以前書いた二つの投稿を合わせた話。飼い主へのアンケート調査で、「猫は毛色で性格がわかる」という記事があったのですが、ニセ科学くさくて怪しいものでした。そもそもアンケートのデータでの時点で、記事が主張する傾向は全く見えません。遺伝子の多様性からしても、毛色と相関するとは考えづらいです。
2023/01/25追記:
●科学は信用できない?理論上あり得なそうなオス三毛猫がいる理由 【NEW】
●三毛猫の毛はなぜ3色なのかわかっていない…はデマじゃないの? 【NEW】
●猫は毛色で性格がわかる…に納得する人続出
2009/7/12:"猫1000匹調査でわかった「毛の色」と「性格」(オリコン、09.07.01)"という記事がありました。私は「そんなわけあるかい」と思いながら読んでいたのですが、反応を見ると、抵抗なく受け入れている方が多くて驚きました。
リンク切れ
http://life-cdn.oricon.co.jp/news/67338.html
この記事は、ベネッセコーポレーションが発行する生活総合誌『ねこのきもち』が、同誌読者と同Web利用者を対象に、「毛の色」と「性格」についてのアンケートを実施し、猫は“毛の色”によって性格が異なる傾向にあることがわかった…という内容でした。
怪しい解説もついていて、“キジトラ”の慎重で警戒心が強い性格は、「猫の祖先といわれる野生動物のリビアヤマネコに近い毛色で、その野生的な性質を強く受け継いでいるのではないか」(山根明弘氏)としていました。
また、毛色で性格がわかるのは周知の事実であるといった感じのことも書かれていました。
"遺伝学の父と呼ばれるメンデルが遺伝子の法則を発見して以来、猫の毛色が遺伝子によって決まり、性格にも影響していることがわかってきており、「猫の性格は持って生まれた遺伝による性質と生活環境が大きく影響するもの。同じく遺伝子で決まる毛色が性格と関係していても不思議はないと思いますよ」(同氏)"
●実際の性格の割合を見てわかるデタラメさ
同じ調査について書いた
「猫は毛の色で性格が決まる」? 専門誌「ねこのきもち」調査(J-CAST、09.07.03)の場合、「グラフを見る限り、どの毛色も性格はそれほど変わらないのではないか」という懐疑的な反応も拾っていました。
この「グラフ」を表にして見てみましょう。最も分かりやすかったは黒猫でした。
毛色 | 白猫 | 黒猫 | キジトラ |
フレンドリー | 9% | 10% | 9% |
強がり | 16% | 18% | 23% |
活発 | 14% | 9% | 9% |
甘えん坊 | 29% | 35% | 34% |
おっとり | 14% | 7% | 10% |
暴れん坊 | 4% | 9% | 4% |
クール | 9% | 10% | 4% |
大胆 | 0% | 0% | 1% |
その他 | 5% | 2% | 6% |
結論 | 繊細 | フレンドリー | 慎重、警戒心強い |
「フレンドリー」は白猫やキジトラと1%しか多くないのに、黒猫を「フレンドリーである」と結論付けています。もしかすると「甘えん坊」も勘案したのかもしれませんが、これとて「キジトラ」と1%しか違いません。どう見てもトンデモです。納得していた方は何に納得していたのか?という話です。
白猫とキジトラについては、分類と結論の書き方が違っていてよくわかりません。そもそもこれだけばらけているものを分析するのであれば「毛色と性格は関連しない」とした方が妥当と思われます。
雑誌「ねこのきもち」としては何らかの有意な結論を出さないと商売にならないので、無理やり結論付けたのかもしれませんが、こういうのは卑怯ですし、誤解を助長させます。
●猫の毛色を決める遺伝子は複雑で性格はもっと複雑
2009/7/13:最初の記事では、「猫の毛色が遺伝子によって決まり、性格にも影響していることがわかってきており」なんて断言されていました。信頼できる専門家ほどあまり断言しないものなのですが、人は逆に断言する嘘つきを信じやすいです。加えて、「遺伝子」なんて言われると、騙されやすくなってしまいます。
ただ、猫の毛色が決まる遺伝子の働きから考ても、性格と単純に相関するという考え方は間違っていると考えられるんですよ。性格は客観的に判断しづらく、定量的に示すのは難しいです。それに比べれば毛色ははっきりしています。ところが、毛色のようにわかりやすいものであっても、多数の遺伝子が絡んでいてたいへん複雑なのです。
招猫倶楽部というサイトの"三毛猫の科学"では、猫の毛色を決定付ける遺伝子について詳しく書いてくださっています。こちらのページは「なぜ三毛猫のオスが少ないのか?」がメインで、なおかつ非常に長いのですが、わかりやすくて素晴らしい内容でした。(現在はリンク切れ、次の小見出しで軽く説明しています)
http://homepage1.nifty.com/manekinekoclub/kenkyu/kaibo/mike/mikeneko.html
こちらのサイトによると、まず、猫は38本の染色体を持っていて19組のペアができると説明されています。このペアの片方は父親から受け継いだ染色体で、片方は母親から受け継いだ染色体。この染色体の特定の場所に、白い毛を発現させる遺伝子、黒い毛の遺伝子などが存在します。そして、これらの猫の毛色を決定付る遺伝子は、9種も存在することがわかっています。
この9種が全て別々の染色体上に位置するのかはわかりませんでしたが、毛色を決める遺伝子は最大でも9組の染色体のペアにしか関わらないことがわかります(追記:優性劣性の関係で同じ毛色になる組み合わせは数多くあり、同じ毛色でも9つのペアが全て同じとも限らないと思われます)。
さらにそもそも遺伝子は染色体上の一部だけであり、一部の遺伝子が同じであることが染色体全体が同じであることを示すわけではありません。また、
遺伝的組換え(相同組換え)という現象が起きることがあるため、親から受け継いだ染色体であっても異なる場合すらあります。
なので、同じ毛色を持っている猫であっても、持っている染色体の遺伝子は極めて多様であり、バラバラだと考えられるでしょう。そして、同じ毛色の猫でも持っている染色体の遺伝子がバラバラだということは、同じ毛色の猫でも似た性格になるとは考えられないという話に…。極めて多様なのです。
あと、「毛色」という外から観察できる比較的単純な現象ですら、9種もの遺伝子が関わっているわけです。「性格」のようなより複雑で判断しづらいものは、もっとずっと多くの遺伝子によって決まるものでしょうし、後天的な影響も関わってくると思います。「猫の性格が毛の色によってわかる」と言い切るのは、いろいろと無茶です。
わりとこういう疑わしい記事は頻繁にありますので、気をつけなくちゃいけません。
(2023/01/25追記:「性格は後天的な影響も関わってくる」と書いていた点を補足。猫の場合ではなく人間の研究なのですけど、意外なことに人間の性格は遺伝による影響が一番ではないそうです。これは遺伝の影響が全くないという意味ではないかもしれません。ただ、人間の場合、最も影響が大きいのは、交友関係だとされていました)
●科学は信用できない?理論上あり得なそうなオス三毛猫がいる理由
2023/01/25追記:<三毛猫の毛はなぜ3色? 「長年解き明かしたいと思っていた」 名誉教授の熱量高い研究プロジェクトに700万円超集まる>(23/1/20(金) 20:04配信 ABEMA TIMES)という記事があって、すでに判明済みのはずなのに変だな?と思います。ただ、読んでみると、より細かく解き明かしたいという意味みたいですね。以下のあたりはすでに解明されている部分の説明です。
<三毛猫がなぜ3色の毛を持っているのか。興味深い研究プロジェクトが、猫好きな佐々木裕之・九州大学名誉教授によって立ち上げられた。
「三毛猫の白い部分はお腹・手・脚・尻尾の先、顔の下半分に出てくる。白い部分を決める遺伝子は、オスでもメスでも同様に働くとわかっている。もう一方の茶色と黒を決める遺伝子、これが『X染色体』という性染色体上にある」
哺乳類での性染色体の組み合わせは、オスが「XY」、メスが「XX」。佐々木氏によると、猫の毛色を決める遺伝子は、X染色体にあり、このX染色体が2本あるメスだけが、黒と茶色が同時に現れる可能性があるという
「それが判明したのは60年ぐらい前だ。1個の受精卵から細胞が分裂して我々の体ができるが、途中のある時点で2本の染色体のうちの1本が不活性化されて働かなくなる。それが細胞ごとにランダムに起こると考えれば三毛猫のパターンを説明できるのではないかという説を、イギリスの遺伝学者のメアリー・ライオン氏が出した」>
https://news.yahoo.co.jp/articles/0e30a678112961a4e99df2602399a72b551155f0
当初の投稿でタイトルで紹介していた「なぜ三毛猫のオスが少ないのか?」はこの関係。「このX染色体が2本あるメスだけが、黒と茶色が同時に現れる」という今回の説明だけを見ると、オスの三毛猫はいないと思うでしょう。しかし、現実には昔からオスの三毛猫も稀にいたんですよ。珍しいために特別に扱われてきました。
なぜ理論上あり得ないように見えるオスの三毛猫がいるのか?と言うと、本来2つしかない性染色体が稀に3つも4つもくっついてしまうパターンがあるという説明だった記憶。普通のオスが「XY」、メスが「XX」なのに、「XXY」や「XXXY」みたいなのができちゃうことがある…という話だったと思います。
「XXY」や「XXXY」は「Y」が存在するので性別が「オス」となる一方で、同時に「XX」も存在するのでその遺伝子も発現して黒と茶色が同時に現れることで三毛猫にもなれちゃう…といった説明だった記憶です。全部うろ覚えですみませんけど、大体こういう理屈だったと思います。
●三毛猫の毛はなぜ3色なのかわかっていない…はデマじゃないの?
オスの三毛猫の話はいいとして、三毛猫の毛はなぜ3色かを解き明かしたいと、佐々木裕之・九州大学名誉教授が言っていた理由について。上記のような大まかなしくみまではわかっているものの、X染色体のどの遺伝子が毛色を決めるのかという謎を解明した研究者はいないという意味でした。
<ずっと気にはなっていたものの「大学の経費や研究費は若手研究者に使ってもらいたい」。そんな思いがあった佐々木氏は、大学を退職後にクラウドファンディングを立ち上げた。研究者や獣医など、大の猫好きによる熱量の高いプロジェクトは、すでに700万円を超える寄付が集まっている>
クラウドファンディングってのは良いですね。日本の重要論文ランキングは急落しており、良くない方針なのですが、日本は政府方針により研究費を削ったり、一部の研究に資金を偏らせたりしており、常に研究費不足。以下のような反応コメントがついていたように、ネコ好きは特に多いので、研究費は集まりやすいと思います。
<このクラファンを見たのはかなり前の事ですが、その時点でもすごい金額が集まっててびっくりした。
私もミケちゃん好きですが、研究の意義がいまひとつ理解しきれず、解明されたところでブリーディングが活性化するぐらいしか変化を思いつかなかったので参加は見送ったんだけど…。
ただ、好きな生き物のことを少しでも深く知るための研究って所には良さを感じる。賛同者が多数いて資金に困らなさそうな所も。先が楽しみなプロジェクト>
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