2012/6/23:
●「妊婦がネコを触ると流産する」という迷信、実は本当だった?
●猫は寄生虫で人を操っていた!?トキソプラズマとドーパミンの関係
●ドーパミンは良いことばかりじゃなかった…問題行動も起こす
●トキソプラズマはネコにとって役に立つありがたい寄生虫
●そういや最近やる気が出る!と思った猫好きのあなた…それは誤解かも
●トキソプラズマ感染で人間の性格も変化、交通事故は~倍に
2021/05/01:
●感染すると女性は社交的になる!研究で判明するも実を言うと… 【NEW】
●「妊婦がネコを触ると流産する」という迷信、実は本当だった?
2012/6/23:ちょっと怪しい話も混ざっていましたが、
ネコが人を元気にする科学的な根拠 寄生虫のなせる技?(日経ビジネスオンライン 2012年4月16日 石弘之)はいろいろな寄生虫のおもしろい話が出ていました。私が取り上げるのはそのうち表題になっているネコの件です。
ネコにまつわる迷信的なものとしては、幸運や商売繁盛を呼び込む「福ネコ」、魔除けや疫病払いといったポジティブなものがあります。一方で、ネガティブなネコの迷信も結構ありますね。私は知らなかったのですが、「妊婦がネコを触ると流産する」いうものがあったそうです。
しかし、これはひょっとしたら迷信じゃないのかも?という話。この2~3年、欧米の研究者からネコのもつ不思議な力の源泉が、病原体の原虫にあるのでは、とする説が提唱されるようになったためです。いかにもウソっぽい話なのですが、一応"まっとうな研究者がかかわっているので「トンデモ説」と無視できないところがミソだ"とのことでした。
●猫は寄生虫で人を操っていた!?トキソプラズマとドーパミンの関係
くだんの寄生虫の名前は、トキソプラズマと言います。なんかの技名とか現象の名前とかみたいだと思いましたが、寄生虫の記事ですしやはりこれも寄生虫。人間への感染の仕方は、「シスト(膜で包まれた休眠中の原虫)で汚染された食肉やネコのフンを介した経口感染が主」だとされていました。
トキソプラズマに感染した人間はどうなるか?と言うと、「トキソプラズマに操られて、ドーパミンによって脳内の化学物質の伝達の一部が変えられている、とする研究論文が増えている」そうです。猫が人を操っているわけではありませんけど、猫を媒介した寄生虫により人が操られているという驚くべき説です。
ドーパミンというのは、人が快感や感動を覚えたときに脳内で放出されるあのドーパミン。ただ、ドーパミンの役割は、興奮作用だけじゃありません。人は無意識のうちに行動を起しているようでも、それぞれの状況でその行動が必要だと判断して動いていて、脳内でドーパミンが分泌されているとのこと。ある行動のきっかけのようなものにドーパミンがなっているみたいです。
ドーパミンの分泌の多いと、食欲や性欲がわき、やる気がみなぎり、意欲的に生活する…といったことが起きるとのこと。逆に脳内のドーパミンの分泌量が少ないと、行動の動機づけも減って意欲が低下し、運動機能が低下。うつ状態になったり引きこもったりするということが起きるそうです。
●ドーパミンは良いことばかりじゃなかった…問題行動も起こす
しかし、このドーパミン、最初の掴みの部分で「妊婦がネコを触ると流産する」という悪い言い伝えも例示していたように、ドーパミンの分泌が多ければ多いほど良いことばかり…というわけではありません。多すぎても困ることがあるようです。
ドーパミンの分泌が過剰になると、言動は異様にハイになり、リスクを恐れなくなって交通事故などが多くなるとのこと。日常生活のなかで俳優のような演技的な行動をする「演技性パーソナリティ障害」も起こします。さらに、自分が注目されないと、自己破壊的な行動に出ることも。また、「統合失調症」はドーパミンの異常分泌がかかわっているともいう説も出ています。
最初にあった流産の話はドーパミンと関係するのかはわからないものの、「多くはないが妊婦が感染して流産などを引き起こすこともある」とのこと。妊婦は庭の土や砂場の砂などでネコのふん尿に触れないよう用心する方がよい、と専門家は忠告しているそうです。
●トキソプラズマはネコにとって役に立つありがたい寄生虫
ということで、人間にとって困ったことのあるトキソプラズマですけど、実は野生の猫ちゃんたちにとってはメリットがあるありがたいものであるようです。
健康なネズミはネコの尿の臭いには敏感で、ネコの出没する場所は避けて賢く行動します。これではなかなかネコはネズミを捕まえられません。しかし、トキソプラズマに感染したネズミは、先程の人間のように注意力が低下するのか、ネコに食べられやすくなる行動をする…といったことが置きます。
人間にとってありがたくあにトキソプラズマですけど、このようにネコ側にはメリットがあるんですね。また、原虫の視点で見ると、ふたたびネコの体内に戻って繁殖するためにネズミを操っていると言えます。当然ながら、原虫にとっては意味のある行動なのです。
●そういや最近やる気が出る!と思った猫好きのあなた…それは誤解かも
ここまで読んで、猫を飼っている方で「そう言えば、最近やる気が出る」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。ただ、放し飼いにしているものは感染の機会があるものの、室内だけで飼って、ネコ砂とキャットフードで育てられているネコに感染することはほとんどないといわれるそうです。
さらに、そもそも感染しても影響力が強いわけではないとのこと。健康な成人の場合には、感染しても症状がないか、軽いカゼのような症状が出るぐらいだとされていました。とすると、日経ビジネスオンラインの記事タイトル<ネコが人を元気にする科学的な根拠 寄生虫のなせる技?>は大げさでしたね。
(追記:
トキソプラズマは女性の天敵?妊娠の問題だけじゃなく自殺もで引用したものはちょっとニュアンスが違いました)
この症状が出る・出ないの話は別として、日本での推定のトキソプラズマ感染率は20~30%だとのこと。おもしろいことにこの感染率は地域によって大きな差が見られ、「韓国で国民の6%だが、ガーナでは92%」とのこと。猫の多さや食生活の違いでしょうかね。韓国って猫があまりいないんでしょうかね。
また、トキソプラズマに感染している人は世界人口の3分の1程度と推測されています。日本での感染率はほぼ世界の平均、あるいはやや下といった程度でした。すでに書いたようにこの病気は無理してかかった方が良いものじゃありませんが、逆にかからないようにと神経質になりすぎるほどのものではない感じですね。とりあえず、ポイントとしては、以下のあたりだそうです。
・肉は-20度に冷凍するか66度以上に加熱すれば、感染力はなくなる。(原文は「20度に冷凍する」ですが、「-20度」のことだと思います)
・庭の土や砂場の砂などでネコのふん尿に触れない。
●トキソプラズマ感染で人間の性格も変化、交通事故は~倍に
ここまで2012年4月22日に下書きを書いていたのですけど、パソコン内を整理しているとトキソプラズマの古い記事が出てきました。過去に読んでいたのに忘れていたみたいですね。元ページが見つからないのですが、JAPAN JOURNALS LTDの"9/22 ネコを飼うと性格が変わる!?――寄生虫が人間の精神面に影響!"(2003年)という記事です。
<ネコの病気として知られている「トキソプラズマ症」の原虫は、人間にも感染し、特に妊婦に感染した場合、胎児に深刻な障害が出る危険性はよく知られているところ。英国、アメリカ、チェコの科学者らが協力して、394人の男女を対象に、トキソプラズマの感染率と個人の性格との間の相関関係を調べたところ、これに感染した女性は社交的になり、自分の容貌により気を遣い、愛情豊かで性的魅力が増し、それにともない男性関係も活発になるが、反面、信頼するに足りなくなる傾向が強まるという。一方、男性の場合は規則に従うのを嫌い、反社会的行動に走りやすくなるとともに、嫉妬深く、女性から見てあまり魅力的ではなくなるということが分かった。
トキソプラズマはネズミを介して、ネコだけでなくあらゆる哺乳動物に感染するが、繁殖するのはネコの腸内においてのみとされている。(中略)
感染している人の反応速度は遅くなるために、自動車事故を起こす確率は健康な人の2.7倍とされている>
記事には「性格にまで影響を与える可能性について触れたのは、今回の調査が初めてという」ともあり、人間の行動への影響を想定した研究の端緒だったようです。
(2012/7/7追記:さらに違う危険性も指摘され、結構たいへんなのかも…という内容だったので、
トキソプラズマは女性の天敵?妊娠の問題だけじゃなく自殺もも書きました)
●感染すると女性は社交的になる!研究で判明するも実を言うと… 【NEW】
2021/05/01:
脳を操る?トキソプラズマ SF顔負けの研究も:朝日新聞デジタル(2018年2月2日 8時31分)という別の記事も読んでみました。萱場広之・弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座教授による話です。冒頭でやはり「人の行動が操られている」といった話が載っていました。
<私たちは、自分の行動は自分で決めていると思っています。しかし、脳の中に巣くった何者かに操られているかもしれないと言ったら、信じる人はどれくらいいるでしょうか。自分が操縦されているなんていうのは、SF映画の中だけにしてもらいたいものです>
ただし、人間の行動への影響に関しては、萱場広之教授は慎重な味方。ある研究の結果では、確かに感染すると女性は社交的になるとされ、話題になったものの、実は「差がない」という研究もあるとのこと。人間の行動や社会性に影響する因子は多数かつ複雑であるため、証明するのは難しいと見ています。ここらへんは話題性先行の研究かもしれません。
一方、リスクに関する研究は進んでいます。、萱場広之教授は「通常は感染しても無症状か、ちょっとリンパ節が腫れる程度のことがほとんど」との見方。ただし、やっぱり妊婦さんには注意喚起。最初にも書いたように、汚染された土や、感染動物の火の通っていない肉を食べることで人間にも感染する危険があるため、ここらへんが注意事項です。加熱調理を基本としましょう。
汚染された土に関してですが、国立感染症研究所のホームページは、トキソプラズマ・ゴンディ(T・G)の卵が土の中で1年以上感染性を保つことを紹介し、妊婦さんに対し、素手で砂場遊びやガーデニングをしないように注意喚起しているとのこと。1年前でもダメなんですね。恐ろしい!と感じる話ではあるものの、対策は明示されており、過度に恐れることはないとも考えられそうです。
【本文中でリンクした投稿】
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