金額が250米ドル、投稿執筆時点のレートで2万8000円と高額に。過去の研究からすると、こういう設定が正しいと思われます。
<信用乗車方式を導入した都市における無札乗車率と罰金(ペナルティ)金額>
都市名 無札率 罰金金額
ポートランド(アメリカ) 5% 250$(最大)
カールスルーエ(ドイツ) 3% 60DM
チューリヒ(スイス) 2% 100SF
ストラスブール(フランス) 12% 100Ff
香港(香港) 不明 HK$290
(出典:表3.30.2「信用乗車方式における無札乗車率(事業者の申告値)とペナルティ金額」、西村・服部『都市と路面公共交通』203頁
凡例:$=アメリカドル、DM=ドイツマルク、SF=スイスフラン、Ff=フランスフラン、HK$=香港ドル)
意外に日本人には成果主義が合っているかもしれない理由 年功序列の不満などで書いているように、日本人はアメリカ人より「タダ乗り」(この場合は不正乗車ではなくもっと広い意味)する人を嫌うそうです。
なので、気に入らないかもしれませんけど、実は無賃乗車はゼロじゃなくても良いという話もしておきます。前述したようなメリットが、不正乗車のデメリットを上回れば導入した方が良いと考えられるためです。技術面が発達すればそれでも良いのですが、人手不足ということもあり、今後こうした方式の採用は日本でも少しずつ増えていくかもしれません。
●日本での不正乗車、個人だけではなく大々的・組織的な不正乗車も
2019/09/08:その後、個人ではなくなんと大々的・組織的な不正乗車があったというニュースが日本でありました。
京王電鉄系京王観光が不正、JR相手に組織的なキセル乗車か?で書いた話です。
また、個人においても、「入場券等を利用した不正乗車」というものがあり、当時以下のような例を紹介しました。有人改札の場合は詐欺罪、自動改札の場合は電子計算機使用詐欺罪であり、当然日本でも犯罪ですからね。
・入場券で入場して列車に乗車し、目的地の駅に到着したあと、その駅に入場した仲間と落ち合い、仲間からその駅の入場券を受け取り出場するという不正乗車がある。不正乗車に協力してくれる仲間・知人が目的地側におり、その人と事前に申し合わせておくのである。「迎え」や「MK」とも呼ばれている。
・2013年3月には日本旅行の幹部社員2人が、静岡駅の新幹線改札口で、出場することで特急券が無効となるのを防ぐために迎えの者が事前に用意していた入場券を不正使用したとして、静岡中央警察署に逮捕されたが不起訴処分となった。
・コンサートや大規模イベントが開催される際、遠隔地からの来場者のためにファン仲間がこれを行う例がある。2017年11月には、AKB48グループのファンと主導者が遠隔地からの知人に対してそれぞれこの不正乗車を幇助した容疑で逮捕されている。なお、ファン同士の会報誌にこういった不正乗車支援が掲載されているケースもあったという。
●キセルを通報するなんて撮り鉄界のタブーを犯した!逆恨みで強盗
2020/09/23:客の不正行為の例があったので追記。
キセル通報逆恨み「撮り鉄」少年ら逮捕 強盗容疑 :日本経済新聞という記事が出ていました。ただ、私が新しい記事だと誤解していただけで古いものですね。2015/6/5付の記事です。
<キセル乗車を通報されたことに腹を立て、少年2人に暴行しカメラを脅し取るなどしたとして、警視庁少年事件課は4日までに、相模原市の高校3年の男子生徒(17)ら少年5人を強盗などの疑いで逮捕した。1人は容疑を一部否認している>
記事で特に説明がないまま、「キセル乗車」という言葉が使われていました。この「キセル」というのはは代表的な不正乗車のひとつなんですよ。乗車駅からその近くの途中駅までの乗車券と降車駅の近くの途中駅から降車駅までの2枚の切符を使用して両方の改札を通るという手法です。
逮捕された少年らは列車を撮影して楽しむ「撮り鉄」。顔見知りだった被害者らに、新潟県内の駅でキセル乗車しているのを見つけられ、駅員に通報され逆恨み。逮捕された少年らは「キセルを通報するなんて撮り鉄界のタブーを犯した」などと動機を供述しているとのこと。撮り鉄全体の民度が低いと思わせる、イメージ悪化発言もしていますね。
●安全確認中の踏切内を人が次々横断…で、なぜか鉄道会社に批判
2022/10/10追記:信用乗車とは関係ない上に、電車に乗る人のマナーではなく電車に乗らない人のマナーの話ですが、ここに追記。<「先頭が入るのを見て10人は続いた」線路内に次々と立ち入る歩行者、動画拡散「ゾッとする」 JR東日本「絶対にやめて」>(22/10/7 17:44配信 弁護士ドットコムニュース)という記事が出ていました。
<開かない踏切に業を煮やした歩行者が、相次いで線路内に侵入する様子がツイッターに投稿されて、「危ない」と物議をかもしている。JR常磐線の貨物列車が30分ほど緊急停車したことが原因のようだ>
<動画では、踏切が降りた線路内に貨物列車が停車している。警報がカンカンと鳴り続ける中、踏切をくぐったりして、何人かが踏切の中に立ち入り、なかには貨物列車を乗り越えて行く姿も確認できる>
<JR東日本によると、停車していたのは、全長約400mの貨物列車だ。
「10月6日、18時19分頃、貨物列車が前方の三河島道踏切内の停止信号を認め非常停車しました」
停車の原因もまた人(人数や年齢や性別は不明)の立ち入りだった。ただし、彼らはすぐに線路外に出たというが、「この際、停車した場所が車両点検(架線と架線のつなぎ目)が必要だったため、車両点検を実施し運転を再開しました」ということから、約30分の遅れで運転を再開したという>
https://news.yahoo.co.jp/articles/46f93bfa916f7430c2c86b8c568238cc87cc25df
当然ながら、この動画を確認したJR東日本は、「危険であり、絶対にやめて」と呼びかけ。貨物列車の間をすり抜けて向こう側に渡るってのは特にヤバそうですね。しかし、民度の低いコメントが多いことで知られるヤフーニュースでは、停車時間を短くしてほしいと要望するコメントが1番人気になっていて驚きました。
<この行為は絶対にしてはならないけど、気持ちは分からないでもない。
人身事故等で1時間以上踏切が閉鎖されることもある。(その踏切には電車は止まってない)
当然、付近は人も車も大渋滞。
特に車は動きようがない。
大変だとは思うけれど、鉄道会社も、そういう時は、開かずの踏切状態の踏切を何とかして欲しい>
普通の開かずの踏切であれば、鉄道会社にどうにかしてほしいと願うのはまだわかります。しかし、今回のケースは上記で説明があったように民度が低い人のせいで安全確認が必要となった…というものですから、大きくケースが異なるもの。コメントの人が出した例も「人身事故」という特殊事情です。
ヤフーニュースの専門家コメントでフリーライターの小林拓矢さんは、「安全確認で人がいるかどうかをチェックする必要も出て、踏切を開くのがさらに遅れる」と指摘。民度の低い行動が出てくるとその行動でまた対応が必要になってさらに時間がかかる…という悪循環となりそう。あちこちに民度の低さを感じる話でした。
●大昔どころかかなり最近まで「不正乗車くらい構わない」の風潮
2023/01/22追記:前々回、<キセルを通報するなんて撮り鉄界のタブーを犯した!逆恨みで強盗>をやっているように、日本では今でもキセル乗車の不正があるようです。今回読んだ記事でも、<区間の連続しない2枚の乗車券を使用する「キセル」など、鉄道での不正な乗車は後を絶たない>としていました。
ただ、鉄道ライター・弘中新一さんによると、少し前の日本はさらにひどかったとの見方。<2000年代初頭までは「多少なら運賃をごまかしても構わない」という風潮は根強かった>という実感だそうです。<21世紀の初頭くらいまで、キセルをはじめとした不正乗車は、「悪いことだとは思うが、運賃が高いから」と正当化される風潮があった>としていました。
<大学生であれば、近距離を移動する時にキセルを行う者は珍しくなかったし、名古屋や京都、大阪から東京といった長距離の移動でも、キセルを行う手法を伝授する者がいたという。だが、筆者の知る限りでは、身近な範囲で捕まった事例は聞かない。この「そうそう捕まることはない」ことに加えて「たとえ捕まっても運賃の3倍を払えば、逮捕されない」といった一種の気楽さ(もちろん、実際には逮捕されることもある)が、不正乗車に手を染める者がいた理由だと思う>
(
「キセル = 犯罪行為」なのになぜ平気でいられるのか しかも、かつては「キセル研究会」まで存在していた! | Merkmal(メルクマール) 2023.1.22より)
●2割が不正乗車!4時間検査しただけで3万8000人がひっかかる
2023/02/15追記:前回の記事によると、夏休み期間にあたる1979(昭和54)年7月29日、東京、新橋、川崎など14駅のホーム階段付近に臨時改札口を設け、413人を動員して特別改札を実施しました。すると、不正乗車でひっかかった乗客はなんと約3万8000人もいたとのこと。しかも、時間は午後3時半から同7時半までの4時間だけでこの人数でした。
検査した人数は明記なかったのですが、「実に乗客の10人に2人がキセル乗車をしようとしていた」ということで割合は書かれていました。多くが海水浴に出かけた者で、9割は若い男女でのかつ7割が女性だったというデータもあります。犯罪や不正は男性の方が女性の2倍ほど多いというパターンがよくあるんですが、これはほぼ真逆ですね。
この他、『週刊読売』1977年10月15日号によると、当時は初乗り60円切符を用いた不正が最も多かったそうです。60円切符は発売されたうちの7割が回収されずに消えており、これらはキセル不正に使われたと見られています。また、当時の東京鉄道公安室が怪しいと見て尾行した10人のうち7人をキセルを行っていたとのこと。以下は特に悪質だった者です。
<中年サラリーマンは、新橋駅から山手線で上野駅へ。そして東北本線の特急「ひばり11号(上野~仙台)」に乗り換えたのだ。そのまま仙台まで乗車し、通勤定期で平然と改札を抜けた。これでいい気になったのか、飲み屋に入ったサラリーマンは「タダ乗りで出張旅費をごまかした」と女将(おかみ)に自慢しているところを御用になったのである>
●不正乗車を広める会があり、メンバーが顔出しで雑誌に出てた時代
2023/04/26追記:ところで、記事でタイトルになっていた「キセル研究会」ですが、これはなんといかにして国鉄にタダ乗りするかを実践する団体。しかも、『でいすかばあ・きせる』という会報を発行し、実践方法を集め、なおかつ広めていました。とんでもない犯罪者集団です。
ただ、民度が低かった当時の日本人には犯罪意識がなかったようで、『アサヒ芸能』(朝日新聞系ではない。通称アサ芸)の1974(昭和49)年12月5日号には、メンバーが堂々と顔出しでインタビューに応じていたとのこと。これによれば、難度によって「段」や「級」を設けて認定証を発行していたというふざけぶりです。
さらに、別の雑誌『流動』(東亜経済研究所、流動出版)の1973年2月号では、キセル研究会名義で「不正乗車のすすめ」を掲載し、「正当なる消費者運動」だとしていたとのこと。記事では「国鉄のシステムに反抗する社会運動」としていたものの、引用部を見ると社会運動的理論は極めて脆弱。また、前述の段位発行のふざけぶりからすると後付けの主張で、下手したらこの主張そのものも「おふざけ」かもしれないと感じました。
なお、作者の鉄道ライター・弘中新一さんは、こうしたキセル研究会の正当化の屁理屈について、そもそも人々が理解していたかどうかを疑問視。要するに大多数の人は屁理屈をこねているわけではなく、ただ単に罪悪感がなく不正乗車をやっていた…という話ですね。これはこれでひどい話。日本はそのような民度だったようです。
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