製造業の国内回帰・脱中国などの話をまとめ。<国内回帰を代表する新工場が生んだ雇用者数、わずか100人>、<多額の補助金で実現!日本でもすでに起きていたリショアリング>、<「製造業の国内回帰」と日本が期待したシャープ亀山工場の末路>、<中国で製造業回帰…スティーブ・ジョブズ氏は全否定していた>などの話をまとめています。
5つ目に2022/08/09まとめ:
●「製造業の国内回帰」と日本が期待したシャープ亀山工場の末路 【NEW】
●2012年、アメリカは製造業が国内回帰!と盛り上がるも実は「虚構」
2013/1/17:<アメリカもチャイナリスクで脱中国 アップルやGEが国内回帰で日本もそれにならう?>(同じページの後半にまとめ)を書いた直後に
米国製造業の「国内回帰」は虚構にすぎない――これも明日は我が身の問題(大前研一の「産業突然死」時代の人生論 nikkei BPnet 2012年05月28日 )という記事を見つけました。前回の異なる意見ですので、こちらも紹介しておきます。
企業が生産拠点を海外へ移す「オフショアリング」に対して、海外の生産拠点を再び自国に戻すことを「リショアリング」といいます。記事によると、2012年当時、リショアリング(生産拠点の再上陸)によって米国の製造業が国内回帰していると報じられていたそうです。
例えば、米国のミシガン州キャントンでは、エレメント・エレクトロニクスのテレビ製造ラインが稼働し始めたことについて、2012年5月11日付の英フィナンシャル・タイムズ紙が「生産拠点、米国内に回帰」と題する記事を掲載。現在、リショアリングが米国で熱い支持を得ていると紹介していました。
しかし、「米国製造業の国内回帰が起きている」というのは虚構と言ってもいいだろうと、大前研一さんは見ていました。製造業のアメリカへの国内回帰の動きは本物ではないというのです。まず、中国がダメになったからといって、まっすぐ米国に帰るわけではなく、米国に帰る前に寄っていく場所がたくさん存在するとしています。
それはたとえば、中国よりも生産コストが安いバングラデシュやインド、インドネシア、タイ、カンボジア、ベトナムであり、中南米やトルコ、さらにはアフリカでも良いとしています。さらに、以下のような指摘がありました。
・米国の製造業は組合や年金などで苦労した
・株主総会などで経営陣が質問の矢面に立たされるのは、「いつまで米国でつくっているのか?」「中国やベトナムでの生産を考えたのか?」といったオフショアリングの催促
ただし、後半にまとめた前回の話では、そもそも海外生産が低コストというのは嘘でむしろ高コストだといった説が出ており、上記の説明を全部否定していたため、反論は可能。実は海外で作るよりもアメリカで作る方が儲かる…と主張していたのです。
●国内回帰を代表する新工場が生んだ雇用者数、わずか100人
ところが、国内回帰している最近の事例を見ても、いずれも雇用創出効果が薄いという指摘も登場。これについては、前回のものでも特に打ち消していなかったはず。むしろ前回の主張でもそれを匂わせるところがあったため、前回は私が「国内回帰による雇用回復の効果は薄いということを示している」と付け足していました。
雇用効果の低さですけど、前述のフィナンシャル・タイムズが国内回帰の代表例として紹介したエレメント・エレクトロニクスのテレビ製造ラインは、なんと新規雇用はわずか100人。1000人じゃありませんよ、わずか100人です。基幹部品はすべてアジアで生産し、それを米国に運んで「組み立て」ているだけのため。これでアメリカの国内回帰が進んでいる代表例とするのは無理があります。
また、米国のリショアリング事例として注目されることが多い建設機械のキャタピラーですら、油圧ショベル新工場が新規雇用は500人、道路グレーダー(整地などに使われる特殊車両)の新工場が600人といった程度。大前さんは、記事で挙げたリショアリングによって米国内で創出された雇用者数は約3000人しかいないとしていました。
●米国企業が中国に進出したことで100万人の雇用が失われた?
ただ、大前さんの以下のあたりはだいぶ変な説明。海外に工場を作ることで国内の雇用を奪っている…という誤解している人が多いので、そういった勘違いがあるのかもしれません。そもそも海外進出で国内雇用が減るというのが、一番大きなデマなんですよね…。
<一方、中国での米国企業の雇用者数は、1999年の29万人から2009年には144万人に増加している(中略)。つまり、オフショアリングによって米国企業が中国で創出した雇用は、この10年で115万人にも上るのだ。
(中略)キャタピラーがわずか500人の雇用を米国に戻しただけでも、オバマ大統領が「ついにキャタピラーが戻ってきた」とパフォーマンスすれば、大きな記事が掲載される。失われた100万人規模の雇用には目をつぶって、500人の新規雇用で大騒ぎするのは「木を見て森を見ず」の典型例だろう>
「100万人規模」というのは、「もし中国で作った仕事を全部アメリカでやれば」という前提ですけど、「失われた」と言うとアメリカでの労働者を100万人規模で解雇して中国に生産拠点を移したかのように思ってしまいます。これは事実ではありません。
なお、その後読んだ話によると、海外に進出する企業ほど、海外に進出しない企業より国内の雇用を増やしていることが研究でわかっているそうです。意外なことに、海外に工場を作る企業の方が、むしろ国内の雇用創出に貢献しているんですね。(ここだけ2019/04/07追記)
●多額の補助金で実現!日本でもすでに起きていたリショアリング
記事では、日本の話もありました。日本でもすでにエレクトロニクスでは部品の多くが中国の広東省や「グレーター上海」(上海を中心とする巨大経済圏)にオフショアリングしてしまい、国内で最終組み立てをしようにもジャストインタイムとはいかなくなっているとのこと。
シャープが三重県や亀山市から多額の補助金をもらって「亀山モデル」を標榜したのは2009年からでしたが、ご存知の通りこれも大失敗。わずか数年で破綻し、堺工場に集約。さらに2012年には主力であるはずの堺工場を運営する子会社の過半数の株も鴻海精密工業に譲渡されるといったことが起きていました。
つまり、亀山モデルは日本版「リショアリング」の幻だと大前さんは書いていました。アメリカの国内回帰は幻か否か?どちらの言い分が正しいんでしょうね?
2019/04/07追記:と書いていたのですけど、その後、日本でもアメリカでもリショアリングによって大きく雇用を創出…なんてことは起きませんでした。アメリカの場合は、「アメリカに製造業を取り戻せ」と主張するトランプ大統領が誕生していますので、国内回帰が起きなかったことが非常にわかりやすくなっていますね。
●「製造業の国内回帰」と日本が期待したシャープ亀山工場の末路
2022/08/09まとめ:円安関連で書いていた話にひとつだけ製造業の国内回帰の話があったので、こちらにまとめました。
2012/4/9:
テレビ敗戦「失敗の本質」 シャープ、パナソニックを惑わせた巨艦の誘惑(2012/3/20 11:07 日経新聞)によると、シャープの旗艦工場だった亀山における、液晶パネルの生産効率を高めるための設備更新のとき警戒していたのは、海外のスパイだったそうです。
<厳戒態勢の中で最新鋭の生産装置が運び込まれる。工場内部の取材はシャットアウト。トラックで運ばれた装置を工場に搬入する通路は物々しくブルーシートで覆われた。
亀山工場の人々が警戒していたのは海外メーカーの偵察部隊だった。半導体のDRAMでは製造装置メーカーを経由して生産ノウハウが台湾や韓国に流れ、価格競争に持ち込まれた、というのが業界の通説。「同じ轍(てつ)を踏むまい」。パネル投資では技術流出に神経をとがらせた>
このころの日本の電機業界には「パネル至上主義」とも言える高揚感が漂っていたとのこと。ある企業はそれを「製造業の国内回帰」と呼んでいたそうで、国内に製造業が戻ると期待していたようです。また、別の企業は「ブラックボックス戦略」と呼んでいました。前述のような技術重視のスパイ対策がそうなんでしょうね。
世界市場で競争力を持つパネル産業の勃興は「国産品で世界と戦う」という往年の必勝パターンの復活を日本は思い描きました。ところが、海外は日本のパネル至上主義に興味なし。そもそもスパイをする価値も感じていなかったのか、全く別の方向へと向かっていたといいます。日本は変化に気づけませんでした。
<シャープが堺工場の建設を決めた2007年は、米インターネット検索大手のグーグルがスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向け基本ソフト「アンドロイド」を公開した年である。(中略)人々の余暇の過ごし方は「居間でテレビを見る」から「スマホで仲間と交流する」に変わった。この変化がテレビから「茶の間の王様」の地位を奪った。
王様の地位を追われたテレビは年率3割の価格下落が続き、今や40インチの液晶テレビが3万円台で売られている。「1インチ1万円が勝負どころ」と言われていたパネル事業は「1インチ1000円割れ」の惨状だ。
日本のテレビメーカーは韓国メーカーに敗れたとされるが、日本の家電量販店に韓国メーカーの製品はほとんど並んでいない。海外では韓国勢が世界市場を制覇したが、先頭に立つサムスン電子ですらパネル事業では利益が出なくなってきた。
日本はパネル戦争で韓国に敗れたというのは近視眼的な見方であり、大局では米国発のネット革命に足をすくわれたのではないだろうか……>
なお、「日本はノウハウが盗まれて価格で負けた」という説は「通説」と書かれていました。これは確定的であるとされる「定説」とは異なっており、通説が間違っていることも少なくありません。「日本はノウハウが盗まれて価格で負けた」という「通説」がそもそも正しくない可能性があります。
また、ある企業が呼んだという「製造業の国内回帰」については、正しくなかったことがもう確定的。日本の製造業は復活しませんでした。それどころか、さらなる地盤沈下を伝える記事が増えている状況です。記事で出ていたシャープなんかは象徴的で、台湾企業の鴻海に買収されてしましました。スマホのエピソードと同様に、世の中の変化についていけず古い考え方に固執したのは問題だったと思われます。(この2段落、2022/08/09追記)
●アメリカに製造業を取り戻せ!と重視していた業界から逆に大批判
2021/02/03:アメリカでは、トランプ大統領の演説に集まった支持者らが議会に侵入し占拠するという、事実上のテロ行為・クーデター未遂事件が起きました。これを受けて、全米製造業協会(NAM)のティモンズ会長は、憲法修正第25条を用いてトランプ大統領の即時免職を検討するよう政権幹部に要請したそうです。
全米製造業協会、トランプ大統領の即時免職の検討を政権幹部に要請 | ロイター(2021年1月7日)によると、ティモンズ会長は、トランプ大統領は「権力を保持するために暴力をあおった」と指摘。「選出された指導者の中でトランプ氏を擁護している人々は憲法への誓いを破り、無政府状態を支持して民主主義を否定しているだ」とかなり強く批判していました。
全米製造業協会(NAM)は、エクソン・モービルやファイザー、トヨタ自動車など、1万4000社の製造業者を代表する主要業界団体。全米商工会議所なども発言していますが、前述の全米製造業協会の発言ほど踏み込んだ発言はしていません。トランプ大統領が重視していたはずの製造業から最も強く批判された…というのは、興味深いところです。
なお、トランプ政権においてもやはりアメリカにどんどん製造業に戻ってくる…ということはなかった感じ。トランプ政権は中国いじめをしたために、中国関連の輸入は確かに減ったそうですが、別の国からの輸入に置き換わっただけという指摘記事を読んだことがあります。そもそもアメリカは過去に輸出が多い日本をいじめて潰すことに成功したものの、今度は中国が台頭してきた…という経緯がありますからね。輸出の多い国をいじめることは、根本的な解決策にはならないのでしょう。
●またしても国内回帰を主張する記事登場、グラフを見てみると…
2021/11/08追記:もう何度言われたかわからない国内回帰の記事シリーズがまた出ていてブックマークしていました。2019.1.25のものなので、時間が経ちすぎちゃいましたけどね。
国内で新工場続々 生産回帰は本物?:日経ビジネス電子版(2019.1.25)という記事でした。
何度も言われたということですから、今までのは全部「国内回帰詐欺」だったわけです。ただ、今回は一応「製造業の国内設備投資比率」というデータを出しています。最初のときにも書いたように、国内設備投資が伸びても雇用は伸びないというのがここ最近のパターンなので、これでも結局「工場は増えるが人はあまり雇わない」というオチだと思うのですが…。
とりあえず、グラフの説明。これは経済産業省「海外現地法人四半期調査」、財務省「四半期別法人 企業統計調査」に基づき、明日山陽子さんが製作した製造業の国内設備投資比率の推移です。2006年以降では2013年から数年が最低で70%付近になっています。つまり、この期間は日本国内ではなく、海外の設備投資に力を入れていた期間。ここから75%以上にまで増えたので2019年は回復という見方なのです。
ただ、国内設備投資のピークは円高だった頃の2009年、2010年あたりで85%以上。ここは2008年よりさらに上がっています。最悪だったときから見ればマシになっているとはいえ、最新データは75%程度。円高時の85%から10%ほども下がっているのに、「円安のおかげで日本の製造業復活」という主張は正直かなり無理があるでしょう。
また、グラフで最新の2018年では再び下がり始めている様子が見えました。このため、円安で日本に工場が回帰する…というのは怪しいです。たとえ精一杯好意的に見たとしても、「円安によって日本に工場が作られるようになる効果は弱い」と言わざるを得ません。
ところが、記事内では<日本貿易振興機構(ジェトロ)の明日山陽子氏が分析した国内企業の設備投資動向。国内向けと海外向けに分類したところ、08年のリーマン・ショック以降の円高で下がり続けていた国内比率が14年ごろに底を打っている>と記述。前述の通り、むしろ一時期上がってピークは2010年あたりですから、事実と異なります。結論ありきで書いているのかもしれません。この時点で全然信頼できないシリーズ記事。やっぱり今回もダメでしたね…。
●日本政府が工場に4000億円の補助金を出して1500人の雇用を創出
2022/01/22追記:別の投稿で紹介した記事で、半導体製造の世界最大手TSMC(台湾積体電路製造)が熊本県内に半導体工場を新設するという話がありました。約8000億円を設備投資する大規模な半導体製造工場で、新規雇用1500人の創出が見込まれるという理由で、日本政府がその半分の4000億円相当の補助金を出して誘致するそうです。
その一方で国内では失われる雇用もあるんだな…と思ったのが、<コロナ禍でストッキング売れず…下着メーカー「アツギ」、国内生産を終了>(読売新聞 / 2022年1月21日 18時3分)というニュースでした。日本政府が4000億円の補助金を出して1500人の雇用を創出する一方で、あっさり500人(610人?)の雇用が消失。しかも、生産は中国で代替されるようです。
<ストッキングなどを製造する下着メーカー「アツギ」(神奈川県海老名市)は20日、国内生産子会社「アツギ東北」が5月末で生産業務を終了し、青森県むつ市と盛岡市の2工場を閉鎖すると発表した。新型コロナウイルスの影響で在宅勤務や外出自粛が広まり、ストッキング需要が減ったのが原因。閉鎖後は、生産拠点を中国の工場に集約するという。
2工場の従業員は現在約610人で、うち500人以上がむつ市の工場に勤務する。アツギの古川雅啓執行役員管理統括は読売新聞の取材に「国内の生産拠点がなくなれば従業員の継続雇用は難しい」と説明した>
●国内に製造業があれば製品が不足しない…はそもそも本当なの?
半導体工場の件は、私が読んだ記事だと「雇用創出のために補助金」という説明だけでしたが、そうではなく今半導体不足になっているため国内生産を増やし将来の半導体不足解消…ということかもしれません。この場合は、費用対効果は度外視でしょう。ただ、そうであったとしても、こちらの目的も目論見通り行くかどうか不安があります。
というのも、新型コロナウイルスワクチンでは、ワクチン製造大国であるインドがワクチン不足になったため。国内で作っているからと言って、国内に十分な量が供給されるとは限らないことがここからわかります。あと、検索してみると、日本は半導体製造で世界3位であり、もともとそこまで生産が少ない国だったわけでもないみたいですね。
もう少し記事を探して読んでみると、今回の熊本県菊陽町の半導体工場の場合は、大口取引先のソニーグループの工場の近くに建設予定であり、ダイレクトに供給されそうな感じ。また、デンソーも計画に加わっており、トヨタグループにも供給されそう。それはそれで国による特定企業への利益誘導問題が出てくるのですが、今回の場合、かなりピンポイントに供給されそうでした。
●チャイナリスク!アメリカで脱中国 アップルやGEが国内回帰?
2022/07/08:ここから<アメリカもチャイナリスクで脱中国 アップルやGEが国内回帰で日本もそれにならう?>、<脱中国で製造業回帰…スティーブ・ジョブズ氏は全否定していた>などのタイトルの話をまとめています。時系列的には、上記の話より先に書いていた投稿でした。
2013/1/8:ちょっと検索すると「脱中国、ざまぁ」みたいなページが多くて、そういう下品なものといっしょにされたら嫌なんですけど、チャイナリスクと脱中国という話です。元ネタとなるのは、
アップル・GE…米国回帰始めた工場の未来(Forbes 2012/12/13 7:00 2012年12月7日 Forbes.com by Steve Denning (Contributor) )という記事。アメリカの動きの話です。
ただ、この製造業のアメリカ国内への回帰。以前書いたように本来簡単ではありません。工場単独でどこへでも持っていけるわけでなく、労働者の質や周囲に補助できる企業があるかなども関係あります。以前の
中国製造業の魅力は人件費以外にある 熟練労働力やサプライチェーンなどでも、アップルは中国を評価しており、アメリカでは作れないと明言しているといった話を書きました。
●脱中国で製造業回帰…スティーブ・ジョブズ氏は全否定していた
今回のフォーブスの記事でもやっぱり「中国が優れているので工場を移すのはたいへん」という手指の話が出ています。オバマ大統領が2011年2月、スティーブ・ジョブズさんにiPhoneを米国内で作ったら何か問題が起こるかと質問したところ、国内で作るなんてナンセンス…といった感じで完全否定されたというエピソードが載っていたんですよ。
アップルのスティーブ・ジョブズさんは、iPhoneを米国内で作ることに感sにて、「そんな仕事(jobs)は米国からはなくなってしまったんですよ」「もう永遠にもどってくることはないでしょうね」とおっしゃっていたそうです。今回のアップルが脱中国という報道とは全然違う話でした。デマ記事じゃないか?と疑いたくなってしまいます。
ただ、今回の記事がデマではない可能性もあります。というのも、
アップルiPad miniはスティーブ・ジョブズの遺言無視?「決して作らない」と言った7インチタブレットなどで書いたように、アップルはスティーブ・ジョブズさんが亡くなった後は、存命中とはかなり異なったことをいくつもやっているため。アップルのティム・クックCEOは1億ドルを投入して、「来年、国内のMac製造ラインの一つを再稼働させる」と言っており、本当にアメリカに工場を作りそうでした。
●アップルだけじゃない、GEなど続々と国内回帰が始まっている
アメリカの国内回帰の例はまだあります。ゼネラル・エレクトリック(GE)もケンタッキー州ルイスビルのアプライアンス・パークにある大規模工場を再稼働させるため、8億ドルを費やす予定だとのこと。2012年2月、GEは最新の省エネ技術を使った湯沸かし器を組み立てるラインをいちから新設し、第2ラインも稼働する予定です。
さらに、ステンレス製食洗機の組み立てラインも建設中で2013年の早い時期に生産を始める予定だとしていました。GEのジェフ・イメルトCEOは「慈善事業をしているのではない」として、「米国内で生産すればもっともうかると判断したから、やっている」とおっしゃっていました。
他にもワールプール社はミキサーの生産を中国からオハイオ州に戻そうとしているところ。オーチス社はエレベーターの生産をメキシコからサウスカロライナ州に移します。ワム・オー社はフリスビー生産を中国からカリフォルニア州に移管。これらを見ると、続々と国内回帰が始まっているように見えます。
●米国のものづくりは復活しつつあると言ってよい4つの理由
こうなると、アメリカの製造業復活…と思うかもしませんが、それは早計なんですよ。国内回帰が難しいと書いたように、これらは<これまでに海外に流出した生産量に比べれば、微々たるもの>でしかないのです。「脱中国でアメリカに工場が戻った!」と、大げさに言っているだけだと思われます。
ということで、アメリカへの国内回帰は嘘だと考える方が妥当そうでした。ただ、記事では、そういうまとめにしたくないようで、むしろ逆の方向性。それでも<国内回帰の兆しは確かにある。米国のものづくりは復活しつつあると言ってよいだろう>と記事ではまとめていました。理由は以下の通りだといいます。
・原油価格は2000年の3倍に上昇。
・米国内の天然ガス価格はアジアの4分の1。
・中国の人件費は2000年の5倍、今後も急上昇が見込まれる。
・製造業のコストに占める人件費の割合は低下し続けている。
なお、これらが事実だとしても、メリットとして書かれた最後の「製造業のコストに占める人件費の割合は低下し続けている」がクセモノなんですよね…。製造業のコストに占める人件費の割合が低下し続けている…というのは、要するに製造業ではあまり人を雇わなくなっていることを意味するデメリットでもあるためです。
なので、たとえ本当にアメリカに工場が戻ってきたとしても、その新工場建設による雇用回復の効果は低いい…という、あまり嬉しくないことになります。当然、日本の製造業でも同様の傾向であり、製造業で働く人の割合はひどく減っているんですよ。今は製造業に雇用を増やす効果は低いのです。
●人件費の安い海外生産が低コストというのは嘘でむしろ高コスト?
しかし、国内回帰を強調したい作者は、これらよりももっと重要なのは「海外移管」は実は帳尻が合わないという事実だとしています。海外生産が低コストというのは嘘でむしろ高コストだというのです。つまり、人件費が安い中国よりアメリカで作る方が安いってことですね。これは普通にびっくりする話です。
GEが革新的な湯沸かし器「ジオ・スプリング」の製造を「低コスト」の中国工場から「高コスト」のケッタッキー工場に移管したとき、逆に原材料費が安くなり、製造に必要な労働力も少なく済むようになるなどして値下げされました。
製造から販売までにかかるタイム・トゥ・マーケットの期間も飛躍的に短縮しています。従来はジオ・スプリングを工場から小売店に届けるのに5週間かかったのが、短くなったのです。やはりコスト削減につながってきそうな話でした。ここらへんは国内回帰の意外なメリットが見える話です。
●アメリカで作ってみて初めて自らの設計のひどさに気づく…
あと、何でそんなこと気づかなかったんだ?という"発見"もあったといいます。GEはアメリカで製造まで行うようになった湯沸かし器の配管部分は複雑な構造の銅製で、溶接が難しかったことに初めて気づきました。それに応えてきた中国の現場もすげーなーと思いますけどね。
アップルの場合はこういうのと関係あるかどうか知りませんが、今までと違って、iPhone5をバラすと設計がすごくすっきりしていたとのこと。やはり前は製造のことを考えていないめちゃくちゃな設計だったらしいです。
とりあえず、「作りやすい」ということは全く悪いことはありません。GEは中国で10時間かかっていた湯沸かし器の組み立て時間を、作りやすい設計にしたことで2時間に短縮できたそうです。
●「技術流出」も問題…しかし、ただ単に盗むという意味ではない
さらに別の「発見」は日本ではお馴染みすぎて言うまでもない「技術流出」です。"優れた米国企業がようやく理解し始めたのは、製造を国外に持ち出すと「関連するすべてのビジネスが流出するということだ」"と書いていますけど、この「優れた」は皮肉でしょうね。直後にこう続きます。
<数十年にわたり生産の海外移転が続く間、米国企業の優秀な経営者たちはなぜ、革新とその保護の重要性に気づかなかったのだろうか。設計担当者とエンジニア、組み立てラインの作業員が話し合うことの重要性に、なぜハイレベルな教育を受けた経営者たちは気づかなかったのか。MBA(経営学修士)まで取得している面々が、生産の海外移転は自らの工場の将来を抵当に入れているようなものだと気づかなかったのか。
その根本的な原因は、こうした企業は将来を築くことを見据えていなかったということだ。その代わりに、株主利益の最大化に注力した。近視眼的なコスト対策に走り、とりわけ人件費抑制に注目した。工場と雇用を中国に移転すれば数字上は最終損益が改善し株価も上昇、役員ボーナスも大いに弾んでもらえるというわけだ。
「海外に生産を移転した企業の約6割は綿密な計算をしていなかった」。マサチューセッツ工科大学で学んだエンジニア、ハリー・モーザー氏はフィッシュマン氏に話した。「こうした企業は労働比率ばかりを気にして、かくれたコストを注視することはなかった」>
上記の記事はどこで製造するか以上に大事なことがあるだろうという内容ですので、海外移転(残留)にしても、国内回帰(残留)にしても、どちらにしてもよく考えてから行うべき。「じゃあ、国内回帰だ」とまた流行を追うだけでは、同じ結果を招くと思われます。日本企業にはよく考えてほしいところです。
●アメリカで製造業の国内回帰が起きた…は正しかったのか?
2019/02/10:その後、<アメリカのリショアリング・国内回帰は虚構 日本も製造業の空洞化は続く>(同じページの前半の話)などの、国内回帰にかかわる話を書いています。「アメリカに工場が戻った」というフォーブスの記事の結論と違って、製造業の国内回帰は幻であるという見方です。
で、どちらが正しかったか?と言うと、おそらく国内回帰は幻であるという見方でしょう。その後、トランプ大統領誕生の原動力の一つになり、このトランプ大統領が繰り返し国内回帰を訴えているようにアメリカの製造業の雇用は復活していません。オバマ大統領時代に大きな国内回帰が起きたというのは嘘でした。
また、日本企業においても、
脱中国はダメでした…アパレル日本企業が中国回帰 人件費より大事な短納期の問題が理由という話をやっています。こちらでも少し書いた中国製造業の優位性が関係している可能性を感じた話です。生産国の見直しは難しいことがわかる話でした。
【本文中でリンクした投稿】
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脱中国はダメでした…アパレル日本企業が中国回帰 人件費より大事な短納期の問題が理由 ■
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