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貿易黒字・貿易赤字に意味はない?経済学の基本で否定の重商主義の考え方


 専門家の方で貿易黒字も貿易赤字も特に意味がないとおっしゃる方がたまにいるのですが、どうもこの貿易黒字の定義あたりがイマイチよくわかりません。

 そこで以前読んだ「貿易赤字国転落」論の誤解 国際収支を巡る議論 基礎編(要登録 日経ビジネスオンライン 2011年6月8日 小峰 隆夫)をもう一度読みながら私なりにまとめてみます。

 そして、「貿易黒字、貿易赤字に意味はない?」という小峰 隆夫さんの主張について紹介していました。(2012/4/13)

 その後、"貿易黒字重視は、経済学の基本で否定された重商主義の考え方"という話を追加して、タイトルも変更しています。(2017/05/15)


●国際収支と経常収支

2012/4/13:

国際収支……国境を越えたモノ、サービス、資金の流れを体系的に集計したもの。「経常収支」「資本収支」「外貨準備増減」から成る。

<国際収支>
 ・経常収支
 ・資本収支
 ・外貨準備増減


経常収支……「貿易・サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」の3つに分けられる。「貿易・サービス収支」はさらに「貿易収支」と「サービス収支」から成る。

<国際収支>
 ・経常収支
   *貿易・サービス収支
     #貿易収支
     #サービス収支
   *所得収支
   *経常移転収支
 ・資本収支
 ・外貨準備増減


●経常収支の中にある様々な収支

サービス収支……貿易収支とは違い、サービス収支は赤字であることがほとんどだった。サービス収支はイメージしづらいが、下記のような例。

 ・日本の企業が外国の船会社を使って輸送して輸送料を払うと、これは「運輸サービス」を輸入したことになる。
 ・日本人が海外に観光旅行に出かけていってお金を使うことは、海外から「観光というサービス」を輸入したことになる。

 日本のサービス収支が赤字であるのは、主にこの観光サービスの赤字が大きいから。これはサービス収支の内訳の中の「旅行収支」に現われており、2010年は1.3兆円の赤字だった。


所得収支……賃金や利子所得などの受払を対象としたもの。日本はこの所得収支が大幅な黒字であり、その黒字幅は「貿易収支」や「貿易・サービス収支」よりも大きい。黒字のほとんどは海外からの利子所得。2010年は11.6兆円もの黒字だった。

経常移転収支……日本が行っている援助や資金協力を記録したもの。

資本収支……資金の流れを記録したもの。日本から資金が流出すると赤字(マイナス)、入ってくると黒字(プラス)である。その内訳は、企業が事業展開をするための「直接投資」、資産運用としての「証券投資」などに分かれる。2010年は12.9兆円の赤字。

外貨準備増減……政府・日銀が外為市場に介入すると、政府・日銀が保有する外貨準備が増減する。外貨準備が増えるのは国際収支では資本収支の赤字と記録される。例えば、2010年には政府・日銀は円高を防ぐために外貨資産を積極的に購入して、外貨準備が増えた。これは外貨資産に投資したのと同じこととなり、資金の流出となる。


●2010年の国際収支の内訳まとめ

<国際収支> (単位:億円)
 ・経常収支 170,801
   *貿易・サービス収支 65,201
     #貿易収支 79,969
     #サービス収支 -14,768
   *所得収支 116,414
   *経常移転収支 -10,814
 ・資本収支 -128,586
   *直接投資
   *証券投資など
 ・外貨準備増減 -34,925


 この場合、経常収支は以下のような計算になるそうです。(誤差脱漏は、文字通り統計上の誤差。国境を越えた取引、特に資金の流れは完全に把握することが難しいので、どうしても誤差が出る)

経常収支 = -(資本収支+外貨準備増減+誤差脱漏)
170,801 = -(-128,586-34,925-4,290) (単位:億円 2010年)

 実際には右が167,801億円でちょっと合ってないんですけど、とにかく経常収支で受け取り超過になった分は必ず海外への債権の純増となり、その分は必ず資金の流出になるということだそうです。そのまんま説明を写したのですけど、よくわかりませんね。


●貿易黒字、貿易赤字に意味はない?

 とりあえず、この後すっ飛ばして小峰隆夫さんが"「貿易収支」だけを見るのはあまり意味がない"と考えている理由を書きます。
「貿易収支」だけを見るのはあまり意味がない

 これまでの説明でも分かるように、「経常収支」にはある程度の意味があるが、「貿易収支」が何か経済的な意味を持ってわけではない。よって「貿易収支が赤字になった」と騒ぐのも大きな意味はない(経常収支はまだ意味がある)。

 「モノとサービスは違うのだから、貿易収支とサービス収支を分ける意味があるのではないか」と言う人がいるかもしれないが、私は「モノとサービスは経済的には全く同じである」と考えているので、やはり貿易収支を見る意味はないという結論になる。日本が1兆円の自動車を輸出しても、海外からの観光客が日本で1兆円使っても経済的な意味合いは全く同じである。

 「日本はモノ作りが得意だから貿易収支が重要だ」と言う人がいるかもしれないが、日本がどの分野が得意であるかは、特に将来については先験的には決められない。サービス分野でもアニメやJ-popは立派な輸出産業である。モノ作りにこだわっていると、サービス産業における新たな発展の芽を潰すことになる恐れがあると私は思う。

 「日本が1兆円の自動車を輸出しても、海外からの観光客が日本で1兆円使っても経済的な意味合いは全く同じ」というのは、なるほどそのとおりです。


●GDPの計算

 もう一つ、「貿易収支、経常収支の黒字は赤字よりも望ましいとは必ずしも言えない」という話があります。ただ、その中でGDPの計算に関する話が出てきますので、先に説明しておきます。

<GDPの計算>
総需要=国内需要+輸出
総供給=国内総生産(GDP)+輸入

 総需要と総供給は、事後的には必ず一致するので、

総需要=総供給

 となる。

 さらにこれは

国内需要+輸出=国内総生産(GDP)+輸入

 と書ける。

 したがって、

国内総生産(GDP)=国内需要+輸出-輸入

 となる。

 最初の定義のとおり、総需要=国内需要+輸出なので、GDPは以下のようにも書ける。

国内総生産(GDP)=総需要-輸入

 また、(輸出-輸入)はGDPの「外需」とも言えるので、国内総生産(GDP)=国内需要+国外需要とも言える。


●貿易黒字・経常黒字が望ましいとも言えない理由

 では、「貿易収支、経常収支の黒字は赤字よりも望ましいとは必ずしも言えない」という話。

 "多くの人は、「貿易収支や経常収支は黒字が大きいほど望ましく、赤字は望ましくない」と考えているようだ"と、 小峰隆夫さんは当時書いていました。、「輸出が増えることは望ましく、輸入が増えるのは望ましくない」という考えです。その後、誕生したトランプ政権なんかはもろにそんな主張ですし、リフレ派・アベノミクス絡みでも似たような主張をする人が登場することがあります。

 しかし、以下のような理由で、「必ずしもそうとは言えない」と、小峰隆夫さんは説明します。


(1)「世界の貿易収支、経常収支の総和はゼロ」である。したがって、世界中の国が「輸出を伸ばして、輸入は伸ばさないようにする」ということは不可能である。これは、一国の輸出は必ず他国の輸入になっているため。世界の国々が輸出は増やすが、輸入は増やさないという政策を推進したら、かえって世界中の貿易が縮小してしまう。

(2)輸出は総需要の一部であり、輸入は総供給の一部である。一方、我々の最終的な経済目標は国民の生活水準を引き上げることである。GDPの項目で、最も国民の生活水準に対応するのは「内需」である。国民がお金を使えば使うほど生活が豊かになると考えれば、「内需」こそがその度合いをあらわすものだからだ。その意味では、輸出は「海外の内需」なのだから、輸出は海外の人々の生活水準を高めるためのものだということになる。
 内需を増やすためには、供給が必要であり、輸入もその供給の一部である。したがって、内需と共に輸入が増えるということは、「輸入の増加によって国民の生活水準が引き上げられている」ということになる。


 小峰隆夫さんは、「私に言わせれば、輸出は内需を増やすための所得を稼ぐ手段なのであって、それ自身が生活水準を引き上げるわけではない」としていました。

 ただ、これは輸出が悪いという意味でもありません。輸出で得た所得を使って内需が増えて生活水準が上がるのですから、輸出にももちろん意味があります。

 なお、こういう議論を展開してくると、おそらく「輸出はGDPのプラス項目であり、輸入は控除項目である。すると、輸入が増えるとGDPが減り、国内の雇用機会もその分失われてしまうのではないか」という議論が出るだろう、としていました。「GDPの計算をするときに輸入は控除項目となっている」ためです。

 しかし、これも誤解。この関係式は「支出活動からGDPを算出するための手続き」を示した定義式なのであり、因果関係を示したものではないためです。以下のような説明がありました。
 例えば、国内の経済活動が活発化して石油の輸入が増えた場合は、「石油の輸入が増えたことがGDPのマイナス要因」となるのではなく、逆に「石油の輸入があったからGDPが拡大できた」ということになる。ただし、輸入によって国内産業が駆逐された場合など、「輸入が増えたことがGDPを減らす」というケースを想定することも可能である。しかしそれは、輸入を悪者とすることによって対応するのではなく、国内の資源をより日本の得意な分野に振り向けることによって対応すべきものである。

 全般に輸入を減らしてGDPが増えるとなるか?と考えてみても、やはりそうはならない気がします。その分国内のものが売れるじゃないか?と思うかもしれませんが、使えるお金はいっしょですし、輸入が減ることでそれに関わる産業、使う産業が軒並み縮小、当然ながら加工貿易も縮小です。


●貿易収支や経常収支そのものはそれほど重要な"政策目標"ではない

 さて、「黒字が赤字より望ましいと限らない」「輸出が輸入より望ましいとは限らない」というのが正しいとすると、貿易収支や経常収支そのものはそれほど重要な"政策目標"ではないということになるのですが、小峰隆夫さんは実際そうだと言っています。

 この後、国際競争力も貿易黒字も貿易赤字も無意味 クルーグマンの主張という話をやっているように、同様の主張の人はいます。

 ただ、小峰隆夫さんの場合は、以下のように補足していました。
しかし、だからといって国際収支が重要ではないというわけではない。前述のように、国際収支には多くの現象が絡んでくる。輸出と輸入の動き、国内需要と国内供給、国内の貯蓄と投資、財政赤字などである。その国際収支が従来と異なる動きを示したとすると、それは経済のどこかの部品が従来とは異なる動きをしていることを示すシグナルとなる。

 最近取り上げられている貿易、経常赤字の議論は、それ自身が問題というよりも、それが鏡となって映し出している経済情勢の変化の方が重要なのではないかというのが私の考えだ。

 それ自体の数値を目標するのではなく、経済構造の変化を知る道具として使いましょうって感じでしょうか?  個人的にはやっぱりなんかすっきりしなかったのですが、ときどき読み返して理解するように頑張ります。


●貿易黒字重視は、経済学の基本で否定された重商主義の考え方

2017/05/15:この投稿の補足に使えそうだなと感じた記事がありました。「経常収支が赤字だと景気がいい?」:日経ビジネスオンライン(飯田 泰之 2017年3月31日)というものです。

 ただ、この記事がおもしろいのは、まず"今日の意味での経済学は「重商主義批判」から生まれました"として、最初に「重商主義」に関する説明をしていたことです。

 "「重商主義」というと、商業を重視した、または経済を重視した政策運営全般を指すものと考えてしまうかもしれません"。しかし、実際には全然違います。「重商主義」というのは、"税や補助金を用いて輸出を奨励し、関税や貿易制限によって輸入を抑えることで国を豊かにすることが出来るという政策思想"です。

 こういう主張って今日でもよく聞きますよね。前半でも出てきた「貿易黒字・経常黒字は善!そして赤字は悪!」という考え方です。ところが、これがそもそも現在の経済学で否定されたという、根本的な間違いでもあるようなのです。

 そして、元記事のタイトルになっていたように、"ここ数十年の日本ではむしろ経常収支が赤字の時期に景気は良く、黒字のときに景気が悪い傾向が普通"だとしていました。

 なぜこうなるのか?という話。まず、経常収支が黒字のときには以下のようなパターンになっているそうです。

1)多くの財・サービスを販売している一方で、あまり財・サービスを買っていない
2)利子・配当・賃金を受け取っているがそれを使っていない

 そして、あまり財・サービスを買っていない・賃金を使っていないという状況ですので、「国内で消費・投資の意欲が停滞している」ことが多いので、景気の低迷を示しているといった説明でした。


【本文中でリンクした投稿】
  ■国際競争力も貿易黒字も貿易赤字も無意味 クルーグマンの主張

【その他関連投稿】
  ■日本の輸出依存度は何位? ~世界各国の貿易依存度ランキング~
  ■各国の貿易依存度 輸入依存度なら日本は何位?
  ■世界各国のGDPランキング ~183ヶ国の順位~
  ■「輸出立国日本はもう無理」論 ~製造業はダメ~
  ■日本国債残高 国の借金・累積の財政赤字はいくら?
  ■ビジネス・仕事・就活・経済についての投稿まとめ

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