デフレと超円高 (講談社現代新書)
(岩田規久男)の感想を書く関係で検索していたら、岩田規久男批判があったので気になって読んでいました。
批判があったのはAmazonの書評の
レジーム・チェンジ―恐慌を突破する逆転の発想 (NHK出版新書 373)
。作者は中野剛志さん。TPP反対で有名になった方ですね。
中野剛志さんはTPP反対論や原発推進論を読みました。攻撃的で人気は出るかもしれないけど、危うさを感じる方でした。
で、書評を呼んでいたら、三橋貴明さんに似てるとか、三橋貴明さんの受け売りを取り入れているとかいう話が……。
三橋貴明さんは苦手なんですよね。新しい知識を手に入れてたので、もう一度彼の主張を読み直しても良いんですけど、第一印象が悪くってどうにも信じられそうにありません。
三橋貴明さんについては以前、
「円暴落、財政破綻を本気で信じているのは日本のマスコミだけ」は嘘で一度取り上げています。当然当時は好意的な取り上げ方ではありませんでした。
三橋貴明さんの話は今日はいいんです。問題は中野剛志VS岩田規久男です。
中野剛志さんにしても、岩田規久男さんにしても、デフレが諸悪の根源であり、円高は敵、円安万歳です。
貿易黒字に関しては、岩田規久男さんがはっきりと言っているかちょっとわからないもののも歓迎っぽく、仲良くできそうな気がします。
しかし、中野剛志さんはインフレターゲット論を否定、岩田規久男さんを批判しているようです。
先の
レジーム・チェンジ―恐慌を突破する逆転の発想 (NHK出版新書 373)
の書評で岩田規久男さんの名前が出てきた部分は以下です。
日本経済界の重要人物でありリフレ派の重鎮とも言うべき人物・岩田規久男氏の議論を批判的に検証しているところも面白い。簡単に要約すると、金融緩和だけでは足らず、緩和した金が外資に流れてしまえば意味が無いので確実に国民の所得にまわすべく、公共投資をするべきだという事であり、中野の主張(三橋の受け売りか?)には一定の説得力を感じる。が、岩田規久男氏ひいては所謂リフレ派(高橋洋一氏、上念司氏など)の主張をこれだけでひっくり返せるとはさすがに思わないので、更なる議論の進展を願う(例えば、ここの反論として用いられる可能性が高いMF理論に関しては、京都大学大学院教授である藤井聡の主張を参考にすると良い。前提に関する解釈などが分かれている為、どちらが正しいか私には判断しかねるが一瞥する価値はあるだろう)。
外資に流れるってのはどういうのなのでしょう?
中野剛志さんはイメージ的に日本への海外からの投資は嫌いそうなのですが、その逆を日本がするのもダメなんでしょうか?
"簡単に要約"なので、ちょっと具体的なところがよくわかんないですね。
別の方の書評にも登場。
またこの本の中で、インフレ目標政策を唱える岩田規久男氏を明快に批判しているのも興味深い。
インフレ目標政策は、金融政策であり、金融政策は積極財政政策とセットでなければ効果的にデフレを克服することはできない。
08年の世界金融危機が残した教訓の一つは、中央銀行が物価を指標として市場の動向を見つつ経済をコントロールするという、
金融政策中心の経済運営は間違いであったということである。
さらに言えば、インフレ目標を設定し、物価の動向に着目しつつ経済を運営するという「インフレ・ターゲット」政策そのものが
元を正せば経済の「非政治化」によってインフレを防止しようというデフレ・レジームに顕著な発想であるとバッサリ切っている。
これも結果だけなので、何とも言えませんが、まあ、対立しているってのはおもしろいですね。
あと、他のところもチラッと見ると、"デフレ対策に有効なのは財政出動(公共投資など)・雇用保護政策・
国内保護(輸入規制)"ともありました。ああ、そうなんだ。
中野剛志さんってどうも鎖国主義的な主張をしているような気がしていたのですけど、少なくとも本気で保護貿易主義的なところはあるようです。
ただし、"インフレ対策に有効なのは構造改革(財政コストカット)・市場流動化(人員削減と人員再配置)・国際化(輸入量を増やす)"なので、インフレのときには自由貿易を増やして、デフレになったら外国との貿易はやめましょうということであり、常に孤立ではないようです。
しかし、逆に言えば、そういう虫の良さを海外に受け入れてもらわねばならないということになります。
中野剛志さんが主張していたかは覚えていないのですが、TPP反対派の中には日本の交渉が下手だからというものがありました。上記のような政策も海外の顰蹙を買い、難しそうな気がします。
まあ、どちらにしても、交渉がうまいに越したことはないんですけどね。
ちょっと話が逸れました、元に戻します。
もう一つ、
中野剛志の『レジーム・チェンジ』におけるインフレ・ターゲッティング批判の要旨(半分) 2012-04-21(Economics Lovers Live Z)というところでは、"「中野氏はインフレ目標を批判していない」旨のウソをよく見かけるのでそのウソによって騙されない"ようにと呼びかけていました。
前述の通り、中野剛志さんは著書『レジーム・チェンジ』でインフレ・ターゲッティング批判を展開していますので、批判していないというのは嘘なわけです。
ページは個人ブログだと思いますが、内容の詳しさを見て気になって確認すると作者は田中秀臣さん。経済学者の方で、私もたぶんダイヤモンド・オンラインで記事を読んでいるはずです。
さて、中野剛志さんのインフレ目標の「懸念」(批判と読み替えても良いです)は二点あり、"ひとつは、インフレ目標導入自体では効果が乏しいといいもの"だそうです。ここらへんの根拠については書籍では特に記載未記載なのかもしれません。
田中秀臣さんは"僕らの実証では、金融政策の変更の宣言だけでデフレ予想からインフレ予想に反転しています"としていますし、
"中野氏のインフレ目標の「懸念」というのは、政治力や財政政策を使わないと、インフレ目標は効果が乏しいことを、私たちの実証を無視し、さらに自分も何も実証を上げずに批判断定しているだけ"
ともありました。
また、引用の使い方について批判がされています。
彼の批判もテミンがこんなことを言ってるという彼の本のたかだか一節を(後で述べますが誤解を生むような形で)引用したものです。(中略)
中野氏のしたテミンらの引用をみると、ちゃんと為替の切り下げ(つまり金融政策の転換)が効いて、その派生として財政金融政策の変化とそれに対する責任の変化と連動し、それから世論と政治も変わったとあります。
「焦点は、国際協調から国内の景気回復へ、デフレからインフレへ、金融市場重視から経済への直接介入へ、財政健全化から財政刺激策へとシフトした。為替の切り下げが、財政金融政策の変化とそれに対する責任の変化と連動した。政府の宣言や世論のトーンも急激に変化した」(中野本、181頁)。
さらにテミンらの元論文を読まれればわかりますが、金融面の転換の結果、「あらゆる政策の在り方が変化」(総動員された)したのです。それが彼らのレジームチェンジ。だが中野氏では、その引用をわざわざしているのに、因果関係が逆でして、総動員がなければレジームチェンジが起きなかったことが強調されてます。変ですね。
もう一つの中野剛志さんの「懸念」は"「金融緩和によって増大したマネーが、必ずしも国内の投資や消費に向かうとは限らない」"です。さっきも出たものですね。
「単に政府や中央銀行がインフレを目指す政策のスタンスを宣言するだけでは駄目で」、「実効性のある政策必要」、「しかし、金融政策だけでは、その実効性を上げることができない」「貯蓄にまわったり、海外の金融市場に流出したり」する。
さらに期待転換の効果があることを、インフレ目標政策から事実上奪ってます。中野剛志氏は、「このため金融を緩和しても、投資や消費の需要が増えません。デフレを脱却するには、お金の保有量が増えるだけでは駄目」と明言しています。
途中で田中秀臣さんが指摘していたんですけど、中野剛志さんは日銀の意見に近そうな感じです。
インフレターゲット論は将来のインフレ期待が狙いであり、お金の保有量を増やすことではないようです。
"期待転換の効果があることを、インフレ目標政策から事実上奪ってます"という言い方はわかりづらいんですけど、予想インフレ率云々のインフレターゲット論の肝であるところを、中野剛志さんが全然理解せずに批判しているって意味でしょうかね?
どうもお互いに相容れないようです。
追加
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