★2011/11/9 TPPの問題点は問題じゃない?と非関税障壁
★2012/12/6 TPP反対者はマルクス経済学者?重商主義・保護貿易主義で栄えた国など一つもない
★2011/11/9 TPPの問題点は問題じゃない?と非関税障壁
まだ他にもTPPでは書きたいものがあるんですが、池田信夫さんのブログを見ていただけで、長くなりました。まず、
2011年11月05日 00:33 TPPをめぐる問題と非問題から。ニコニコ動画の企画なのかな?池田信夫さんは「トコトン議論2~TPP問題を考える~」というものに参加されたようです。
「トコトン議論2~TPP問題を考える~」は、予想以上の盛り上がりで3時間に及んだ。しかし大部分は、農業保護やら非関税障壁についての被害妄想の話ばかりで、2時間半ぐらいたってからの田村耕太郎氏の「なんで今ごろこんな議論してるんだ」というコメントがもっとも的確だった。おっしゃる通り、巷で議論されている問題のほとんどは、経済学的には trivialな非問題である。 |
服部信司氏は「関税を下げたら農業が壊滅する」という古めかしい農業保護論を、孫崎享氏は「TPPはアメリカの陰謀だ」という陰謀史観を繰り返すだけ。クルーグマンの教科書の練習問題で、「次の主張の誤りを指摘せよ」という例に出るレベルの話である。こういう重商主義のあほらしさは、当ブログでも「アゴラ」でも何度も指摘したので繰り返さない。 |
もう一つ、
2011年11月05日 14:33 TPPについてのリンク集を紹介しますが、こちらは短くきれいにまとまっていて、全部引用してしまいたいです。
・自由貿易のメリットは輸出を増やすことではなく、消費者の利益を最大化することである。これは国際経済学の教科書の最初に書いてあることで、それを理解しないとすべてトンチンカンな話になる。
・いろいろ話題の中野剛志氏の話は、この根本問題を勘違いして、「TPPで輸出は増えないからメリットがない」とか「関税を撤廃して農産物の価格が下がったらデフレになる」とかいうナンセンス。論評する価値もない。
・「貿易はWin-Winのないゼロサムゲームだ」と思い込んでいる内田樹氏の錯覚も、よくあるパターンだが、貿易はプラスサム・ゲームである。しかも自由貿易による消費者の利益は生産者の損失より必ず大きい。 |
ここらへんは前々回の<>TPPの農業問題 既に関税ほぼゼロの農産物も>で取り上げたはず。
池田信夫さんはTPP賛成派なので偏ってるかもしれませんが、私も反対派の主張に昔懐かしい重商主義や保護貿易主義的な匂いを感じて違和感はありました。それを理想とするなら、何十年も前に戻ってやり直さねばなりません。
・非関税障壁という言葉を今ごろ初めて知って騒いでいる手合いもいるようだが、世界一多い日本の非関税障壁を守れという話は、世界のどこにも通用しない。ISD条項なんて、FTAやEPAには必ずついているものだ。司法の「ホームバイアス」が隠れた非関税障壁なので、これに異議を唱える制度がないと自由化が機能しない。 |
これは興味あったので、後述。
・農業は産業としてはマイナーだが、国民生活にとっては重要だ。しかし、よくも悪くも自由化の影響は少ない。「カロリーベース」の食料自給率を守るなんてナンセンスで、むしろ野菜や果物など低カロリーで付加価値の高い作物にシフトして自給率を下げるべきだ。
・農業自由化は経済問題ではなく、政治問題である。この騒ぎを仕掛けている黒幕は農水省だ。それは彼らの国家貿易などの農業利権を脅かすからだ。東谷暁氏は「農協の利権を守るためにTPPに反対する」と公言し、宇沢弘文氏も農協に利用されている。
・本質的な問題は、農業保護でも貿易自由化でもなく、直接投資の拡大による経済統合である。自由貿易圏には問題もあるが、大局的にはメリットのほうが多い。それがブロック経済になりかねないというリスクはあるが、鎖国とどっちがいいのかという比較の問題である。
・日本の産業にとっては、TPPより円高の影響のほうが大きい。「空洞化」は避けられないし、避けるべきでもない。むしろ円の高いうちに直接投資を拡大する戦略を考えるべきだ。 |
これだけ各国と貿易が進んで、これからもFTAなどが増えてくる(日本以外ではずっと進んでいる国がいくつもあります)と、過去にあったようなブロック経済にはならないような気がします。
円高に関しては、もっと輸入が増えりゃいいのになぁとは思います。今は相対的に安く見えるんですもの、もう少し増えても良いはずです。
で、気になったという非関税障壁です。
Wikipediaより引用していきますが、これは先に名前が出てきた保護貿易主義とも関連します。
非関税障壁(ひかんぜいしょうへき)とは、関税以外の方法によって貿易を制限すること。または、その制限の解除要件のことである。非関税措置と呼ぶこともある。
具体的には、輸入に対して数量制限・課徴金を課す、輸入時に煩雑な手続きや検査を要求する事。または国内生産に対して助成金などの保護を与える事などによって行われる。
また拡大解釈的には、輸出入に不平等な結果をもたらす、国特有の社会制度や経済構造を含む場合がある |
これはたぶん
TPPの反対意見 ~参加理由の問題点の指摘~で、私が気になったところ、TPPの反対理由としてもっともだと思ったところじゃないかと。
世界恐慌の際、各国は保護主義に傾きブロック経済が形成され、英米仏蘭のほどの規模の勢力圏をもたない日独伊や東欧諸国において侵略志向が台頭して第二次世界大戦発生の原因になった。また経済学の立場からは自由貿易こそが経済成長を最大化する枠組みであり、恐慌時のブロック経済化は恐慌を悪化させたものであるとする見方が主流になる。そのため、第二次世界大戦後は自由貿易が西側世界の建前となる。 |
保護貿易が恐慌と戦争をもたらしたんだそうな。
しかし、その後自由貿易に完全に変化したわけではなく、非関税障壁のご登場となります。
しかし企業、労働組合、農民などは各国政治家の有力な支持母体であり、そのうち比較優位にない産業の関係者は輸入抑制を求めて政治家に圧力をかけることになる。
(中略)
これらの背景から、環境保護・労働者保護・生産者保護政策などを遂行する上で輸入に対して制限を設ける必要があり、非関税障壁は必要悪であるという主張が生まれた。
* 公衆衛生を守るため、一定の規格を満たさない食品や農産物の輸入を認めない * 労働者酷使によって価格競争力を得た製品を労働ダンピング商品として排除する(→フェアトレード) * 宗教的理由(戒律、タブー)によって規範に反する製品を排除する * 政府調達先を事実上国内企業に限る * 国内販売製品の一定割合以上の部品に国内生産品(ローカルコンテンツ)の使用を義務付ける * 自国文化育成のため、テレビ放映や映画上映における輸入コンテンツの割合の制限枠を設ける(→スクリーンクォータ)
などが今まで行われてきており、近年では特に、
* 障害者保護を行わない国家・地域で製造された製品を排除する * 環境汚染対策を十分に行わない国家・地域で製造された製品を排除する * 遺伝子工学(いわゆるバイオテクノロジー)的手法を用いた農/畜産物を排除する * 資源管理国際協定に従わない国家・地域で収穫された水産物(マグロが好例)を排除する
などの例がみられる。
これに対し、自由貿易の立場からは「自国の正当化のために非経済問題を悪用している」などの再反論が行われることが多々あり、多くの事例では当事国同士で紛争となり、さらには貿易摩擦へと発展している。
一般に、非関税障壁の撤廃により消費者は商品の価格低下やコストパフォーマンス向上といったメリットを受ける。一方、食品の製造年月日の表示義務は輸入食品にとって不利な非関税障壁であるとして消費期限のみの表記へと制度変更された事例もあるように、その他の面において消費者がデメリットを被る可能性がある。 |
これ自体はやはり必要でしょうね。アメリカだって、たとえば車のカリフォルニア州の排ガス規制などは有名です。それも「無くせ!」って主張できるのかなぁ?
日本はこういうときに守りしか考えなくって、攻めの発想が出ないですよね。
やっぱり個々に交渉してくという形になるのかな?(ここらへんの疑問は
米韓FTA毒素条項に見るTPP非関税障壁問題で大体解決しました)
環境や衛生に関する規制はどう考えても必要ですし(ただ、うちの基準で良いじゃんという話で「無くせ」ではないんでしょうね、おそらく)、むしろ先進国ではそういうのに積極的なところが多いですし……。
そして、そういった交渉力になると確かに日本は心配です。「私たちは駄目だ、だから、交渉はせずに殻に閉じこもる!チャンスなんていらない!」と主張しているようで、気が引けるのですが……。
★2012/12/6 TPP反対者はマルクス経済学者?重商主義・保護貿易主義で栄えた国など一つもない
タイトルを見た時点で今で言うとTPPかな?と思いましたが、最初はそういう話はありません。
2012年12月3日 ダイヤモンド・オンライン
伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長]
アダム・スミス以来続く自由貿易vs保護貿易 だが、保護主義で栄えた国など一つもない!
現代の経済学の基礎の多くは、アダム・スミスが著した『国富論』にあると言われる。アダム・スミスが経済学の父と呼ばれる所以だ。
アダム・スミスはこの本を、重商主義を論駁する目的で書いたと言われる。重商主義を信奉する人たちは、「輸出はよいが輸入は困る」と考える。輸出をすれば外貨を稼げるが、輸入が行われれば国内市場が打撃を受けると考えるからだ。重商主義は保護主義の典型である。
アダム・スミスが国富論を世に出したのは1776年である。それから250年近くたっているが、世の中で展開されている議論には、あまり大きな違いは見られない。
相変わらず「輸出は利益、輸入は損失」というような議論が展開されている。経済界は自由貿易協定を進めないかぎり輸出で不利になる、と主張する。もっと輸出がしやすい環境にしないと、利益を韓国企業などにさらわれると主張するのだ。
一方で保護主義者は、海外からの輸入を自由にすると、低価格の商品や物品が大量に入ってきて、国内の生産者が大きな打撃を受けるという。それだけでなく、海外からの輸入を自由にすれば、さまざまな食料が入ってきて、日本の食の安全が侵されかねないと考える人もいるようだ。
http://diamond.jp/articles/-/28747 しかし、その後やはりTPPの話が登場します。
大半の「経済学者」はTPPにも賛成している。ただ、「経済学者」とカッコでくくったのには理由がある。
大学で教鞭をとっている「経済学者」のなかにも、TPPに反対している人がいる。ただそうした人たちの経歴を見ると、いわゆるマル経(マルクス経済学)を学んだ人たち、農林水産省の役人を経て大学教授になった人たち、あるいはマル経ではないが政治経済学とでもいうのか、経済学の主流とは少し違った分野で研究をしてきた人たちが多いように思われる。
マルクス経済学というのは、カール・マルクスの経済学の体系です。カール・マルクスというのは、19世紀以降の共産主義運動・労働運動の理論的指導者であるあのマルクスです。
そういう意味では共産主義的な主張を持つ左派の人たちがTPPに反対するのは全く不思議ないわけですが、おもしろいことにおそらく自分では右派だと思っている人たちも仲良くいっしょに反対しているというのが現状です。
反対派に利用されている学者さんの経歴見ないとちゃんとわかりませんけど、嫌いであろう左派の大家の理論に乗っかっているとしたら、気分はどうなんでしょうね?
それは置いておき、タイトルになっている歴史的な話です。
保護主義の台頭は、人々の生活を破壊する威力を持っている。歴史的に見て最も重要な事例は、1930年代に世界に広がった保護主義的な政策である。19世紀末から20世紀の初めにかけては、貿易や投資の自由化が進み、世界経済は繁栄を続けてきた。しかし、1929年のウォール街の株の大暴落以来、多くの国が貿易を制限する保護主義的な政策に傾倒していった。
経済が混乱するときに保護主義に走るのには理由がある。不況で国内産業が不振であるとき、海外から低価格の商品が入ってくると、その不振がさらに大きくなるからだ。そこで海外からの輸入に高い関税を課して、国内産業を守ろうとする政策に転換する国が増えるのだ。
関税などによって国内産業を守ろうとするのは、不振な産業を救う上で有効であるように見える。しかし、これは当時の経済学者であるジョーン・ロビンソンが「近隣窮乏化政策」と呼ぶものである。自分の国の産業を守ろうとして各国が保護政策に走れば、結局お互いを傷つけて、すべての国が被害をこうむる結果になるのだ。
実際、ウォール街の株の大暴落の後、各国が保護主義に走ることで、世界の貿易量は急速に縮小しはじめ、世界経済の不況はますます悪化してしまった。保護主義の思想が世界経済を破壊したと言ってよい。経済はますます混迷し、ドイツではナチスの台頭、日本では軍国主義の台頭の原因となっていった。
第二次世界大戦後は、こうした戦前の失敗の反省の下、自由貿易を推進するためのGATT(関税および貿易に関する一般協定)の制度が確立された。先進国を中心として戦後に高い経済成長を実現できたのは、GATTの下における自由貿易促進の貢献が大きいと言われる。
ここではブロック経済という言葉は出てきていませんが、よく言われるブロック経済の失敗のことです。
1929年秋に世界恐慌が発生すると、各国は金本位制を放棄した。
1930年代、各国は植民地を抱え込みブロック経済化を進めた。それぞれのブロックは通貨圏ごとに分かれた。
スターリングブロック(イギリス・ポンド圏)
フランブロック(フランス・フラン圏)
ドルブロック(アメリカ・ドル圏)
円ブロック(日本・円圏)
それぞれのブロックは、貿易を通じた同期性を失い、世界恐慌からの回復には大きな差が生じた。ドル・フランなどのブロックの回復が遅れる一方、円ブロックは世界恐慌の3年前に発生していた昭和金融恐慌(注:昭和恐慌とは別)への諸対応により、輸出入も取り扱う財閥系大企業については早期に回復した。しかし国内全体での経済基盤は小規模であったため、その後、先に述べた恩恵の外にあった中小零細企業を中心に経済が行き詰まり(昭和恐慌)、国策の支柱も対外進出志向に急傾斜することになった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E7%B5%8C%E6%B8%88 なお、TPP、FTA(自由貿易協定)もブロック経済化させるものだという批判もありますが、十分に自由貿易が進んだ中で複数のFTAを結ぶものですから、他のチャンネルを閉じたり、極端に偏ったりということはありません。
記事では他の事例も載っていました。
保護主義が経済をいかに停滞させるのかを見る格好の例がもう一つある。戦後直後から1960年頃までの多くの発展途上国が辿った道である。
よく知られているように、第二次世界大戦後からしばらく、多くの発展途上国は保護主義的な政策を強く打ち出していた。海外からの輸入や投資を制限し、自国の産業を育成するために国家主導の産業育成政策を進めたのだ。
ネルーのインドも、スカルノのインドネシアも、そうした政策をとってきた。中国などは共産党一党独裁の計画経済の中で、外の世界に対してベールをおろしていた。多くの途上国がこうした保護主義的な政策をとってきたのは、貿易や投資を自由化すれば、国際競争力のある先進国の企業に席巻され、自国内に有力な産業が育たないと危惧したからだ。長く続いた植民地時代に先進国から搾取された、という気持ちもあったのかもしれない。
こうした保護主義的な政策をとった途上国は、1960年頃までまったく経済成長をすることができなかった。貧困状態が続いたのだ。市場を外に向かって開かずして、経済成長を実現することはできないのだ。
興味深いことに、途上国の中でもいろいろな事情によって、いくつかの国は早い段階で貿易自由化や資本自由化を進めた。台湾、韓国、香港、シンガポールなどの国である。それぞれ自由化を進めていった背景は異なるが、これらの国は1960年代後半から、成長のきっかけをつかみ始めるのだ。
なお、"戦後の日本の通商政策は途上国の保護主義とは本質的に異なるもの"であり、日本は"自動車などの産業を保護"して"高い経済成長を実現した"というのは誤解とのことです。
ただ、経済的な強大国アメリカは、実際には揺り戻し的に保護貿易主義的な政策を何度もやっている気がします。そこらへんの細かい評価はどうなんでしょうね?
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