自然なものが良いと思う人が多い中で、「不自然」と思われる工場野菜が人気だとのこと。外で作っていないためにむしろ安心できる、高齢者に好まれる…といった意外なことになっています。また、天候不順が多い中でも品質や価格が安定しており、不作のときでも野菜を食べられるというところも魅力と言えそうでした。
●そもそも工場野菜とは何か?注目を集めている栽培方法
2012/7/16:初めて聞いたのですが、「工場野菜」というものがあるようです。
天候不順で工場野菜が人気(日経ビジネスオンライン 2010年8月5日 大西 孝弘)という記事では、工場野菜についてこう書かれています。
今年(引用者注:2010年)は春先から天候不順で、その際も野菜が高騰した。(中略)
そうした状況が続いた中で注目を集めているのが工場産野菜だ。工場内で人工的に制御された環境で栽培するため、天候などの影響を受けない。従来は露地で作る野菜よりはるかに価格が高かったが、露地野菜が高騰した影響でその差が縮まった。
「人工的」というとアレルギー反応を起こす方がいそうですが、環境制御を人工的と言っています。普段食べている野菜だって何らかの制御を行なっていますので人工的には違いないのですが、より制御された環境で作られた野菜です。ですから、別段安くないようですね。生産量を増やせばコスト削減できそうなのですが…。
●工場野菜は品質や価格が安定しているのが魅力
記事では、具体的な例もいくつか載っていました。例えば、京都府で葉物野菜の工場を運営しているスプレッド。ここはは、2010年に入ってから出荷量を大幅に増やしています。
生産量は前年比3倍の1日当たり1万5000株で売上高は3倍になり、スーパーなど取引業者は100社に。稲田信二社長は、「天候不順でも品質や価格が安定している面が評価された」と話します。特に、外食産業向けが好調で、質が安定しているため料理の味が変わらない点が好評だといいます。
価格は安くない…とさっき書いたものの、コストダウン努力もしていました。スプレッドの場合、2008年の参入当初、レタスの店頭価格は100g当たり298円だったが、それを2009年には158円まで値下げ。今年に入ってからは、1袋60~70gで100円のレタスを発売し、それがヒットに繋がったようです。
●工場野菜の可能性、地産地消を超えた店産店消
私がおもしろいと思ったのは、「地産地消」をもう一歩推し進めた「店産店消」という概念が生まれていたこと。サンドイッチチェーンの日本サブウェイは、丸の内ビルディングに店内で野菜を栽培する店をオープン。店で使う量のすべては賄えないものの、話題づくりによる集客効果が狙いだそうです。
さらに三菱総合研究所の伊藤保主任研究員は「この2年で20~30社が参入した」と言い、新規参入する企業もまた増えているそうです。これは以前
企業農業参入 セブンイレブン、ローソン、イオン、セコム、JR東日本、カゴメ、ワタミ、サイゼリヤなどで書いた大手企業による農業参入動きと重なりあう部分もあるかもしれません。
こういった企業の参入を苦々しく思っている人もいるようですが、その人たちはいったい今の日本の農業をどう考えているのかと不思議です。
●工場野菜技術は日本に強みがある、アジアから問い合わせも
ところで、この日本の野菜工場技術はアジアにも広がっているようです。アジア各国で日本の野菜工場の技術に注目が集まったことで、菜工場の設備を作り、運営ノウハウがある日本の関係者に、アジア各地からの問い合わせが殺到していました。
この野菜工場技術ですが、「もともと日本は空調や照明などの制御技術で先行する」ため、得意だとされていました。特にLED(発光ダイオード)などを使った完全人工光で野菜を育てるノウハウでは他の追随を許さないとしています。
自動車などの製造業だけでなく、従来なら農業に分類される分野でも、「メード・イン・ジャパン」が世界を席巻するかもしれないと記事では最後後に書いていました。
●人工が悪いなんてとんでもない!工場野菜は農薬が少なくて安全・安心?
2017/08/01:スーパーのマルエツはちょくちょく買い物していた時期もあるものの、最近は高いので全然買っていません。正直魅力がわからないお店です。ただ、
マルエツ、常設「工場野菜」で掴んだ意外な顧客:日経ビジネスオンライン 吉田 忠則 2017年6月30日で出ていた試みはおもしろいと思いました。
2016年9月から「工場育ちの野菜」というコーナーを設け始め、今では「マルエツ」を中心に221店舗にコーナーを設置しているとのこと。「自然」を売りにして販売されることが多い野菜売り場では異端です。
この魅力の一つは、「安全・安心」をアピールしやすい点とされていました。種まで含めて考えれば、工場型の施設で作ったからと言って完全に無農薬とは限らないものの、畑でふつうに作るのと比べれば、使用量を抑えることができるためとのこと。
ただし、そもそも無農薬が安全・安心というのは科学的根拠がありませんので、私はこの売り方を嫌います。詐欺的です。これはさきほど言った「自然が良い」も同様ですね。自然なものの方が良いなどというのは、迷信です。
●土や泥があるとクレーム!不自然な工場野菜が人気の理由
「不自然」であるはずの工場野菜が人気の理由として、よりおもしろかったのは、他の二つの理由でした。
マルエツによると、最近、以前なら思いも寄らないクレームが増えているといいます。「昔なら当たり前だった、裸で売られていた野菜」にクレームがつくのです。どうも他の人の手がベタベタ触れているというのが嫌なようです。私もやりますが、品定めして棚に戻すというのも一般的ですからね。
また、泥・砂が付いていたり、虫が入っていたりというのを嫌だと感じて、クレームがつくみたいです。私はナメクジ、カタツムリ、イモムシなどの経験がありますが、この前はイモムシから成虫になった蝶が入っていてびっくりしました。確かにこういうのが嫌な人は多いでしょう。
●工場野菜に高齢者の意外な支持、食べきりサイズだから好まれている
さらに意外だと思われるのが、昔ながらの野菜を好みそうな高齢者も工場野菜をよく買っているということ。しかし、泥混じりの野菜を食べてきたであろう彼らが、工場野菜の清潔さを好んでいるとは思えません。
これはマルエツの担当者の想像であり、実際に聞いたわけではないのですが、工場野菜が技術的な問題であまり大きく育たないという欠点が、むしろ魅力になっているのではないか?とされていました。食べきりサイズだから好まれているという可能性です。
記事では、例えば、手にずしりと重いレタスを、シニア層が1回の食事で食べきるのは難しいだろうとしていました。同時に高齢者は、捨てるのはもったいないとも考えやすいでしょう。じゃあ、冷蔵庫に入れておけば良いだろうという話ですが、そうなると、傷んでしまうこともあります。レタスなんかは特に痛みやすいですよね。それが嫌で小ぶりな向上野菜を好むのではないか?と予想されていました。
●お店にとっては生産・価格ともに安定しているのが魅力
以上は買う側の立場なのですが、売る側として工場野菜の魅力は、商品を安定調達できる点です。工場野菜は、人工光型の植物工場はもちろん、太陽光を使うタイプでも、吹きさらしの露地で作るのと比べれば、生産は安定しています。
北海道の野菜の不作で、品不足と価格の高騰があったときには、工場野菜を普段から買っていたお店の人たちは「本当にありがたい」と感謝していました。価格うんぬんより売り物がないのが一番困ると、そのとき痛感したようです。
この安定というのは、価格面でも共通だそうです。農産物はふつう豊凶で値段が大きく上下します。一方、工場野菜は仕入れ値が安定しており、それに応じて店頭価格も一定にすることができます。相場が下がっていても、原則値下げはしないとしていました。
そういえば、日経ビジネスオンラインの別記事で、昔ながらの農家の人はこの豊凶での値段の駆け引きが好きという話を読みました。不作時に高く売りつける魅力に取り憑かれていて、農家にとってもメリットがありそうな安定した取引をしたがらないとのことです。
工場野菜をやっている人たちは、こうした昔ながらの価値観の呪縛からも逃れているために、野菜を買う側といわゆるWin-Winの関係を築きやすいのかもしれません。
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