2012/8/14:
●アメリカの伝統的大企業のトップにエリート大出身者はいない
●エリート大学出身の学歴で出世して社長…は日本だけ
●学歴の扱いよりも大きな違いは大学の成績や修士号重視など
●知的能力に優れた労働者以外はいらない?超学歴重視の米
●アメリカは知的能力の高い人と低い人で格差が拡大した
●学歴社会のアメリカと学歴社会じゃないアメリカがあるのはなぜ?
●日本はむしろアメリカより学歴間賃金格差が少ない国だった…
●アメリカの伝統的大企業のトップにエリート大出身者はいない
2012/8/14:学歴に関する話をいくつか読んで、それらが対立しているようにも見えたのでちょっと並べてみようかと思いました。今ざっと見ると、全部日経ビジネスオンラインの記事ですね。いつもここにはお世話になっています。
私の読んだ順番とは違うんですが、まずアメリカは学歴社会じゃないよってものから行きます。2010年のもので、
日本的経営の本当の崩壊が始まる 役員報酬の開示が日本企業にもたらす衝撃(日経ビジネスオンライン 2010年7月6日 三品和広)という記事です。
記事は、タイトルのとおり、「役員報酬の開示」に関して書かれたもの。なぜこれと学歴が繋がるのか?と言うと、「今後はそうした人たち(引用者注:エリート大学出身でない人たち)に門戸が開かれるようになる」と作者の三品和広さんが期待していた(2010年のもの)ためでした。
さて、問題の学歴社会かどうかという話。ここでは、米国の伝統的な大企業のトップの出身大学を見ると、ハーバード、イエール、スタンフォード、プリンストンといった全米でも名高いエリート校の出身者はほとんどいない、としていました。また、裕福な家庭の子女も皆無に近いとのこと。このことから、ハングリーな人がはい上がって経営職に就くというケースが圧倒的に多いと結論づけていました。
■ 日米企業の経営トップの出身大学の分布 大学ランキング での順位 | 最高経営責任者 | その他執行役員 |
日本 | 米国 | 日本 | 米国 |
1~10位 | 37 | 6 | 692 | 40 |
11~20位 | 4 | 1 | 87 | 44 |
21~30位 | 0 | 4 | 33 | 63 |
圏外 | 5 | 27 | 229 | 540 |
合計 | 46 | 38 | 1041 | 687 |
(注)三品和広ほか著、『企業トップのバックグラウンド:日米台比較』(国民経済雑誌第201巻第3号)を基に作成
●エリート大学出身の学歴で出世して社長…は日本だけ
典型的なのは、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の前CEOのジャック・ウエルチさんだろうといいます。彼はアイルランド系の移民の一家の生まれで、父親は電車の車掌という出自。通った大学は、米マサチューセッツ州立大学アーマスト校というところで、やはりエリート校ではありません。
一方で、エリート校を卒業した人たちはどこへ行くのでしょうか。三品和広さんによると、彼らの大半は、弁護士や会計士、投資銀行、経営コンサルティング会社の社員といったプロフェッショナルになり、企業経営者を側面から支援する役割を担っているとのこと。
このように米国ではハングリーで馬力のある人がはい上がって企業のトップに上り詰め、優秀なエリート校出身のプロたちを使いこなしながら経営を行うというスタイルが確立しているとしていました。
日本の場合は、依然として学歴志向で、出身大学によって出世の目がある人とない人とに分かれていると指摘。そして、"実際、日本企業のトップはやたらと東京大学の出身者が多い"としていました。ところが、彼らは実力本位でその地位を勝ち取ったわけではなく、学歴で出世しただけ…その一方で冷遇されている人たちがいるといった見方です。
読み直していて思ったのですけど、東大出身社長が多いは本当でしょうか。うちでは、
社長の出身大学ランキング、1位はいつも日大 東大が少ない理由という話をやっています。(ここだけ2019/04/22追記)
●むしろ世界はあからさまな学歴主義だという主張も
一方、「いやいやアメリカを含めて海外は学歴社会だよ」ってものを二つ行きます。まず、私が最初に読んだ
世界は学歴・成績至上主義~「東大」なんて学歴とは言えない 日本企業がグローバルに人材を求めれば、あなたの仕事はなくなるかも?!(日経ビジネスオンライン 2012年5月22日 田村耕太郎)から。
元グーグル日本法人社長の村上憲郎さんから聞いた話を元にした、世界の人材市場で採用される側に要求されることというテーマだそうです。
こちらによると、世界はあからさまな学歴主義だといいます。上記の記事を真っ向から否定しているような話です。ただし、学歴と言っても東大とか早稲田とかではありません。そういう大学名はよほど日本通の外国人でないと知らないだろうとのこと。
「学歴」として世界に通用するブランド大学というのは、ハーバード、エールなどのアイビーリーグにMIT、スタンフォード、カルテック、バークレーなど。米国以外ならオックスフォード、ケンブリッジくらいだとしていました。ベスト10クラスでしょうか。
●学歴の扱いよりも大きな違いは大学の成績や修士号重視など
ただし、大学の成績は非常に重要だとのこと。これは日本がはっきりと変ですけどね。大学の成績どころか、真面目に勉強した人は使えないやつ…みたいな風潮すらあります。お金と時間をかけて大学に行っているのにこれでは変です。
学歴重視かどうかは異論があり、揉めそうですが、ここらへんの方が大きな違いでしょう。記事ではさらに、こうした世最高クラスの大学院で修士号を得る必要があるとしていました。やはり日本では聞かない話です。
ここではもう一つ、「企業内で実際にチームを率いて実績を出した」とか「自ら資金や人材集めて自分のアイデアで起業した」とかいった「リーダーシップの証明」も求められるとのこと。これもそもそも新卒一括採用が中心の日本では、あまり重視されない人材評価の仕方でしょう。
●知的能力に優れた労働者以外はいらない?超学歴重視の米
最後の
学歴社会の米国、男性社会の日本 日米が直面する格差解消のジレンマ(日経ビジネスオンライン 2012年5月28日 山口慎太郎)という記事は、タイトルからして「学歴社会の米国」となっています。
山口慎太郎さんによると、生産工程におけるコンピュータ管理と自動化は、体を使う作業を大きく減らし、生産工程や販売・流通を管理するための知的能力に対する需要を増加させました。つまり、体を使える人ではなく、知的能力に優れた労働者を求めるようになったのです。
ところが、米国での大学進学率は既に頭打ちを始めています。知的能力に優れた労働者が少ない状況にあるんですね。このダブルパンチによって、身体能力の市場価値は低下し、知的能力に対する市場価値は上昇したといいます。
●アメリカは知的能力の高い人と低い人で格差が拡大した
山口慎太郎さんがやったのは、こうした身体・知的能力の市場価値の変化が学歴間、及び男女間の賃金格差に与えた影響を定量的に評価するという研究だそうです。
結果、知的能力の市場価値の上昇は、学歴間の賃金格差を拡大をもたらしました。前述の理由により、 知的能力に優れた労働者がほしいのに少ないがために、賃金は高くなったためでしょう。また、体を使う作業の労働者はあまりいらないのに多いためありあまった状態になり、賃金が上がりづらくなっていたのだと思われます。
こうした賃金格差の長期的かつ根本的な解決策として、山口慎太郎さんは、教育や職業訓練の推進を挙げていました。人々の知的能力の水準を上げ、技術の変化に対応した労働者を増やすことで、能力自体の格差を縮小することができるとのこと。
また、需要が少ないがために賃金が高騰していた高い知的能力を持つ労働者も増えるために、こちらの賃金の上昇も抑えることができます。今度は今起きているのとは逆のダブルパンチで、賃金格差を減らせるだろうということですね。
なお、この話は、大卒者と高卒者の間では身体能力の差は小さいものの大きな知的能力の格差が見られ、それが学歴間賃金格差の大元になっているとしており、さっきのような超エリートって話じゃありません。大学を出れば知的労働者。これだと最初の成り上がり代表ジャック・ウエルチさんもエリートになります。
●学歴社会のアメリカと学歴社会じゃないアメリカがあるのはなぜ?
これらの話は一見矛盾しているようにも見えますが、説明はできそうな感じ。最初の「学歴偏重じゃないよ」って話は、経営トップだけに注目しています。労働者全般の話じゃないんですね。
また、これよりもっと正解に近いのかな?という説明は、注目した時間の差。最初の話は「伝統的大企業のトップ」ですので、大学時代ははるか昔です。要するに古いんですね。
これは最後の話でよりわかる部分があります。昔は学歴による差が問題なかったのが、最近になるほど賃金に大きく影響してきているためです。引用しなかったところでは、米国では、賃金の不平等が1980年頃から急速に拡大したという話もありました。当時は男性大卒者の賃金の中央値は高卒者のおよそ1.1倍に過ぎなかったが、そこから急速に上昇し、2010年には1.6倍にも達しているといいます。
●日本はむしろアメリカより学歴間賃金格差が少ない国だった…
アメリカの例を主に見てきましたが、実を言うと、最後の記事は学歴社会だと言われている日本について意外な見方をしていました。
労働経済学者の川口大司さんと森悠子さんが2008年に発表した論文によると、日本の学歴間賃金格差は80年代と90年代を通じてほとんど変化していないといいます。学歴社会化が進んでいるアメリカと全然違うのです。
ただし、これは日本が知的労働者を求めていないということではありません。米国同様、日本でも高い知的能力を持つ大卒労働者への需要が増大しました。しかし、大卒労働者の供給が頭打ちとなった米国と異なり、日本の大卒労働者の供給は増加を続けたためです。大卒が全然珍しくなくなりましたよね。
こうして日本では知的能力の「値段」の上昇は抑えられ、学歴間格差の拡大は起こらなかった…という意外すぎる話になってしまいました。
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