★2011/9/15 甲府病院の放射性物質を含んだ医薬品による過剰被曝事故
★2011/9/15 なぜ医療で過剰被曝した子供には、皆冷淡なのか?
★2011/9/15 甲府病院の放射性物質を含んだ医薬品による過剰被曝事故
事故から2週間ほど経過しましたが、その後のマスコミやウェブ全般の反応を見ると違和感を覚えます。
まず、事件の概要についてですが、以下のとおりです。
甲府市立甲府病院は、1999年から今年にかけての12年間、テクネチウムなどの放射性物質を含んだ医薬品を主に静脈注射し、臓器の機能や病態を調べる検査において、日本核医学会などの推奨基準以上の量を投与し続け、「放射性医薬品投与記録」への記載は改ざんしていたことを、1日発表しました。
この検査は30分から1時間程度かかるものの、その間に体を動かすと、診断価値のある画像を得ることができません。「子供は動き回るので、質の高い画像を短時間で撮るために、多めに入れた」と過剰投与した男性技師は話しているようです。
院長は「診療録などの調査により、患者に急な影響が出ていないことが判明している。外来通院中の患者も、健康被害は今のところ確認されていない。ただ長期的な影響としては、発がんリスクはゼロとは言えない」と説明し、健康相談に応じる考えを示しました。その上で、「本来、医療被ばくを減らすよう努力するのが病院の使命であるにもかかわらず、検査薬の投与量の適正化が行われず、組織体制が不十分だった。心からおわび申し上げる」と陳謝しました。(以上、※1)
投薬がどれくらい過剰であったかなのですが、記事によってバラつきがありました。
これはどうも1日の記者会見で、
「15歳以下の145人のうち84人に基準の2倍を超える量を投与し、うち41人が10倍以上だった」
と内訳を説明していたものを後に修正したためのようで、「日本核医学会の推奨基準の約40倍の量を投与された例のあったことが4日、病院などへの取材で分かった」そうです。(内訳は、20倍台が10人、30倍台が2人で、40倍の患者は1人、ここのみ※4)
また、成人の基準は最大185メガベクレルなのに、独断で投与量を決めていた放射線部の男性技師長補佐が作成した病院内の検査マニュアルには、500メガベクレルと記載されていたことも判明しています。(以上、※2)
成人についてはさらに9日、2009年に3人に対して学会の基準の4~5倍の物質を投与していたことが分かっています。推奨基準185メガベクレルに対し、成人女性2人に千メガベクレル以上、成人男性1人に800メガベクレル以上の放射性物質「テクネチウム」を含む検査薬を投与していたそうです。(※3)
概要は以上ですが、放射線部長の医師は「(過剰投与が発見できなかったのは)ガイドラインを守らず、現場任せにしていたため」と医師側の非を認めた(※1)そうですが、個人のブログを見ていると、こういった放射性医薬品の調剤は被曝するおそれがあるため、みんなやりたがらず押し付け合いになりやすいといったことが書かれていました。
(追記:書いていませんでしたが、先のブログでは通常は医師の役目であるはずとしており、それを放棄したための事故です。日本核医学会幹事の細野眞・近畿大教授も、「検査自体は一般的だが、薬剤の投与量は被ばく量を考えて担当医が決めねばならず、放射線技師が決めることは通常はあり得ない。技師も子供の場合は被ばくが気になって投与量を医師に確認するはずだ」と言っています。※9)
言語道断なことですが、かと言ってそう指摘すれば解決するというものでもなく、何らかの対策が必要かもしれません。
(放射性医薬品の調剤についてですが、患者の検査薬の元になる薬剤を取り扱いますので、患者以上に被曝する可能性はあります。ただ、この薬剤を飲んでしまうという事態はほとんど考えられず、健康被害が出るような内部被曝(除去が困難だと認識しています)をする可能性は相当低いと思います。それよりも調剤を疎かにすることで受ける患者の被害の方が、ずっとずっと大きいはずです。以前も似たようなこと書きましたが、放射性物質を怖がらないことは危険極まりないものの、怖がりすぎることもまた別の問題を引き起こします。お医者さんたちには、放射性物質への正しい知識を教育する必要があるのではないでしょうか)
ところで、気になるのはこの事故による健康被害です。
成人については、病院側は「外部専門家は、成人は影響が少ないという意見で、病院としては過剰投与ではないと判断している」と説明しています。(※3)
子供についても、病院は過剰投与を受けた患者に健康への影響は「出ていない」と説明、放射線医学総合研究所に委託した被ばく量の調査を基に、長期的な健康への影響を「ゼロとは言えないが、リスクはわずか」としているそうです。(※4)
これは別記事によると、委託して算出した内部被ばく量は「投与には間隔があり、この数字はほぼ半分に下げて評価すべきだ」と、病院側が言っているとされています。(※5)
しかし、日本核医学会幹事で、近畿大の細野真教授は推奨基準の40倍の投与量について「大人に対しても使用しないような量。患者の健康への影響をしっかりと調査し、メンタル面のケアも必要だ」と話しています。(※4)
さらに異色だったのは、山梨県立中央病院の宮崎旨俊・放射線技師長の発言で、「(10倍は)常軌を逸した数字。健康への影響については専門家の間でも意見が割れており、現時点での評価は難しい」としています。(※6)
「専門家の間でも意見が割れて」としたのはこの方だけなので全面的に信用して良いかはわかりませんが、この発言の後10倍でなく最大は40倍であったと判明しています。
ここまでで出てきた数字を整理すると、
子供:日本核医学会の推奨基準の最大約40倍(この基準が大人のものという意味なら、185×40=7400メガベクレル(74億ベクレル)ほど)
成人:日本核医学会の推奨基準の最大約5倍、1000メガベクレル(10億ベクレル)以上
(9/16訂正:申し訳ありません、ベクレル換算を一桁少なく書いていました)
となりますが、子供に関しては原発事故のせいでお馴染みになってしまったミリシーベルトでの数値もありました。
「多い子で150ミリシーベルト以上」と発表していた当時の数字ですが、「過剰投与された子どもたちの全身の内部被曝線量を算出すると生涯の推計で平均約30ミリシーベルト」とあります。 (※7)
後の記事だと、「放射線医学総合研究所(千葉市)に委託して算出した内部被ばく量は、5人が100ミリシーベルトを超え、最大で180ミリシーベルトだった」とあります。(※5)
長くなったので一旦切りますが、報道内容だけ知りたい場合は以上でほぼ終わりです。(次は、
なぜ医療で過剰被曝した子供には、皆冷淡なのか?へ)
参考記事
※1
甲府病院の放射性医薬過剰投与:判断「現場任せ」 部長、医師側の非認める /山梨 毎日新聞 2011年9月2日 地方版※2
基準の40倍投与の子どもも 市立甲府病院、過剰投与で 共同通信※3
甲府病院、成人にも基準超投与 「過剰投与ではない」 共同通信※4
市立甲府病院、基準の40倍投与も 放射性医薬品専門家「あり得ない値」 山梨日日新聞※5
放射性物質を過剰投与 甲府病院、子ども84人に 中国新聞社 2011/9/2※6
「放射性薬剤投与」改ざん、12年気づかず…山梨 読売新聞※7
検査で子ども150人が過剰被曝 甲府の病院 2011年9月1日 朝日新聞※8
浪江町の子供、生涯3ミリシーベルト未満 福島県の内部被曝調査 2011.9.12 産経新聞※9
甲府病院の放射性医薬過剰投与:技師が独断で量決定 細野眞・近畿大教授の話 毎日新聞 2011年9月2日 東京朝刊★2011/9/15 なぜ医療で過剰被曝した子供には、皆冷淡なのか?
事故の概要は
甲府病院の放射性物質を含んだ医薬品による過剰被曝事故に書いていますが、判明している数値は以下のとおりです。
子供:日本核医学会の推奨基準の最大約40倍(この基準が大人のものという意味なら、185×40=7400メガベクレル(74億ベクレル)ほど)、生涯の内部被曝線量(推定)平均約30mSv、最大180mSv
成人:日本核医学会の推奨基準の最大約5倍、1000メガベクレル(10億ベクレル)以上
(9/16訂正:申し訳ありません、ベクレル換算を一桁少なく書いていました)
この生涯の値について、福島の原発事故と比較しているものがあり、それによると、「患者に何らかの利益がある医療被曝と何の利益もない原発事故の被曝は単純に比較できないが、福島県による東京電力福島第一原発周辺の住民の検査では、これまで全員が生涯の内部被曝線量(推計)が1ミリシーベルト未満だった」 (※7)とあります。
念のため検索すると、新しい記事だと
「東京電力福島第1原発事故で福島県の健康管理調査を先行的に受けた住民3373人のうち、同県浪江町の子供の内部被曝線量は最大でも生涯3ミリシーベルト未満と推計されることが分かった」
「受診した10歳未満の子どもは1149人。そのうち浪江町の男児(7)と女児(5)の2人の2ミリシーベルト以上3ミリシーベルト未満が最大だった。5~7歳の5人が1ミリシーベルト以上2ミリシーベルト未満、残る全員が1ミリシーベルト未満だった」
となっています。
原発事故の場合はこれからも内部被曝の危険性があり続けますので、生涯の内部被曝線量もさらに上がるおそれがあり、比較するものとして確かに適当でないかもしれませんが、「患者に何らかの利益がある医療被曝と何の利益もない原発事故の被曝は単純に比較できない」の一文は、まるで医療被曝なら問題ないかのような書き方で、不信を抱きます。
医療での行為が何でも許されるのであれば「医療事故」という言葉は存在しませんし、何度か書いているようにこういうのは濃度や量が大切です。
過去には水(
水中毒とは)や塩の例で、人体に必要なものでも取り過ぎで死ぬ話を書きましたが、ダイエット効果があるとされる「にがり」の過剰摂取による死亡事故など、何事も量が大切なんだという話はたくさんあります。
医療行為を盾にして、話を矮小化してはいけません。
それから、私が頭に来たのは今回の事故を「原発事故の目くらまし」であるかのように書いている心ない発言です。(追記:実際には「目くらまし」という言葉ではなく、もうちょっと長い言い方だったと思います)
現在のマスコミやウェブ全般の反応が少ないのは、原発事故などではなく、間違いなくこの医療被曝の事故の方です。(何度も書いていますが、私は別に原発推進者や東京電力や政府の回し者ではありません。この医療事故を取り上げたとしても、東電などに問題があったことは何ら変わらないはずです。参考:
とある原発推進派のデタラメ、
送電分離などはもっと議論されなくてはいけない、
公務員制度改革の歴史と古賀茂明5 ~民主党政権時代~など)
私は「もっと騒げ」と言っているのではないですよ。むしろきちんとした情報もなく騒ぎ立てるべきではないと考えています。また、すべての事件への反応を示す必要はなく、何に言及するかも自由です。それから、既に起きてしまったことで防ぎようがないということもあるかもしれません。(ただし、今後の事故は絶対防がねばなりません)
しかし、この医療被曝よりもっと低い被曝で問題があると主張してきた人たちは、今回の事故にあった人たちに健康被害が出ることを確信しているわけです。そうであるにも関わらずほとんど無視するというのは、あまりにも冷たいと思います。
今のところ原発事故による内部被曝が低い数値であるため、それ以上であるこの問題で声を上げると原発事故の存在が薄くなるため、無視を決め込んでいるかのようにすら見えます。(それがすなわち「原発事故の目くらまし」なのでしょう。追記:念のため書いておきますが、これを書いた人が原発事故にどう反応していたのかはわかりません。ただ、今の状況を象徴するような言い回しだと思いました)
「人命が大事」「子供を守れ」という立派な言葉を並べていたのはいったい何だったのか?と、強く疑問に感じます。
ただ、繰り返しますけど、「不安を煽ってほしい」というわけではないです。
ブログでは以前福島県在住の方からコメントをいただきましたが、たとえ低い値で、ご自身でなく市内で外部被曝の人が見つかったというだけでも、不安に感じられているのがわかる文章で、読んでいてこちらも泣きたくなりました。
今回の事故にあった方々はそれよりずっと多い内部被曝を受けています。記事ではメンタルケアの話もありましたが、これだけ放射性物質の危険性が喧伝されている中ですから、心がすごく不安定になっているのではないかと思うと心配です。彼らを精神的に追い詰めることはしたくありません。
しかし、今回の医療事故の起きた背景を考えても、類似の事故が将来起こる(または既に起きている)可能性があり、うやむやにして終わらすべきではありません。そのことだけは忘れないでいてほしいと思います。
参考記事
※1
甲府病院の放射性医薬過剰投与:判断「現場任せ」 部長、医師側の非認める /山梨 毎日新聞 2011年9月2日 地方版※2
基準の40倍投与の子どもも 市立甲府病院、過剰投与で 共同通信※3
甲府病院、成人にも基準超投与 「過剰投与ではない」 共同通信※4
市立甲府病院、基準の40倍投与も 放射性医薬品専門家「あり得ない値」 山梨日日新聞※5
放射性物質を過剰投与 甲府病院、子ども84人に 中国新聞社 2011/9/2※6
「放射性薬剤投与」改ざん、12年気づかず…山梨 読売新聞※7
検査で子ども150人が過剰被曝 甲府の病院 2011年9月1日 朝日新聞※8
浪江町の子供、生涯3ミリシーベルト未満 福島県の内部被曝調査 2011.9.12 産経新聞 関連
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