ボスタイプが理想的なリーダーというのは間違いであるという話について。一方で、一見仲良しチームを目指しているようなやり方でも、うまくいかないことがあるという例もありましたので、あわせて紹介しています。
2012/11/20:
●「できる部下」が昇進して「できない上司」になるパターン
●ボスタイプが理想的なリーダーというのは間違い
●ボスタイプだけじゃなくて仲良しチームでもダメ?
●「仲良しチーム」ではなく「表面的な平和主義」
2017/09/27:
●偉い上司は部下を統率できない 権威で統率する…という勘違い
●部下に指図する前にまずは「人格」を見せよ
●個人に注目すべきではなくチーム全体を見よ
●管理職はチームのために経営陣と戦わなくてはいけない
2021/09/06追記:
●部下を怒鳴るパワハラ上司に「部下を従わせるために必要」と擁護の声 【NEW】
●「リーダーシップ」は「偉い上司が部下に命令すること」と勘違い? 【NEW】
●「できる部下」が昇進して「できない上司」になるパターン
2012/11/20:最初は以前の投稿でも書いた部下と上司では、求められている役割が異なるという話。なぜ何回も?と思うかもしれませんが、強調しておきたいため、今回もやります。
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マネージャー・管理職の役割1 早い出世課長ほどマネジメント下手 ■
マネージャー・管理職の役割2 できる人のできない人指導が無駄な理由 ■
マネージャーの役割6 ~「最強の戦士」なのに「最悪の指揮官」~ ケース2“できる部下だった人”が上司になったときの落とし穴 「デキル俺の言う通りやればいい」で駄目になる(斉藤 秀樹 日経ビジネスオンライン、2012年11月13日(火))では、「私は新人時代から、できる営業マンでした」という自信満々の上司が、部下には逐一指示を出し、懇切丁寧に指導しているのに、部下が不満を持っていると相談していました。
・今、経験の少ない部下を見ていると、正直に言って、頼りなく感じます。彼らには営業のセンスがありません。
・ですから、部下には逐一、指示を出しています。本当に細かいことにも、彼らが迷わず済むように、懇切丁寧にしています。そのお陰で、私のチームはそこそこの成績を上げています。
・にも関わらず、部下は常に不満顔。最近は口答えをする者まで現われました。自分のやり方でやりたいなどと言います。それではうまくいかないから、正しいやり方を示しているのに、どういうつもりなのでしょうか。
・大体、私のやり方でそれなりに成績を上げているのですから、感謝はされても、不満を抱かれる筋合いはありません。どうしたら部下を素直に変えられるでしょうか。
●ボスタイプが理想的なリーダーというのは間違い
上記を読んでわかるように、質問者としては「部下が悪い」ということを想定した質問でしたが、作者の斉藤 秀樹さんの回答は「ボスタイプが理想的なリーダーではありません 」というもの。できると思っているこの勘違い上司に対し、「リーダーが、ボスタイプこそが理想的なリーダーだと勘違いしているうちは、チームは成長しません」と断言していました。
・ボスタイプのリーダーが長期安定的に成果を出せるのは、部下との強固な信頼関係が構築できている時だけ。これなしに今、多少の成果を出せていたとしても、そのチームのパフォーマンスは、リーダーのパフォーマンスを超えません。
・チームとは、多様性のあるメンバーによるシナジーで、個人のパフォーマンスを超えたパフォーマンスを得るための存在。これでは、チームの意味がありません。
・また、相談者は、メンバーを自分の道具のように使っています。これでは、メンバーは自分で物事を考えなくなり、自律性を失います。
・リーダーはメンバーに、チームのゴールやビジョンを説明できなくてはなりません。これらを共有した上で、「このゴールに到達するために、何をしたらいいと思う?」か質問し、部下の意見を聞きます。どんなに幼い意見にも、見当外れの答えにも、否定的な発言は禁物です。ここで重要なことは恐れなく何でも話せるチーム状態を創るということです。
"そんなに甘やかす必要があるのか、と感じる"かもしれないが、今の"企業には見よう見まねを許すような余裕はな"いという指摘も。企業側の教育不足あるいは勝手に育つのを待つ余裕がないというのは、よく他の記事でも指摘されています。昔はこうだった…とは言っても、その昔は今と同じ厳しい環境ではなかったわけです。
●ボスタイプだけじゃなくて仲良しチームでもダメ?
さて、こういうチームの和…みたいな話をしている作者ですが、第1回は一見それと正反対に見えるようなテーマをやっていたんですよ。
ケース1「チームの仲良ければ成績も伸びる」と信じている上司 「職場の雰囲気が大事。表面的な平和主義」で駄目になる(日経ビジネスオンライン 斉藤 秀樹 2012年11月6日(火))というものです。
こちらでは、「チームの仲良ければ、成績も伸びる」と思っている上司がダメ出しされていました。ただし、こちらの「仲良しチーム」の例はあまりにも極端で、そりゃダメだろうとわかるもの。例えば、以下のようなことをやっていたそうです。
・ちょっとした雑談の途中で、部下同士で意見が対立しそうな時は、話題を変えるようにしている。
・遅刻癖のある人が気になってはいるのですが、まあ小さなことだなと、気にとめないようにしている。
・もっとも若い部下が、先輩社員に向かって、その社員がやってきた仕事の進め方を否定するようなことを言ったとき、内心イラッとしたものの、やんわりとたしなめる程度に留めた。
極端というか、仲良しチームを作るという目的としても間違っている感じですかね。叱るは解決手段として最も有効なものでないのは確かですが、上記の例は問題を解決せずに見て見ぬふりをしているだけで「叱る」の代替手段をとっていませんし、それによって他のメンバーの不満も溜まってしまっており、仲良しにもなれていません。
●「仲良しチーム」ではなく「表面的な平和主義」
また、結果としてチームのパフォーマンスも他より悪くなってしまったそうです。この上司は「仲良しチームなのに…」と書いていたものの、そもそも実際には「仲良しチーム」でもないんじゃないかと思われます。作者の斉藤 秀樹さんはこれを「表面的な平和主義」と表現しており、「表面的には平和主義なリーダーは、チームの成長を阻害する元凶」だとしていました。
また、作者はチームの成長を4つの段階で説明し、「相談者のチームは、4つの成長段階のうち、まだ最初の段階」だという説明もしています。
第1段階 形成期(フォーミング)
お互いに気を遣って様子見。誰も本音を話さず、建前論だとか、事なかれ主義という言葉がふさわしいチーム。
第2段階 混乱期(ストーミング)
自分の考えを表現し始めるが、チーム意識が希薄で自己が優先されるため、ぶつかり合いや議論の平行線が続く。ただの人格否定合戦に陥いりやすく、パフォーマンスも低くなる。しかし、この時期を経験しないと、チームは成長しない。
第3段階 標準期(ノーミング)
ほかのメンバーを受け入れることができ、また、協力して仕事を進めることができるようになる。 一時期下がっていたパフォーマンスも、徐々に上がる。
第4段階 達成期(トランスフォーミング)
与えられた目標が物足りなくなり、メンバーは自律的に動き出す。こうなるとメンバーは「このチームでならなんでもできる」と考えるようになる。
先の「できる営業マン」リーダーのチームは、何かどの段階にも当てはまらない感じですね。チームとしてのスタートラインにも立っていない…というか、リーダーの道具に過ぎないからそもそもチームですらないってことなのかな? まあ、ボスの顔色を伺って当たり障りなくという感じなら、やはり第1段階と言えるでしょうか?
「第1段階 形成期(フォーミング)」は居心地のいいものと悪いものがあるそうで、残念なことに世の中の多くのチームがこの段階で足踏みしているのかもしれません。
●偉い上司は部下を統率できない 権威で統率する…という勘違い
2017/09/27:「マネジャーとして読むべきもの」として厳選した論文を集めた『
マネジャーの教科書――ハーバード・ビジネス・レビュー マネジャー論文ベスト11
』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編、ダイヤモンド社)。この中に掲載されているハーバード・ビジネス・スクールのリンダ・A・ヒル教授のによる論文「新任マネジャーはなぜつまずいてしまうのか」が紹介されていました。
(
新人マネジャーが抱きがちな「5つの誤解」とは ライフハッカー[日本版] 2017年9月26日 06時30分 (2017年9月27日 15時11分 更新)より)
まず、最初の誤解3つは、もともとの投稿にあったボスタイプリーダーの話。この誤解は新人に限らず、多くの管理職が勘違いし続けているんじゃないかと思われます。
【誤解】1:管理職の権威は絶対的なものである
【誤解】2:管理職の権威を過大視する
【誤解】3:統制しなければならない
ただ、この論文では、こうした誤解を非難しているというよりは、現実を見てがっくりすることを指摘していると言った感じ。例えば、管理職に権利と特権があると思っていたら、上司や同僚、部下、社外からも相矛盾する要求が容赦無く突きつけられ、それらの人間関係のせいで身動きできなくなってしまうと指摘されていました。
とりあえず、論文では、権力者になったなどという幻想をさっさと捨て、交渉しながら相互依存関係を深めていかなければならないとアドバイスしていました。
●部下に指図する前にまずは「人格」を見せよ
2番目の「管理職の権威を過大視する」という誤解も似たような感じで、上意下達の命令に部下たちがいつも従うとは限らないと、無力さを指摘するものでした。
この「管理職の権威を過大視する」でおもしろかったのは、「優秀な部下ほど従順ではないものだ」としていたもの。最初の投稿で出てきた自称優秀な部下だった上司さんも、たぶん部下時代は自分に最適なやり方でやっており、指図されるのは絶対に嫌だったろうと想像します。
また、自分の「人格」、すなわち「まっとうに行動する意思」の持ち主であることを示す必要があるとアドバイス。最初の上司さんが聞きたくなさそうな話をされています。さらに、自分の「コンピタンス」、すなわち「まっとうに行動する能力」を持ち合わせていることを示す必要があることも指摘されていました。
これらの話は、3番目の「統制しなければならない」という誤解にも当然関係してきます。仮に権威に頼った方法で統率ができたとしても、部下らはやる気がある状態ではないため、持てる力を発揮しようとはしないとされていました。
●個人に注目すべきではなくチーム全体を見よ
一方、残り二つの誤解は、最初の投稿の話で言うと、仲良しタイプを目指そうといったものが、誤解であると指摘するものかも?と思うタイトルでした。
【誤解】4:部下一人ひとりと良好な人間関係を築かなければならない
【誤解】5:なによりも円滑な業務運営を心がける
ただ、実際の内容は?と読んでみると、【誤解】4は、仲良しチームの否定ということではなさそうな感じ。「さまざまな関係者から信用を勝ち取り、自身の影響力を広げ、周囲と期待しあう関係を築いていくこと」は重要だとしています。
一方、ここで陥りやすいミスが、一対一の個人的な関係を重視しすぎると、チーム全体に悪影響が及ぶというものだとされていました。この言い方はわかりづらいんですが、具体的な説明を読むとわかります。メンバー個人の業績にばかり目が向かってしまい、組織文化や部門の業績には無頓着になってしまうという意味でした。
個人に注目すべきではなく、チーム全体として考えるべきといったことを言いたかったようです。
●管理職はチームのために経営陣と戦わなくてはいけない
では、最後の誤解「なによりも円滑な業務運営を心がける」とは、どういうものでしょう? こちらも読んでみると、「なによりも円滑な業務運営を心がける」というタイトルとだいぶ違う印象を感じるものでした。
論文では、上から支持された改革プランに従うだけのマネージャーは良くないとしていました。そして、マネジャーたるもの、職掌(しょくしょう)の範囲内であろうが、それを超えていようが、自分のチームの成功に向けて改革を起こす義務を負っているという厳しいことをおっしゃっていました。
また、チームが失敗した場合は、責任を制度や経営陣に転化しがちだが、それらも間違いであることを指摘。つまり、上司のさらに上の上司などに対し、波風立てろという話です。なんかこの最後はえらいハードなアドバイスでしたね。チームのために身を粉にして働ける、こういう理想的なリーダーは現実にほとんどいないと思われます。
●部下を怒鳴るパワハラ上司に「部下を従わせるために必要」と擁護の声
2021/09/06追記:
河野太郎大臣パワハラ音声 官僚に怒鳴り声「日本語わかる奴、出せよ」 | 文春オンライン(2021/09/01)という記事が出ていたのですが、「官僚を従わせるためには必要」という擁護の声が多く、あまり叩かれていませんでした。河野太郎さんだけでなく、多くの人が前述してきたような勘違いリーダー像を持っている感じですね。また、「叱る」が効果的な指導法であるという誤解もありそうでした。
<9月29日に自民党総裁選が迫る中、世論調査で「次期首相1位」に挙げられる河野太郎ワクチン担当相兼規制改革担当相(58)。8月24日に行われたオンライン会議の場で、資源エネルギー庁の幹部職員にパワハラを行った疑いがあることが「週刊文春」の取材でわかった>
「エネ庁の素案では、2030年に総発電量のうち、再生可能エネルギーの比率を『36~38%程度』にすると記されています。これは2019年度の実績(約18%)の2倍に相当する、極めて高い目標値です。ただ、規制改革相として再エネ推進に取り組む河野大臣は『36~38%』が『上限』ではないという意味で、『36~38%以上』と明記するよう求めてきました」(経産省関係者)
<河野「積み上げて36~38になるんだったら、以上は36~38を含むじゃないか! 日本語わかる奴出せよ、じゃあ!」
(中略)官僚に対する激しい言葉はこの後も続き、怒鳴る場面もあった。官僚の言葉を遮るように、「はい、次」「はい、ダメ」と連発される“ダメ出し”は計13回にも及んだ>
「『日本語わかる奴、出せよ』などの発言はパワハラに当たる恐れがあります。厚労省が作成したパワハラの指針では、『精神的な攻撃』という欄で、『人格を否定するような言動を行うこと』と明記されていますが、これに該当するでしょう。こうした高圧的な振る舞いが常態化した場合、官僚からパワハラで訴えられる可能性も出てきます」(佐々木亮弁護士)
●「リーダーシップ」は「偉い上司が部下に命令すること」と勘違い?
河野太郎議員がリーダーシップを誤解していそうだというのは、<河野太郎行革相 菅内閣の支持率低迷に「総理のリーダーシップで進んでいるところが評価されていない」>(スポニチアネックス / 2021年8月29日 17時35分)という記事でも見えたんですよね。発言を見ると、「リーダーシップ」というのは、「部下に命令すること」だと勘違いしている感じです。
「菅内閣で例えば2050年のカーボンニュートラルということを総理が打ち出したことによって今度のエネルギー基本計画の中には再生可能エネルギーが最優先だという新しい原則が盛り込まれることになるんだと思うんです。今度のワクチン接種も、おそらく総理が1日100万回という号令をかけた、あるいは7月末までに高齢者の接種を終わらせるということを、総理がかなりのリスクをとって号令をかけたことによって高齢者も7月末にほぼ終わりましたし、1日100万回どころか最大170万回くらいの接種という、かなり総理のリーダーシップで進んでいるところがなかなか評価されていないというのは正直忸怩たるものがある」
「デジタルという総理が号令をかけたことによって、例えば今年所得の少ない方、お子さんを持っている人、お子さん1人当たり5万円という特別給付を申請書なしで、こちらから対象者に銀行口座にそういう支援金を振り込むというプッシュ型の支援を初めてやった。これは総理がデジタル化しようという号令をかけたからこそできたんですが、ほとんど報道もされず、これは菅総理のイニシアチブであったにもかかわらず残念ながら世の中に知られずに評価につながってないというのは非常に残念。菅総理だからできたデジタル化、あるいはカーボンニュートラル、あるいはワクチン接種の加速といったことを我々ももう少し発信を強化していかなければいけないと思っています」
https://news.infoseek.co.jp/article/sponichin_20210829_0213/?tpgnr=poli-soci
カーボンニュートラルは2050年という将来の話であり、まだまだ実現が先の話。成功とされたワクチンも政府は命令する一方でフォローが少なく現場任せで、相次ぐ方針転換に現場は大混乱していました。これはワクチン担当の河野太郎さん自身の責任でもあるので、成功と言いたいのでしょう。デジタル化も1つのエピソードのみで成功という論法です。
さらに、そもそももともと書いていたリーダーの話って、全然こういう話ではありませんでしたよね。部下の人格否定やダメ出しを13回も行うこととも違います。例えば、部下の意見を否定せず何でも話せるチーム状態を創るとか、チームのパフォーマンスを高めるとかいった話でした。河野太郎さんは「偉いリーダーが命令するのが良い」という典型的な誤解をしているように見えます。
【本文中でリンクした投稿】
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マネージャーの役割9 リーダーシップ論 ボスとリーダーの違い ■
マネージャーの役割5 ~異説リーダー論~ ■
マネージャーの役割7 ~仕事の任せ方、部下の育て方~ ■
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