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日本の本当の食料自給率は0% リンなどの肥料は輸入で自給は無理



 食料自給率は考え方がかなりおかしいため、農林水産省が都合の良い数字を作り出しているのではないかと、疑う人が多いです。例えば、畜産物の場合は飼料が輸入であることを計算に入れているのに、農産物の輸入肥料は完全に無視されているという問題が指摘されています。

2022/06/22追記:
●肥料を考えると食料自給率ゼロ 肥料不足になって初めて問題に 【NEW】
●有機栽培にして肥料の輸入を減らそう!という対策…盲点は? 【NEW】
2012/9/19:
●ベジタリアン「国内の農産物は環境に優しい」…実はウソ
●現在の日本の農業に必要な肥料は輸入頼りという事実
●輸入飼料は計算してるのに輸入肥料は無視している食料自給率
●日本の本当の食料自給率は0% リンなどの肥料は輸入で自給は無理
●肥料なしで農産物を作ればいいじゃん!という反論(?)も
●食料が輸入できない状態ではエネルギー輸入も問題になるのでは?
●やっぱ無理?窒素肥料がなかったら世界の人口はもっと少なかった
2017/09/19:
●2種類ある食料自給率でなぜカロリーベースを重視しているのか?


●肥料を考えると食料自給率ゼロ 肥料不足になって初めて問題に

2022/06/22追記:食料自給率という言葉は出ていませんが、最近肥料を輸入に頼っていることが問題になったことで、食料自給率重視の方針はやはりおかしいのでは?という感じに…。肥料高騰、農家は消耗 中国・ロシアから原料調達難航: 日本経済新聞(2022年6月21日 11:30)という記事が出ていたのです。

<農作物の育成に欠かせない化学肥料の価格高騰が農業経営に影を落としている。原料主産国の中国が国内流通を優先して輸出制限したほか、ウクライナ危機に伴う経済制裁でロシアからの調達も滞ったためだ>
<化学肥料は「肥料の三要素」とよばれる窒素、リン酸、カリ(塩化カリウム)からつくる。原料はほぼ全量を輸入に頼る。農業の経営費に占める肥料費の割合は最大13%にのぼる。特に畑作、野菜、水稲などで肥料が多く使われる。肥料高は農業現場に波及する>
<肥料の原料調達を国別にみると、日本はリン酸の9割を中国に依存する。塩化カリウムは3割弱をロシアとベラルーシからの輸入に頼る。肥料の海外依存は日本の食料安全保障のアキレスけんとなりかねない>


●有機栽培にして肥料の輸入を減らそう!という対策…盲点は?

 今回の記事内容をまとめて書いた記事冒頭の部分では、<食料安全保障の観点から化学肥料に頼らない農業への転換が課題だ>としていましたので、どうも脱化学肥料を重要な対策だと見ているようでした。食料自給率と同じく、国内で作る割合を増やそう…という発想みたいですね。

<有機農業への転換がカギを握る。国内の有機栽培面積は18年時点で2万3700ヘクタールと農地面積の0.5%にとどまる。農水省の環境保全指針「みどりの食料システム戦略」が掲げる「50年までに25%」はまだ遠い。
 政府は物価高対策で肥料の原料への資金支援に着手したが、補助金だけでは限界がある。農業経済学に詳しい東京大学の鈴木宣弘教授は「肥料に調達難の危機が迫る今こそ、農業そのものを見直す大局的な視点が求められる」と話す>

 多様性を増やそうというのなら私も概ね賛成ですが、有機栽培への転換には盲点があると思います。現在の有機栽培商品がそうであるように価格が高く、高所得者層以外を切り捨てる政策になりかねないため。これは食料自給率を上げる政策でも同様。現在のように輸入が多いことは、一般家庭にとってメリットが大きいんですよ。

 現在は確かに輸入が多いことで値上がりはしているものの、逆に言うと、これまで価格を抑えられていたからこその値上がり。仮に食料自給率や有機栽培率の高さを優先していれば、食べ物の価格がすごく高くなり、食べ物以外にお金を使えない日本は経済も成長しなかったでしょう。安定性や長期的な視点を入れてどちらが良いか?を判断するのは、ここらへんも考慮する必要があり、かなり難しいと思われます。


●ベジタリアン「国内の農産物は環境に優しい」…実はウソ

2012/9/19:食料自給率の話なのですが、ベジタリアンという一見何の関係もなさそうな話から始めます。Wikipediaのベジタリアニズムでは、食料自給率の話が出てくるんですよ。実は、ベジタリアンである理由の一つに「資源の浪費や環境危機」というものがあるのだそうです。

 畜産において、大量の輸入飼料を必要とする畜産物の消費量が増えたことが、食料自給率の低下の要因の一つとなっていると指摘。日本での食料自給率の低下は、海外で枯渇が懸念される地下水を使うことにつながり、フードマイレージ(食料の輸送距離)を増加させ輸送のためのエネルギー消費を増大させている、とも主張しているんだそうです。

 ところが、ベジタリアンが好む農産物は、国内だけで完結しているか?と言うと、実はそうではないようでした。Wikipediaでは、上記のあとにすぐ反論が載っていました。日本での農産業も、資源の浪費や環境危機といった側面を持っているというのです。大量の肥料を必要とする農産物の消費量が増えたことも、食料自給率の低下の要因の一つとなっているという反論です。

 ただ、これはベジタリアンの「輸送のためのエネルギー消費」論の反論としては良いとしても食料自給率に関する話としては間違っているみたいですね。というのも、肥料は食料自給率の計算に入っていないためです。


●現在の日本の農業に必要な肥料は輸入頼りという事実

 食料自給率うんぬんは別として、日本の農業において肥料が使われているのは事実であり、それらが輸入頼りだというのもまた事実です。Wikipediaでは、以下のように指摘されていました。

・世界の肥料価格は2007年で2倍にもなっている。人類が紀元前3000年の頃から始めた農業の歴史上、不足し続けているのがリン酸である。その原料のリン鉱石の枯渇がいま心配されているのである。リン鉱石の80%が肥料用に使用されており、英国硫黄誌(British Sulphur Publishing)によると、最悪のシナリオとして過去の消費から年3%の伸びを見込むと消費量は2060年代には現在の約5倍になり、経済的に採掘可能なリン鉱石は枯渇してしまうことになると予測している。現実的なシナリオでは2060年代に残存鉱量は50%になるとしている。国際肥料工業会 (International Fertilizer Industry Association) によると、リン酸肥料が使用される主な作物とその割合は、小麦が18%、野菜・果物が16%、米、トウモロコシがそれぞれ13%、大豆が8%、サトウキビが3%、綿花4%となっている。

・肥料の3大要素といえばリン、窒素、カリウム。この3つがなければ日本の農業は成立しない。にもかかわらず、日本はリン鉱石の全量を輸入に頼っており、その多くを中国に依存。もともと、危うい立場にあった。今後、さらに入手困難になれば、中国や米国以外の国も自国の農業のために禁輸措置に動く可能性もある。そうなれば、日本の農業は窮地に立たされる。


●輸入飼料は計算してるのに輸入肥料は無視している食料自給率

 さて、先ほど「違う」と書いた食料自給率の計算での肥料の扱いです。Wikipediaの食料自給率では、カロリーベース総合食料自給率の計算のうち、"畜産物については、国産であっても飼料を自給している部分しかカロリーベースの自給率には算入しない"と説明しています。

 "畜産に飼料が必要なように穀物野菜果物の生産に肥料が欠かせない"ため、この考え方に倣えば、穀物野菜果物のカロリーベースの自給率の分子にも肥料を入れなくてはいけないような気がします。

 しかし、実際には"この肥料の自給率は一切考慮されていない"そうです。そもそも肥料がなければ作れないのですから、輸入肥料を少しでも使った時点でその作物は輸入とみなす、つまり、その作物の食料自給率はゼロとした方が良さそうですけどね。


●日本の本当の食料自給率は0% リンなどの肥料は輸入で自給は無理

 検索してみると、この肥料問題に関する指摘は、各所でされていました。例えば、食料自給率の“怪” 井上 悦義(アゴラ)では、輸入した「飼料」で育った畜産物に、“飼料自給率”という概念が適用されるのに、輸入した「肥料」で育った米、小麦、野菜などでは“肥料自給率”を考えないというダブルスタンダードになっていると指摘されています。

<肥料の三大要素は、「リン」「カリウム」「窒素」だ。ほとんどの肥料には、この三大要素が配合されているが、リン鉱石は全量を輸入に頼り、カリ鉱石もその多くを輸入に頼っている。窒素肥料は工業的な製造が可能だが、製造のためにはアンモニアが必要だ。アンモニアは大気中の窒素と水素を反応させて作るものであり、窒素は空気中に含まれるため無尽蔵に存在するが、水素を作るにはエネルギーが必要で、現在は天然ガスが主な原料だ。そのエネルギー自給率はたったの4%(原子力を含めると18%)で、天然ガスもほぼ100%を輸入している。
 元をたどっていけば、肥料自給率は「0%」に近付いて行く(=カロリーベースの食料自給率も「0%」に近付いて行く)ということだ。肥料原料を輸入して国内で肥料を製造しようが、肥料そのものを海外から輸入しようが、輸入に頼るのは一緒だからだ。
 すなわち、現実を見据えれば、農水省が現在定義する食料自給率が高くても大きな意味を持たない。

 また、食料自給率を考える後夜 | 植物のミカタというページでは、海外から燃料や肥料を燃料で動く船で運んでくるのはエコではない…という方向性で批判。「資源のある国で栽培して輸入した方が遥かにエコで、経済的ではないだろうか?」とされています。

 その他、農VISION(のうびじょん) 食料自給率の幻(コラムA06)では、「畜産の自給率は低いがイメージに反し店頭での国産肉の割合は高い」ものの、それにはわざと自給率を下げるように計算している「畜産物の計算方法」によるからくりがあることを指摘していました。

<エサが外国産だと生産された畜産物は自給率に加える事ができない。例えば牛乳を生産している農家がもしエサを100%外国産であれば 自給率は0%と扱われる。また豚肉の場合は国産52%だが同様の理由で自給率は5%とされている。 もしエサが輸入できなくなったら国内で調達を試みるだろう。それを考えると数値を額面で受け取るには問題がある。
 一方で野菜を生産する場合にも外国産の肥料を使う事がある。だが[肥料]については産地は食料自給率には関係ないらしい。 つまり何が言いたいかというと『算出方法は複雑で思惑があれば変わりうる数値』だということ>


●肥料なしで農産物を作ればいいじゃん!という反論(?)も

 上記に対する典型的な反論としては「リン・カリウム・窒素のような肥料は使わなくても農作物はできる」というものだそうで、複数の場所で見かけました。なるほどそのとおりだ、肥料を使わなければ良いと納得する人もいらっしゃるかもしれません。

 ただ、肥料を使わなくても農作物ができるのだとしても、食料自給率の計算がおかしいこととは全く関係ないですけどね。実際、今は輸入しているのですから、食料自給率の計算式がデタラメであることは覆せません。めちゃくちゃズレた反論でした。

 また、本当に肥料無しで作った場合には、収穫量や価格など、その他の条件にも影響があるでしょう。肥料なしで作るために大量生産できず、価格が高騰して、貧乏な人は買えない…といったことも起きるかもしれません。国内自給のハードルがむしろかなり高いものであることが、この反論からわかります。


●食料が輸入できない状態ではエネルギー輸入も問題になるのでは?

 あと、農産物や畜産物が海外から輸入できない状態の場合、肥料だけでなく、石油などのエネルギー関係の輸入も途絶えると思われます。そうなると、農産物ができたとしても、消費者のもとに届けることができない…といったことも起きそうです。

 「肥料なしで農業をやろう!」がどれくらい現実的なものなのかは専門家ではないので判断しかねますが、この感じでエネルギーも「人力で農作物を作って、人力で運ぼう」となると、さらに無理っぽさが増してきます。

 まあ、馬で運んでもいいんですが、馬の飼料も輸入せずに自給しなくちゃいけませんからね。考えれば考えるほど無理くさくて、かなり壮大なことを想定していることがわかるでしょう。


●やっぱ無理?窒素肥料がなかったら世界の人口はもっと少なかった

 あと、収穫量との関係では、『「地球のからくり」に挑む』新刊書評 (PRESIDENT 2012年9月3日号 京都大学大学院人間・環境学研究科 教授 鎌田浩毅=文)で、窒素肥料に関する話がありましたので、参考のためにどうぞ。
我々が毎日使う物質は、何らかの仕掛けを用いて地球から取り出しているものだ。たとえば、第二章「窒素固定の魔術」では、自然界ではほとんど化学反応しない大気中の窒素を、窒素肥料として大量に作り出す技術が描かれる。ここでは「高度な化学の知識や技術がビジネスと直結することによって、巨万の富が生まれ」たのだ(38ページ)。

もしこの窒素肥料がなかったら、世界の人口は今より30億人も少なかったと言う。一方、肥料を生産するには大量のエネルギーが必要で、「エネルギーなしに、便利な暮らしにありつけないどころか、そもそも地球上に暮らす人々の食糧を供給することさえままならない」状態にまでなってしまった(49ページ)。


 非現実的な話に見えるものの、飼料にしても、肥料にしても、エネルギーにしても、輸入が途絶えてしまう可能性を考えて、ある程度自衛策を練ろうということなら、一貫性のある話ではあります。

 しかし、現在の農水省の食料自給率の考え方は何かへんてこりんなところがあるように見えますので、これを政策の基準にして良いのだろうか?と不安を感じますわ。


●2種類ある食料自給率でなぜカロリーベースを重視しているのか?

2017/09/19:食料自給率に関する別記事を読んだのでここに追加。日本の「食糧自給率」、実はそんなに深刻ではなかった(ドクターZ) | 現代ビジネス | 講談社(ドクターZ)というものです。

 そもそも食料自給率は2種類の計算の仕方があります。農水省が重要視している食料自給率は「カロリーベース」と呼ばれるもので、それ以外に「生産額ベース」で食料自給率を求める方法があります。この二つを比べてみても、農水省がなぜカロリーベースの食料自給率ばかり強調するのかがわかります。そっちの方だと日本が低くなって、危機を訴えやすいためでしょう。

「カロリーベース」
2016年 日本38%
2013年 カナダ264%、オーストラリア223%、アメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%

「生産額ベース」
2016年 日本68%
2009年 カナダ121%、オーストラリア128%、アメリカ92%、フランス83%、ドイツ70%、イギリス58%

 ただ、上記の値は農水省が計算したものであり、他国ではそもそも発表すらしていないところが多いとのこと。全く重視されていないわけですね。

 記事では、エネルギーに関する話もやはり触れていました。近代農業では、農耕機やビニールハウスなどでガソリンやガスなどのエネルギーが不可欠であることを指摘した上で、エネルギーの自給率は、日本では6%程度と圧倒的に低いと算出しています。


【その他関連投稿】
  ■日本の食料自給率(カロリーベース)の推移など
  ■工場野菜の可能性、地産地消を超えた店産店消
  ■ベジタリアンのアスリートの方が優秀説と中国バレーの敗退
  ■宮沢賢治さんのベジタリアンに対する複雑な思い
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