メタンハイドレートなどで日本が資源大国となることを夢見るようなコメントがあるのですが、実は資源が豊富になると余計悪くなるという見方があります。過去に実際に問題が起きた例があるのです。(2012/6/7)
2017/08/02:"アフリカの資源の呪い 原油などの鉱産物価格の変動で不安定"などを追加
●実は不幸な資源大国 オランダ病と資源の呪い
2012/6/7:資源に関しては、
日本は資源大国であるって本当?やシェールガスシリーズの
シェールガス革命はアメリカの製造業の救世主となるかを書いたのですけど、資源があるのは悪いことだという記事もあります。
アフガニスタンが唱える「明るい展望」に違和感を覚えるワケ 1兆ドル相当の鉱物資源は、「本当の富」をもたらすのか(日経ビジネスオンライン 2010年6月25日 谷口正次)というこの記事のメインの話はアフガニスタンですが、終盤にはより一般的な資源の話として使えます。
記事では、"資源が実際に採掘されることになるとしても、アフリカ、アジアそして南米の多くの資源産出国が経験しているように、まんまと“資源は呪い”の餌食になる恐れがある"としていました。
この「資源は呪い」としているのは、たぶん他で「資源の呪い」と呼ばれているものと同じでしょう。資源の悪い作用を示す用語です。
似たような意味で使われる言葉に、「オランダ病」という言葉もあり、やはり記事では出ていました。
●石油産出国の石油相「石油ではなく水を発見していたら良かった」
記事ではまず、クリスチャン・サイエンス・モニター(The Christian Science Monitor: Donald Marron 2010-June 15、電子版)の要約を載せて、資源があることがむしろ悪いことだと見ている例を載せていました。
「貧しい国は、貧しい人々が宝くじに当たることを夢見ると同じように石油が発見されることを夢見る。しかし、その夢はしばしば悪夢に変わる。それは、彼らが見つけた宝物の新規輸出国として得るもの以上の災いをもたらすと言うことを悟ることになるからだ」
また、ベネズエラの元石油相であるホアン・パブロ・ペレス・アルフォンソさんは、石油のことを“悪魔の排泄物”に例えました。サウジアラビアの元石油相であるアーメド・ヤマニさんも「『我々は石油ではなく水を発見していたら良かったのに』と語った」と言われているそうです。
●1970年代にオランダを苦しめたオランダ病
では、具体的に何が悪いのか?と言う話は、この後に出ていました。
“オランダ病”とは、1960年代に発見された北海の天然ガスで潤ったオランダが、1970年代になって見舞われた深刻な副作用のことを指す。
すなわち資源の輸出によるハード・カレンシー(引用者注:国際通貨。米ドルが代表的)の流入が物価を押し上げ、非オイルビジネスの競争力を損ない資本不足に陥る。結果として、製造業の生産性向上の芽を摘んでしまい、失業者が増加、若者の教育レベルが低下し、セーフティネットのための社会保障費が大幅に増えることになる。そして、資源を担当する政府関係当局者たちは利権漁りのために、民主的な手続きを避け、汚職が蔓延する。そして資源利潤を無駄に遣ってしまい、ブームが去ってみると国の債務は資源発見前より増えている始末。
これが“資源は呪い”だ。これらの現象は、エネルギー資源でも鉱物資源でも全く同じである。
オランダ病の
Wikipediaの説明も載せます。
天然資源と経済成長との関係において使われる言葉。天然資源の輸出によって通貨の為替レートが上昇して工業品の輸出が廃れ、国内製造業が廃れてしまう現象。
欧州における天然ガスの大産出国であるオランダでは、1973年に発生した第一次石油危機の後、エネルギー価格高騰に伴う天然ガス売却収入の増大が起こり、この収入を原資に高レベルの社会福祉制度が構築された。
しかし、天然ガス輸出拡大によって通貨ギルダーの為替レートが上昇し、同時に労働者賃金の上昇による輸出製品の生産コスト上昇も加わり、工業製品の国際競争力が急速に落ちたことから経済が悪化。経済の悪化に伴い、経済成長下で増大させた社会保障負担が財政を圧迫し、財政赤字が急増した。
●資源の呪い、4つの負の効果
続けてもう一つ、資源の呪いの
Wikipediaも。
資源の呪い(しげんののろい、英:resource curse、paradox of plenty)とは、資源の豊富さに反比例して工業化や経済発展が遅れる現象を指す経済用語である。豊富さの逆説ともいう。
一般に資源を豊富に有する国家は、その富を糧に経済活動を活発化させ、成長すると考えられている。しかし、実際そのような国家が必ずしもそのような結果に至っている訳ではなく、むしろ発展途上である場合が多い。
経済成長が進まない原因
豊富な資源が経済発展に結びつかない原因として、イギリスの経済学者リチャード・アウティは以下のような事例があるとした。
資源に依存し、他の産業が育たない
資源確保の為過度な開発が進み、土地が荒廃する
資源確保をめぐる内戦や政治腐敗の進行
資源の富が宗主国に吸収される
資源の呪いから抜け出す動き
このような傾向に陥らないように、資源国ではそれを回避する政策が取られている。例えば、カザフスタンでは国富ファンドを設立し、資源から得た富を積極的に投資に回し資源に依存しない収入源としている。このような動きはノルウェーやモーリタニア、イランでも行われているが、一方でベネズエラやナウルなどでは未だに資源に依存したモノカルチャー経済となっており、これの脱却が課題である。
日本は資源大国であるって本当?などでは、日本人が資源大国になるかもしれなくても他力本願的に待っているだけじゃいけないといったことを書きました。
これらを見ておくと、実際、バランスよく頑張らないとダメだですね。楽しようと思うとしっぺ返しを食らうのです。
●日米の輸出はそれほど重要ではない アフリカ諸国の方が輸出が大事
2017/08/02:今回全体に書き直したのは、
アフリカを蝕む「資源の呪い」 現在の輸出傾向から探る経済成長への鍵 | THE PAGE(ザ・ページ)(2017.06.07 14:40、京都大学大学院教授 高橋基樹)という記事を見つけたためです。
世界銀行のデータによると、2012年のサハラ以南のアフリカの国内総生産(GDP)合計に輸出が占める比率は32.3%で、した。これは先進国に比べてかなり高い数字です。
アメリカのトランプ大統領は輸出が良いもので輸入が悪いものだと考えているものの、米国のGDPに輸出が占める比率は13.6%に過ぎません。同様に日本でも輸出が価値で輸入が負けだと考え、円安が良いことだと考える人がいますが、日本もまた14.5%程度。それほど大きい値ではないのです。
これらの倍以上の数字を占めるアフリカアフリカ経済は輸出収入に大きく依存していることがわかります。
●アフリカは輸出頼りかつ鉱産物頼り
後述するように、上記のように偏っていることはむしろ良くないことなので日米はこれで良いのですが、アフリカの場合、単に輸出頼りであるだけでなく、さらに悪いことにその輸出収入の多くの部分を鉱産物に頼っているという問題があります。
上記と同じ2012年の輸出品目構成を見ると、鉱物性燃料等が54.1%と半分以上を占めていました。この鉱物性燃料等の大半は原油で、その他に天然ガス、石炭などが含まれています。
さらに、鉱物性燃料等に次いで多い輸出品目は金、プラチナ、宝石などの貴金属等であり、続いて第3位が鉄鉱石などの鉱石等、第5位が銅及び関連製。つまり、鉱産物だけで合わせて約7割を占めるという異常さでした。
●アフリカの資源の呪い 原油などの鉱産物価格の変動で不安定
実を言うと、上記の2012年というのは、これらの原油をはじめとする鉱産物価格の上昇がピークであったあたり。価格が高いので占める割合も高かったわけですが、これらの鉱産物輸出の収入拡大がアフリカの高度成長を牽引したと言えるのも事実です。
ただ、そもそも当初の投稿で書いていたように、資源の呪いが強く発揮されるのは旨味を吸った後の話。原油などの鉱産物価格はその後低下して、2016年には全体の輸出額が半減するほど大きな変化をもたらしました。当然、それだけで大問題なわけですが、不安定であるということ自体が問題となります。
なお、アフリカの輸出のあり方は、全体としては植民地と同様に、単一産品輸出依存に近い状況にあるものの、国によっては生花や野菜などの新しい農産物や工業製品の輸出の比率を上げて、安定してきているところもあります。資源の呪いからの離脱を試みているようです。
【本文中でリンクした投稿】
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日本は資源大国であるって本当? ■
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