造語の話をまとめ。<重力・引力・分子・遠心力・動力は、志筑忠雄(中野柳圃)の造語>、<「舎密」って読める?化学は中国語由来で日本は舎密だった!>、<中国語由来の日本語 電気、日本海、パパ、アジア、合衆国>などをまとめています。
2023/04/29追記:
●「舎密」って読める?化学は中国語由来で日本は舎密だった!
2023/07/23追記:
●中国語由来の日本語 電気、日本海、パパ、アジア、合衆国など 【NEW】
2022/02/19追記:
●四次元などで使われる「次元」という訳語は藤沢利喜太郎が初出
●訳語として多くの重要な日本語を作った志筑忠雄(中野柳圃)
2009/8/18:過去にも「何とかして漢字で外国語を表現しようという先人の努力には頭が下がります」と書くなど、翻訳の際に作り出された新しい漢字については何度か書いたことがあります。今回は漢字ではありませんが、当時の日本では存在しなかった全く新しい概念の翻訳の際に作り出された日本語の話です。
志筑忠雄(しつきただお)は、
Wikipediaによると、長崎出身の江戸時代の蘭学者、長崎通詞(通訳、阿蘭陀稽古通詞、オランダ通詞)だそうです。しかし、ただ単に通訳をしただけではありません。彼は翻訳を通して多くの重要な日本語を作り出した人物でもあります。
志筑忠雄(大人の科学)によると、長崎通詞ではあったものの、実は1年で病身を理由に辞職しています。ほとんどオランダ語通訳であった時代はないんですね。また、本姓の中野姓(志筑家は養子だった)に戻り、柳圃(りゅうほ)と名乗ったため、中野柳圃と呼ばれることもあります。しかし、一般的には「志筑忠雄」と書かれているようですので、うちでもこちらで書きました。
●重力・引力・分子・遠心力・動力は、志筑忠雄(中野柳圃)の造語
他のサイトなどを読んでいると、病気が多かったとされており、「病身を理由に辞職」というのは、嘘ではないのでしょう。ただ、引用元サイトでは、「生来、学者肌の忠雄は、わずらわしい仕事を避けて学問に専念したかったのだろう」としていました。とりあえず、以降多くの翻訳を行ったというのは事実です。
先程出てきた「通詞」(つうじ)というのは単なる通訳ではなく、洋学者であり、科学者であり、文化人であり、外交官でもあったそうで、志筑忠雄のその能力は「江戸時代300年を通じて最高の通詞をひとり選ぶなら、ためらうことなく志筑忠雄を挙げる」(『長崎通詞ものがたり』の杉本つとむ氏)というほどだったようです。
志筑忠雄の功績は前述の通り、当時日本に概念自体が全く存在しなかった新しい概念を日本語化したこと。例えば、イギリスの自然哲学者ジョン・カイルの『求力法論』を翻訳した際には、東洋的な「気の思想」、陰陽五行説を基礎にしながら、対応する言葉を古典や古文、ときには中国の文献や仏教用語なども参考にしつつ、求力(引力)、万有求力(万有引力)、属子(分子)、真空、重力などの語を当てていきました。このうち重力は伝統的語彙にもない全くの造語だったそうです。
さらに彼は、求力は引力に、属子は分子などに改めたりしつつ、新しい語を加えていき、数学概念の説明でも「+、?、÷、√」といった数学記号もはじめて紹介したそうです。さらに、遠心力、動力、速力なども志筑の作った訳語だといいます。
彼は自然科学以外に、オランダ語学、博物学も高いレベルで理解しており、ドイツの博物学者・医師ケンペルの『鎖国論』も訳しました。この中では「鎖国」の他、「植民」という言葉も登場し、これもいわば彼が作った言葉になるそうです。単に訳語を作るのではなく、全く新しい概念を理解しながらですので、凄すぎて気の遠くなるような話。志筑忠雄の成した仕事に我々は感謝せねばなりません。
●「舎密」って読める?化学は中国語由来で日本は舎密だった!
2023/04/29追記:「舎密」って読めます? 読めねーよ!という感じですが、これは「しゃみつ」ではなく「せいみ」と読むんだそうな。「化学を意味する単語」であり、そう言われてみると「化学」の英語「ケミカル」と「せいみ」はちょっと似ています。それにしても違うだろう!という感じなのですが、当時はオランダと関係が深かったためかオランダ語由来。こちらだとかなり発音が近いんですよ。どちらにせよ読める当て字じゃありませんけどね。
<舎密(せいみ)とは江戸時代後期の蘭学者の宇田川榕菴がオランダ語で化学を意味する単語 chemie [xeˈmi] ( 音声ファイル) を音写して当てた言葉[1][2]。
宇田川榕菴はウィリアム・ヘンリーの『Epitome of chemistry』[注 1][3]のオランダ語版を日本語に翻訳し『舎密開宗』の名で世に出した[1][2]>
(
舎密 - Wikipediaより)
『舎密開宗』ってなんか仏教の経典みたいな名前ですね。これが「舎密」の初出のようです。一方、川本幸民はユリウス・シュテックハルトの『Die Schule der Chemie』のオランダ語版を日本語に翻訳して、中国で使用されていた「化学」の語を用いて『化学新書』という名で世に出したとのこと。現代中国語は日本語由来の西洋系の外来語が多いというのが日本人の自慢のひとつですが、中国語由来ってのもあるんですね!
ウィキペディアによると、1869年(明治2年)に大阪に開設された舎密局(旧制第三高等学校の起源)に使用されていました。一方、日本化学会の前身は「東京化学会」であり、「化学」を採用。ただ、この東京化学会でも1884年から85年にかけて「舎密」と「化学」のどちらを用いるかで激しい論争が生じたことがあったそうです。
今残っていないのでわかるように、当然、「舎密」は敗れました。ウィキペディアでは、舎密の語は江戸時代後期から明治時代初期まで化学とともにどちらかといえば応用化学の分野を指す語として併用されており、その後、原子論や分子論などの理論化学的な分野の知識の受容が進むにつれて完全に廃れたと説明。ただ、これらの説明部分は[要出典]となっており、事実ではないかもしれません。
●中国語由来の日本語 電気、日本海、パパ、アジア、合衆国など
2023/07/23追記:日本語の外来語由来の中国語…という話で広げようと思って検索。で、これだ!と思って
カテゴリ:日本語 中国語由来 - ウィクショナリー日本語版をクリックしたのですが、化学が含まれているように、これは逆でした。前回と同じで現代中国語由来の日本語という話です。
このページでは、<古典漢籍に基づかず、西洋諸語の翻訳語であるか近代に造語されたもの、又は、概ね明治期以降に日本語に流入したもので音を現代中国語に借りているもの(漢字の読みが呉音・漢音・唐宋音から乖離するもの、カタカナ表記が一般的であるもの)等をカテゴライズする>という説明でした。(一部伏せ字)
アジア、什麽、ウーロン茶、化学、合衆国、臭素、シューマイ、栴檀、大西洋、ダンコウバイ、チャーハン、チャンチン、電気、トイメン、桃源、日本海、パパ、玻璃、ピンイン、ピンフ、麻雀、まOこ、マントウ、面子、耶蘇、耶蘇教、リンボク、瑠璃
●四次元などで使われる「次元」という訳語は藤沢利喜太郎が初出
2022/02/19追記:二次元とか三次元とか四次元とか異次元とか言った言葉で使われる「次元」。この次元の
Wikipediaを呼んでいると、訳語に関する話が出てきました。志筑忠雄の訳語ではないのですが、とりあえず、訳語関係ということでこちらに追加しています。
この次元は英語だと「dimension」です。Wikipediaによれば、dimension の訳語として「次元」という言葉が初めて見られたのは、1889年の藤沢利喜太郎による『数学に用いる辞の英和対訳字書』と言われているそうです。1889年というのは、明治22年ですね。藤沢利喜太郎については、
Wikipediaの情報も載せておきます。
<藤沢 利喜太郎(ふじさわ りきたろう、文久元年9月9日〈1861年10月12日〉 - 昭和8年〈1933年〉12月23日)は、日本の数学者、統計学者、教育学者。東京帝国大学理科大学教授、帝国学士院会員、貴族院帝国学士院会員議員、理学博士。
明治期より日本の数学教育の確立と西欧の数学の移入に尽力した>
<藤沢は数学では菊池大麓についで2人目の日本人教授であった。教育行政などの政治的方面で忙しかった菊池に対し、藤沢は初めて研究論文を書き続けた日本人数学者と云われている。藤沢は大学数学科教育の改革に尽力し、ドイツ式のゼミナールを導入して後進の指導に当たり、高木貞治などの優れた数学者を生み出した>
ちなみに「次元」は中国語だと「維度」と言うそうです。こうした新しい用語の中国語は「ほとんど日本語が由来」などと主張されることがありますが、日本語由来とは違うようでした。また、中国語の「維度」は、日本語の緯度経度の「緯度」と似ていて、日本人が見ると誤解してしまいそうですね。
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