2012/4/24:
シェールガス革命はアメリカの製造業の救世主となるか
シェールガスの埋蔵量は中東が少なくアメリカが多い そしてアジアはもっと多い
2013/5/30:
製造業にとってエネルギー価格の影響は僅か
アメリカのシェールガス革命のまやかし
エネルギー価格の下落で最も恩恵を受ける分野のデータを見ると?
2018/06/04:
原油価格の動向に大きく左右されるシェールオイルの開発
アメリカのシェールガス革命は失敗?長続きしない理由は石油の影響でわかる
●シェールガス革命はアメリカの製造業の救世主となるか
2012/4/24:米国では製造業の海外進出で生産空洞化が進んでいるというのはよく言われています。実際どれくらい雇用者が減ったかと言うと、製造業の雇用者数は20年間で3割以上も減ったということです。
一方で米オバマ政権は雇用増を狙っているという報道がよくあります。オバマ政権は5年間で輸出を倍増させる計画を策定、製造業の法人税率を25%に下げる案も提示しているそうです。
このオバマ大統領の目標は製造業の雇用者増加に絡んでくるのが、「シェールガス」です。日経新聞いわく「さらにシェールガスでコストを低く抑えられるようになったことが、製造業の国内回帰の追い風になっている」とのことでした。天然ガスを原料に使う製造業が米国内での生産に回帰する動きも出始めているのです。
(
シェールガス革命、企業動く 米国内に生産回帰 ダウ・ケミカル、世界最大級の工場( 2012/4/21付日本経済新聞 朝刊)より)
例えば、 ダウ・ケミカルはこのシェールガスを原料に使い、米国内でのエチレン生産を本格化。これまでは安価な原料が手に入る中東などで投資を進めていたが、再び米国での生産にかじを切るとのこと。この理由も結局、「原料が近くにあるから」ということ。大型のシェールガス田があるテキサス州に新工場を置こうというのです。
シェルも米国内にエチレン工場を建設する方針。投資規模は数十億ドルとみられ、取引先などを含めて1万人の雇用創出が見込めるといいます。
鉄鋼では、ヌーコアが天然ガスを利用する「直接還元鉄」を米国内で生産する計画だとされていました。
●シェールガスの埋蔵量は中東が少なくアメリカが多い そしてアジアはもっと多い
あと、日経新聞では本文では触れられていなかったものの、記事にあった国際エネルギー機関の統計を基に作成したという図を見ると、従来の天然ガスとシェールガスの埋蔵量は傾向が異なっていることがわかります。
従来の天然ガスの埋蔵量はご存知中東が圧倒的で116兆立方メートル(m3,立米)ですが、シェールガスの埋蔵量は僅かに14兆立方メートルだそうです。
一方、北米は従来の天然ガス45兆立方メートルに対して、シェールガスが55兆立方メートルと逆転。そして、注目すべきがアジア太平洋地域の埋蔵量。こちらも従来の天然ガス33兆立方メートルに対して、シェールガスが51兆立方メートルとシェールガスの方が多いのです。
(2012/4/26追記:コメントの指摘で気付きましたが、最初の数値以外の「兆立方メートル」の「兆」が抜けていましたので訂正しました。失礼いたしました)
●アメリカのシェールガス革命のまやかし
2013/5/30:アメリカではシェールガス革命により、楽観的な未来を描いています。安価な石油や天然ガスの開発が可能になったことで、エネルギー分野への投資を促し、関連産業を潤すというのが最初。そこかはエネルギー輸出の急拡大や、製造業の生産コスト低下を通じ、米経済全体を押し上げる…といったシナリオです。
国際エネルギー機関(IEA)は昨年末に米国が2017年までにサウジアラビアを抜いて世界最大の原油生産国になると予想。実際に、米国のエネルギー収支はじわじわと改善しています。これが米国のマクロ経済を押し上げ、製造業をはじめとする産業をてこ入れする、との期待が膨らんでいるようです。
ところが、"米産業界や市場の熱気が高まるなか、意外な人々が、冷水を浴びせ始めた"と言います。エコノミストです。バンクオブアメリカ・メリルリンチ、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェースなどの名だたるエコノミストたちはこれをまやかしだと見ているようでした。
(
「シェール革命」に冷水、米大手銀エコノミストらの違和感(米州総局編集委員 西村博之 2013/5/12 6:00 日経新聞)より)
天然ガスや石油の生産を増やすには、新たな設備投資や労働力の確保が必要になります。今は経済全体の需給が緩んでいるから、問題なく生産を増やせるでしょう。しかし、数年のうちに需給ギャップが解消すると、生産増のための経済資源の確保は物価や賃金上昇で制約を受けることになります。そうしたなかで仮にエネルギー生産が増えても、ほかの業種などの生産を代替するにすぎないであろうというのです。
さらに、エネルギー輸出が増えると経常収支は改善してドル高の要因に。需給ギャップ解消に伴う物価上昇と続く金融の引き締めも、ドルを押し上げると考えられます。この結果、ドルは2015年までに各国通貨に対する総合的な価値が最高で7.5%上昇するとモルガン・スタンレーは試算していました。
●製造業にとってエネルギー価格の影響は僅か
一方で、米製造業の生産コストに占めるエネルギー関連の費用は小さく、驚いたことに平均で3%程度しかありません。最も高いアルミ業界でも8%程度という少なさ。シェール革命でエネルギー価格が下落しても、その恩恵はドル高でかき消され、米製造業の競争力は高まりにくいと分析されています。
エネルギー分野が、他の業種の設備投資や労働力確保の機会を奪う「クラウディングアウト(押しのけ効果)」とドル高による製造業全体での競争力の喪失という見方すら提示されています。
起きうる最悪のシナリオだというのでそうは起きないんでしょうが、1960~70年代にかけて、石油・ガスの開発と輸出増で通貨が上昇。国内の製造業が徐々に国際競争力を失った「オランダ病」の再現だ、と指摘されていました。
JPモルガン・チェースのエコノミスト、フェローリさんらの試算では、エネルギー関連のコストが1%下がっても製造業全体のコスト低下は0.02%とほぼ誤差の範囲。ドルが0.5%上昇した場合にはエネルギー価格は26%下がらないと釣り合わない計算だといいます。
オランダ病に関しては、以前
実は不幸な資源大国 オランダ病と資源の呪いアフリカは原油などの鉱産物価格の変動で不安定をやっています。実は資源国にも大きな悩みがあるというお話です。
●エネルギー価格の下落で最も恩恵を受ける分野のデータを見ると?
さらに短期的にも「マクロ経済に活力を吹き込むとの見方に、我々は懐疑的だ」(バンクオブアメリカ・メリルリンチの筆頭エコノミスト・ハリス氏)と否定的な分析があります。
ハリス氏はまず、鉱業セクターの国内総生産への成長率への貢献は、直近で0.2%とわずかだと指摘。しかも同分野の成長は鈍化しており、石油・ガス採掘や関連分野の月間の雇用増が月に約2000と、一年前の4分の1ほどに減ったとしている。鉱業の生産指数の伸びも、足元は2%程度で、一年前の5分の1に落ち込んでいる。
「エネルギー価格の低下が製造業の生産を押し上げる」とのシナリオに対しても、否定的だ。米製造業をエネルギー費用が高い業種と低い業種に分け、両者の生産動向を比較。するとエネルギー価格の低下にもかかわらず、その恩恵を受けやすい前者の業種で生産が一年前より1%強も低下していた。エネルギーのコストが大きくない業種で生産が5%以上も増えたのに、だ。
結論は「シェール革命による追い風はごくささやかで、財政引き締めに伴うショックすら埋めることはできない」というものだ。
ゴールドマンのエコノミスト、ハチウス氏も、米国の製造業ルネサンスは「魅力的な仮説だ」と皮肉り、「マクロデータを見る限り、そうした構造的な革命が進んでいる証拠はない」とバッサリ切った。
例えば、エネルギー価格の下落で最も恩恵を受けるはずのアルミ、鉄、プラスチック、化学、肥料などの分野で特に目立った生産の拡大が見受けられないと説明。製造業の競争力強化を端的に示す輸出シェアも拡大の動きがないと強調している。
うーん……。依然として楽観的な見方をしている人もいるのですが、実際に出されるデータを見ると意外な結果に驚いてしまいますね。
日本でもエネルギーの問題は足かせになっている、つまりエネルギー価格の重要性が高いという見方が一般的なのですけど、ここらへんもきちんとデータを取ったら…ということになるんでしょうか?
●原油価格の動向に大きく左右されるシェールオイルの開発
2018/06/04:石油経済研究会の大場 紀章さんによると、米国シェールオイル(タイトオイル)は、2014年に中国経済の停滞感とOPEC(石油輸出国機構)の低価格戦略(シェールつぶし)によって原油価格が下落し、イーグルフォードやバッケンといったほとんどの地域でシェールオイルの生産量は急減。
しかし、パーミヤンエリアだけは生産量がうなぎ登りに上昇を続けたため、「シェールは意外にしぶとい」、「技術革新によるコスト低減がさらに進んでいる」という評価がなされてきたといいます。
ただし、大場さんは、コストが高いところでの生産を諦めてパーミヤンに集中させただけとの見方。水平掘削の長さの延長や、水圧破砕技術に必要な地下に圧入する砂の量は近年頭打ち傾向にあり、技術革新によるコスト低減効果はむしろ限定的になっているそうです。
(
シェール革命は短命に終わる:日経ビジネスオンライン 2018年2月26日より)
●アメリカのシェールガス革命は失敗?長続きしない理由は石油の影響でわかる
またより重要なのは中長期的な生産の見通しでしょう。米国のシェールオイル生産量は、概ね2020年から2030年にかけて生産ピークを迎えるという見通しが多いようです。
パーミヤンエリアを1つの油田として捉えると、日量はガワール油田の500万バレルのおよそ半分の280万バレルあり、これは世界第2位の油田ということができます。しかし、埋蔵量をみるとパーミヤンはガワールのおよそ20分の1でしかありません。
新規発見により刻々と変化するので、単純に「あと何年」とはいえないものの、単純計算ではガワール油田の可採年数が38.9年であるのに対して、パーミヤンは3.6年となるとのこと。
そもそも、シェールオイルの掘削を可能にした「水圧破砕」という技術は、広範囲に埋蔵する資源を短期間に一気に回収することを可能にする技術。つまり、長続きしなくて当然だという説明です。
また、それまでコスト制約からほとんど生産できなかったシェールオイルが割に合うようになったのは、中国など新興国の急激な経済成長を背景に、原油価格が高騰したため。ずっと高い原油価格であってくれないと、そもそも成り立たないものだ、といった解説でした。
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