思い返せば、最初から仕組まれていたことだと思う。今年4月、社長に抜擢された時、私は素直に喜んだ。それまでオリンパスの欧州事業の社長や会長を務めてきたが、本社の取締役にさえなったことはなかったから。だが、そんな私を菊川氏が社長に指名したのは、彼が長く君臨するための構想の1つだったことに気づいた。 (中略) 業績が回復すれば、菊川会長は外国人を抜擢したビジョナリー経営者として評価が高まる。現在、7000億円近い有利子負債を抱え、デット・エクイティ・レシオ(負債資本比率)は500%にも達する。業績が改善していけば、一連の買収に伴う巨額の損失に対する関心は薄れる、という読みもあったはずだ。そして、契約の4年が過ぎれば、新たに「イエスマン」を社長にして、さらに菊川体制が続けられる、と。 しかし彼の誤算は、一連の買収の問題を私が知ったことだ。そうなるとは、まるで予想していなかっただろう。もし、その可能性を感じていたら、私を社長に据えるはずがない。私は過去に欧州法人で起きた2度の社内の不正事件について、いずれも各国の当局に通報し、担当役員を解雇している。菊川会長は、私が不正に対して譲歩しない性格だと知っていたはずだ。 そもそも、オリンパスのガバナンスはお粗末だ。後任社長を現職の社長が決めるなどという状態では、まともに企業が運営されるはずがない。菊川会長のお気に入りのある役員の年俸が昨年、3割もアップして80万ドルを超えた。「いったい誰が同意したのか」と聞くと、菊川会長は「ちょっと本人と雑談して決めたんだけどね」と言う。独立した立場にあるはずの常勤監査役は、毎日のように菊川会長と昼食を取っている。これで、どうやってガバナンスを機能させることができるのか。 私が社長に就任した時、菊川会長からこう言われたことを思い出す。「役員や、その1つ下の幹部の人事権や報酬の決定権は私にある」と。それでは、私はまるで操り人形ではないか。 海外の株主が、こんなガバナンスの欠如した状態を認めるはずがない。事実、私が解任されて以降、これまで連絡を取ったこともなかった大株主の米機関投資家が次々と連絡してきて、「買収案件に関して我々も疑問を持っている。何とかオリンパスに残ってくれ」と言われた。 これを機に、オリンパスがガバナンスを劇的に強化しなければ、海外の投資家はオリンパスだけでなく日本企業への投資から及び腰になっていくに違いない。そんな事態が現実になれば、日本経済は回復不能の悪化に突き進むことになるだろう。 私は今でも日本が好きだ。だから、そうならないことを祈っている。 |
日本企業の疑惑について英語新聞を読まないと詳しく分からないのは困ります――という話についてです。こういうことが続くと、英語読者が抱く「日本」のイメージと、日本国内の日本人が思う「日本」のイメージがずずずっと乖離していってしまう。そして(一部だと思いたい)外国人が日本企業や日本メディアに対して抱く悪いイメージが、「そらみたことか」と補強されてしまう。非常によろしくありません |
前置きですが、私は3月11日からこちら何かというと「いやいや、日本の主要メディアがそれをどこも書いてないというのは、誤解ですから」と弁明してきた気がします。 (中略) つい先日も、「福島第一原発事故の後、東京はゴーストタウンだったのに日本メディアは書かなかった」と主張する外国人相手に、「それはあなたが見た東京の一角であって、私の周りの東京はゴーストタウンではなかった」とやりあったばかりです。 けれども今回はさすがに……。オリンパス問題について日本の主要メディアは確かに当初、14日の会社側の発表を一方的に書くばかりでした。「企業風土や日本の文化を経営に生かすことを理解できなかった」と。 |
「日本は外国と違うんです。日本には日本にやり方があるんです」と言いつつ、「日本は国際社会の有力な一員」でもありたい。それは日本人の多くが(幕末のころから?)抱えている自己矛盾だと思います。けれども「日本特殊論」を日本人が、日本の会社が、日本のマスコミが、言い訳として使うのは、非常に悪い癖です。自分たちに対するステレオティピカルなイメージを自分たちで補強してそこに寄りかかっている。それは甘えであり、結局は「日本はよくわからない国。つきあいにくい国。ビジネスしにくい国」というマイナスイメージにつながるのに。 |
そして『フィナンシャル・タイムズ』は14日付(日本時間は15日)で、ウッドフォード氏の言い分を報道。日本語訳はこちらです。優れた製品の優秀なメーカーとして海外でも有名な日本企業で、外国人社長がクビにされた。しかもクビにされた社長と会社側の言い分があまりに違い、しかも日本の主要紙が会社側の言い分しか書いていない。その異常事態に気づいた(主に日本に詳しい)外国人たちは、Twitter上で「それみたことか!」の大合唱でした。そして日本が国外でどう見られているか承知の日本人は、「あ~あ」と。 |
『フィナンシャル・タイムズ』のジョン・ギャッパー記者が書くように、この問題は一義的には、日本企業が得意とする「和の精神」によるものでも、オリンパスが最初そういう文脈にしようとした「文化の衝突」の問題でもありません。企業統治、企業価値、株主利益の問題です。そしてその問題は「日本の企業幹部はルール無視で企業を私物化して株主利益をないがしろにする」という、ドラマ「ハゲタカ」などでも描かれた、日本の企業に対する欧米のステレオティピカルなイメージに、見事に合致してしまいました。 |
こうした展開が未だにもっぱら「英報道によると」とか「米報道によると」という調子で、なんだか他人事のように伝えられている。一方で日本をウオッチしている外国人は外国報道を読んで、日本の企業統治とマスコミの企業不祥事報道について、どんどん悪印象をつのらせていく。現に『フィナンシャル・タイムズ』は21日、「オリンパス問題で何よりショッキングなのは、ショックを与えていないことだ」と書いているのです。 いわく、日本以外の市場で「これほどの事態が起きれば、ほとんどの市場は呆然とするはずだ。なにせ、CEOが実に奇妙な状況で追放され、かつての同僚たちと言い分が食い違い、組織犯罪や違法ビジネスが関与するかもしれないと取りざたされ、92年の歴史をもつ有名メーカーの株が半値になってしまったのだ。なのに日本国内では、このスキャンダルはろくに取り上げられない。マスコミ報道は今のところおざなりだ。東京証券取引所はまだオリンパスを「監理銘柄」(上場廃止の候補になったという意味)に指定していない(オリンパス株を見ているアナリストの多くは何も言わないまま、オリンパス株に言及しなくなっているのに)。金融担当相は21日、何もコメントしなかった。国内の大株主は咳払いをした。なのに誰も、菊川剛会長兼社長兼CEO(70)の退任を求めて騒いでいない。少なくとも表向きは。誰かが騒ぐべきだ」と。 世界的な経済紙『フィナンシャル・タイムズ』でこんなことを書かれているのを読んで、そうだ!どんどん日本企業に積極に投資しよう!などと思ってくれる外国人投資家はどれくらいいるのやら。それとも今こそオリンパスを買いたたこうと考える外国人投資家が、どこかにいたりするのでしょうか? |
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