笑いは本来攻撃的なものって、結構まことしやかに言われているものの、どうもデマくさいよという話。笑いの起源は一つではなく、複数ありそうですが、攻撃と考えられるものはありませんでした。
そして、起源の候補の一つとしては、むしろ恐怖や媚びへつらいといった攻撃とは真逆のもの。それ以外にも起源があるものの、そっちはもっと楽しい感じのものでした。
また、「笑う動物は人間だけ」というのも、どうやら俗説のようです。上記の笑いの起源とされるものも、類人猿あるいはもっとヒトから遠いサルの仲間で見られるものでした。(2017/4/8)
●笑いは本来攻撃的なものである
2017/4/8:ネットでは「人間の笑いは元々は攻撃的なもの」という記述をときどき見かけます。めちゃくちゃ嘘くさいと思っていたので、妙に印象に残っていました。
ネットの記述の例としては、例えば、
Yahoo!知恵袋で、"「笑みとは本来攻撃的なものである」と訊いたんですが本当ですか? "という質問が出ています。
その回答は本来の質問とはズレているものの、"ほくそ笑む、あざ笑う、にたり笑う、鼻で笑う これらは相手の感情を逆撫でするので、攻撃的な笑みだと思います"といったものでした。
また、
笑いの神とは (ワライノカミとは) [単語記事] - ニコニコ大百科で、"人間の笑いは元々は攻撃的なものとも言われているが、人類発祥から長い時間を得て、人間は他の誰かと共有する空間での、快適で楽しい時間でも笑う事ができるのはご存知の通り"と書いていました。
同じニコニコ大百科では、漫画の
シグルイとは (シグルイとは) [単語記事] - ニコニコ大百科の名言として、"笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である"というものがありました。ここらへんが元ネタかもしれません。
●笑いの起源は媚びへつらい?人間以外にチンパンジーも持つ笑い
で、この俗説っぽいものがずっと引っかかっていたので、橘玲さんの『
「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する
』でチンパンジーの笑いに関する話が出てきたときに、あっ!と思いました。以下のような記述です。
"チンパンジーは地位が上の相手にへつらうときに歯ぐきを見せる。笑顔はここから生まれたものだ"
ただ、これも本当かなと思うところがあったので、ネットで検索。上位で出てきたものは、林 隆博・西焼津こどもクリニック 院長さんの
笑うのは人類の特質という論文で、以下のように書いていました。
"サルには喜怒哀楽といった情動があり、新生児微笑もあるが、サルの新生児微笑は成長とともに消失し、グリンと呼ばれる顔表情を使ったコミュニケーションが出現する。これは攻撃の意志のないことを示す身体表現で、快楽の表現ではあい。サルには人類のように可笑しくてゲラゲラ笑うという意味での笑いは存在しないのである。つまり地球上で人類だけが「笑う生物である」と言える"
●そもそも人間の「笑い」は一つではない
しかし、"人類だけが「笑う生物である」"もかなりの暴論だと感じました。「ゲラゲラ笑うという意味での笑い」と書かれているように、「笑い」には多くの種類があります。
英語だけでも、ラフとスマイルという笑いがあり、意味が異なります。それ以外にも、いくつかの種類があり、上記のチンパンジーで出てきたグリンは、おそらく歯を見せてにこっと笑うことを意味する「grin」だと思われます。
また、日本語でも「笑う」以外に、「嗤う」「咲う」があります。そして、日本人が困ったときなどに見せる笑みは、欧米人は理解できないとも言われています。これもまた独特の「笑い」なのでしょう。
さらに、
微笑みの国タイ タイ人の微笑みはなんと13通り!といった話もやっています。「笑い」には本当にたくさんの種類があるのです。
で、そう考えてみると、笑いの起源は一つではなく、複数あると推定した方が良さそうな気がします。
●チンパンジーには恐怖以外の笑いもあった
ということで、他も検索。すると、
Wikipediaに、チンパンジーですら複数の笑いがあることが書かれていました。以下はまず既に出ているもの。
"テレビ番組でチンパンジーが芸などを披露する際、歯を見せて笑っているように見えることがあるが、これは英語で「グリマス」 (grimace) と称される表情であり、チンパンジーが恐がっている時の顔である"
そして、これ以外に、"チンパンジーには笑いがある。くすぐったり、追いかけ合ったりして笑い声を出す"ともありました。
さらに、
チンパンジーの遊びにおける笑いによると、「笑うことができる動物はヒトだけだ」とかつては信じられていたものの、既に1872年の時点で、類人猿も遊ぶ時にヒトのような笑い声をあげることをダーウィンが報告していました。
●笑いの起源は2種類あると考えられている
また、1972年のオランダのファンホーフによる、笑いの起源に関する仮説では、二つの系統があることを推定しています。
・霊長類の遊びでみられる表出行動(プレイ・フェイスおよびプレイ・パント) → 発声を伴う笑い(ラフ laugh)
・劣位の猿が優位者に対してみせる恐怖や服従の表情(グリマス) → 声を伴わない笑顔(スマイル smile)
霊長類の遊びでみられる表出行動であるプレイ・フェイスは、発声が伴いません。ただ、おもしろいことに、よりヒトに近い類人猿の仲間では、プレイ・フェイスにしばしば発声(プレイ・パント)が伴っているそうです。
"サルの新生児微笑は成長とともに消失"と途中の話でありましたが、これもどうやら誤解のようです。よく遊ぶ子供の笑い声を聞くことが多いものの、オトナのチンパンジーも遊ぶときにはよく笑うそうです。
それから、Wikipedia同様に、くすぐられたり、追いかけっこで追いかけられたりするときに笑うとされていました。
また、"子どもたちはとくに、自分より体の大きいオトナやワカモノに口で軽く咬まれる時など、スリリングな刺激を受ける時によく笑う傾向がある"ともあります。これだけ読むと、恐怖による笑いかと誤解されそうですがそうではないようで、"相手からの遊びの働きかけを誘う機能"を持っていることがわかっています。
そして、これと"同様の特徴は、いないいないばーなどのヒトの母子間遊びでも見られます"ということで、人間が持つものとほぼ同様の「笑い」だと考えられます。
ただし、異なる点ももちろん多く、言葉によるユーモアや、おかしな表情などの「おどけ」に対する笑いや、他者の欠点や失敗に対して「嘲笑」、苦笑やごまかし笑いなどは、チンパンジーにはないようです。
ということで、現在わかっている笑いの起源としては、恐怖や服従の「笑い」と遊びで相手の働きかけを誘う「笑い」の2種類という理解で、大体良いんじゃないかと思われます。
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