難しい問題ですが、社会保障制度についてです。
今回の話は2011年に起きたイギリス暴動を中心としたものです。
このイギリス暴動については、
イギリス暴動の裏にある鬱屈と絶望について(はてな匿名ダイアリー 2011-08-16)では、"無軌道な若者の暴走と言うことで概ねコンセンサスは取れているように思う"として、以下のように書いています。
警察が、最初の暴動の抑制に失敗したことで、「今なら何をやっても大丈夫」という無礼講的なお祭り騒ぎが一挙に拡大したと言うことなのだろう。周囲の興奮と燃えさかる炎に当てられて、「乗るしかない、このビックウェーブに!」とばかりに舞い上がってしまった子供が相当数いたであろう事は間違いない。(ロンドンで逮捕された暴徒の5割以上は18歳未満であるというニュースが出ている。)
もちろん、子供の暴走がここまで大事になってしまったのは異常事態であり、その裏側に社会的問題があると考えるのは当然だ。ただし、今回のように、当事者すら争乱の理由が分からないという状況は、「ぼくの考える社会の欠陥」的な牽強付会の自説を宣伝する絶好の機会だ。実際、イギリス社会の事情も知らず、勉強した形跡も全く読み取れないのに、適当なことを言って悦に入る類の人をTogetterで何人か見かけた。
似たような見方として、
英国暴動、実態は「荒くれフーリガン」 政治不信より深刻なのは「英国的価値観の崩壊」(要登録 日経ビジネスオンライン 2011年8月19日 大竹 剛)では、以下のように書かれていました。
「今回の暴動に最も近い現象は、フーリガンだ」
欧州改革センターのチーフエコノミスト、サイモン・ティルフォード氏はそう言い切る。フーリガンとは過激なサッカーファンのこと。試合よりも暴れることを目的とし、機会に乗じて暴力や破壊行為を繰り返す。
今回の暴動は、1人の黒人が警官に射殺されたという機会に乗じ、フーリガンのように暴力と略奪だけを目的にした。英テレグラフ紙は、「暴徒の動機は、単なる強欲だ」と断言。英ガーディアン紙も「模倣犯は、盗みを働く機会に乗じているだけ」と言い切る。
政府の歳出削減策が暴動の背景にあると指摘する声もあるが、実際には歳出削減はまだ本格的には始まっていない。昨年11月から断続的に起きた大学授業料引き上げに反対する学生デモは、保守党本部や財務省ビルを狙ったが、今回は家電店やドラッグストアなど一般商店を略奪目的で襲っており、そこに政治的、社会的な要求はない。
暴動に加わった若者の社会的背景は多様で、黒人も白人もいて、特定の宗教や民族との関連も薄い。所得の低さや失業問題などが、若者の不満を増大させた側面は否めないが、10歳程度の少年までが大規模な犯罪行為に加担した理由としては不十分だ。大量の模倣犯が出現した背景も、ソーシャルネットワークの普及だけは説得力に欠ける。
どうやら、暴動の原因を経済や教育、移民といった紋切り型の問題だけに帰することはできないようだ。
ただ、これが社会の問題を示していないかと言うと、そうとは言えないでしょう。
従来型の説明、またはすっきりとした説明ができないとしても、このような暴動が正常であるとはとても言い難いです。
先の日経ビジネスオンラインはこう続いていました。
暴徒は、警官やカメラの前で、躊躇することなく店舗を破壊し、略奪し、火を放った。その姿は、文化の根幹を成す英国的価値観の崩壊という、より深刻な問題が無視できない規模で起こりつつある現実を突き付けている。
この暴動に関して詳しかったのは、最初のはてな匿名ダイアリーです。
報道から明らかになっているのは、暴徒の大半が未成年であること、特定のエスニックグループが暴徒になったわけではないこと、そして多くがロンドンでも貧しいとされる地域の住人であること。加えてもう一つ言えるのは、彼らの多くがカウンシルフラットと呼ばれる、低所得者向けの公営住宅に住んでいると言うことだ。このカウンシルフラットというのは、イギリスの貧困を語る上では非常に重要な点なので、少し説明をしておきたい。
イギリスにはホームレスが少ない。(中略)
何故かというと、イギリスにはあちこちにカウンシルフラットと呼ばれる公営住宅があり、イギリス国籍さえあれば、家賃を払えない低所得者は優先的に居住が認められるからだ。(中略)
カウンシルフラットの家賃は圧倒的に低く、ばらつきはあるものの相場の5分の1程度。それすら払えない人には更に住宅手当が下りる。光熱費やTV受信料も実質タダだ。そして、当然家があるだけでは餓死してしまうので、これとは別にpersonal allowanceと呼ばれる生活手当が出る(最近制度改革があったので名前などが若干違うかもしれないが、大枠は同じ)。25歳未満の単身で週に50ポンド。25歳以上なら60ポンド。外食さえしなければ十分食費と携帯代をまかなえる金額だ(円高の今だと8000円弱に相当)。イギリス国民には、食べるに困るレベルでの貧困は(概ね)存在しない。
ただし、これだけ「おいしい」カウンシルフラットは、当然人気も高い。ウェイティングリストの人数は500万人に達しており、それなりに困窮していないとフラットは手に入らない。(中略)
ここで、イギリス人なら誰でも知っているトリックがある。子供がいて、しかも親がシングルマザーだと、フラットが優先的に廻ってくるのだ。こうなると、親から独立したい、しかし職がない子供にとって、手っ取り早い手段は妊娠と言うことになる。かくして、イギリスは先進国でも突出して10代の母親が多い国になった。しかも、子供が生まれると一人当たり週に12~20ポンドのChild benefitが支給される。また、シングルマザーだと上の生活手当も週に40ポンド前後は増額される。このため、パートナーがいても敢えて結婚せず、シングルマザーになる母親が多い(当然の結果として、その後別れて本当のシングルマザーになる確率は高まる)。母親ひとりに子供一人で月500ポンド(約7万円)あれば、正直生活には困らない。
さて、この状況を手厚いと言うか、そうでないと言うかは難しいところです。
説明されているのは、少なくとも食うには困らない保障であることですが、住居があるってのは大きいですね。
とりあえず、作者は「手厚い社会保障制度」と表現していました。
この保障の範囲より少し上の生活、贅沢をしようとした場合に問題が起こります。
ちょっと大きなTVを買おうとすれば、夜遊びを楽しみたければ、その分働くしかない。問題なのは子供だ。託児所に預けたいところだが、ロンドンの託児所は1ヶ月フルタイムで1000ポンド。平均所得層ですら厳しいこの金額を彼らが払えるわけはない。その結果、子供は無人の家に置き去りでTVを見るかゲームをするかと言うことになる。言葉を学ぶには最低の環境だ。
その結果起こったのが、子供の識字率の低下。(中略)こんな状況では学校に行くのは苦痛でしかない。カウンシルフラットの周りでは、昼間から特に何をするでもなくぼーっと座っている子供達をよく見かける。
この様な子供が成人して職に就くのは、非常に難しい。(中略)こうして、カウンシルフラットで生まれた子供は、またカウンシルフラットで自分の子供を産むことになる。
これで経済格差が固定されるということになります。
実はこれと似た現象は日本でも起きています。
「江戸川中3勉強会」25年目の夏に見た 生活保護世帯の子どもたちの現実 (要登録 ダイヤモンド・オンライン 2012/8/17 みわよしこ [フリーランス・ライター])は不満のみを並べているだけで全く良い記事だとは思いませんでしたが、連載のテーマが「生活保護のリアル」であり、わざとそういう姿勢にしているのかもしれません。
この記事の内容には、上記のイギリス事情と似たものを感じました。
生活保護世帯の中学生は、経済力に余裕がない家庭に育っている。そのことは、何を意味するのだろうか。
(中略)
「まず、家で勉強できない子が多いです。だから、週1回の、この勉強会での時間が貴重です」
(中略)
「生活保護世帯の住まいは、広くないんです。民間アパートに住んでいる世帯だと、2Kや2DKが精一杯です。そこに、ひとり親世帯の場合、母親と子ども4~5人が住んでいたりすることもあります。個室があることは、まずありません。上のきょうだいは個室を持っているんだけど、中学生の子は『万年床の上だけが自分のスペース』ということもあります」
物理的なスペースの問題だけなら、「図書館に行く」などの方法で解決できるだろう。しかし、家庭環境がそもそも、進路をじっくり考えるに適していない。「親が病気」「親に代わって家事万端をしなくてはならない」という中学生もいる。
「中学3年の子どもがいたら、親はだいたい、進路を話題にしますよね。『高校、どこ受けるつもりなの?』というふうに。でも、生活保護世帯の場合、中3の2学期でも、そういうことはあまりないんです。中学校の先生に進学について少し厳しいことを言われると、お母さんたちは『ああ、うちの子は進学できないんだな』で終わってしまう感じですね」
どのように厳しいことを言われる可能性があるのだろうか。
「まず、出席日数が問題になります。不登校の子が少なくないですから。理由はいろいろですが、イジメがきっかけになって学校に行かなくなり、休んだので授業が分からなくなることもあります。授業が分からない上に、気に入らない先生や友達がいる学校は、もう『空間としてイヤ、行かなくていいや』という感じになるんです。小学校の時から不登校が始まっている場合もあります。学力も失われたままです」
(中略)
家にも居場所がなく、学校にも居場所を作れない中学生たちは、どこにいるのだろうか。
「夜、外を歩くと、生活保護世帯の子どもたち、たくさんいますよ。公園やコンビニに、たむろしています。明け方に家に帰って眠り、目が覚めたら、もう中学校は大遅刻になってしまう時刻です。それでも学校に行くと、教員に『何やってるんだ、夜遅くまで。ゲームかマンガだろう』というふうに言われてしまって。子どもたち、言い返せないんです」
(中略)
筆者の古い友人の1人である真弓(仮名・48歳)は、福岡県の公立中学校に勤務するベテラン教員だ。勤務校は、福岡市中心部から車で1時間ほどの、のどかな水田風景が広がる地域にある。生徒たちの多くは、小規模コメ農家と生活保護世帯の子どもたちだ。
子どもたちの相当数は、早ければ小学校高学年で、いわゆるヤンキーになる。中学生になると、非合法薬物使用や無免許運転に手を出すことも珍しくない。その結果、命を落とすこともある。高校には進学しても中退し、「できちゃった婚」をするが、安定した職業のもとに安定した家庭を築けるわけではない。若い母親はしばしば、生まれた子どもを育てるために実家に舞い戻る。それが不可能なら、生活保護を受給する。祖父母世代・両親世代と同様に。
この環境の中で、子どもたちが「経済的に自立できる将来を、そのためには勉強を」とイメージすることは容易ではない。TVの画面の中の職業人は、まるで別世界の存在だ。中学校だけが教育努力を払っても、成果には結びつかない。
何となく同情を誘いたいのかな?生活保護を攻撃しないでといったメッセージなのかな?とも思いますが、実際にはそうじゃない印象も受ける方もいるでしょう。
イギリスの場合もそうなんですが、親のせい、家庭のせいといった印象も受けます。また、こちらはイギリスの場合に限るかもしれませんが、手厚い社会保障が無駄になっているかのような感じもします。
ここらへんもう少しはてな匿名ダイアリーから引用して見ていきたいのですが、既に十分長いですので日を改めて書く予定です。
↓
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