ふるさと納税の話をまとめ。<デメリット・問題点の指摘でふるさと納税のメリットは完全論破>、<ふるさと納税、実は高所得層の節税手法 政府高官も認めていた>、<返礼品を巡って2000万円以上の賄賂か?町職員や親族を逮捕>、<地方再生どころかふるさと納税で町が崩壊!廃業が続出している理由>などをまとめています。
その後、<ふるさと納税は本当に地方を救うのか?右派マスコミですら辛辣な評価に>、<牛肉が突如一方的に7割カットで激減など…返礼品トラブルが続出>、<ふるさと納税を目的にしても地方創生せず もっと大切な目的とは?>などを追加しました。
2023/01/27追記:
●ふるさと納税で地域活性化どころかサービスが低下する根本理由
2023/02/27追記:
●50%も消失!ふるさと納税はゼロサムゲームより悪いマイナスサム 【NEW】
●ふるさと納税で返礼品がおかしい理由 そもそもは寄付である
2019/05/21:ふるさと納税の返礼品の問題点についてメモ的な感じで。ふるさと納税自体が良い制度かどうかも検討が必要だと思われますが、とりあえず、返礼品はそれ自体が制度の趣旨に反しているでしょう。本来、ふるさと納税は希望自治体への「寄付」なのです。
・ふるさと納税とは、日本に於ける寄附金税制の一つ。”納税”という名称だが制度上の実態は「寄付」。本来納税すべきである居住する地方自治体に申告して寄付分を控除することにより、希望自治体に事実上の”納税”をするというもの。
・地方間格差や過疎などにより、税収の減少に悩む自治体に対しての格差是正を推進するためといった意図があった。
・制度設計当初には想定されていなかったが、寄付者に対して寄付金の額に応じ主にその地域の特産品を返礼品として送付する自治体が現れ、返礼品の内容をアピールして寄付を募る自治体が増えた。
(
ふるさと納税 - Wikipediaより)
●地場の特産品・伝統産業への注目で地域活性化など、ふるさと納税のメリット
ふるさと納税についての賛成意見としては、以下のようなところがWikipediaで挙げられていました。ただ、いずれもスパッと納得できるようなものではなく、これがそもそも「ふるさと納税自体が良い制度かどうかも検討が必要」というところです。
<メリット・賛成意見>
・成長して生まれ故郷を離れても、その地域に貢献することができる。
・地方などでは、成人までの教育に税金を注いでも、就職する(=税金を納めるようになる)にあたって他地域に転居してしまうために、注いだ税金分の「元が取れない」という声もある(教育に支出される税金を「先行投資」と捉え、その回収を意図しての賛成意見である)。
・条例などで使途を限定している場合も多いため、現住地へのものであっても、使い道に納税者(寄付者)が関与できる。
・納税ではなく寄付であるため、一定以上の金額を寄付した場合に特典を設けている自治体もある。
・自治体が寄附のお礼として提供する返礼品は地場の特産品を採用しており、低迷する地域経済の活性化に繋がる。
・伝統産業への注目のよる知名度上昇と需要が発生して、地元の伝統工芸が活性化する。
●ふるさと納税のメリットは本当にメリットと言えるのか?
返礼品は返礼品競争により、本来の趣旨と異なる方向に進みました。メリットとは言えそうにありません。ただ、他のメリットとされるものも私は疑問なんですよ。
都市から地方へ税金を回すという役割は、一見もっともらしいです。しかし、なぜふるさと納税制度でなければいけないか?という疑問には答えられないでしょう。制度としてもっとスマートな、要するに人件費などがかからない方法でできる可能性があります。さらに、ふるさと納税では、ネット仲介会社がかなりの取り分でお金を持っていっているという話も聞きました。寄付が目減りしており、効果的な地方分配方法とは考えづらいです。
寄付がかなり目減りしているというのが問題なのは、本来であれば居住地域の自治体に入るはずの税金だったため。その税金でネット仲介会社を太らせているというのですから、本来の趣旨とは全然違ってきています。
また、公平性にも問題ありと言えるでしょう。結局、都市部から寄付金を集められる自治体とそうではない自治体で分かれてきます。地方へお金を回すというのが狙いの制度で、これがふさわしいのか?というところ。年度によって金額も大きく異なる可能性があり、計画も立てづらいでしょう。
地場の特産品・伝統産業への注目も、税金をかけてやるべきか検討が必要ですが、一番マシですね。ただ、これもより直接的な方法があるのではないか?という話。やはり税金を目減りさせてやる、ふるさと納税制度が適切だとは考えづらいです。
●デメリット・問題点の指摘でふるさと納税のメリットは完全論破
メリットの時点で、ほぼ全部デメリットだとしてしまったのですけど、Wikipediaであったデメリットは以下のあたり。思った以上にきつい指摘がされていますね。一番マシだと書いた「地場の特産品・伝統産業への注目で地域活性化」も一刀両断されており、メリットゼロといった感じです。
・市町村に比べ、都道府県はふるさととしての愛着が持たれにくく、寄付が集まりにくい可能性がある。また、市町村に寄付した場合、寄付をしていない都道府県民税分も控除対象となるなどの問題も起きる。
・行政サービスを受ける住民が税を負担する「受益者負担の原則」の観点から逸脱する。ふるさと納税を利用する人間は利用しない人間より安い納税額で居住地の住民サービスを受けられることになる。
・ふるさと納税による減収分が増収分を上回った場合、本来実施できたはずの公共サービスが実施できない事態となり、この影響はふるさと納税を行っていない居住者にも及ぶ。ふるさと納税を行った納税者は返礼品という「対価」を受け取っているのに対して、ふるさと納税を行っていない納税者は公共サービスの低下を一方的に享受せざるを得ず、不平等が生じる。
・自治体の税務が煩雑になる。特に、他の自治体分の業務については、当該自治体の収入にならない分の業務に当たることになるという矛盾がある。
・
根本的な地方活性化や地方間格差を是正するための対策にはなっていない。・税収の少ない地域が受けている地方交付金を合わせると、人口あたりでは現状でも都市部の税収と大差がない。
・納税者(寄付者)の在住する自治体ではふるさと納税の25%分の税収が減ることとなる(75%分は地方交付税で補填される)。また地方交付税の不交付団体では補填されることがないため、ふるさと納税分全額が減収となる。
・政府税制調査会委員を務める一橋大学の佐藤主光教授は、制度利用者の関心が返礼品に集中しており、財源を必要とする自治体への寄付が行われていないと指摘する。
●ふるさと納税、実は高所得層の節税手法 政府高官も認めていた
もともと書くきっかけとなった記事は、
ふるさと納税、安倍1強のひずみ:日経ビジネス電子版(尾島 島雄 日経ビジネス副編集長 2019年4月4日。ここではふるさと納税のデメリットだけでなく、政権の問題も指摘されていました。先にそちらを軽く。
・高市早苗総務相は、返礼品の価格比率を抑え、換金性の高いものも控えるよう自治体に通知。しかし、次の野田聖総務相は、「自治体に任せるのが当然」と発言し、多くの自治体は返礼品競争の容認に転じたものと受け止め、返礼品競争が過激化した。
私が一番気にしている、ふるさと納税制度自体の問題点としては、以下がポイントでした。
・ふるさと納税に詳しく、関連著書がある金森重樹氏は「高所得層の節税の手法になった」と指摘。自己負担2000円で所得税や住民税から控除される上限は年収が高くなるほど上がり、1000万円なら夫婦と高校生1人の世帯で15万7000円が目安。返礼率が6割超の自治体もあったから、年間10万円近い商品を受け取れる計算だ。
政府高官も「増税に不満を持つ層(引用者注:高所得者)の憂さが晴れるなら、許容できる」と話していたとのことで、いわば政府公認の高所得者向け節税策でした。こんなん当初の趣旨と全然違いますわ…。
●返礼品を巡って2000万円以上の賄賂か?町職員や親族を逮捕
2020/05/27:まるで良いところがないふるさと納税。今度は逮捕者が出ました。言われてみりゃそりゃ不正も誘発するよな…という制度であり、ふるさと納税は最悪ですね。メリットがない制度を作って、税金を目減りさせてなおかつ不正まで誘発しているということで、悪いことばかりになっています。
さて、具体的な話。
ふるさと納税めぐり2千万円超収賄容疑 町職員再逮捕へ:朝日新聞デジタル(2020年5月25日 12時02分)によると、高知県奈半利(なはり)町のふるさと納税の返礼品を巡って、贈収賄が疑われています。
高知県警は、受託収賄罪などで起訴した町職員男性について、自らの親族を通じて2千数百万円を不正に受け取っていた疑いがあるとして、収賄容疑で再逮捕。さらに親族5人を新たに逮捕したということで、一族全滅状態ですね。町職員の父、母、兄が収賄容疑、精肉店を営んでいた親族2人が贈賄容疑だそうです。
●ふるさと納税担当者、一部の業者や親族のお店を優遇した疑い
町職員は、ふるさと納税を担当する地方創生課の元課長補佐でした。2017~18年ごろ、町内の2返礼品業者に対し、返礼品となる精肉や肉の加工品について精肉店経営の親族から仕入れるよう指示した疑いがあります。また、返礼品の取り扱いを優遇する見返りに業者から現金約180万円を受け取ったことも疑われていました。
なお、捜査関係者によると、柏木さんの父母や兄は、複数の返礼品業者から返礼品の加工、発送の業務などを請け負っており、兄の口座にこれらの返礼品業者らから1億数千万円が振り込まれていることを確認しています。この全額を賄賂とはせず、2千数百万円を賄賂とみなしているのですけど、こうした金額の大きさから相当儲けがでかい制度であることがわかるでしょう。
また、この件は、ふるさと納税に選ばれる品の選択が不透明であることも示しています。このことからすると、他の町でも賄賂を受け取っている案件がある可能性がありますし、そこまで行かなくても不適切なふるさと納税品の選択がありそうな感じ。透明かつ公平な選択の証明ってかなり難しいと思いますよ。制度そのものに問題があると感じます。
●地方再生どころかふるさと納税で町が崩壊!廃業が続出している理由
2021/06/10:奈半利町の収賄疑惑は、たとえ無罪であったとしても、ふるさと納税のシステム的な問題を示唆するものでした。ただ、そもそも無罪では済まず、有罪者が出たみたいですね。
ふるさと納税汚職事件、納入業者に有罪判決 高知地裁:朝日新聞デジタル(2020年12月16日)などの記事が出ています。とはいえ、控訴する可能性がありますので、まだ確定ではありません。
一方で、町の方は一足早く崩壊した模様。2020年8月6日にすでに、
ふるさと納税39億集めた港町 バブルは汚職ではじけた:朝日新聞デジタル( 10時48分)の記事が出ていました。また、右派の読売新聞でも<「町が壊れた」寄付額39億円から一転、廃業続々…高知・奈半利のふるさと納税汚職1年>(2021/03/06 15:00)という記事が出ています。読売新聞によると、不正により奈半利町がふるさと納税制度から除外されたためという説明でした。
<町職員が返礼品業者などから受け取ったとされる賄賂は総額1億円近くに上り、国に虚偽の報告をしていたことも判明して町は制度から除外された>
<「町のために頑張ってきたつもりだったのに……」肉の加工品を返礼品として町に納入していた40歳代の男性はため息をつく先月末、返礼品のために整備した工場を引き払った>
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20210306-OYO1T50011/
記事ではその他に、キンメダイの干物などの返礼品を製造していた漁師町の女性グループは、事業が継続できなくなり、2202年10月に施設を閉鎖していたという話もありました。住民女性のひとりはこうした町の状態を「身の丈に合わないことをして、町が壊れた」と表現していたといいます。
●ふるさと納税は本当に地方を救うのか?右派マスコミですら辛辣な評価に
ふるさと納税をあてにしていた、不正していない人たちも深刻な被害を受けたという形。ただ、こうした需要がそもそもかなり歪んでおり、良くないと思うんですよね。記事をよく読んでみると、奈半利町がふるさと納税制度を取り消される前から町のふるさと納税品需要が激減するという問題も起きていたようでした。不正がなかったとしても被害が出ていたように見えます。
<(引用者注:前述の肉の加工品を返礼品としていた)男性のところにも町から注文が次々入り、忙しい時期には未明まで加工や梱包を続けたこともあったという。しかし、
19年6月施行の改正地方税法で「寄付額の3割以下の地場産品」との返礼品ルールができると、「お得感」が減って注文は激減。 (中略)その後、町が返礼品価格を偽って国に報告していたことも発覚。昨年7月に町は国から指定を取り消され、2年間ふるさと納税を募集できなくなった。男性も廃業を余儀なくされた>
逮捕された町職員のアイデアで、県外産のカニやマグロなどを提供するとみるみる寄付が集まったとありましたが、地元産ですらないというのもなんか妙な感じですね。返礼品に専念するため、本業を中断する業者もあったとのことで、ここにも歪みが見えます。また、記事では以下のように、地方の復興につながらないことも指摘。政権に近い右派の読売新聞ですらこの見解となると、擁護しようがない制度なのかもしれません。
<町の一般会計当初予算は11年度は23億7000万円程度だったが、ふるさと納税の収入を背景に、19年度は3倍近い67億8000万円に増えた。
しかし、
予算規模は増えても、潤ったのは一部の返礼品業者だけだった。15年度以降の5年間で集めた寄付金約114億円のうち約9割にあたる101億円が返礼品の調達に使われ、他の事業に使われたのはわずかだったが、役場の中で疑問の声を上げる職員はいなかった>
●牛肉が突如一方的に7割カットで激減など…返礼品トラブルが続出
2022/01/07追記:こういう問題もあるのか!と思ったのが、<返礼品トラブル…宮崎牛“1.5kg→500g”激減で混乱>(21/12/21(火) 13:00配信 テレビ朝日系(ANN))というニュース。「ふるさと納税」の人気ランキング・トップ5に入る宮崎県都農町(つのちょう)で、返礼品のトラブルが発生。返礼品の宮崎牛1.5キロが突然、3分の1の量になってしまいました。
<寄付した女性:「突然、12月17日に(自治体から)メールが来て、『この返礼品が送れません』。代わりの返礼品は、お肉が0.5キロ。だから500グラムのものになります」
10月1日に寄付をしてから2カ月以上経って、自治体側が約束の量は用意できないと、一方的に伝えてきたのです>
さらに、<ふるさと納税「約束通り返礼を」 埼玉の寄付者が返礼品未調達の佐賀・武雄市を提訴>(2021/10/29(金) 10:12配信 佐賀新聞)という記事も出ていました。同じ九州のトラブルですが、武雄市(たけおし)は右派系の樋渡啓祐さんが市長になって以降トラブルが多く、こちらは意外性がありません。
<佐賀県武雄市がふるさと納税の返礼品を調達できず量を減らすなど変更したことについて、1万円を寄付したさいたま市の男性(43)が「債務不履行」として、予定していた品の金額に相当する8千円余りの支払いを武雄市に求める損害賠償請求訴訟を、28日までにさいたま簡易裁判所に起こした。
訴状などによると、男性は昨年12月、2020年産の米「さがびより」15キロが返礼品となっているふるさと納税に1万円を寄付した。武雄市は今年9月、(1)返礼品を21年産さがびより9キロなどの代替品に変更(2)寄付金返還-のいずれかに応じるよう求めてきた。男性は約束通りの返礼品を求めたが拒否されたため、さがびより15キロに相当する8150円の支払いを求めている>
https://news.yahoo.co.jp/articles/41ca18c03067709ad0c7e698c62482d71324b8d1
●返礼品トラブル続出のふるさと納税…根本的に制度に問題がある
現在のふるさと納税は返礼品を目的として寄付を促す制度であるために、返礼品が変わると実質詐欺です。では、なぜこうした詐欺が続出しているか?と言うと、国が途中から「ふるさと納税の返礼品は、寄付額の3割以下」と決めたため。ただし、「だから勝手に変更して良いよね?」という話にはならないので、問題であることは変わりありません。制度そのものの問題ですね。
<都農町によると、3割以下に収まる範囲で1.5キロの宮崎牛を用意したものの、町の想定を大幅に超える6万件近い寄付が全国から殺到。予定していた仕入先では、対応しきれなくなってしまいました。
宮崎県都農町・河野正和町長:「急きょ、別の事業者を通じて代替品・同等品の発送を決定し、依頼する時点で、原料単価が申し込みを受けた時期に比べて、著しく高騰していることなどから、割合基準3割以下の金額内で調整することができない」
別の業者から急きょ、仕入れたコストを加味すると、寄付額の8割以上に達してしまいました>(テレビ朝日系より)
都農町の場合、人によって対応が違うという問題も発生していました。半数ほどは宮崎牛1.5キロを予定通りに配送した一方で、3割は肉に代わる品物が発送され、残りの2割ほどがいまだに対応なし。肉の代替品が届いた後で、本来の牛肉も届いたという“二重取り”の報告もあるという、めちゃくちゃなことになっています。
また、佐賀・武雄市の場合は、コメント欄でそもそも計画に無理があったのではないか?という声も。甘い見積もり、さらに言えば意図的に調達不可能なほど高額の返礼品を用意して寄付を募った後などで、3割ルールを大義名分にして一方的に返礼品を格下げする…といったことが可能でしょう。やはり現状の制度に問題を感じます。
<完全な債務不履行。ふるさと納税には期限があるので、返金されても困る。原告の主張は正しい。行政がこんなことをしていいのか>
<1万円寄付でその返礼は3割以下=3000円以下で個別発送も含めて米15kgって市場価格からしたら元々無理だと思うのだが? スーパーで購入者が持ち帰る必要がある結構安いものでも 5kg1500円 10kgで2800円 程度ですからね。市側は、どういう理屈で当初設定したのだろうか?>
<さがびよりは、ディスカウントストアで5kg 1,800円前後で見かけます。15kgで5,400円ぐらいなので、そもそも3,000円で15kgなんか調達不可能だと思われます。8,000円程度とは少し盛りすぎかとも思いますが、武雄市が行ったことは完全に債務不履行で寄付者を裏切る行為です>
コメント欄では、<実態は反対給付の返礼品目的で「買い物」なのに、こんな取引を「寄付金」と呼んでること自体、へそで茶を沸かす話。建前上その「寄付」故に消費税も課税されてないわけだから、本当におかしな制度>などと、ふるさと納税制度の趣旨そのものがおかしいといったコメントも複数人気に。こうやってふるさと納税そのものに批判が出るのは珍しい気がします。
●世紀の愚策クーポン配布の問題点がふるさと納税の問題点とそっくり
2021/12/25追記:自民党・公明党連立の岸田文雄政権による10万円の現金・クーポン配布が2021年後半に国民から猛批判を浴び、クーポンについては事実上の撤回に近い形まで追い込まれます。このとき指摘された問題点は、ふるさと納税の問題点と似ている部分があると気づきました。ふるさと納税の方はあまり批判されていないんですけどね。
10万円配布で最も批判を浴びたのは、半分をクーポンにするというやり方。クーポンにしてしまうと、手法が複雑になるため事務経費などが増大。現金一括配布と比べて多額の税金が使われてしまうために、批判されたのです。一方、ふるさと納税の場合も自治体側でかなりの無駄が出ており、やはり税金の無駄遣い的なところがあります。
というのも、ふるさと納税をすると、寄付する自治体だけでなく、地元の関係機関の手続きが多数必要になってくるため。地元の自治体は利益がないにも関わらず、人件費だけはかさむということになります。また、ふるさと納税では仲介業者を通すために、ここでも高コストになるというのがポイント。ある自治体のふるさと納税担当者は、この仲介業者の手数料の高さを嘆いていました。
そして、仲介業者と聞いてしまうと、「お友達への利益供与」というのも思い浮かびますね。10万円給付では、公明党が現金10万円を主張していたものの、自民党がクーポンを主張したために半分がクーポンとなったという経緯があります。クーポンを入れ込んだ理由は、自民党がお友達企業にクーポン業務を任せるためでは?と疑う声が出ていたんですよ。
実際、新型コロナウイルス問題の業務では自民党系企業が多く関わっていましたので、有り得そうな話です。で、この視点で言うと、ふるさと納税における仲介業者も怪しい感じに。ふるさと納税における仲介業者では、ふるさと納税に深く関わった政治家と親密な企業が含まれているんですよ。ここらへんは今度補足したいですね。
とりあえず、今は10万円配布の問題点の続き。世紀の愚策クーポンのせいでうまいこと論点がズレてしまったのですが、そもそも現金10万円配布の点で批判だらけでした。困窮している人へのピンポイントな配布なら理解できたのに、ほぼすべての高校生にだけ配布…という弱者救済という大義名分とかけ離れた政策になってしまったためです。
ふるさと納税の場合も「地方活性化」という大義名分があるのですが、そうであれば活性化が必要な自治体を国が公平に選んで支援すべき話。ふるさと納税では、豪華返礼品競争というわけのわからない方法によって配分が決められており、これでは本当に必要なところに公平配分するのは不可能でしょう。ふるさと納税は最も根本的な部分からしておかしいのです。
●制度を作ったのは大物政治家…お友達企業への利益供与の可能性は?
2022/01/15追記:上記で書いた「お友達への利益供与」疑惑の関係で、ふるさと納税における仲介業者では、ふるさと納税に深く関わった政治家と親密な企業が含まれている…と書いていた話を…。
ふるさと納税、ゼロサムゲームは限界 官製需要に功と罪:日経ビジネス電子版(奥平 力 日経ビジネス記者 2019年3月22日)によると、ふるさと納税の立役者は首相にもなった菅義偉さんだといいます。
菅義偉さんは首相になる前は長く、官房長官でした。ただ、その前には総務大臣もやっていたんですよね。記事によると、2007年当時、総務相だった菅さんはふるさと納税の制度設計を省内に指示。ふるさと納税は住民税の原則に反する内容であったものの、大物政治家の意向には逆らえず実現したとされていました。
この記事を読んだ時点では、私は利益供与を想定していなかったんですよね。ただ、後になって、菅義偉さんと楽天が仲良しだと知って、利益供与の可能性を疑いました。というのも、楽天はふるさと納税の仲介もやっており、最も有名なふるさと納税サイトの一つであるためです。
ただし、Wikipediaでは、現在のふるさと納税で肝となっている返礼品は、自治体側から生まれたものという説明。これが事実なら、ふるさと納税の場合は、政府が利益供与したわけではなく、たまたまお友達が儲かる形になったという流れ。本来なら豪華返礼品は禁止すべきだとは思うので、積極的に禁止していない…程度の優遇に留まりそうです。
●ふるさと納税を目的にしても地方創生せず もっと大切な目的とは?
2022/12/03まとめ:東川町の話で使った話ですが、関係するので転載。
北海道・東川町で人口が増え続ける理由:日経ビジネス電子版(2019.1.18 白井 咲貴 日経ビジネス記者)によると、ふるさと納税で成功している東川町は、移住者を増やすために「ふるさと納税」を利用したという順番で、寄付獲得は目的ではなかった感じでした。
記事では、<ここ(引用者注:東川町)を訪れた人は、その魅力に取り付かれていく。だが、すべては現地に来てもらわないと始まらない。そこで、人を引き寄せる制度も作られている。それが、08年に始まった「ひがしかわ株主制度」だ>という書き方。移住者を増やすために東川町に訪れる機会を増やす…そのためのふるさと納税利用のようです。
<「東川を応援してくれる人を“株主”として優待してはどうか」
町役場の矢ノ目俊之氏が編み出したアイデアだった。東川町の株主制度は、「ふるさと納税」の仕組みを活用している。まず、東川町が資金を必要とする事業をあげて、そこに「投資」してくれる人を募集する。前年度は施設建設など8事業あった。(中略)
ひがしかわ株主制度は、さらに「株主」を現地に吸引する制度まで作っている。それが、年に1回開催される「株主総会」だ。町と株主との交流を深めるイベントとして実施され、毎年100人ほどが自費で参加する。その6割が道外からやってくる(中略)
「株主優待」で名産品を贈って地域の魅力を伝え、「株主総会」で現地まで訪れてもらい、移住につなげていく>
ふるさと納税競争はその後加熱しており、獲得金額ではもっと成功しているところもあるでしょう。ただ、町に来てくれる人を増やすのが目的というのは、他の町で聞いた覚えがありません。矢ノ目俊之さんがこのやり方を思いついたのは、民間企業へ「出向」したためだとのこと。この民間「出向」自体もユニークですね。
<実は、松岡町長は職員を次々と国内外に「出向」させて、見聞を広めさせている。矢ノ目氏も05年、東京のマーケティング会社に長期出張扱いで働くことになった。この時に、民間企業の株主優待制度を知って、「東川町を応援してくれる人を株主にしてしまえばいいのではないか」と考えた。だが、どうやって投資してもらうのか。悩んでいた時、ちょうど総務省がふるさと納税制度を表明する。矢ノ目氏は「これだ」と思い、松岡町長にアイデアを披露する。そして08年、ひがしかわ株主制度が始まる>
私はふるさと納税のメリットとされる「地域活性化」に懐疑的。確かに寄付金は得ているものの、それで活性化している証拠がはっきりしないのです。右派系新聞すらこれに懐疑的な記事を書いていました。その意味では、寄付が最終目標ではなく継続的な歳入増加が見込める移住を最終目標とした東川町のふるさと納税は、地域活性化策として真っ当だと感じます。
●ふるさと納税は防衛費増税分と同じ1兆円 この1兆円が無駄だらけ
2022/12/21追記:「ふるさと納税」は利用者にとっては魅力的な制度なので廃止しないでほしい…と願う人も多いでしょう。今回読んだ記事では「制度が正式な国の制度として存在する以上、これを利用することには何の問題もない」としており、国民が悪いわけではありません。ただ、日本を悪化させる制度であるため、国益を考えると廃止が望ましいんですね。
利用者にとっては嬉しいのに…と思うでしょうが、ふるさと納税は税金を無駄にする要素が多すぎるため、国民に利益を与えるにしても全く良い制度ではありません。別のシンプルな方法でやった方が、税金を無駄遣いせず効率的に目的を成し遂げて、節約できた税金は別のことにも使えます。その方が断然いいですよね。
その他にも各種の問題があり、<なぜ「ふるさと納税」が国家の根幹に関わる大問題なのか>(吉弘憲介氏(桃山学院大学経済学部教授)、三木義一氏(青山学院大学名誉教授) 22/12/3(土) 20:07配信 ビデオニュース・ドットコム)という記事では、いろいろな話が出ているようでした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9feeba9f49efafa7b22036b6c45b75bf15978876
なお、「国の根幹を揺るがす大問題」と聞くと大げさに感じるかもしれませんが、ふるさと納税の総額は今や1兆円を越える勢い。この記事と同じ時期、防衛費増額のうち年間1兆円を増税でまかなうかどうかで自民党内が揉めています。ちょうど同じ1兆円ですので、わかりやすいでしょう。それだけ多額の税金が無駄だらけになっているのです。
●ふるさと納税で地域活性化どころかサービスが低下する根本理由
2023/01/27追記:桃山学院大学経済学部の吉弘憲介教授による具体的な問題の指摘を。以前も書いているように、ふるさと納税は本来なら自分が住む地域のために使われるはずの税金が、よその地域のために使われている…というのが、最大の問題。教授は「未来のために使うはずだった税金が返礼品に消えている制度」という言い方をしています。
<実は住民は自分が住む自治体からゴミの収集だの公立の小中学校の運営など、様々な「返礼品」を住民サービスという形で受け取っている。それらのサービスは住民税という財源によって支えられているので、住民税を別の自治体に払えば、居住地の住民サービスにはただ乗りすることになる。これは「応益負担・負担分任」と呼ばれる住民税の大原則に反する>
ふるさと納税により税収が減ると文句を言っている自治体は、自分たちもふるさと納税を受け取れるように返礼品競争に参入すればいいではないかとの反論があるとのこと。ただ、これはいろいろと無理がある反論なんですよ。最も致命的なのは、やり方として効率が悪すぎるということ。使える税金が目減りしまくる…という問題があるのです。
<そもそもより多くの税を集めるために自治体間に競争させること自体がナンセンスだ。なぜならば、自治体間の(引用者注:豪華返礼品による)サービス合戦になれば、サービスの質や内容を充実させるにはそれ相応のコストがかかるため、日本全体としての実質的な税の実入りは減少してしまう。
競争が成長を促し全体のパイをより大きくする効果があるというのならまだわかるが、元々住民税のパイは一定なので、この制度の下ではそれを自治体間で奪い合うことになる。しかも、ふるさと納税された「税金」は3割が返礼品に使われるほか、カラフルな返礼品カタログの作成やウエブサイトの運営(引用者注:一番おいしい思いをしているのは仲介業者とも言われています)などにも使われるため、実際は納められた税金の半分程度しか対象自治体の手元には残らない>
●50%も消失!ふるさと納税はゼロサムゲームより悪いマイナスサム
2023/02/27追記:前回「競争が成長を促し全体のパイをより大きくする効果があるというのならまだわかるが、元々住民税のパイは一定なので、この制度の下ではそれを自治体間で奪い合うことになる」という説明が出てきました。これはゼロサムゲームのときによく言われる言い方と似ています。そして、これは当然批判されるときに言われる言い方です。
不毛だと批判されるゼロサムゲームの代表例は、競馬のようなギャンブル。敗者から集めた資金を勝者で分け合う仕掛けになっているので、全員分の損得を合計してプラスにはなりません。まさに「奪い合い」なのです。ただし、実際には、胴元・主催者が手数料をとっており、損得を合計するとゼロにすらならずマイナスなんですよね。
この場合、「ゼロサムゲーム」ではなく、足すとマイナスになるという意味で「マイナスサムゲーム」と言います。そして、ふるさと納税がまさにこの「マイナスサムゲーム」。前回書いたように、本来なら地元で使われるはずだった税金が50%も消失しています。ふるさと納税は日本を消耗させる制度じゃないでしょうか。
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