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「全然大丈夫」「全然OK」という使い方が間違い、というのは間違いだった


 これはいつか書こうかなと思いつつ、例文などを少しずつ収集しようと思っていたものですが、日経新聞で記事が出てきましたのでついでに書いてしまいます。

 私は言葉とは変わりゆくものだと認識していますので、極端なものならともかく「その日本語は間違っている」といちいち指摘して悦に入るのはどうかと思っていますが、「全然大丈夫」「全然OK」という肯定的な使い方が間違い、否定的なものを伴うのが正解という指摘にも違和感を覚えていました。(極端というのは、たとえば子供に言葉を教えるように、意思の疎通に問題が生じるおそれがある場合は当然正すべきです。コミュニケーションを取りづらいのは困ります)

 無論、言葉が変わりゆくものであれば、「全然」の肯定がNGとなるのも一つの変化なのですけど、「間違った日本語」「言葉の乱れ」という定着のさせ方は作為的で不自然なものです。


 私が変だなと思った理由は二つあり、明治時代くらいの本だったと思いますが、昔の本を読んでいるとそういった表現が出てきた覚えがあったからです。

 ここらへんちゃんと覚えていないのが「収集しようと思っていた」に留まっていた理由なのですが、検索してみると夏目漱石は用いたようです。

"一体生徒が全然悪るいです。どうしても詫まらせなくっちあ、癖になります。退校さしても構いません。" ----坊ちゃん



 ただ、夏目漱石は日本の文学の未来を危惧し、このままでは無くなってしまうという危機感を持っていました。そこで彼は盛んに口語的な、あるいは俗な表現を取り入れたのではないかと想像していますので、漱石では理由にならないかもしれません。

 余談ですが、「漱石発明の当て字」と言って様々な単語を漱石が初めて使ったとされる「迷信」が多いのも、そうやって彼が文学界ではあまり用いられなかった表現を積極的に受け入れた結果ではないかと想像しています。


 で、他の方。

"「意地」は最も新らしき意味に於ける歴史小説なり。従来の意味に於ける歴史小説の行き方を全然破壊して、別に史実の新らしき取扱ひ方を創定したる最初の作なり。"  ----森鷗外自筆と言われている第一創作集『意地』の広告文

"成人するとは、持って生れた自然の心のままで、大きい小児になるというだけの事だ。然し、今の世にぬて人が一人前になるという事は、持って生れた小児の心を全然殺し了せるという事ではあるまいか。"  ----石川啄木作品集〈第1巻〉(何という作品かはわからず)



 もう一つですが、それは「全然」という語を見ての推察です(こんなことを言っている人は他に見たことがないので、私の独自見解です)。

 「全然」の「全」は「まったく」とも読みますが、こちらは肯定にも否定にも用いることができます。

 問題は「然」の方ですが、これを「しかり」と読むと、「その通り」という意味になります。

 すると、「全くその通り」なのですから、肯定的な意味で使っておかしいはずがありません。


 しかし、「然」は「しかし」とも読めてしまいますから、これだけでは理由にならないでしょうか。まあ、肯定、否定どっちでもくらいは言っても良いと思います。

 また、今調べてみるとその他にも「さ」と読み、「そのように」という意味ですので、肯定サイドでの例は補強できます。


 で、日経新聞の話ですが、そこには何と書いているでしょう? (なぜ広まった? 「『全然いい』は誤用」という迷信 2011/12/13 7:00 より 佐々木智巳)

 「全然いい」といった言い方を誤りだとする人は少なくないでしょう。一般に「全然は本来否定を伴うべき副詞である」という言語規範意識がありますが、研究者の間ではこれが国語史上の“迷信”であることは広く知られている事実です。


明治から昭和戦前にかけて、「全然」は否定にも肯定にも用いられてきたはずですが、日本語の誤用を扱った書籍などでは「全然+肯定」を定番の間違いとして取り上げています。国語辞典で「後に打ち消しや否定的表現を伴って」などと説明されていることが影響しているのか、必ず否定を伴うべき語であるようなイメージが根強くあるようです。


 研究班では、「最近“全然”が正しく使われていない」といった趣旨の記事が昭和28~29年(1953~54年)にかけて学術誌「言語生活」(筑摩書房)に集中的に見られることから、「本来否定を伴う」という規範意識が昭和20年代後半に急速に広がったのではないかと考えています。


(引用者注:昭和10年代)採集した「全然」の用例を分類したところ、全590例のうち6割の354例が肯定表現を伴い、そのうち約4分の1に当たる85例が否定的意味やマイナス評価を含まない使い方となっていました。その中には「前者は無限の個別性から成り、後者は全然普遍性から成る」(日本語、金田一京助)といった著名な国語学・言語学者のものも含まれています。

 金田一京助さんは国語辞書作成で有名な方ですね。


 もう一つ、Wikipediaも見ています。

 Wikipediaでは否定を示す用法を「第二次世界大戦後の現代語でもっとも一般的な用法」として認めていますが、「注意を要する用法」として、

主に明治時代の文学作品など明治時代から戦前までの近代語に見られ、否定表現を伴わず「すっかり、ことごとく、完全に、全面的に」

国語辞典によってはこの用法を記載しなかったり、記載した上でかつて使われた用法とするものもある。

 を載せ、「誤っているとされる用法」として、

1990年代前半に、学生を中心に自然に広まっていったといわれているが、「全然」という言葉が中国から入ってきた江戸時代には、既に肯定で使用されることがあった。 ただし、広まったのは明治時代である。その後、昭和中期には肯定用法の使用が減り、「全然」を否定表現で使うことの方が多くなっていった。

1960年の指導要領には「全然は否定語を伴う」と明記されている。

2003年放送のNHK「お元気ですか日本列島」の中で全然の肯定表現について文部科学省の見解として「戦前から全然は否定表現を伴うと教育している」としている。

また文化庁「国語に関する世論調査(平成15年度)」において、「とても明るい」ということを,「全然明るい」という言い方をすることがあるかどうかという質問に対し、「言うことがある」と回答したのが20.7%、大多数の78.6%が「言わない」と回答している。

国立国語研究所の調査(「語形確定のための基礎調査」)の結果でも、「全然すばらしい」という肯定表現を適切とする人はごく少数である。

 としています。どうやら既に否定が必要というのは、十分に定着したと見ているようです。(あと、本家中国でも否定必須だったってことですかね?)

 そういうわけで「迷信」だろうが、「言葉の乱れ」だろうが、定着してしまえばそれはそれで「正しい日本語」なのです。

 「全然」という言葉がたどってきたこの変遷は、人の言葉の間違いをこれ見よがしに指摘する方々にとっては、皮肉なものだと思います。


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