2011/10/30:
●新興国がイギリスに投資ししまくるという不思議
●親日国獲得の参考になる?イギリスの大学は留学生をファンにする
●凋落著しい日本の大学も留学生を集める必要がある
●日本教育はすごい…イメージを崩されて愕然とする学生
●学生「英国で就職に有利な『資格』は?」大学「そんなもんない」
●優秀な外国人を生かしているイギリス、中央銀行まで外国人が多い
2020/06/09:
●日本は外国人留学生支援で差別、国内の学生にはない条件を設置
●親日外国人留学生を反日に変える!日本とイギリスの大学の違い
●新興国がイギリスに投資ししまくるという不思議
2011/10/30:大学生のイギリス見学の記事がたいへんおもしろかったです。
先進国共通の課題「若者の雇用問題」に英国ではどう対処しているか? ――UKフィールドワーク報告【前編】 上久保誠人 ダイヤモンド・オンライン(※1)
“英国社会”はなぜ強いのか?UK社会構造化モデルを範に考える日本版「大きな社会」構想 (※2)
まず、(2018/07/13追記:その後EU離脱ということが起きたのですけど、)イギリスが、ユーロ圏の経済危機で英国も苦しんでいるという、日本での一般的なイメージからと違っていて、豊かであるといった話がありました(※2)。英経済紙「The Economist」の「新興国企業と英国:新しい特別な関係」という記事では、以下のようなことが書かれていました。
《新興国は、自国の政治的リスクを避けるために英国市場に積極的に投資する。インドのタタ財閥は、コーラス(旧ブリティッシュ・スティール)、ジャガー・ランドローバーなどを総額150億ポンド(約1兆8000億円)で買収した。新興国からの投資で、英国市場の規模は急拡大している。これは、米国に比べて規制が少なく、企業買収が簡単なオープンな市場だからだ。また、新興国にとって、英国のブランド力と高度なノウハウ・知識の蓄積も大きな魅力的だ。その結果、新興国に買収されても、英国企業の本社・工場は国内に留まっている。英国と旧植民地である新興国と「新しい関係」は、「オープンな英国」の勝利を示すものだ》(※2)
●親日国獲得の参考になる?イギリスの大学は留学生をファンにする
私がとてもおもしろいと思ったのが、「英国ファン」に関する話です。
作者の上久保誠人さんは、かつて留学した際、英国の大学がアジア・アフリカ諸国(主に英連邦加盟国)との間で、留学生を集めて教育して「英国ファン」にし、母国に還してネットワークを強化する「人材還流システム」を築いているのを見た(※1)といいます。
英国は戦略的にアジアから多数の留学生を獲得しているといいます。まず、大学では、留学生のニーズに合う実学教育を推進し、「英国ファン」を生み出します。そして、英国の大学院を修了すれば、母国で国家エリートになれるし、「グローバル企業」に就職できるとなれるキャリア・ルートを確立できます。(※1)
日本の大学も国際化を進めてはいるものの、現状では、「グローバル企業」への学生の就職は不可能。現状を打開するには、現在「グローバル4」(早稲田大学国際教養学部、国際基督教大学、国際教養大、立命館アジア太平洋大学)で主に行われている、英語基準コース(英語のみで受講できて学位が取得できるコース)を、多くの大学で開講していき、アジアから留学生をできるだけ多く迎えるべきとされていました(※1)。
●凋落著しい日本の大学も留学生を集める必要がある
ただ、このように留学生を増やすというのは、反発があるでしょう。一方で、東大が秋入学の検討を発表したのは、国際競争力の衰えが理由ではないかという報道もあります。
"東大を動かしたのは国際競争力の衰え!? 日本の大学が秋入学になると何が変わるのか?"(2011.08.05 R25)では、以下のような解説がありました。
http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/wxr_detail/?id=20110805-00021011-r25
「実は、日本のように春入学を採用している国は世界でも珍しく、欧米では約8割が秋入学。そういった国の学生は、半年の待ち時間が生じるのを嫌がり、日本への留学を敬遠する傾向にあるといわれています。現在、世界の大学は優秀な学生や教員の獲得を巡って熾烈な競争を繰り広げており、留学生に敬遠されることは、それだけ国際競争力を失うことを意味します。実際、イギリスの教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』が発表した『世界大学ランキング 2010』では、東大は26位と健闘したものの、昨年まで維持していたアジアトップの座を香港大学に奪われました。こうした危機感が東大を秋入学の検討に走らせたといえます(引用者注:その後東大は世界ランキング・アジアランキングともに低下を続けています)」
「仮に東大が秋入学を導入したとします。東大に優秀な留学生が集まり、国際的な競争力が高まると、早稲田、慶應などは水をあけられていくことが予想されます。それでは早・慶もプライドが許さないから、追随するでしょう。難関大学が導入すれば、中堅以下の大学も後を追わねば、というドミノ現象が起こります。大学業界ではセンター試験が導入されたケースでも、まずトップクラスの大学が導入して他の大学も続いた、という例がありますから」
●日本教育はすごい…イメージを崩されて愕然とする学生
以下、再びイギリスに戻ります。日本にとってはネガティブな話にもなってくるのですが、大学としての取り組みの話がありました。この部分は、留学生に質の高い教育をさせることで、留学生をファンにするといった話です。
学生は、国際ビジネスや英国の大学で学ぶために必要な「スキル」について質問をしたそうです。彼らは、英国の教育を受けた人の特徴として、「コミュニケーション」「創造性」「寛容性(柔軟性)」「リーダーシップ」などの能力が高いと考え、大学はこれらのスキルを伸ばす教育をしていると考えたようです。
しかし、大学側の考え方はかなり意外なもの。「スキルは、大学で専門分野を深く広く学ぶために重要だが、大学では教えない。コミュニケーション能力やリーダーシップは、幼い頃からの日々の積み重ねで身についていくものだ」という拍子抜けするような答えでした。
これは、日本の大学で「コミュニケーション能力を高める」ことがセミナー形式の授業(少人数で議論中心の授業)の目的となっていることと異なっていることが指摘されていました。
また、英国の大学では、知識の習得は「予習」で済ませ、セミナーには、その知識を自分の確固たる主張にまで練り上げるために参加するというところも大きな違い。日本では、予習はあまり重視されず、授業を通じて知識を身につければよく、それを練り上げる場はありません。
学生は、日本の教育の長所が専門知識の習得であると学生らは考えていたものの、より深い英国の大学の教育に愕然。「自分たちが受けてきた日本の教育とは、一体なんだったのだろうか?」という感想を漏らしたそうです。(※1)
●学生「英国で就職に有利な『資格』は?」大学「そんなもんない」
また、非常に日本らしかったのが、学生がさまざまな大学に対して「英国では学生が就職するために重要な『資格』はなにか」と質問して、どの大学にも「学位」と回答されていたこと。
日本の就活の場合、TOEICなどの英語の資格、簿記検定、宅建などの「資格」を持てば有利となります。しかし、日本での「資格」は当然ながら、日本企業以外には通用しません。
では、英国の大学が何をしたか?というと、グローバル企業のニーズに対応するために、「学位」の価値を高めるという至極まっとうなことをしていました。具体的には、優秀な教員を世界中から集めて、英語の学術論文の発表本数を増やすといったことです。(※1)
日本では就活が忙しくて、大学の勉強や研究そっちのけ…ってこともありますし、企業も大学の成績をあまり重視しません。なんだかよくわからないことになっていますね…。日本の大学の国際評価が下がりまくっているというのは、残念ながら正しい評価のような気がします。
●優秀な外国人を生かしているイギリス、中央銀行まで外国人が多い
国際的な人材としては、HSBC(香港上海銀行)の「25歳、女性、上海出身、LSE卒業で HSBC本部のマネジャー」の話が出ていました。彼女は、中国語アクセントのほとんどない英語で流暢にプレゼンテーション。内容も、HSBCの組織哲学、価値観などグローバルなもので、中国人のアイデンティティが全くなし。
「人種・国籍・民族性に関係なく、英語を流暢に操り、高い専門性で勝負する、欧米で教育を受けたアジアの若者」の典型例です。(※1)
また、中央銀行では外国人を雇うという日本では考えられないことも起きています。イングランド銀行では、職員の約5%が外国人だそうです。特に、研究部門では約6割が外国人で、香港人、インド人、シンガポール人など旧英国植民地出身者が多いとのこと。これは日本の「常識」と異なっています。
ただ、そもそも研究員は「中央銀行の職員がなぜ自国民でなければならないのか理解できない」との答え。「『守秘義務』というが、日本人だけの官僚組織で、職員の守秘義務違反はよく起こっているではないか。自国民だけが信用できるというのは、幻想だ」と痛いところを突いてきています。
また、「『英国人に限る』を採用条件に加えると、雇える人材を見つけるのが極めて困難になる。逆に、国籍を条件から外せば、世界中から人材を探せる」とも指摘。グローバルな採用をする企業がなぜ強いのかというのも同様ですね。単純に多くの人から優秀な人を選べるのです。(※2)
この公的機関での外国人採用についてはおそらく異論があり、ただちに私も賛成とは言いません。ただ、守秘に関わる人の範囲を間違えないというのがとても大事なところだとは言えます。9.11の連携不足の反省からアメリカは行き過ぎた情報共有に走り、ウィキリークスなどへの流出を容易にしました。
本当に守るべき情報、共有すべき情報、あるいはそのレベルを考えて、それが本当に必要な人も選ばなくちゃいけません。アメリカの一件は、極端から極端って例でした。こういういらん人まで情報共有ってのは、日本企業でもよくあることですけどね。
●日本は外国人留学生支援で差別、国内の学生にはない条件を設置
2020/06/09:政府は新型コロナの感染拡大により、アルバイト収入の減少などで困窮する学生への支援策として、1人につき10万~20万円の「学生支援緊急給付金」の支給を打ち出しました。全国の大学、大学院、短大、専門学校などに通う学生のうち、自立してアルバイト収入で学費を賄っていることや、収入が大幅に減少していることなどが給付の要件です。
収入の大幅減少の影響はむしろ留学生の方がヤバそうなのですが、留学生に関しては、「学業成績が優秀」「出席率8割以上」など、日本の学生にはない条件を設置。文部科学省は「いずれ母国に帰る留学生が多い中、日本に将来貢献するような有為な人材に限る要件を定めた」と説明しています。
神戸大の濱田麻矢教授らはこの措置に差別と反発。京都大の山極寿一総長らも反対声明に加わっています。ただ、一般的にはむしろ好かれる差別であり、差別を指摘する教授のツイッターには、「なぜ外国人を助けなければいけないのか」といった反発の声もツイッターなどで寄せられていました。
(
「なぜ政府は留学生だけ差別するのか」 大学教員たちが立ち上がった理由 毎日新聞2020年6月8日 16時06分(最終更新 6月8日 16時43分)より)
●親日外国人留学生を反日に変える!日本とイギリスの大学の違い
こちらのページに追記したのは、卒業した留学生たちが「母国と日本との貴重な架け橋になってきたことは紛れもない事実」とも訴えていたため。イギリスの考え方と日本政府は逆であるようです。EU離脱騒動のときの反発を見ると、イギリス人も一般人レベルでは日本と同じような考えの可能性はありますけどね。
一方で、「留学生は日本の役に立つために来てもらっているわけではありません。役に立ちそうかどうかで判断すべきではない」との指摘もありました。また、私はそもそも大学に入学している時点で、日本の大学に利益をもたらしていることから、日本の役に立っていないとは考えられないとも思います。
出席率の数字を入れたのは、
留学生多すぎ!日本人が1人だった山口福祉文化大学(至誠館大)の東京サテライト教室の例などのように、働くために来ている学生の問題もあるのでしょう。ただ、留学生を労働力として働かせるのは日本政府の事実上の移民政策のひとつ。やはり日本の役に立っているという話でもあります。
日本の事実上の移民政策としては、実習生制度もそうなわけですが、こちらに関しては、日本のファンにするどころか、反日を増やしかねないことをやっています。これは、
暴力も我慢しろ 親日ベトナム人を反日に変える外国人技能実習制度で書いた話です。今回の差別的扱いも、むしろ日本に好意を持ってやってきた外国人たちを反日にする方向性のやり方でしょう。
【本文中でリンクした投稿】
■
暴力も我慢しろ 親日ベトナム人を反日に変える外国人技能実習制度 ■
留学生多すぎ!日本人が1人だった山口福祉文化大学(至誠館大)の東京サテライト教室【関連投稿】
■
サッチャー元首相イギリス人に嫌われ、死を祝う歌が全英1位に ■
イギリスの学生ビザ申請でTOEIC・TOEFLが使えない 組織的不正のため ■
イギリスニュース集 イギリスの料理は本当にまずいのか?など ■
イギリス人は中央銀行総裁が外国人(カナダ人)になることに誇らしげ ■
イギリスのEU脱退は脅迫 Brexit(脱EU)をかけて国民投票をする理由 ■
海外・世界・国際についての投稿まとめ
Appendix
広告
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
|