2013/1/9:
マツダ・ロードスター開発者貴島孝雄の裏話
数字で示せないことが大事…ではない
アメリカ側が求める馬力を持つホンダのS2000と競争したら…
二律背反を乗り越えるのが技術者というもの
●マツダ・ロードスター開発者貴島孝雄の裏話
2013/1/9:普段読まない自動車の話ですけど、マツダ・“ロードスター”の開発者、“ミスター・ロードスター”こと貴島孝雄さんのインタビュー記事がおもしろかったです。
まう、3代目ロードスターNCの裏話なんですが、貴島孝雄さんは本来は開発するつもりはなかったとのこと。「自分はもう十分やったから、次のロードスターは後進の若い者にやらせよう」と思っており、実際、周りも含めて話はそっちの方向で進んでいたといいます。
ところが、経営会議の後に本部長がきて、「貴島君、次のロードスターも君にやってもらうことになったから」と。しかも、「重くてデカいボディ」に「大馬力のエンジンを」載せて……とアメリカ市場から出てくる要望を丸呑みしたような、マッチョなクルマを作れと、いわれたそうです。
当時マツダの株式の33.4%をフォードが握っていました。役員の半分もフォード出身の人間。そのマッチョなロードスターの開発を決めた役員も、当然、フォードから来たアメリカ人でした。
ただし、ガタガタとモメている間にその役員が急遽フォードへの帰任が決まって、サッサと本国へ帰国。さらに、マッチョなロードスターを推していた日本人の役員も何だか急に会社を辞任。貴島孝雄さんの希望するコンパクトなクルマを作れることになったそうです。
●数字で示せないことが大事…ではない
このインタビュー記事は、
「数字に出ない性能には、おカネは払ってもらえないんです」 第32回:マツダ ロードスター【開発者編】その1(フェルディナント・ヤマグチ 2010年3月4日(木) 日経ビジネスオンライン)というタイトルでした。
スペックなど数字みたいなものは大事じゃない…という話が、最近は多く言われています。ところが、そういう「数字で示せないことが大事」と言いそうな貴島さんがこれに否定的だったのです。以下のようなやり取りをしていました。
貴(引用者注:貴島孝雄):NCが現役最後のクルマです。(中略)お客さんの目に触れなくて、本来はおカネを頂けない部分……ステアリングの剛性アップとかクランクシャフトを鋳造から鍛造に変えたりとか……そんなところまでキッチリと作り込みました。
F(引用者注:聞き手のフェルディナント・ヤマグチ):なるほど。そういう“走り”の部分に関しては気持ちよくお金を出してくれるわけですね。ロードスターのお客さんに限っては。
貴:いや、出さない。
F:えっ、ロードスターのお客さんでも出しませんか?
貴:出しませんね。営業サイドからも、「馬力とかなら数字にできますが、そんな見えない部分をよくしたって見合う売値なんか付けられない」と言われてしまう。だから走りを追求するためにコストが掛かった分は、他の部分で吸収するしかないんです。
●アメリカ側が求める馬力を持つホンダのS2000と競争したら…
後編では、アメリカでは特に「馬力」という数字にお金を払うので、アメリカ側から「ホンダさんは2000ccで250馬力も出ているのに、マツダは何だって。せめて200馬力くらい出せないのか」として、馬力を上げるように要求されたという話をしていました。ところが、これをやると、他の部分が悪くなってしまうんだそうです。
「この際言っちゃうけど、馬力を稼ぐのなんか簡単です。それこそ当時のエンジンのままでも200馬力なんてチョチョイと出せた。でもそうすると下がスカスカになってしまう。それじゃ楽しめないんです。
我々の“人馬一体コンセプト”は、馬と騎手がそうであるように、クルマとドライバーのコミュニケーションが最も大事だという考えがある。アクセルを踏んで、今加速をしたいと思った瞬間にグンと背中を押されるような加速を出すためには、下から出る太いトルクがどうしても必要なんです。(中略)
前のクルマをスッと抜きたいときに、アクセルを踏めば瞬時にグッと押してくれるかどうか。それを彼ら(アメリカのマーケティング担当)はどうしても馬力だ馬力だと言ってくる」
これを貴島さんは、アメリカ側が馬力を出せてる!と引き合いに出した、ホンダのS2000と60マイル(時速約100キロ)の状態からサード(ギア)でアクセル踏んで競争させて、200馬力ではなく最高出力170馬力ということで納得させています。ホンダのS2000よりもロードスターの方が速かったのです。
●二律背反を乗り越えるのが技術者というもの
この後編のタイトルは、
「二律背反」を乗り越えるのが、技術者っちゅうもんでしょう。 第33回:マツダ ロードスター【開発者編】その2(フェルディナント・ヤマグチ 2010年3月12日(金))というものでした。
上記のエピソードも二律背反ですけど、タイトルになっていたのは別の話。以下の「スポーツカーの楽しさ」と「コスト」という話題で出てきたものです。
F:それにしても、コストを強く意識しつつ、初志であるスポーツカーの定義、「人馬一体」を堅持するというのは、とてつもない二律背反のように思えるのですが。みんなが「楽しさ」に素直にお金を払ってくれればいいのに、と思いませんか。
貴:
いや、そこを乗り越えるのが技術者っちゅうもんでしょう。 結局ね、そのクルマが支持され続けるかどうかというのは、やはり日常使い、街乗りでいかに楽しんで貰えるかが重要なわけです。
そして、スポーツカーだってメーカーが作る量産車なんだから、たくさん売れなければ次に繋がらない。投資して、どれだけ回収できるかによって次のモデルの運命が決まる。
"「二律背反」を乗り越えるのが、技術者っちゅうもんでしょう"ですって、名言ですね。これくらい言えたらカッコいいですけど、世の技術者の皆さんは「しんどい」と悲鳴を上げそうです…。
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