体育会系の方からは反発を受けるのですが、ブラック企業と部活の共通点が多く、日本のおかしな労働の源泉となっている部分があります。中でも高校野球というのは特に前時代的な風習や考え方が多い印象。今回、わかりやすすぎるダメな監督が出ていましたので、紹介することにしました。
2021/01/28:
●ダルビッシュ有投手「今子供だったら多分野球はやっていない」
●「野球辞めました」「高校野球辞めました」…体験談が続々
●逃げる部員が出ることは美談?坂原秀尚監督の話が話題に…
2017/08/16:山口県にある下関国際高校の高校野球部・坂原秀尚監督のインタビューが悪い意味で話題になっていました。就任前に部員の集団万引が発覚、山口大会の抽選会直前で出場停止処分になるなど荒れていた野球部を、初の甲子園に導いたということで、これだけ見ると炎上しようがない話。最初の部分もまだ問題がなさそうに見えます。
「突然、厳しい監督が来たとなって、(部員が)みんな辞めて最後は1人になりました。その後、3人戻ってきて4人になった。グラウンド整備や道具の扱いが、とにかくヒドかった。野球がうまい下手のレベルじゃない。そういうマナーを教えると、面倒くさがって辞めていくんです」
(
「文武両道あり得ない」下関国際・坂原監督が野球論語る|野球|スポーツ|日刊ゲンダイDIGITAL 2017年8月12日より)
本当にマナーを教えた程度でやめるのでしたら、仕方ありません。ただ、厳しい指導をしてやめるというのは問題です。これは、
ブラック企業の特徴・社員の使い捨てと選別 とにきは過労死もなどでやっているように、ブラック企業の手法の一つなんですよ。
使える社員を一から育てていくというのは、コストがかかります。なので、大量に採用して使える人だけ選別し、あとは追い込んで辞めさせれば会社としては都合の良い社員だけ残ってお得です。社員は育たないどころか精神障害などを患うものの、企業だけを見ていた場合は業績がアップするかもしれません。ただ、これは倫理的には許されないことでしょう。
同様に部活でも使い捨てスタイルを取れば野球は強くなるでしょうが、その分犠牲になった生徒らがいるということになりますし、辞めていない生徒らも良い精神状態ではありません。
インタビューでは上記の後も、「今年は主将の子が逃げた」ことについて、いい話風に語っており、下関国際高校もブラック企業のやる使い捨てパターンではないか?と、不安になってきました。
「(引用者注:逃げる部員は)今年に限らず、毎年います。イベントみたいな感じ(笑い)。一昨年も(県大会で)準優勝したんですが、キャプテンで4番でエースの子に責任を持たせるためにあえてそういうポジションにしたんですが、途中で逃げ出しました」
●長時間練習を重視…ブラック企業思考全開の根性論
上記の時点ではまだ邪推であり、決定的ではありませんでした。ところが、その次のページで、すぐにブラック部活エピソードが登場。あっさりブラック確定です。
ブラック部活がブラック企業の源泉 体育会系社員が重宝される理由で書いたような、長時間労働に繋がる精神論も披露していました。
――朝5時から練習するそうですが、選手が自主的に?
「半強制です。自主的にやるまで待っていたら3年間終わっちゃう。練習が終わって学校を出るのは21時くらい。本当に遅いときは23時くらいまでやることもあります」
●進学校の野球をバッシング「文武両道は二流」
また、他校のバッシングも始めました。元記事でタイトルになっていた「文武両道あり得ない」もここの部分でした。
まず、上記のような長時間の練習などについて、「進学校さんはそういうやり方が嫌いだと思いますけど」と発言。インタビューアーが「確かに、自主性をうたう進学校は増えています」というと、以下のように他校の批判を始めました。
「そういう学校には、絶対負けたくない。実は東筑(福岡の進学校で今大会に出場)さんとは(現監督の)青野さんの前任者のときに1回、合同練習をしたことがあるんですけど、うちの練習を見た(東筑の)選手から『やってて意味がない』と(下関国際の選手が)言われたんです。(下関国際のように)きついことはしていない。賢い子も『意味がない』と、すぐに言うでしょ? 今回の県大会で宇部(初戦)と下関西(2回戦)と、進学校に当たったので、普段練習してないだろうと思って、思いっきり長い野球をやっちゃろうと。ボールも長い時間こねて、牽制もバンバン投げて。七回になったら向こうもヘトヘトでした。僕ね、『文武両道』って言葉が大嫌いなんですよね。あり得ない」
意味がない練習があるというのは、事実です。例えば、
根性論を捨てて成功した室伏広治の父室伏重信 努力は人を裏切るなどでやっているように、練習方法が間違っていれば「意味がない」というのはあります。練習時間も長ければ長いほど良いということはあり得ません。
さらに、練習2時間で甲子園に出たという高校のやり方を批判し、「文武両道は二流だと?」という質問にも「そういうことです」と断言していました。
●携帯は解約・カキ氷を食べることは許さないなど食べ物も制限
また、最も非難を浴びていたのは、対戦相手に批判的な発言をしていたこと。ここらへんはブラックな話もポンポン出てきています。
「(対戦する)三本松さんの選手、甲子園(球場)でカキ氷食ってましたよ。うちは許さんぞと(笑い)。僕らは水です。炭酸もダメ。飲んでいいのは水、牛乳、果汁100%ジュース、スポーツドリンクだけ。買い食いもダメ。携帯は入部するときに解約。3日で慣れますよ。公衆電話か手紙でいいんです」
秋山木工・秋山利輝社長がブラック企業自慢 女性も坊主,休日10日っぽさもありますね。ただ、この企業を好きな人が多いことでわかるように、ブラック思考って共感を呼んじゃうんですよ。
あと、坂原秀尚監督は、野球を楽しむことについても否定してきました。
「他校の監督さんは『楽しい野球』と言うけど、嘘ばっかり。楽しいわけがない。僕は現役のとき、日々の練習で野球が楽しいと思ったことはなかった。『楽しく』という餌をまかないと(選手が)来ないような学校はちょっと違う」
これも見事に精神論なのですけど、研究で否定されているものです。ビジネス関係でも同様の研究が多数出ていて、辛い方が良い結果を出せるというのは錯覚と考えて良さそうでした。(関連:
スポーツで勝つには、根性論や闘争心より楽しいと思う方が大切)
●高校はそもそも野球をするところではない
はてなブックマークだと、好意的なコメントも人気していました。
“マツコの「野球部出身者は十中八九クソ野朗」発言を思い出した。野球の教育効果なんて元々疑わしいんだから、綺麗事抜きで勝敗にこだわる監督が居たっていいと思う。”(aobyoutann 2017/08/12)
“これは凄いわ。下関国際の前身校を知っているからあながち全面否定もしないでおく。こういうのも必要な場所ってのはまだあるんだと”(Yoshikawa 2017/08/12)
ただ、大半は批判的なもの。一番人気だったのが、生徒らは結局大切なものを学んでいないのでは?という指摘でした。
“元阪神のマートン「日本人は、野球の練習を8時間する。半面、人生において大切な教育がおろそかになってしまいませんか。”(kaggiko-chie 2017/08/12)
また、以下も似たような系統。
“マナーを論じるのであれば、他校について放言すべきではなかったんです。また、この方の学業を軽んじる発言は批判されるべきです。勉強なんてしていられないと言いますが、高等学校は学業を優先する場所ですよ?”(osudakeknowledge 2017/08/12)
“そもそも野球やるために教員になるのはおかしいことだと思うけど。教員の本分は部活じゃない。”(koki-h 2017/08/12)
“戸塚ヨットスクールの高校野球版って理解すると、分かりやすいかな。高校野球は児童虐待で嫌いだけど、その思いをより強くしてくれる。/文武両道出来ない(しない)教育(としての高校野球)に意味あるのか?”(out5963 2017/08/12)
“前近代的過ぎるので野村克也の著書を百万回読み返して出直していただきたい。野球人の人生は野球を引退してからも続く。”(eggheadoscar 2017/08/12)
●かき氷を食べていた相手に敗退
その他は以下のようなコメントがトップ10でした。
“辞めた人のことを「逃げた」って表現するのやめようよ”(robonokoishi 2017/08/12)
“学生の頃運動部にいたんだけど、顧問から「あいつは結果を残せなかった」って言われて試合で使われなかったのを思い出した。こういう指導者にとって、選手は教え子じゃなく駒なんだよね。教育しようなんて考えてない”(masumizaru 2017/08/12)
“それでどういう人材が輩出されるのでしょうか。投資マンションのノルマ営業に耐える人材?”(shifting 2017/08/12)
なお、下関国際は、かき氷を食べていた三本松に9―4で敗れています。ネット上では「ざまぁ見ろ」といった反応でしたけど、スカッとして終わりではなく、このような指導者を撲滅できるように、日本の高校野球全体を変えていかなくちゃならんと思います。
●逆にスマホゲームを励みに頑張る選手も
2017/08/19:気づいていればセットにしたのですが、携帯電話すら禁止する下関国際高校のようなところがある一方、スマホゲームを励みにして頑張る学校もあるようです。
12―3で土浦日大(茨城)に大勝した松商学園(長野)のナインで、「ポケモンGO」が流行。練習後の自由時間に宿舎を出て、ポケモンを探しに歩き回ったり、中には電車に乗って遠出までしてポケモンをゲットする生徒すらいるとのこと。
ある選手は「ポケモンが長野のような田舎だと都会よりも少なかったけど、宿舎のある大阪だと新しいポケモンがじゃんじゃん見つかるのでうれしい。一試合でも長く勝ち残って大阪にいたいんです」としていました。
(
【高校野球】松商学園12点大勝の裏に「ポケモンGO」より)
残念ながら次の試合では負けたようですけど、こういうモチベーションの上げ方でいいんですよ。他の楽しみを奪って、非人間的に管理する必要はありません。
●練習時間に制限があった三本松が勝利
追記するついでに、下関国際に勝った三本松の練習時間を検索。3時間としているところがあったものの、ソース不明。見つかったのは、少し古いですが、
県立三本松高等学校(香川)【前編】 (1/2) | 野球部訪問 | 高校野球ドットコム(2015年05月22日)という記事。ここでは、テスト前の部活動は「授業終了後2時間」という話がありました。
このテスト前の部活動は「授業終了後2時間」の理由は、ちょっとわかりづらい書き方。通ってくる生徒の範囲が広く、なおかつ塾に通う時間がいるので部活動の時間が少ないという意味かもしれません。以下のように説明されていました。
"JR高徳線・三本松駅から学校まで、距離にして歩いて5分程度。その道沿いにあったのは4つの「学習塾」であった。東かがわ市一円を中心に徳島県境までの高校生を一手にカバーする県最東端の高等学校・三本松ならではの光景である。
よって三本松では部活動もテスト前は「授業終了後2時間」の制限がある。取材日の練習も6時間授業の3年生選手6人は15時過ぎから、7時間授業の1・2年生選手30人は17時前から。そのため全員で練習できる時間は60分程度しかない。チームプレーが勝敗を左右する野球においては、非常に難しい環境である"
●文武両道で自主性重視、根性論ではなく理詰めだった三本松
コラムはこういった不利な状態でも三本松が活躍しているという話だったのですが、その考え方は下関国際とまさに対照的。岡田 紀明監督は、「勉強もちゃんとして試合に強いからこそ、値打ちがあるんですよ」と、下関国際・坂原秀尚監督が全否定した「文武両道」を肯定していました。正反対です。
さらにこの後も、全く正反対の話が続きます。根性論でなく理詰めで、自主性を重視しながら投手を指導するという話だったのです。これらはいずれも坂原秀尚監督が忌み嫌ったものでした。下関国際にとってはわかりやすい組み合わせで、「できすぎ」ってくらいできた対戦相手だったわけです。
ブラック企業の例を挙げたように、坂原秀尚監督のやり方でもある程度結果を出せるのは残念ながら事実。昔ながらの根性論・精神論でもうまく行っているように見える企業やスポーツチームはたくさんあります。ただ、生徒たちの未来のためには、そうじゃないところに活躍してほしいと思いますね。
●ダルビッシュ有投手「今子供だったら多分野球はやっていない」
2021/01/28:メジャーリーグのダルビッシュ有投手(34)がTBS「林先生の初耳学」にリモート出演し、野球人口の減少について言及。今までこれだけ高校野球の体罰も多かったですし、高校生みんな坊主やし、誰がこの時代に坊主にしたいねんっていう話だと思う。今の子どもたちは」と言っていたそうです。
「無条件に全員が強制されるようなスポーツって、どんどん堕ちていくのは目に見えている。少子化じゃなくても野球をやる人は減ると思う。もっと楽しまないと」「指導者が小学生にバントをさせている時点でやらない。僕が今の時代に子どもとして生まれていたら、多分やっていないと思います」とも言っていたそうです。
(ダルビッシュ 野球人口の減少に持論 「誰がこの時代に坊主にしたいねんっていう話」 1/24(日) 22:56配信 スポニチアネックスより)
https://news.yahoo.co.jp/articles/0c98e57b74dc23e920107412559e3167270217b8
実際には、坊主頭を強要するチームはもう減っているのでは?という反応もありました。ダルビッシュさんはサッカーの方が自由だとしていましたが、サッカー人口についても減っている可能性があり、野球と明暗分かれているかは確認する必要があります。ただ、ヤフーのコメント欄では、賛同する声が人気になっていました。
<坊主頭にするのが嫌で野球少年が高校生になる時は野球を辞めてしまうパターンは意外と多いよね。坊主が嫌で野球が上手な子が高校入学と共に他のスポーツやったり、部活動辞めちゃったり。才能あったのに勿体ないってパターンあるよ>
<スポーツって、基本的に娯楽なんだと思うんだけど、なぜか日本では指導者が「人間教育」とか言って娯楽性を奪ってしまっている。その結果楽しいはずの野球が「野球道」という道徳教科のようになっているところが、若者受けしない理由の一つだと思う>
<スポーツで坊主頭の文化が有るのは日本だけでは? なんの精神かは不明だが戦時中でも有るまいし、悪しき慣習は止めるべき。>
●「野球辞めました」「高校野球辞めました」…体験談が続々
コメント欄では、野球少年の実体験と見られるものもあります。<髪型はあくまで一側面でしかないだろうが、他の競技と比べて、犠牲や忍耐が必要以上に美徳化されているという印象を受けることがある>としており、野球は坊主に限らず、ブラックなところが多いという感想ばかりでした。
<坊主もそうだけど、学校毎に違うと思うけど野球部だけの変な決まり事とかね。恋愛禁止とか、携帯持つのは2年生からとか、先輩が飲料飲むまで下級生は飲むなとか、馬鹿馬鹿しい。
それとリトルリーグとかでの監督やコーチの保護者との変な関係とか。何で金払ってるのは親なのにお茶やコーヒーくらい監督コーチは自分で買わないのかなとか思っていた>
<野球が大好きで少年野球やってましたが、当時その時のコーチはミスすると怒鳴る、ケツバットという名の体罰が嫌で半年ほどで辞めてしまいました。当時は根性なしと言われ、その後父とやりたかったキャッチボールすら出来なくなりました。今も昔も強豪の少年野球クラブです>
<いま社会人軟式野球の市や県1部でやってますが、最近は中学までしか野球やってないのに140km前後のスピードボール投げたり、スタンドに放り込む選手が増えてます。そういう選手に何で高校野球やらなかったのか聞くと坊主が嫌だった、親の負担が多い、指導者のパワハラ等で続けなかったってケースが多いです。才能が埋もれていて残念です>
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