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誰かを見捨ててでも避難しなくてはいけないときはある


 とりあえず、迷ってタイトルは「誰かを見捨ててでも避難しなくてはいけないときはある」としました。

 これは東日本大震災直後から書きたいと思っていたものですが、辛い内容なのでなかなか書き出せないでいました。


 東日本大震災の記事で印象に残っていたものの、使っていなかった記事を二つ紹介します。

 まずは、大震災 孤立して諦めかけた私を救った“声の力” 何気ない一言で人のつながりは生まれる(要登録 日経ビジネスオンライン 河合 薫 2011年3月17日)。

 3月11日金曜日の午後2時46分。東北地方太平洋沖地震が起きた時、私はJR水戸駅のホームにいた。

 東北地方の震源地近くに比べれば揺れは大きくなかっただろう。それでも、水戸駅は一瞬にして機能不全とパニックに陥った。

 生まれて初めて、死ぬかも、と思った。

(中略)

 11日の金曜日。水戸駅近くのホテルで講演会を終えた私は、改札口まで担当者に送っていただき、午後2時35分ごろに改札口を通った。
 
 2時50分発の電車まで、少しばかり時間があったので、駅構内のお土産屋さんで、水戸の梅ドラ焼きを1つと飲物を買って、ホームに下りた。

 乗車車両は4号車。切符を片手に持ち、乗車口の前に並ぶ。隣には70代くらいと思われるおじいさんが立っていた。

 「間もなく電車が参ります」とのアナウンスが入るやいなや、カタカタとホームが揺れ始めた。

 新幹線のホームなどでは、電車がホームに入ってくる時に軽い振動と風を感じることがあるが、「常磐線の特急も結構、飛ばしてくるんだなぁ」などと、のん気に思っていた。

 ところが、である。

 次第に振動にうなるような音が加わり、ホームの柱が大きく横に揺れ始めた。

 「地震だ!」と叫ぶ声があっちこっちから上がり、私は思わず隣に立っていたおじいさんの腕につかまってしまったのだ。

 その途端に土煙が舞い上がり、天井から大きな破片や砂がホームに激しく落ち始め、隣のビルのガラスが割れ落ち、天井が傾き、ホームから線路に投げ出されそうになった。

 近くにいた年配のご夫婦が、「こっちに来ないと線路に落ちるぞ!」と声を上げ、腕をつかんでしまっていたおじいさんに、「移動しましょう!」と手を引っ張られて、私も動き始める。

 ところが、さらに揺れが激しくなり、動くに動けない。腰をかがめてうずくまらないとホームから線路に投げ出されそうになるのだ。

 そこで、左手で地面を押さえ、右手で壁を必死につかまえて、何とか階段下のホーム中央まで移動した。

 「地震は長くても1分」と教わっていたように思うのに、ちっとも揺れが収まらない。揺れていた看板がはずれて落ち、悲鳴を上げた女性の声が響きわたる。

 「私、ここで死んじゃうのかも……」──。マジでそう思ったのだった。

 やっと揺れが収まった時には、既に駅は停電していた。駅員さんが「怪我をされている方はいませんか?」と走り回り、「何も情報がありません。まだ、何も分かりません。みなさん、落ち着いてください」と声を張り上げていた。

 携帯をチェックするけど、何も情報が入らない。周りにいた人たちも一斉に、携帯をチェックして情報を得ようとするが、何も分からない。

 すると再び、大きく揺れ始める。

 「こっちに来ないと危ない!」と先ほどのおじいさんに肩を抱えられ、階段の脇まで移動する。

 再び、揺れが収まると、駅員さんが「駅の外に避難してください」と誘導を始める。すると、近くにいた40代くらいのサラーマン風の男性2人組と、40代後半くらいの男性1人は一気に階段を駆け上がった。

 一方、年配の女性たちのグループは地震で受けた恐怖から動けない。先の年配のおじいさんと、20代くらいの男性が「上に移動しましょう」とおばあさんたちに声をかけ、私も一緒に改札口に移動したのだった。

 階段を上がる途中で、20代の男性が持つ携帯の画面に地震速報が入り、「仙台で震度7です!」と大声で叫ぶ。一斉にどよめきが起こるが、やっと情報が入ったことで、少しばかり安堵が広がる。

 今日のタイトルからしてわかると思いますが、私が知らせたかった話は後半部。大急ぎで避難した40代の男性2人組と、動けない人たちに声をかけていっしょに移動した年配のおじいさんと20代の男性の行動の違いです。


 40代の男性2人組を責めるのは簡単です。

 しかし、おそらく多くの方が経験しなかったような規模の違う地震であり、建物内が危険である可能性を想像するのは自然です。

 そういった状態で避難を優先したことをなぜ責められるでしょう?


 津波での避難の際には、見ず知らずの中国人留学生を車に乗せてあげたという話がありました。

 それは美談とされていますが、助かったから良いようなもので、もしそのせいで避難が遅れ、死んでしまっていたらその話は伝わっていません。

 仮に同乗者がいればその同乗者にも危険を背負わすわけで、もし仮に一刻も早い避難を優先したとしていても、私にはその判断を責めることはできません。


 逆に歩いている人を乗せずに、車で避難したという人もいるでしょうし、もしかしたらそれを後悔している方もいらっしゃるかもしれませんが、それはやはり仕方のなかったことだと言いたいです。

 日本だけではありませんけど、今まで津波によって亡くなった方は数えきれないほどいます。

 「実績がある」という言い方をすると不謹慎な響きがありますが、津波が多くの人を死なせてきたということは動かない事実であり、確実で現実的な脅威です。

 また、先の地震による建物崩壊による死者というのも、また現実的で差し迫った脅威です。

 何よりも優先して自分の身を守るという選択肢を取ることは、仕方がないことです。


 もう一つ印象に残った記事である【赤木智弘の眼光紙背】安全第一 安心は二番(2011年04月07日 16:00 眼光紙背)は、

「明確な失敗があったという記事はほとんど見かけない。やはり時期的に、政府や東京電力以外への非難を含む記事は書きにくいのだろうか。それでも今回のような悲劇を減らすためには、今の時期に十分な失敗事例が提示されることが重要である。そうした記事を少しだけ見つけたので、紹介したいと思う」

 として二つの失敗事例を挙げていましたが、引用するのはその一つ目です。

市の指定避難場所ではない防災センターを、普段の防災訓練の集合場所にしていたために、防災センターに避難した住民が、津波に巻き込まれてしまった例である。

 津波を想定した訓練なのに、津波を想定していない集合場所を設定するという、極めて安易な失敗は、言い訳のできるものではあるまい。

 もともとは「お年寄りに苦労をかけては」という優しさからの集合場所変更だったのだろうが、それは訓練の趣旨から大きくかけ離れるものであった。

 いくら足の悪い高齢者がいたとしても、実際の津波が起きれば彼らも高台に上がってもらわなければならないのだから、その大変さも含めて訓練である。

 センターを集合場所にした避難訓練を許可した市の対応を含め、この失敗の事例は記憶されるべきものであろう。

 仮に市の指定避難場所を行こうとしたとしても、もしかしたらお年寄りの足では間に合わなかったかもしれません。

 しかし、津波の危険が想定されている状態では、自分も一刻の猶予もありませんから、お年寄りの人たちを助けている暇はないということはあり得ます。

 冷たい、本当に冷たいことを言わなくてはいけませんが、このような自分の命も危険に晒された状態では、それもまたしようがない選択です。

 このような極限状態では、自分で自分の身を守るということは大切になってきます。


 ここまで書いてきませんでしたが、津波の場合は予想到達時刻が発表されます。

 残念ながら絶対的に正しいという精度ではないにしても、目安は出ます。

 焦らせるようなことをたくさん書いてきておいて酷な要求をしますが、パニックに陥って慌てすぎるのもよくありません。


 なぜかと言うと、避難の際に「あれを忘れた」だとか、「ちゃんと火を消しただろうか?」だとか、心配事があると一度戻ってしまうなど、余計危険な状態になるからです。

 本当無茶だとは思いますが、時間の許す限り(予想到達時刻の精度は完璧じゃないですけど)落ち着いて準備をした上で、避難しなくちゃいけません。

 そのゆとりがある中で周りの人を気遣ってあげるのは、もちろん素晴らしいことだと思います。


 しかし、今日一番書きたかったのは、身の危険が迫る中、他人を救うことなく我先に逃げたとしても、誰がそれを責められようか?という話です。

 繰り返しになりますが、地震にしても津波にしてもこれまで本当に多くの命を奪ってきたということは、歴史的な事実です。

 そういった十分すぎるほど十分予見できる危険の場合、誰かを見捨ててでも避難したとしても、それは責められるべきことではありません。


 関連
  ■東日本大震災での避難行動は適切だったのか?
  ■東日本大震災、原発事故、内部被曝のインフォームド・コンセントとパターナリズム ~九段会館の事故の遺族のケース~
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