2012年3月29日に書いていたベーシックインカムの問題点・批判とそれに対する反論についての投稿に、2017年5月25日に読んだ別記事のメリット・デメリットを加えた上で、全体に見直して修正した上で、加えています。
●働かなくとも生活できる?そもそもベーシックインカムとは?
2012/3/29:前々からやりたいと思っていた日経ビジネスオンラインの波頭亮さんのベーシックインカム(BI)記事。
年功序列制度と総正社員化のデメリットとメリットで紹介した記事では、「安定した社会に不可欠な格差の是正と貧困の解消を実現するために、大胆な分配論政策が今こそ必要」としていました。おそらくこの発言で波頭亮さんの念頭にあったのが、ベーシックインカムです。
今回関連する記事をやっとまとめて読んでみました。まず、軽くポイントとして、ベーシックインカムの説明から。記事では、ベーシックインカム(BI)=「すべての国民に対して、(働かなくとも生活できる程度の)一定のお金を無条件で給付する制度」と説明されていました。以下のようにな説明もあります。
(1) 年齢とか性別とか、その他の様々な属性や境遇に関係なく、「全員一律」であること。
(2) 働いていようが、働いてなかろうが関係なく、「無条件」であること。つまり「働かざる者、食うべからず」ではないこと。
(3) 給付されたBIは子供の教育に使おうが、パチンコに使おうが自由にできる、「現金給付」であること。
(<ベーシックインカムの社会的正義と機能的合理性 制度的に有効である5つの理由> 日経ビジネスオンライン 2011年11月25日 波頭亮) より)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20111121/224022/
●シンプルなので低コストだし平等!ベーシックインカムのメリット
そして、ベーシックインカムの制度的有効性とされていたものが以下。要するにメリットですね。「シンプルでわかりやすい」「運用コストが小さい」「恣意性と裁量が入らない」「働くインセンティヴが守られる」「個人の尊厳を傷つけない」の5つが上げらていました。
(1)シンプルでわかりやすい
ベーシックインカムは全員一律、無条件ということで制度がシンプルで分かりやすい。
(2)運用コストが小さい
シンプルであるが故に制度の運用・実施にかかるコストが小さい。全員一律、無条件であるため、給付金額の算定も資格認定の手続きも必要ない。現在、年金や雇用保険、生活保護等の手続きにかかわっている行政官や組織が不要になるとなる。
(3)恣意性と裁量が入らない
一律・無条件であるため、恣意性や裁量の余地が無い。
例えば、生活保護の給付を受けるためには所得や資産の少なさを証明するだけでなく、働く意思があることや働けない事情、あるいは親族・縁者との人間関係まで、窓口の担当官が確認する。悪名高い“水際作戦”の道具にも使われてしまう。こうした恣意性や裁量を排除できることは公平性、公正性の観点から大きなメリットである。
(4)働くインセンティヴが守られる
働くことに対するインセンティヴを損なわない。現行の生活保護制度においては、頑張って働くと所得が増えてしまい、生活保護が打ち切られて総所得がダウンしてしまう。この場合、合理的に判断して、自ら稼ぐことを回避するようになる。
一方、ベーシックインカムであれば、自ら働いて稼げば、確実にその分が上乗せになるので、働くことに対するインセンティヴはあまり損なわれない。
(5)個人の尊厳を傷つけない
現行制度で生活保護を受けようとする場合、大半の申請者は精神的負い目を感じる。また窓口でのミーンズテストで個人的事情に関する様々な質問や詮索をされて、心が傷くことも少なくない。
ベーシックインカムであれば、国民全員が一律にもらえる権利を有しているのであるから、堂々と給付を受けることができる。
(
ベーシックインカムの社会的正義と機能的合理性 制度的に有効である5つの理由(要登録 日経ビジネスオンライン 2011年11月25日 波頭亮)より)
●働かない人が増えて経済にも悪影響?ベーシックインカムの問題点
私は2番目にあげられていた「コスト削減」という部分が特に魅力的に映ります。しかし、当然ながら反対意見もあり、
ベーシックインカムに対する3つの反対論 働くことで、人は自分の存在を確認する(要登録 日経ビジネスオンライン 2011年12月2日 波頭亮)で触れられていました。
(1) 働かなくても生活できるようになれば、働かない人が増える。
(2) BIのコストは国民経済の固定費として負担になり、経済競争力を削いでしまう。
(3) BIを支給するための原資は巨額で、財政を圧迫する(そのため、他に必要な公的支出にお金を回せなくなってしまい、かえって国民の厚生レベルを低下させてしまう)。
●働かない人は増えない?ベーシックインカムの問題点への反論
ただし、ベーシックインカム肯定派である作者はこれに一つ一つ反論を加えています。この反論を短めにまとめていきます。まず、「(1) 働かなくても生活できるようになれば、働かない人が増える」の反論は、大体以下のような内容でした。
<そういう現象がある程度発生するであろうことは十分に考えられる。しかし、BIが導入されれば、逆に働くようになる人も出てくると考えられる。
BIが導入されれば、食うために無理をしてやりたくもない仕事をする必要がなくなると、生きるためではなく、「楽しむため」や「好きなことをやるため」という前向きな動機で仕事に就くことが容易になる。
人々がこういう就労行為を取るようになると、雇用者が人を雇う場合に、低条件で過酷な仕事を押しつけることができなくなる。その一方で、好きな仕事なら賃金は低くてもやりたい、楽しめる仕事なら給料を気にせずに働きたい、という人も出てくるであろう>
といった感じなのですが、妙なところもあります。作者は過酷な仕事の給料が上がることを前向きに捉えているようですが、これは人件費の向上ですので、結果的にそのサービスの料金も高くなることを意味しています。特に重労働できつい福祉関係なんかは離職が進むんじゃないかと思いますが、これによって生活費が上がってしまうと、ベーシックインカムの最初の設定額じゃ払いきれない…となって、前提条件が崩れてご破算になる可能性を感じました。
●ベーシックインカムの財源は法人税ならマイナス、消費税なら大丈夫
同様に2つ目の「(2) BIのコストは国民経済の固定費として負担になり、経済競争力を削いでしまう」に対する反論をまとめます。
<BIの原資として増税が必要となる → 税金はすべて国民経済の中で物価の上乗せとして吸収される → 従って国内生産物の価格アップが起こり、国際競争力が削がれる。
ただし、これは財源が法人税のときにだけ起きる話。企業はその増税分を製造原価に転嫁し価格上昇を招き、国際競争力にマイナスに働くため。
しかし、これは増税の財源を消費税にすることによって解決できる。支給されたBIの実質購買力は増税分だけ圧縮されるものの、企業の製造原価アップは生じない>
これは何だかよくわからない話でした。あと、私はそもそもベーシックインカムによって経済効果をもたらすというメリットの話を期待していたので、余計がっかりしました。ベーシックインカムで経済悪化ではなく、ベーシックインカムで経済が良くなる…というところまで期待していたんですよね。
●毎月一律8万円で「働かなくとも生活できる」ってそもそも無理じゃない?
最後の「(3) BIを支給するための原資は巨額で、財政を圧迫する(そのため、他に必要な公的支出にお金を回せなくなってしまい、かえって国民の厚生レベルを低下させてしまう)」への反論については、以下のような感じです。
<BIを最初に提唱した一人である小沢修司氏のモデルケースと同様に、全国民に毎月一律8万円を支給した場合について考えてみる。
この場合、必要な総原資は 122.6兆円。ただし、基礎的年金や生活保護手当てといった社会保障給付は、BIが代替するので不要になる。したがって、BI導入のための追加コストは58.4兆円。
約60兆円の追加的歳入があれば、つまり国民負担率を現行の39%から57%に上げれば、国民全員に毎月8万円のBIを給付することができる>
こんな感じで、作者の中では問題点の解決ができました。しかし、これらは作者いわく建前の批判なんだそうで、本当の反対意見は違うと見ているようです。この話は、
批判はみんな建前ばかり…ベーシックインカムの本当の反対意見とは?でやっています。
ただ、生活保護手当てを廃止して、代わりに毎月8万円で生活ってそもそも無理じゃないか?と思います。家賃だけでほとんどなくなってしまう地域が多いですよ。実際、軽く検索してみると、勤労者世帯のうち2人以上の世帯の消費支出は1月30万円という数字が出ていました。もうちょっと厳密に計算した方が良いですし、何人家族かによって違いますが、かなりきつそうです。この数字を見ちゃうと、荒唐無稽な理論じゃないかって気になってきますね。
●市場の活用・規制緩和…別のベーシックインカムのメリットの説明
2017/05/25:久々に読み返してみると、思っていた以上にダメそうだったベーシックインカムですが、
ベーシックインカム導入がもたらす「暗い未来」の可能性について[橘玲の日々刻々]| ザイオンライン(2016年1月18日)という記事を読んだのでご紹介。こちらでは、メリットについて以下のようにまとめていました。
1.生活保護のような厳しい給付基準がなく、援助を必要としているひとが排除されない(平等)。
2.働いても受給額が減らないから貧困層の労働意欲を阻害しない(市場の活用)。
3.年金制度や生活保護などを一元化して行政のムダを削減できる(小さな政府)。
4.最低賃金や解雇規制のような非効率な労働者保護を廃止できる(規制緩和)。
●強制労働・超監視社会…別のベーシックインカムのデメリットの説明
記事でおもしろかったのはむしろ問題点の方。フィンランドに限定して書かれたものですが、ここには他ではあまり見ない視点もありました。
1.強制労働
ベーシックインカムだけで暮らしていける場合、子供が多い方が有利になる。そのため、貧困層に「働かずにひたすら子どもつくる」強いインセンティブを与えるが、富裕層(納税者)は制度への依存を許さない可能性がある。この場合、所得保障と引き換えに就労義務を徹底するという「強制労働」に繋がるおそれがある。
2.超監視社会
ベーシックインカムの仕組みでは、所得を少なく申告することで収入を最大化できる。税の不正申告を許さないためには、国民の経済活動を完全に把握する超効率的な監視システムが要請される。
3.鎖国
支給対象は国民だけだが、フィンランド人と結婚すれば市民権獲得への道が開けるし、二人のあいだに生まれた子どもは無条件に国籍を付与される。そうなれば、偽装結婚や子どもの不正認知が巨大な闇ビジネスになるだろう。それを防ごうとすれば、EUから離脱して半鎖国状態にするほかない。
ただ、「所得を少なく申告することで収入を最大化できる」はベーシックインカムに限らないような? 現状でも所得を少なく申告した方が良い気がします。ここは腑に落ちない説明であり、ベーシックインカムの問題点とするのはおかしい感じ。というか、所得隠しは金額的にも大金持ちの方がよほど問題だと思われます。これは現在すでに起きている問題です。
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