●杏林大女性准教授、論文で盗用の不正 諭旨退職の懲戒処分に…
2020/11/08:杏林大の総合政策学部の40代女性准教授が、出典を示さずに企業ホームページにあった文章を論文に引用(厳密には引用ではなく盗用です)するなどの研究不正をしたとして、諭旨退職の懲戒処分となっていたことが、大学への取材で分かったとのこと。ただし、処分は最近のことではなく、3月11日付でした。
杏林大、論文不正で准教授を懲戒出典示さず引用|信濃毎日新聞[信毎Web]によると、前年2019年9月に内部告発があり、調査委員会を設置し、今年1月に不正を認定しており、やはりかなり前の話。判明したのが遅かっただけのようです。
ところで、このケースはいろいろと驚き。まず、問題の論文は前年3月発行の「紀要」に載ったものだとのこと。後述するように「紀要」はゆるい論文が載りやすいもので、この不正が問題視されること自体が珍しいですし、諭旨退職というのもかなり厳しい処分です。もっと多く盗用があっても軽い処分というケースも珍しくありません。
また、盗用とされた内容も、悪質ではないものに見えます。多国籍企業による途上国支援をテーマにした英語論文で、海外の銀行がホームページに載せた沿革の文章を流用したというものなんですね。企業の沿革程度なら流用しても良いと言いたいわけではないのですが、悪質性では劣ります。
●発表していなかった論文にも不正認定!女性だから差別された?
これ以外に別の論文でも、他の研究者の論文を盗用した…とされていたものの、こちらは別の意味で驚きました。なんと未発表の論文だとのこと。未発表論文での不正認定や未発表論文の不正を理由とした厳しい処分というのは、あまり聞いたことがありません。
なお、私は発表前に内部で論文をチェックするように…と主張していますが、これは処分を想定しているわけではなく、処分が必要なる事態を未然に防ごうという趣旨です。工場などでの安全管理なんかでは、事故が起きる前のケースを多く集めて安全を高めますが、この際には叱らないということが大事。叱ってしまうと、報告されなくなるためです。研究不正対策でも、未然のケースですら処分していたら、不正を隠蔽する方に力が働いてしまいます。
ただ、未発表なのに処分という、似たケースは最近ありました。
防衛省職員の研究報告書、盗用否定の判決 問題はいじめか?の件です。こちらでは、他の人の不正は糾弾されずひとりだけ不正とされたという大きな違いがあるものの、内部報告書的な研究であったにも関わらず不正とされて厳しい処分となったという点は似ています。
それから、この2つの件では、他にも共通点がありました。他の人より厳しい処分を受けたのは、女性だったということです。研究不正の処分では、大物に軽い処分・下っ端に重い処分となるといった不公平な差が出ることが研究でわかっています。また、企業における不正処分については、男性より女性の処分が極端に重くなることもわかっているんですよね。こうした研究のことを思い出す話でした。
●チェックなし掲載や業績にならないことも…紀要の論文はやや特殊
あと、先に書いた「紀要」についての補足。「紀要」であれば不正をして良いとは言わないのですが、もともと「紀要」は比較的ハイレベルではないものが多く、問題とされることは少ないです。もちろんそういうところから不正をしないように心がけていく…というのが理想であり、大事ではあるのですが、他大学の処分と比較すると不可思議に感じる厳しい処分でした。
<紀要(きよう、英: bulletin, memoirs)は、大学(短期大学を含む)などの教育機関や各種の研究所・博物館などが定期的に発行する学術雑誌のことである>
<紀要の学術的水準に関しては、その審査が簡素な査読水準に留まる場合や、査読を行わない場合などさまざまであり、手続き上、
掲載される文章の学術水準はまちまちである。そのため、
紀要での研究発表を研究上の業績として認めない組織や紀要を発行しない組織もある>
<サンキュータツオは「査読が甘い雑誌」の一例として大学の紀要を挙げ、「査読が甘いということは悪いことではない。そういう雑誌にこそタガを外して思い切り言いたいこと、やりたいことを追求している人がいる」「一番気が抜けないのは、そのジャンルの流行ではない手法やテーマをあつかった論文が、査読の甘い雑誌で、ひそかに時代が変わるのを待ちながら投稿されている場合だ。彼らはパラダイムシフトが起こる時を、ただひたすらに待ち、淡々と己が道を究めているのだ」と好意的に評価している>
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