経済学は合理的な人間というあり得ない前提を用いているから役立たず…というのは誤解、などの話を紹介していました(2013/1/30)。ただ、より丁寧な説明を見つけましたので、追加、修正しています。(2017/04/05)
●合理的な人間が前提の経済学は役立たず…は勉強不足の誤解
2013/1/30:最初の投稿時のものは、飯田泰之さんが本を出す関係でのインタビュー記事から。その前にやっていた
マスコミのいう「景気」と経済学上の「景気」は違うや
消費税増税、様々な反対理由と対案で出ていた方です。
まずおもしろかったのが、経済学で言う「合理性」という言葉の勘違い。素人は間違いやすいそうですけど、私も間違っていました。というか、経済を語っている記事でも結構間違っているような……?
アベノミクスを語る前に知っておきたいこと 飯田泰之・駒澤大学経済学部准教授に聞く
山中 浩之 2013年1月18日(金)
飯田:経済学が道具として便利に使われるあまり、根本的な勘違いが起こっているからです。
ミクロ経済学は、制約下における希少な資源をどう分配すると、全体の効率性が最大になるかを解く学問です。「制約付き最適化(最大化・最小化)問題」の解法なんですね。そして「自由競争と市場による分配が最適な経済環境を導く」ことを証明する。
――はい。
飯田:最適化問題を解く前提として、登場人物である「個人」は、自分の幸福を最大化することを目的に合理的に動く、という仮定を置きます。
――おっ出ました。「不条理な人間の行動を、合理性という仮定をもって考えるだけでも経済学はおかしい」という突っ込みどころですね。
飯田:ここでよく勉強不足の方が引っかかるんですが、これは「(経済学上の)個人は、お金が一番儲かるように、得するように動く」ということじゃありません。さらに言えば「合理的」というのは、客観的なものではない。その人個人が主観的な意味で「合理的」と考えればいいんです
――じゃ、万馬券狙いで全財産突っ込んでも。
飯田:突っ込んだ人が納得していれば、経済学のいう意味では「合理的」です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130116/242319/?mlt うそーん。よくある「経済学は合理的な人間行動を前提としているので役に立たない」という批判は、まるで勉強不足ということのようです。
ただ、後でインタビューしている山中浩之さんが突っ込んでいますけど、これは用語が悪いですよね。勘違いしてしまいますわ。
――自分自身が納得できない行動をわざわざとること以外は「合理的」、ってことでいいんですか?
飯田:そう。そしてそんな人ってあまりいないでしょう?
だとすれば、本来の意味でいう経済学の「合理的」な個人は、特に現実から離れた前提ではないということになります。
飯田:経済学は「その人その人の判断を最大限に尊重する」という考え方をその中心に据えようとする。個人主義、自由主義が経済学の大本にあるわけです。
この「自由主義」というのが、また勘違いを呼ぶものなんですけど、これは
自由主義は本当は敗者に優しい 徹底的な自己責任を求めるのは偽物の自由主義?でやっています。
●不合理に見える人間の行動もモデル化が可能になった
2017/04/05:上記だけですと、よくわからないと思うかもしれません。なので、もっと丁寧な説明の紹介。橘玲さんの『
「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する
』にあったものです。
行動経済学の実験において、人は一見、不合理に見える行動を取ることがわかっています。
まず、「無条件で100万円の利益を得る」と「2分の1の確率で200万円もらえるか何ももらえない」という選択肢を選んでもらいます。このときに、「無条件で100万円の利益を得る」を選ぶ人が、人種などに関係なく多いことがわかっています。堅実なように見えますね。
ところが、その堅実な人たちが、200万円の借金を抱えているときに、「無条件で100万円の借金を減額」と「2分の1の確率で借金帳消しか借金そのまま」という選択肢だと、ギャンブルなように見える後者を選んでしまうことが多いそうです。
ほら、だから、人間は不合理じゃん…と思うかもしれませんけど、実を言うと、進化心理学的には、これは合理的な行動だと言えるのです。
進化適応蚊環境である石器時代には、多くの食料を獲得しても保存手段が発達していなかったために、利益を得られる状況の場合、確実に得られる堅実的な選択肢を取ります。ギャンブルで失敗したら、ただちに飢えて死ぬ危険性に晒されますからね。
一方、2つ目の問題のような借金という概念は、そもそも当時はなく、あったのは、ただ損をする=獲物を奪われるという概念だけです。そして、この獲物が奪われるということは、前述の通り、ただちに飢えて死ぬ危険に繋がりますので、生き残る可能性があるギャンブルな選択を取るという説明でした。
これも何かわかるようでわからない胡散臭い説明かもしれませんが、とりあえず、大事なのは、一見不合理に見えても、進化心理学的には合理的であって、規則性を見出すことができるということです。
同様に、人間は無意識のうちに選択するファスト思考と、スロー思考で、違う行動をすることもわかっています。また、不合理な選択をする人たちも、学習によって徐々に合理的な選択をするようになっていくことも判明しています。いろいろと法則性があるんですね。
そして、こうした法則性を見出すことによって、数学的に扱えてモデル化することも可能になるため、経済学は十二分に意味があると言えるわけです。
うーん、結局、あまり簡単に説明できなかった気がします。要するに不合理に見える行動でも、一定の法則性を見出すことでモデル化が可能になった、ってことです。
昔の「合理的な経済人」は、確かに無理のある非現実的な前提だったのですが、今の経済学はもう既にそこを突破して、不合理な行動をも扱えるようになった、と言えそうです。
追加
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自由主義は本当は敗者に優しい 徹底的な自己責任を求めるのは偽物の自由主義? 関連
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マスコミのいう「景気」と経済学上の「景気」は違う ■
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スウェーデンの社会保障 年金は破綻? ■
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