中国の労働者が優秀だという話をすると信じられないだろうし、怒ってここで読むのを止めちゃうような気もしますが、実際そう言っている人もいるようです。
一方で同じ中国人労働者でも雇い主によって、優秀さが大きく違うということもあるようです。日本企業で働く中国人はレベルが高いんだそうな。これは日本人にとっては日本の優秀さを認識させるちょっとうれしい話である反面、それゆえに問題が起きているという話でもあります。
2020/12/19追記:
●この国でものづくりは無理!社員らが暴徒化してiPhone大量盗難
●中国製造業の魅力は人件費以外にある 熟練労働力やサプライチェーンなど
2012/2/17:まず、中国人の優秀さに関する話。
アップルの隆盛と雇用喪失 (登録要 ダイヤモンド・オンライン 2012年2月3日 岸 博幸)では、ニューヨーク・タイムズに出ていた記事を紹介しています。アップルが製造部門を中国などのアジア諸国にアウトソースした理由は人件費だけではないという指摘でした。
というのも、IT企業の製品にとっては労働賃金よりも部品の調達、数百の企業から部品や労働力などを調達して組み合わせるサプライチェーンの確立・管理のコストの方が圧倒的に大きいのです。そうした点で中国とアメリカを比較した場合、アメリカよりも中国が優れているから、製造部門が中国に流出していたという指摘です。
実際、記事の中では元アップル幹部の証言として、以下のようなコメントを引用しています。
「中国の工場では、一晩で3000人の習熟した労働者を集めてくれる」
「中国なら、ラバーのパッキンが急に1000個必要になっても、隣の工場にある。ネジが百万個必要になっても1ブロック先の工場にあるし、その仕様を少し変更する必要があるなら、3時間でやってくれる」
すなわち、同じ習熟度の労働者を比較した場合の労働賃金の安さに加えて、以下のような点でアメリカが中国より劣ることが、アップルのようなIT企業の隆盛にも拘らず米国内で雇用が増えない原因となっているとしていました。
・熟練した労働力(技術者、工場労働者)の豊富さ
・関連する部品の工場などの産業集積
・サプライチェーンや工場のオペレーションの柔軟さ
「1ブロック先の工場にある」などは結構大事なんでしょうね。昨年のタイの大洪水では、工場の海外への転出も難しいという指摘がありました。それは工場は単独で成り立っているわけでなく、周囲にそれに関わる様々な会社があるから操業できるのだからという理由です。
工場地帯としてセットで移転する、あるいは既に至れり尽くせりの状況の整っている地域に移転するなどじゃないと、移転は容易ではないのでしょう。
●日本企業で働く優秀な日本人が大量に引き抜かれる
現在、日本も中国で多くの工場を持っていますが、昨年たいへん困った事態が起きていたようです。
H&M、ZARA、そしてユニクロのどこを選ぶ? 日本企業から中国人労働者が消えた理由 加藤 嘉一 2011年11月17日(日経ビジネスオンライン)によると、中国に展開する日本企業の工場から中国人労働者が集団的にヘッドハンティングされ、消えている現象が起きているんだそうです。
行政府である国務院で、労働、社会福祉、地方経済などを担当する部門の高級官僚(以下Pさん)は「解決はなかなか難しい」とため息をつき、「日本企業がヘッドハンティングの標的になっている理由は何だと思うか」と、逆に筆者に聞いてきた。 (中略)
常識的に考えてヘッドハンティングは、ターゲットとなる労働者を尊重し、優秀だと認識しているからこそ起こる現象です。しかも集団的に行われている。日本企業の工場で働く労働者が優秀で、ポテンシャルに富んでいる、場合によっては即戦力になりうる、と中国企業が理解しているからこそ起こる現象でしょう(中略)
「加藤さんの意見におおむね賛成だ。私も労働や社会保障を担当する中央の役人として、日頃から全国各地を回り、地方経済の等身大の姿を掌握しようと努めてきた。日本企業の評判が非常に高い。動きが鈍いとか、現場での統率力に欠けるとかいうマイナス面もしばしば耳にする。しかし、それ以上に、契約はきっちり守る、信頼関係を築くために努力を惜しまない、地方社会との絆を大切にする、という側面について中国企業は謙虚に学ばなければならない」
「それに、日本企業で働く労働者の能力は平均して非常に高い。マナーができていて、忠誠心を持っている。働くとはどういうことか、企業人とは何を意味するか、時間を守る、同僚と協調する、上司の言うことは聞くなど、当たり前のことが徹底して教育されている。相当な時間と労力をかけて研修をしているのでしょう」
筆者はここで口を挟んだ。
「だからこそ標的になるのですね。日本企業で働くブルーカラーたちのレベルが平均的に高いからこそ、優秀だからこそ食われるのですね。何とも皮肉な」
●転職する中国人より引き抜かれる日本企業の方が悪い?
2017/09/20追記:2012年にこれを書いたときは、日本企業にとって良い話だと思って紹介していました。ただ、ブラック企業が蔓延する日本の労働環境のことを考えてみると、日本企業にとって悪いエピソードかもしれません。
優秀な中国人が引き抜かれてしまうというのは、それだけ日本企業が魅力を感じる待遇をしていないためでしょう。むしろ悪い待遇で、高いレベルを求めいたとすら言えるかもしれません。
日本企業に恩義を感じずに転職する中国人は薄情に思えるかもしれませんが、そうして悪い環境に留まり続けていることが日本のブラック企業問題を深刻化させています。待遇の良い企業にどんどん移る社会の方が、健全だと今なら思います。
日本は技術者の年収安すぎ…だから海外流出・外資系企業への転職が増加するは、国内の日本人技術者が外資系に転職してしまうという話でしたが、技術者にとってはその方が幸せだろうと、むしろ歓迎する声さえ出ていました。
●日本は製造業よりサービス業にチャンスがある!?
2012/2/17、2017/09/20:2012年にはもう一つ日本企業にとって良さそうに見えるエピソードを紹介していました。
Pさんが「加藤さん、このエリアは私もよく来るんですが、面白い光景をお見せしましょう。先日、我々が議論した労働者の問題を現場で比較するんです。これから3店のアパレルメーカーを回ります」
(中略)お店(引用者注:ユニクロ)を出て、脇にそれた辺りで、店内の流れをながめながら、Pさんの話に聞き入った。
「私たちが店内に入ろうとしたところで、男性従業員が快く迎えてくれた。それを見た他の従業員全員がこちらを振り向き、挨拶をしてきた。ZARAの入り口にも人が立っていたが、彼は仕事をしていなかった。我々が入って行っても見向きもしなかった」
「ユニクロの店員は適度な距離感を持ってお客さんと接していた。常にこちらの表情や仕草を注意深くウォッチするが、無理に近寄ってきたりはしなかった。私たちがリラックスして、自由に買い物できるようにするためだ。必要な時だけ手を貸すスタンスが、教育によって徹底されていた。それに比べて、H&Mの従業員は、とにかく買ってほしいの一点張りで接近してきた。セールスマンだらけだ。客はゆっくり商品を見ることもできない。落ち着かない」
筆者は黙って聞いていた。
「貴国を代表するユニクロさんに入るたびに思うんです。サービス精神やホスピタリティーがあまりにも行き届いているがゆえに、客である私たちが逆に恐縮してしまう。あそこまでお客さんのことを親身に考え、真摯に接してくれる従業員の顔を見ると、買ってあげたい、ここで商品を買いたい、そう思わずにはいられなくなるんですよ」
どの記事かは忘れましたが、実は日本はサービス業こそ海外でチャンスがあるのだという意見もありました。それを裏付ける話ですね。
●鴻海・シャープの米国進出計画でわかる中国のありがたみ
2017/09/20:製造業の移転の難しさは、
「脱・中国」に潜むメッセージ 鴻海・シャープの米国液晶投資 日経ビジネス2017年8月7日・14日号という記事でも現れていました。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が米国で液晶事業の大規模投資を決意。これはシャープと共同で進める可能性が高いと言われています。ただし、アメリカはハイテク製品を作るには実力不足な国なのです。
最先端液晶パネルの場合、偏光板や液晶材料など多くの部材は日本などアジアで製造されており、アメリカでの調達は困難。必要な部材を輸入に頼るようでは為替リスクが大きくなるため、メリットは大きくなりません。部材各社の米国進出を促すという力技の可能性も指摘されていましたが、これは最初の投稿で指摘されていた通り、アメリカでの生産が現状では困難なことを示しています。
なお、こういったメリットの低さにも関わらずホンハイがアメリカ進出に前のめりなのは、中国依存からの脱却ありきで優先していることと、親中国だとホンハイをいじめている日本政府への「メッセージ」としての「脱・中国」が狙いではないかと記事では見ていました。
(政府のホンハイいじめは、
東芝、やっぱり国が救済 実質的に韓国SKハイニックスが買収か?を参照)
●この国でものづくりは無理!社員らが暴徒化してiPhone大量盗難
2020/12/19:Wistron(緯創資通:ウィストロン)のiPhone製造工場で、賃金不払いに不満を抱える社員ら2,000人以上が石や鉄パイプで工場、社屋、備品、社用車を手当たり次第に荒らし、132人が逮捕される事態となりました。さらにどさくさに紛れてiPhoneが数千台消えています。どうやら盗まれたようです。全体の被害は約62億円にのぼるといいます。
ここまで読んで、ほら、中国はダメじゃん!と思ったかもしれませんが、実を言うと、これ、中国の話じゃありません。インドなんですよ。この話を伝えた記事<被害62億円。インドのiPhone工場で暴動、iPhone数千台が消える GIZMODO / 2020年12月15日 12時15分>では、「米中貿易戦争でインドに活路を見出した矢先にこれ…」と書いていて、脱中国と絡ませていたため、読んでいてこちらの投稿のことを思い出しました。
https://news.infoseek.co.jp/article/gizmodo_isnews_226155/?tpgnr=it
記事では他に「平和なインドのイメージがガラガラガラ」とも。ただ、インドは女性への暴行などの女性差別がひどいなど、もともとかなりヤバイところありましたけどね。ただし、今回同情の余地があるのは、会社側がブラック企業だったということ。台湾のエイサーから2000年にスピンオフした台湾企業Wistronが問題でした。
工場では1万人余りが働いており、大半は派遣社員。彼らの不満の火種は賃金で、4か月前からなんと不払いや減給、夜勤のオーバータイムが発生していたといいます。初任給月3万円のはずが1万7千円まで減ったとか、それどころか月に700円しか振り込まれてないとかいった話が出ていました。だから暴動や盗難がOKということはないものの、これらの話が事実なら会社の方もやばかった…という話です。
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