Appendix

広告

Entries

イノベーションは模倣・真似から生まれる ~アップルが好例~


 イノベーションに関しては以前スティーブ・ジョブズを例にしたイノベーションの生み出し方というのを書いていますが、同じアップルを題材としながらかなり違う感じのする説明がありました。

 アップルの本質は「模倣の達人」 誤解や脅威論を払拭し、新興国企業にも学ぶ姿勢を取り戻せ(要登録 日経ビジネスオンライン 2012年3月21日 秋山基)というタイトルであり、私は以前アップルやスティーブ・ジョブズは所詮パクリだという後ろ向きな捉え方をしたデタラメなものを読んで辟易したことがあったので、警戒しながら読みました。

 しかし、「真似」というものを非常に前向きに捉えていましたし、得るものもあると思ったので取り上げます。


 インタビューを受けているのは、早稲田大学商学学術院の井上達彦教授。

 「日本企業の多くは独創性を追求しているが、実は独創性について誤解しており、模倣を避けようとしている。この姿勢を改めなければならない」と言っています。

―― アップルを引き合いに出して、イノベーション、とりわけオリジナルなビジネスや製品を開発することの重要性がしばしば語られます。こうした論調について、どうお考えですか。

井上:確かによくそういう言い方がされます。しかし、アップルが本当にオリジナリティーだけを追求してきた企業なのかどうか、よく考えてみる必要があります。

 例えば、(パソコンの)マッキントッシュは、グラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)とマウス操作を実現しましたが、GUIやマウス自体は、米ゼロックスのパロアルト研究所で開発されたもので、アップルが創ったわけではありません。それ以外の製品についても言えることですが、アップルは実は模倣がとても上手な企業なのです。

 米オハイオ州立大学のオーデッド・シェンカー教授は、著書『Copycats』において、アップルを「アセンブリー・イミテーションの達人」と評しています。既存の技術を新しいコンビネーションで結びつけるのが上手な企業だという意味です。

 よそで開発された技術を結びつけて、優美なソフトウェアとスタイリッシュなデザインで包み込む。他社の技術やアイデアを持ち込むことを恐れず、ちょっとひねりを加えて自社の魅力的な製品を作り出す。そういった強さを持っているのがアップルです。

 実際、創業者の故スティーブ・ジョブズ氏も、模倣について肯定的でした。「素晴らしいアイデアを盗むことに我々は恥を感じてこなかった」という言葉を残しています。

 繋げることの重要性は、スティーブ・ジョブズを例にしたイノベーションの生み出し方と同じで、私も共感するところがあります。

 異質なものの組み合わせは猿真似でしょうか?

 当然違いますよね。むしろそれは今までに目にしたことのない新しいものなのです。

 スティーブ・ジョブズの名言から五つを選り抜き ~スタンフォード大のスピーチなど~でも、「ジョブズは大学中退後、それが何の役に立つとも考えず、大事だと思ったから英習字の勉強をした。その経験がやがてMacを作る時に大いに役立った」という話を紹介しました。

―― 模倣という言葉には、ネガティブなイメージもつきまといます。

井上:模倣と聞くと、創造性や独自性とはほど遠い行為だと思ってしまう人は多いでしょう。けれども、「学ぶ」の語源は「まねぶ」であり、模倣は「創造の母」とも言われます。

(中略)

 ジョブズ氏は「優れた芸術家はまねる。偉大な芸術家は盗む」とも語っていました。彼は意外なところからインスピレーションを得ていましたが、この言葉は、模倣から独創性が生み出せるということを暗示しています。

 フランスの作家、シャトーブリアンも「独自な作家とは、誰をも模倣しない者ではなく、誰にも模倣できない者である」と言っています。ピカソもゴッホも模倣がうまい芸術家でした。彼らは模倣から始めて、やがて自分だけの独創性を生み出し、誰にも模倣できない画風を確立したのです。

(中略)

―― 模倣という行為がイノベーションにつながるということでしょうか。

井上:研究者は学術論文で独自性を打ち出そうとしますが、それは既存の論文との対比によって出すしかありません。そのパターンは実は3つしかない。

 1つ目は先行研究へのアンチテーゼ。2つ目は、先行研究をベースとしつつ、違いを出すこと。3つ目は、いくつかの先行研究を組み合わせて新たな知見を提示することです。いずれのパターンにおいても模倣は欠かせません。アンチテーゼも反転模倣という一種の模倣です。

 それは学者が論文を書く時の話だろうと実務家の人たちは思うかもしれません。しかし、企業が新たに事業を起こしたり、製品やサービスを開発したりする場合も同じです。「ゼロからものを生み出す」と言いますが、ゼロにゼロを足してもゼロですし、ゼロに何を掛けてもゼロ。何も生まれません。

 もっとも、私は、何でも模倣すればいいと主張しているわけではありません。模倣は、高度なインテリジェンスを要する能動的で創造的な行為であり、そのインテリジェンスこそが独自性の源泉でもあります。模倣能力こそが競争力の源泉と言い換えてもいいでしょう。

 このあとは日本が経済成長するには? ~輸出、製造業信仰からの脱却~などの経済成長シリーズで扱う方がよさそうな内容も。

―― 日本企業からイノベーションが起きないのは、そうした模倣能力が低下したからなのでしょうか。

井上:もともと日本企業は模倣を得意としてきましたし、今でも模倣のうまい企業はあります。

 けれども、全体的に見ると、高度経済成長を経て「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた頃ぐらいから、日本企業の間では、「イノベーションは模倣なきところから生まれる」という誤解とおごりが蔓延していきました。多くの企業が、自分たちの世界に閉じこもり、目も耳も塞いだ状態で頭の中だけで独自性を出そうとし、出せるはずだと思い込んできました。

 しかも、そのまずい状態に日本人はなかなか気づきませんでした。昨今でも、アジアの新興国で「良い模倣」「美しい模倣」がどんどん起きているのに、「あれは単にまねをしているだけで、新しいものではない」と否定的な見方をする人がいます。「新興国にまねばかりされる」という模倣脅威論も根強く、自分たちも新興国の企業から学び、模倣しようという積極的な動きが見られません。

 また、企業は模倣によってイノベーションを起こそうとしていても、模倣する相手を間違えている場合があります。製造業の開発部門では、自社製品のスペック向上を図るために、他社の製品を参照したり、ベンチマークしたりしていますが、これでは大きなイノベーションにはつながっていきません。

 厳しい競争にさらされているのは分かりますが、同業のライバル他社を模倣しようとしても、もともと情報は限られていますし、たとえ模倣できたとしても同質競争に追い込まれていくだけです。そういう「近い世界のお手本からの模倣」ではなく、他業種や外国から学ぶ「遠い世界のお手本からの模倣」、あるいは時間を遡り、過去の初心に返って学ぶ「原点回帰」が有効でしょう。

 おもしろいことに同日の日経ビジネスオンラインではもう一つアップルに関連したiPhoneの作り方 米スタンフォード大学が始めた「驚異の授業」(要登録 日経ビジネスオンライン 2012年3月21日 蛯谷 敏)という記事があり、そちらでは

「既にあるものを、いかに効率化していくかが従来の学問。いわば、『A』を『Z』に進化させるイメージ。けれど、ここでは、何もない状態からAを創り出すことに集中する」

 という前述の記事で否定された方法で、「iPhone」のような新しいものを作り出そうとしています。

 しかし、私は本質的な部分は変わらないと思いましたし、こちらにも共感を覚えました。

 「混沌が活力を生み、新しい価値を創る。そんな場を作り続けたい」

 日経ビジネスには、「旗手たちのアリア」というコラムがある。(中略)そのコラムで、昨年、私は佐賀県武雄市長の樋渡啓祐氏を取り上げた。1カ月ほどの取材期間を通して、特に印象に残っているのが、冒頭の言葉だった。

(中略)

 樋渡氏は、従来の武雄市にはない考え方を持つ人や企画など、地域にとって異質のモノをあえて取り込み、価値観が凝り固まった市役所の組織を外部から変えようとしている。

 そうした考えや想いが、冒頭の言葉には凝縮されている。画一的な価値観の人間が集まっても、新しい発想やアイデアはあまり出てこない。むしろ、自分とは全く異なった考えや思想の人間が集まり、色々な摩擦がある方が、活力が生まれる。

(中略)

 混沌こそが活力の源泉――。樋渡市長と同じ言葉を、武雄からはるか遠く離れた米西海岸で耳にする機会があった。

(中略)

スタンフォード大学は、2006年から、柔軟な発想・思考を研究する専門機関を開講したのである。「the Hasso Plattner Institute of Design」、通称「dスクール」と呼ばれている。

(中略)

 dスクールでは、従来の「教師が生徒に教える」いった講座はほとんどない。大半がプロジェクト形式で、新しい思考方法を実践していく。先に述べたような、デザイン思考の基本的な方法論を学び、実践する「場」の提供に徹している。

 もっとも、柔軟な発想を生むための方法論はきわめてオーソドックスだ。端的にいえば、ブレーンストーミングの繰り返し。付箋とホワイトボードなどを駆使し、参加者が、様々な意見を積み重ねていく。

 ここで、ようやく冒頭の樋渡市長の話につながる。記者が関心したのは、参加者の顔ぶれだった。

 dスクールの学生は、必ず、スタンフォードのいずれかの学部に所属するか、大学院で専門課程を学んでいなければならない。各人が専門を持ち、寄り集まった組織なのだ。

 プロジェクトは、必ず異なる専門を持つ学生がチームを組み、問題にあたる。医学、法律、ビジネスなど、様々な専門的見地から問題を評価し議論し、発見しながら、解決の道を探っていく。

 「議論を深める上で、必要なのが多様性。だから、あえて、この機関ではプロパーの生徒はとらない」と、先の講師はいう。既存の学問を横断した議論こそが重要。ここは、スタンフォード大学の多様性を担保する「場」なのである。

(中略)

 実際、dスクールから新たな事業も生まれており、デザイン思考の成果は着実に生まれつつある。受講希望者も飛躍的に増えており、スタンフォードの看板機関になりつつある。ハーバード大学など米国の他大学でも似たカリキュラムが広がっており、ここ数年でデザイン思考は米大学院教育の、大きなトレンドとなっている。

 「各人が専門を持ち、寄り集まった組織」なのですが、「プロパーの生徒はとらない」ともあります。このプロパーも専門家の意味を持ちます。

 おそらくこれはある分野での議論において、その分野の専門家を呼ばずに、他分野だけの専門家たちだけを呼ぶということでしょう。

 今日テーマにした模倣とは直接繋がりませんが、まさに異質なものの組み合わせであり、アップルの示したイノベーションと近いものがあると思います。


 関連
  ■スティーブ・ジョブズを例にしたイノベーションの生み出し方
  ■スティーブ・ジョブズの名言から五つを選り抜き ~スタンフォード大のスピーチなど~
  ■日本が経済成長するには? ~輸出、製造業信仰からの脱却~
  ■スティーブ・ジョブズのプレゼン ~説明もスライドもシンプルに~
  ■その他の仕事について書いた記事

Appendix

広告

ブログ内 ウェブ全体
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示









Appendix

最新投稿

広告

定番記事

世界一スポーツ選手の平均年収が高いのはサッカーでも野球でもない
チャッカマンは商標・商品名 じゃあ正式名称・一般名称は何?
ジャムおじさんの本名は?若い頃の名前は?バタコさんとの関係は?
ワタミの宅食はブラックじゃなくて超ホワイト?週5月収10万円
朝日あげの播磨屋、右翼疑惑を否定 むしろ右翼に睨まれている?
レーシック難民は嘘くさいしデマ?アメリカの調査では驚きの結果に
赤ピーマンと赤黄色オレンジのパプリカの緑黄色野菜・淡色野菜の分類
アマゾンロッカーってそんなにすごい?日本のコンビニ受け取りは?
就職率100%国際教養大(AIU)の悪い評判 企業は「使いにくい」
ミント・ハッカでゴキブリ対策のはずがシバンムシ大発生 名前の由来はかっこいい「死番虫」
移動スーパーの何がすごいのかわからない 「とくし丸」は全国で約100台
ビジネスの棲み分け・差別化の具体例 異業種対策には棲み分けがおすすめ
主な緑黄色野菜一覧 と 実は緑黄色野菜じゃない淡色野菜の種類
タコイカはタコ?イカ?イカの足の数10本・タコの足8本は本当か?
トンネルのシールドマシンは使い捨て…自らの墓穴を掘っている?
ユリゲラーのポケモンユンゲラー裁判、任天堂が勝てた意外な理由
好待遇・高待遇・厚待遇…正しいのはどれ?間違っているのはどれ?
コメダ珈琲は外資系(韓国系)ファンドが買収したって本当? MBKパートナーズとは?
大塚家具がやばい 転職社員を通報、「匠大塚はすぐ倒産」とネガキャン
不人気予想を覆したアメリカのドラえもん、人気の意外な理由は?

ランダムリンク
厳選200記事からランダムで









アーカイブ

説明

書いた人:千柿キロ(管理人)
サイト説明
ハンドルネームの由来

FC2カウンター

2010年3月から
それ以前が不明の理由