誤認逮捕で冤罪となったいわゆる遠隔操作ウイルス事件についてまとめ。<証拠がないのに雰囲気で逮捕、利益誘導による自白も>、<ずさんな捜査で濡れ衣を着せられた明大生のその後…>、<「今でも思い出す」誤認逮捕の元少年の父が最も怒る相手とは?>などをまとめています。
2023/05/27追記:
●自白強要で有罪服役 たまたま真犯人が自白して冤罪だと判明 【NEW】
●容疑者=犯罪者ではない…遠隔操作ウイルス事件という例
2022/07/24:当初タ「遠隔操作ウイルスのなりすましによる誤認逮捕、冤罪なのに自白という警察の怖さと馬鹿さ」というタイトルで書いていた話。その後、「誤認逮捕冤罪事件でなぜか自白を得る警察 遠隔操作ウイルス事件」というタイトルに変更しています。自白強要問題の代表的な事件です。
2012/10/22:今回の話では「トロイの木馬」という名前が出てきているように、そもそも「ウイルス」ではないのでは?とも言われているのですけど、主に遠隔操作ウイルス事件と呼ばれている事件。
Wikipediaによると、以下のような事件でした。
・大阪市の公式ホームページ掲示板に大量殺人を示唆する犯行予告を書き込んだとして、アニメ演出家の北村真咲さんが逮捕された。しかし、ウイルスによるPC遠隔操作だった可能性があるとして後に釈放された。後に他の被疑者も冤罪であると発覚。
・インターネット掲示板上で発生した複数の犯行予告事件について、被疑者とされた者が保有しているパソコンを介して、被疑者以外の第三者が実際の書き込みを行っていたとされる。
・手口そのものは従来からあるトロイの木馬やボットネットの応用でしかなく目新しいものではない。しかし、複数の感染被害者が誤認逮捕されたことでネット犯罪の捜査のあり方に見直しを迫ることになったことや、事件の真犯人を名乗る者がラジオ番組宛に犯行声明をしたことが特筆される。
●証拠がないのに雰囲気で逮捕、利益誘導による自白も
報道されている捜査の問題点が列挙されていたのですけど、ツッコミどころが多すぎてキリがありません。めちゃくちゃで呆れてしまいます。
・三重県で同様の事件が摘発された際に捜査段階でなりすましに気づいたのに対して、北村真咲さんを逮捕した大阪府警はなりすましに気がついておらず、確定証拠もないまま起訴まで行っていた。大阪市の事件では、「北村真咲」の実名で書き込まれるという犯行予告として不審な点が見られ、しかも北村真咲の読みを「まさき」ではなく「しんさく」という間違った読みで書き込むなど、不自然な内容であった。
・逮捕されてから北村真咲さんが犯行を否認し続けたにも関わらず、上記の不審な点を「犯人の挑発」と断定して起訴を行った。そのため、三重県の事件で遠隔操作が判明しなければ有罪になる可能性があった。
・大阪地検が「大人数で警戒して大騒ぎになったので、立件するしかないという空気になっていた」と発言していた。さらに北村真咲が「犯行を認めれば罪が軽くなる」(利益誘導に当たる)と言われたと証言していることから、冤罪を招くとして禁止されている違法な捜査を行っていた可能性が示唆されている。なお、利益誘導による取調べは陸山会事件でも裁判長より「冤罪を招く危険な方法であり、到底認められない」と強く非難されており、現在の判例では利益誘導による自白は任意性を欠き、証拠として認められないと言われている。
・事件の「真犯人」を名乗る人間からの犯行声明によれば、関与したものには明治大学の男子学生(19)が小学校を襲撃するという書き込みを行ったとして神奈川県警に逮捕された事件(横浜市小学校襲撃予告事件)も含まれており、この事件では被疑者が当初犯行を否認していたにも関わらず、最終的に犯行を認めて保護観察が確定している。そのため何らかの誘導により自白を迫ったのではないかという疑いが浮上し、神奈川県警は既に審判が確定した学生に再度事情聴取を行うこととなった。
●怖すぎ…誤認逮捕冤罪事件でなぜか自白を得る警察
上記で特に問題なのは、犯人ではないにも関わらず、「私がやりました」という自白を警察が得ていること。無理やり自白させたと考えるのが妥当でしょう。今読んでいる読者の方も含めて、誰もが犯人にされてしまうおそれがあるということです。
犯行予告により威力業務妨害の疑いなどで逮捕された4人のうち、2人は当初容疑を否認していたにも関わらず、後に関与を認める供述をしていたことがわかっています。
例えば、悠仁親王が通う幼稚園などをターゲットにした襲撃予告メールで逮捕された福岡市内の男性(28)は、報道によると、当初は「同居の女性がやった」と容疑を否認。しかし、その後は、「就職活動で不採用になったのでむしゃくしゃしてやった」などとやってもいない犯罪の動機を告白し、容疑を認めてしまいました。
また、横浜市のホームページに小学校を襲撃すると書き込んだとして逮捕された明治大男子学生(19)は、「何もやっていない。不当逮捕だ」と否認していたのに、その後に供述を一転。「楽しそうな小学生を見て、困らせてやろうと思った」などと、具体的に本当らしい動機を言った上で自供しています。
痴漢えん罪などの著書がある井上薫弁護士は、以下のように解説。心理的に追い込まれたことや捏造のようなことが行われた可能性を指摘しています。
「威力業務妨害罪で正式起訴になれば、重くて懲役3年と、刑は甘くありません。前科がないと執行猶予が付きますが、懲役1年の可能性もあり、怖いはずです。そう簡単に自白しないと思いますが、警察や検察の追及がそれだけ厳しかったということでしょう。それで、何かよく分からないものの、パソコンに残っていて逃れようがない、という気持ちになってしまったのだと思います」
「取り調べでは、泣いたり騒いだりして、少しずつしか話したりしません。それを、警察などがもっともらしい作文に作り上げるわけです。裁判官に『おかしい』と言われないためにですよ」
(
なりすましウイルスで「えん罪」 それでも2人が自白していたのは? 2012/10/16 19:16 J-CASTより)
●IPアドレスが判明すれば間違いないと思っていた…と言う警察
こうした冤罪は過去にもたくさん起きており、ハイテク犯罪だけの問題ではありませんので、あまり特別視しない方がむしろ良いかもしれません。ただ、警察の知識の無さには呆れました。
ある警察幹部は、「IPアドレスが判明すれば、捜査は半分終わったようなものだと思っていた。想定外の事態ですよ」という素人丸出しなことを言っていました。
これを紹介した産経新聞は、"警察幹部の嘆きの声は、ネット犯罪の捜査ではIPアドレスから情報をたどり、容疑者の特定につなげるケースが多いことから漏れたものだった"と、なぜか擁護的な書き方。
(なりすまし事件、想定外が油断に 警察、被害者に自白強要か [産経新聞] 2012年10月17日 12時40分 更新 より)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1210/17/news064.html
一方で、サイバーテロの捜査経験がある警視庁OBの以下のような声も載せていましたが、これも最先端の技術だといった感じです。
「ネット犯罪の手口は日進月歩。ましてや相手のパソコンを乗っ取るハッキングの技術は、ネット犯罪の象徴だ。パソコンが生活の一部になるにつれて、こうした犯罪が起きてくるであろうことは十分に予想できた」
でも、IPアドレスの偽装なんて大昔からあるもの。最近出てきた最新の技術なんかじゃありません。ですから、IPアドレスが絶対だなんてことは口が裂けても言えません。今回に関して言えば、特に他の状況の不自然さも目立つ状況であり、気づかなかったというのはおかしいです。
たぶん読者の中にはIPアドレスについて知らなかった人もいらっしゃるでしょうし、誰でも知っているというものではないのでしょうが、それを元に捜査する人となれば全く別です。知っていなければ、話になりません。あまりに幼稚すぎます。
●ずさんな捜査で濡れ衣を着せられた明大生のその後…
その幼稚な知識と違法な脅迫捜査で人の人生を壊しているんですから、どれだけ批判しても批判し足りないほどです。先に出てきた明治大学の学生は、その後、大学を辞めていたみたいですね。大学を辞めた理由ははっきりとしていないものの、ネットでは、誤認逮捕が原因で大学を辞めざるを得なくなったのではないかという憶測が広がっていました。
(
無実の罪を着せられた学生、大学を辞めていた!?(トピックニュース 2012年10月18日15時00分)
実は「元大学生」の表記を使っているところは現在見当たらず、誤報だった可能性もありますが、まあ、そうじゃなくても十二分に人生をハチャメチャにしています。警察の方の認識を見ていると、こういう風に他人の人生を壊してしまうという自覚が足りない(というか無い?)ようです。
警察の捜査などについて批判すると、「なぜか犯罪者の味方をするのか?」などと言う人が出てくるのですけど、そもそも本当に犯罪者かどうかは裁判をして確定するまでわからない(裁判の確定後ですら、無実が判明することもあります)のですから、こうした問題は追求していかねばなりません。
●「今でも思い出す」誤認逮捕の元少年の父が最も怒る相手とは?
2022/07/24追記:遠隔操作ウイルス事件で誤認逮捕された人のその後に関する話をもう少し書いておくことに…。真犯人に実刑判決が出たタイミングである2015年2月5日に
PC遠隔操作事件、「早く忘れたい」 誤認逮捕された元少年の父 | カナロコ by 神奈川新聞という記事が出ていました。
<横浜市立小学校への襲撃予告事件に絡み県警に誤認逮捕された元少年=当時(19)=の父親(54)が神奈川新聞社の取材に応じた。捜査・司法当局への強い不信感を表し、「二度と起こさないでほしい」と訴えるとともに、将来的な社会復帰を求める片山被告の姿勢を「非常に甘い」と批判。一方で「私たちにも人生がある。もう触れたくない。早く忘れたい」と心情を吐露した>
「捜査は手を尽くしていなかった。不審な点を放置していて、変だなと何度も思ったが、何を言っても駄目だった」と警察、検察を批判。続けて「裁判所も、誤った捜査をうのみにしていた」とも批判。裁判所までがきちんと仕事をしていないというのは、日本であるあるな話。裁判所がしっかりしていれば、冤罪事件はぐんと減りますからね。
「早く忘れたい」としていましたが、こうした事件の被害者らは忘れたくても忘れられないといいます。また、冤罪だった少年の父は、「被告のことはいつか忘れるかもしれないが、誤認逮捕時の(3者の)対応は今でも思い出す」として、真犯人以上に警察・検察・裁判所の対応の方が精神的に参ったようでした。
●自白強要で有罪服役 たまたま真犯人が自白して冤罪だと判明
2023/05/27追記:別の冤罪事件の例として、
氷見事件 - Wikipedia(富山事件とも呼ばれる)を追加。遠隔操作ウイルス事件の10年くらい前の2002年の事件です。警察はこの事件でも自白をでっち上げていました。また、有罪で服役を終えた後に、たまたま真犯人が自白したために警察が隠せなくなったというケース。下手すれば、冤罪だと判明せずに終わっていました。
<氷見事件(ひみじけん)とは、2002年(平成14年)1月14日と3月13日に富山県氷見市で相次いで発生した強姦および強姦未遂事件であり、犯人としてタクシー運転手の男性が誤認逮捕された冤罪事件である[1]。タクシー運転手の男性は懲役3年の有罪判決を受けて服役したが、2006年に真犯人の男が見つかった>
<取調べは任意で行われたにもかかわらず、4月8日以降断続的に3日間、朝から晩まで長時間にわたった。4月15日の3回目の取り調べで、既に何が何だか分からなくなり疲れ切っていた甲に対し、取調官は「お前の家族も『お前がやったに違いない。どうにでもしてくれ』と言ってるぞ」などという噓で自白を誤導した。絶望した甲は容疑を認め、自白したとして逮捕された。逮捕状は既に準備されていた。>
自白の裏付け捜査が行われたのですけど、当然、真犯人ではないためにすべてが捏造。タクシー運転手の男性は、取調官に「はい」か「うん」しか言うなと言われ、怖くて「おかしい」などとは言えない状態で、以下のようにころころ変わる警察のシナリオに合わせて自白を誘導されました。
<自宅の捜索では星のマークの運動靴は発見されず、取調官が「捨てたんだろ」と言うので甲(引用者注:タクシー運転手の男性のこと)は「はい」と答えた。警察は彼が捨てたと供述した場所を捜索したが、やはり運動靴は発見されなかった。取調官が「燃やしたんだろ」と言うので甲は「はい」と答え、運動靴は自宅で燃やしたことにされた。
被害者目撃証言では犯行時サバイバルナイフを突きつけられ、チェーンで手を縛られたとされたが、取調官は甲の記憶違いとして甲の自宅の捜索で出た果物ナイフとビニールひもを証拠とした。被害者自宅の見取り図も、取調官が甲の後ろから手をとり書かせた。
また、科学捜査研究所の担当者は、現場に残っていた体液が甲の血液型と一致しない可能性を認めながら、氷見署長から依頼がなかったという理由で再鑑定しなかった>
<甲が刑期を終えて出所した後の2006年(平成18年)8月、真犯人の男Xは別の強制わいせつ事件で鳥取県警察に逮捕され、同年10月には(A・B両事件とは別の強姦致傷・強姦未遂容疑で)氷見署に逮捕された[14]。同年11月中旬、Xは氷見署の取り調べに対し、A・B両事件について自白し[8]、両事件について詳細に供述した[15]>
この逮捕には、自白に「秘密の暴露が全くない」こと、犯行当時に通話記録などといった明白なアリバイが存在したこと、現場証拠である足跡が28 - 28.5 cmだった一方、甲の足はそれより小さい24.5 cmであることなどから、立件は無理ではないかとの声が氷見署内にさえもあったといいます。
ところが、前述の通り、立件しただけでなく、裁判で懲役3年の有罪判決が確定して服役する…という恐ろしいことになりました。さらに、逮捕後も手口が類似する事件が発生していたにもかかわらず、富山県警は捜査を行わなず、真犯人が「富山県警はわかっていたのに隠蔽した」と指摘する事態になっています。
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