2012/5/15に「ベーシックインカム批判への反論 山崎元編」のタイトルで書いていたものは、
批判はみんな建前ばかり…ベーシックインカムの本当の反対意見とは?にまとめました。
こちらには、逆に向こうで書いていたものの中から毛色の違う、右派・左派ともにベーシックインカムに賛成できる理由という話を持ってきました。また、新規追加分として、「アメリカで史上最大のベーシックインカム実験がスタート」というニュースを紹介しています。(2017/09/29)
●右派・左派ともに賛成できるベーシックインカム
2012/3/31、2017/09/29:ベーシックインカム(BI)がおもしろいのが、全然考え方が違うと思われるような人が、ともに賛成できるところがあるということです。
なぜ? コミュニタリアンとリバタリアンが共にBIに賛同するのか?(日経ビジネスオンライン 2011年12月9日 波頭亮)はそういう記事で、以下のように書いていました。
<BIについて面白いのは、政府の役割について両極端の意見を持つ「コミュニタリアン」と「リバタリアン」の双方が、BIを支持している点である>
コミュニタリアンというのは、国民の平等性を最重視し、手厚い社会保障や福祉を強く主張し、その結果大きな政府を志向する人たちのこと。左右で単純化するのは、理解を間違うことが多いので良くないのですが、つかみが良いのでつい書いちゃいます。いわゆる左派的な思想でしょう。
一方、リバタリアンは、国家における政府の役割は可能な限り小さいことが望ましいと訴えている人々。これは右派的なところ。ただし、日本ではほとんどいないタイプの右派であり、日本の保守派のイメージとはだいぶ違います。日本の保守派は、政府による干渉を好む人が多いです。
作者は、「ネオリベラリズム論者」もBIを支持しているとしていました。これはいわゆる「ネオリベ」で、「新自由主義」とも言われます。これは当然右派だとわかりますね。日本の右派ではリバタリアン系の人はほとんどいないと思うのですけど、このネオリベと目される人であれば、結構いらっしゃいます。
●左派コミュニタリアンがベーシックインカムに賛成の理由は?
まず、私が乱暴に左派と分類したコミュニタリアンが、ベーシックインカムに賛成できる理由について。作者の波頭亮さんによると、彼らは「人は平等に生活し幸福になる権利がある」という理念を根拠に、社会保障や福祉の充実を主張し、格差是正が絶対大切だと考えます。なので、国民全員に、無条件で、生活を保障するお金を給付するベーシックインカムは、理念的にも、現実的効果の面でもコミュニタリアンの主張そのものだとしていました。
ただし、
批判はみんな建前ばかり…ベーシックインカムの本当の反対意見とは?の方で書いているように、ベーシックインカムは平等なように見えないがために、実際には反対する人が多いと思われます。また、やはりそちらで指摘しているように、社会保障として十分な機能を果たせるかどうかも非常に怪しいです。
ただ、これもまたそっちでも書いたように、日本の格差是正機能はどうも最悪っぽく、富の再分配でなぜかむしろ格差が拡大してしまうといったことがちょくちょく起きています。これは、
日本だけ!所得再分配後に所得格差是正どころか悪化 貧困率や平均対数偏差でやっている話。なので、日本はベーシックインカム以前の問題で、現状がクソなのは間違いありません。
ついでに向こうで書いていなかった話もすると、格差是正はむしろ経済にプラスの影響を与えるという研究があります。こちらは、
所得格差の何が悪い!いったい何が問題なのか? 研究によると…でやっている話。格差是正は経済政策でもあるのです。
●右派リバタリアンやネオリベラリストがベーシックインカムに賛成の理由は?
一方、全く反対の右側に位置すると考えられるリバタリアンのお話。彼らがベーシックインカムを支持する最大の理由は、この制度が一律・無条件であるため行政コストが小さいことと、行政の恣意性と裁量が排除できる点にあります。政府介入・裁量運営の象徴的な存在である社会保障や社会福祉を根こそぎ更地に戻すかのようなベーシックインカムは、財政面では拡大が避けられないにしても、理念的には極めて好ましいということになると説明されていました。
波頭亮さんはさっきのコミュニタリアンが賛成する理由の方がわかりやすいとしていたものの、私にはむしろこちらのリバタリアンの賛成理由の方が無理がないと感じます。ただし、「財政面では拡大が避けられないにしても」とさり気なく書かれているように、こちらも結局反対される要素を残しており、賛成できるかどうかは個人差があるかもしれません。
残ったネオリベラリストの賛成理由は、リバタリアンに近いとのこと。ネオリベラリストも、政府が恣意的に市場に介入したり、経済活動をコントロールしたりすることに批判的だから、ベーシックインカムに賛成だとしていました。政府の介入が好きな日本の主流右派と違う考え方ですけどね。
●アメリカで史上最大のベーシックインカム実験がスタート
2017/09/29:上記のリバタリアン・ネオリベラリストともに、私はアメリカで多いイメージなのですが、そのアメリカでのベーシックインカムの実験のニュースが有りました。よくわからないのですが、どうも国や地方ではなく私企業がやるっぽいですね。これもアメリカらしいっちゃ、らしいかもしれません。
シリコンバレーの有名なスタートアップインキュベーターであるY Combinatorが、ベーシックインカムの実験を予定しているとのこと。以下のような内容です。
(1)3000人の参加者を2つの州から集め、彼らを2つのグループに分ける。
(2)最初のグループの1000人は、最大5年にわたって、月1000ドル(約11万円)を受け取る。
(3)2つめのグループの2000人、実験では「コントロール・グループ」と呼ぶ2000人は、月に50ドルを受け取る。
「無条件でお金を受け取った人のクオリティ・オブ・ライフと仕事へのモチベーションはどうなるのか?」を見たいとのこと。ベーシックインカムで最も多い批判である「仕事をしなくなる」をチェックしたいのだと思われます。
(
ベーシックインカムは天使か悪魔か? アメリカで史上最大の実験 | BUSINESS INSIDER JAPAN Chris Weller Sep. 25, 2017, 05:40 AMより)
ただ、他のところでも書いているように、期間が限定された実験では、「仕事を辞める」という選択肢を取る確率は著しく下がります。一生涯給付に近いものじゃないと、きちんと確かめられず、誤差が大きくなると予想されます。「アメリカで史上最大の実験」とされていたものの、私はあまり良い実験だとは思いませんでした。
2017/10/05追記:ベーシックインカムの2つの投稿を修正した時点では知らず、今日になって知ったのですが、希望の党がベーシックインカムを公約にしたと話題になっていたそうです。
批判はみんな建前ばかり…ベーシックインカムの本当の反対意見とは? が予想以上に読まれたのは、そういう理由かもしれません。
【本文中でリンクした投稿】
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批判はみんな建前ばかり…ベーシックインカムの本当の反対意見とは? ■
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