当時多くのメディアは、役場に勤務する24歳の女性が津波が来る直前まで防災無線で避難を呼びかけ、行方不明になったことを盛んに報じていた。その1つが、雑誌『週刊新潮』(4月7日号)である。特集「命を捨てて命を救った殉職者たちの物語」として、女性の死に至るまでの経緯を取り上げている。 (中略) それに対して毎日は、事実を積み重ねることで真相に迫っている。 (中略) 午後3時20分。(24歳の女性が勤務する)危機管理課に連絡が入った。『津波が防潮堤を越えた』。防災無線を呼びかけていた遠藤さん(24歳の女性)に上司は言った。末希ちゃん、放送はもういいから』。一緒にいた佐藤係長は『みんな避難したと思うが、その後が分からない』と振り返る。 (中略) 「(地震発生の午後2時46分の直後)佐藤徳憲総務課長(60)は、役場西隣の自宅に戻った。『津波が来るから逃げなさい』。玄関から妻節子さん(63)に言ったが、返事は『避難中に来ると怖いから家にいます』。『2階は大丈夫だろう』。佐藤総務課長はそれ以上勧めず、防災対策庁舎に向かった。」 この証言が事実ならば、勤務時間中に管理職であるはずの課長が自らの仕事を中断し、自宅に帰り、家族に避難を促していたことになる。この間に24 歳の女性や他の職員は、町民に避難を呼びかけていたのではないか。そして30人近い職員が亡くなる一方、総務課長は難を逃れた。 |
検証報道の記事は、他紙でも見られる。たとえば朝日には、4月21日付の朝刊に「防災不全 町長の死」と題した記事が載った。 町長と職員30人余りが亡くなった岩手県大槌町役場の震災当日の様子を、関係者の証言を基に構成したものだ。これを読むと、町長をはじめ職員たちの危機意識の薄さがわかる。 この町長も震災直後に、一部のメディアでは英雄のような扱いをされていた。だが、記事からは当日の職員らに対する避難指示が、それとはほど遠かったことが見えてくる。 |
松尾氏がまず問題視したのが、午後2時46分の緊急地震速報発表だった。この3分後の49分に発表された大津波警報では、「予想される津波の高さ」は岩手県が3m、宮城県が6mだった。 (中略) 「この第1報が多くの人の警戒心を弱め、避難行動に影響を与えた可能性がある」と分析する。さらに地震発生以降、気象庁によって更新された津波情報について疑問を呈した。 「3時14分と31分のそれぞれに、予想される津波の高さが段階的に上がった。だが、あの地震の直後の混乱や、停電が続く中で、多くの人は本当にそれらを理解していたのだろうか」 |
1.ハード、ソフト、インフラを区別して防災対策を 松尾氏らの調査からは、防災無線や停電時の電気・通信など、インフラの整備が急務であることがわかる。 (中略) 防災は、堤防や防潮堤などのハード、住民の避難意識などのソフト、さらに停電対策などのインフラの見直しなどを、総合的に見据えることが必要である。住民の避難意識だけに焦点を合わせ、「これだけの犠牲が出たのは避難意識が低かったから」と結論づけることは避けたい。それでは、今後の防災に役立たない。 2.「津波警報」に頼れる時代は終わった 今回の震災では、気象庁の津波警報のあり方が問題視された。現在、同庁はその改善策を有識者と共に検討している。 最終的な結論が出されるのはまだ先だが、現時点ではマグニチュード(M)8を超える巨大地震では、その海域で想定できる最大規模の津波を想定する一方で、第1報ではあえて高さの予想を発表しないことなどを議論しているという。つまり、「巨大な津波のおそれ」などの表現で高台などへの避難を促そうという狙いである 3.消防団員、町内会長、民生委員らの負担を減らす 震災直後に私が気になっていたのは、津波で亡くなった消防団員らを「ハンドマイクを握ったまま死んでいた」などと情緒的、心情的に捉え、英雄のように扱う記事や世論が少なくなかったことだ。 それは現地で調べると、事実関係として誤りではない。だが、「なぜ彼らが亡くなったのか」を検証することこそが、何よりも大切ではないだろうか。そうでないと、亡くなった消防団員や遺族らも報われないだろう。 私が被災地で消防団員らに話を聞くと、亡くなった団員らは死を前提に職務を遂行していたのではないという。むしろ、当日の津波の実態をあまり知らされずに水門などを急いで閉めに行ったケースが目立つ。 さらにその後、逃げようとしない住民らに避難を呼びかけたりして亡くなっている。これは、町内会の会長や民生委員らも似たような事情である。 今後、多くの人が素早く高台などに避難すれば、消防団員、町内会の会長、民生委員らの危険度も低くなる。そして亡くなった消防団員、町内会の会長、民生委員らを国を挙げて称え、その遺族に少しでも手厚い補償をするべきではないか。 |
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