早く使えば良かったのに遅くなったので状況が変わっているかもしれませんが、
「もう1つの為替レート」が示す超円高の嘘 編集委員・田村正之 2011/12/13 7:00(日経新聞 登録要)という記事によると、超円高報道は嘘も含んでいるようです。
記事の説明では、海外高官が『物価格差を考えると日本は極端な円高ではない』などと発言することがあるのは、実質レートのことを指しているでそうです。
また、米ドル円の名目レートは過去最高の円高に見えますが、実質レートで見ると90年代後半くらいで、95年よりはマシなようです。
算出方法は以下で、
実質為替レート=名目為替レート☓(外国の物価÷日本の物価)
名目為替レートでは考えていない物価を考慮しています。
他の国はインフレを順調に続けているのに、ご存知の通り日本はデフレ。そのため、名目為替レートだけで考えると話がおかしくなってしまうようです。
1990年以降、日本の物価はデフレのため僅かに下がっています。一方、アメリカは60%以上(7割近く?)上がっています。
これが実質レートが超円高になっていない原因だとのこと。すごい違いますね。
様々な貿易相手を貿易量に加重平均して計算した『名目実効レート』『実質実効レート』で見ても同様の結果になっています。
『名目実効レート』では加工最高の円高ですが、『実質実効レート』ではそうでもありません。
こちらはさらに極端で、1970年代後半の円高ピークと同程度で、80年代後半、90年代と比べると、2000年代は円安に見えます。
Wikipediaからも語の説明を載せておきます。
為替レートと物価
現在の為替レートで各国の賃金水準などを比較した場合に、大きな差が出る場合がある。例えば日本は一人当たり GDP が 37000ドル程度であるが、ベトナムはおよそ 500ドルである。これを単純比較すると日本の賃金水準が 70倍程度高いことになるが、ベトナムは日本よりも物価が安いため、所得が低いからといって購買できる量に 70倍もの差がつくわけではない。こうした実情を踏まえ、物価を考慮した購買力平価で調整した後の一人当たり GDP は日本が 30000ドル、ベトナムが 3000ドル程度となり、その差は 10倍程度になる。
為替レートがこのような物価差を反映しないのは、経済構造と貿易に関係している。
A国とB国があったとする。A国は工業化が進展しており輸出工業の生産性が高い。仮にA国の輸出工業がB国の輸出工業の10倍の生産性を持っていたとする。どちらも国際市場に製品を輸出している場合、一物一価の法則により両国の輸出品価格は同一となる。これにより、A国の輸出工業労働者はB国の輸出工業労働者の10倍の所得を得ることになる。一方でA国の国内サービス業がB国の国内サービス業の2倍の生産性を持っていたとする。A国で輸出工業労働者と国内サービス業労働者の賃金に一物一価の法則が働いた場合、A国のサービス業はB国のサービス業の5倍の料金を取らなくては経営が成り立たなくなる。このため、両国では輸出工業品の価格が同一である一方、サービス料はA 国のほうが高い状態が生まれ、A国の物価はB国よりも高くなる。
以上のように、輸出競争力に差があり、非貿易財が存在する場合に、実際の為替レートと購買力平価には差が生まれる。
(中略)
実質実効為替レート
日本では日本円と米ドルの相場に注目が集まるが(後述)、国際市場への参加者は他にも数多くあり、それぞれが自国通貨を持って変動相場制の下で貿易が行われているため、特定国間の為替レートだけを見ても国際市場における当該通貨の価値を知ることはできない。
外国為替市場における諸通貨の相対的な実力を測るための指標として実効為替レートがあり、これは中央銀行や国際決済銀行などが算定し、適宜公表している。
また、為替レートの変動を考えるとき、両国で物価上昇率が異なる場合は、実質的なレートが、名目為替レートとずれてくる。このような物価上昇率の効果を考慮した為替レートを実質為替レートという。
実効為替レートにおいても物価上昇率調整前後の値をそれぞれ算出するのが一般的であり、物価調整前を名目実効為替レート、調整後を実質実効為替レートと呼ぶ。
なお、日本銀行の解説にもあるように、実質化(どのようなデフレータを使用するか)、実効化(どのような通貨ウェイトで加重するか)の両面において様々な論点がある。分析しようとする目的に合ったデフレータおよび通貨ウェイトであるかを確認する必要があり、たとえば、企業の競争環境を分析しようとする時にデフレータとして消費者物価指数を用いたり、あるいは貿易額を通貨ウェイトとするのは望ましくない。これは、賃金などの企業のコストと消費者物価指数は乖離していること、アメリカ市場で第三国と競争している時にはドル円ではなく、その第三国の通貨と円の関係が問題になること、などによる。また、ウェイト替えに伴う遡及改訂をどのように行っているかも注意が必要な点であり、現在のウェイトを元に過去を遡及改訂するような統計の場合、過去の値が持つ意味をよく吟味しなければならない。その他にも過去と比較する際には、実質実効為替レート水準の高低をただ比べるだけではなく、経済情勢や経済構造の変化など、様々な留意点がある。 |
何かたいへんそうですね。
ところで、日経新聞と同様の指摘は
電力制約が生産と輸出を抑制している (ダイヤモンド・オンライン 2011年9月22日)にもありました。
まず、表題の輸出に関しては、"貿易収支が現状より大きく増加する可能性は小さく、現在程度の状況が今後も続く可能性が高い"として、その原因の"第1は、輸出が伸びないと考えられることだ"としています。
さらにこの輸出が伸びない原因が説明されていますが、ここから為替レートの話が出てきます。
"原因としては、為替レートと電力制約が考えられる。
為替レートで円高が進んでいるのは事実だ。しかし、この傾向はこれまでも続いてきたものであり、ここに来て急に加速したわけではない。
また、貿易に影響を与えるのは、通常問題とされる名目の為替レートではなく、各国間の消費者物価指数の伸び率の差を考慮に入れた「実質為替レート」だが、これで見れば、まだ大幅に円安だ。実質実効為替レートで見ると、過去のピーク(1995年)に比べるとまだ5割ほど円安だ。また、2000年頃と比べても、3割ほど円安である。したがって、円高が輸出頭打ちの直接的な原因とは考えにくい(ただし、「円高が海外移転を促進し、それによって生産の海外シフトが起こり、輸出が減少する」ということはありうる)。なお、こうした事情があるので、日本が介入しても為替レートのトレンドにほとんど影響を与えることはできない。また、先般のG7(先進7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議)でも見られたように、「日本の円高が重大問題」という日本の主張には、国際的な理解が得られない"
つまり、日本の不振を円高のせいにするのは無理があるとのことです。
日経新聞に戻ります。
輸出競争力という考え方自体はもうちょっと調べたいのですが、ギリシャの公務員給与の削減は、為替レートを切り下げる道が閉ざされているため、国内物価を下げることにより、輸出競争力を回復させようとするものという説明もありました。
日本については、円高が輸入品の価格を引き下げ、デフレにつながっている側面が大きいとされるそうです。
ただし、GDP(国内総生産)に対する輸入の比率は1割前後に過ぎないから、やはり『円高をデフレの主因とまで考えるのは無理がある』(JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長)との指摘は多いという話です。
こうまで書いているのですが、記事では最後に
「やっぱりここ数年の円高ピッチは急すぎるし、輸出品で競合することが多い韓国など競争相手の通貨が下がっていることが日本の輸出競争力を不利にしている。震災など全体的な経済状況も考え合わさなきゃいけないので、様々な円高対策は当然必要だ」
という結論になっています。
ただ、「日本が介入しても為替レートのトレンドにほとんど影響を与えることはできない」とダイヤモンド・オンラインにはありました。
野田佳彦首相が外野に求められてやった財務相時代のものがそうだったと思っていますけど、パフォーマンスに終わる円高対策に関しては支持できません。
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円高のメリット ~「円高は良いこと」論の詰め合わせ~ ■
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