2022/05/12追記:
●東京高裁の判決が出るも説明不足な記事でマスコミも名誉毀損状態 【NEW】
●防衛省職員の研究報告書、盗用否定の判決 名誉毀損で国に賠償命令
2020/10/21:
国に110万円賠償命令 防衛省職員の「盗用」否定―東京地裁:時事ドットコムによると、防衛省防衛研究所の職員が、同省内部部局の依頼を受けて執筆した研究報告書に盗用があったと認定され、名誉を傷つけられたとして、国を相手取り賠償などを求めた訴訟の判決が、東京地裁でありました。
国を訴えたのは防衛研究所事務官の岩田英子さん(53)。判決によると、防衛研究所は2016年10月、岩田さんが執筆した15年度の研究報告書に他の研究者からの盗用が認められると公表。17年3月、岩田さんを訓戒処分としていました。
ただ、今回の判決で裁判長は職員の不正はないと判断し、国に110万円の支払いと、同研究所のホームページに掲載された盗用発表文の削除を命じたとのこと。報告書は内部部局に対して提供されただけで、研究成果として発表したものには当たらないと指摘していたと記事では書いています。
●引用しなくちゃいけないと知らずにやったから盗用じゃない?
…ということだったのですけど、この記事の情報だけだとわけがわからないことだらけ。例えば、記事からだと、調査が行われたかどうかすら不明。調査が行われていたのであれば、研究者の間で不正と判断されたものを、研究者ではない裁判員が不正ではないと判断した…といった形になります。
一般的に研究不正問題が裁判に持ち込まれると、研究者のルールでは不正と考えて当然の内容を不正なしと判断されたり、名誉毀損の問題にされたりということで、問題があります。ただ、そもそも今回は「研究ではない」という予想外の結論でした。
また、一番驚いたのは、<岩田さんは他の研究者からの引用を示す必要性も十分認識しておらず、盗用行為としての公表や訓戒処分は「国家賠償法上、違法だ」と結論付けた>という記述。これで無罪なら、泥棒も「盗みが悪いとは知らなかった」で済んでしまいます。より極端な例を出すと、人殺しが殺人を悪いことと思わなかったら無罪…ということに。そうじゃなくても、研究不正では「悪気ないから不正じゃない」という主張が出ていて困っていたんですけどね…。
●そもそも普通の研究ではない…は妥当?内部報告書的な研究だった
あまりにもへんてこで、記者が誤解している可能性を感じ、別記事も読んでみました。検索してみると、
防衛省職員の「盗用」否定、処分公表も違法…国に賠償命じる 東京地裁 - 弁護士ドットコムが詳しそうな感じ。この手の話は弁護士ドットコムが強いです。
こちらによると、今回の件はそもそも通常の研究ではないと判断されたとのこと。ここは時事ドットコムの記述も正しいみたいですね。岩田さんの代理人の水野泰孝弁護士による以下のような説明も、ある程度納得できるものがあります。異論は出そうですけど…。
<防衛研究所では、さまざまな研究がおこなわれており、その一つである「特別研究」が、今回問題となった。特別研究とは、防衛省の内部部局から要請を受け、防衛政策の立案および遂行に寄与することを目的に実施される調査研究で、対外的に公表されるものではない>
●実は他の人も盗用していたのに!ポイントは盗用問題ではなくいじめか?
不正認定が妥当ではないという理由は上記だけで大体OKでしょう。ただ、その後の話を読むと、一般的な研究であっても不正とみなされないかどうかについては微妙な感じでした。あと、不正に関する調査を行ったかどうか不明だったのですが、やはりやっていた模様。予備調査してから、本調査という手続きはちゃんと踏んでいます。
<岩田さんはこの特別研究で、平成24年度と25年度の報告書「諸外国における女性軍人の今後の展望」に研究者の1人として携わった。そして、平成27年度には、単独で同じく特別研究の報告書「諸外国における女性軍人の人事管理等」を担当した。
その際、平成27年度の報告書で、岩田さんが「平成25年度の報告書から不適切な利用があるのでないか」という通報がされたという。
通報を受けて、防衛研究所では内部で予備調査、調査委員会による本調査をおこなった。岩田さんは「平成24年度から27年度にかけての特別研究報告書はテーマが共通する一連の報告書であり、自分が執筆した報告書を引用したにすぎない。著作権法上問題がなく、他の研究者の研究成果を盗用したものではない」「自分以外にも、防衛研究所の研究員は、特別研究報告書で、他の研究員が作成した特別研究報告書を引用の表示なく利用している」などと主張した。
しかし、これらは認められず、調査委員会は岩田さんの行為が「盗用」であり、「研究活動に係る不正行為」に該当すると判断。防衛研究所は同年10月にホームページで、この「不正行為」を告知し、岩田さんを訓戒処分とした。なお、調査中、岩田さんの弁明の機会に弁護士の関与を求めたが、認められていない>
前述の通り、一般的な研究では不正になる可能性を感じました。今回の判決でも、岩田さん側が主張した平成25年度の特別研究報告書の執筆分担については、客観的な証拠が存在しないことから、認めなかったそうです。ただし、他のところが問題。どうも岩田さんが標的にされて、いじめられていた感じがあります。
こちらの記事では、<岩田さんが「報告書を引用する際に必ずしも表示しなくてよい」と考えていたことには合理的な根拠があり、岩田さんの行為は故意によるものではないとした>という書き方をしていました。岩田さんが盗用したのは事実と認めている感じですが、他の人も盗用していたのに岩田さんだけが問題視されたことを言っているのでしょう。こういう説明なら判決も理解できますわ。
●東京高裁の判決が出るも説明不足な記事でマスコミも名誉毀損状態
2022/05/12追記:防衛省職員の不正の件で続報が出ていました。東京高裁でも国・防衛省側が敗訴…したどころか賠償金額が増加。<十分な調査せず「研究活動の不正」と公表は違法…東京高裁、国への賠償命令を194万円に増額>(2022/5/11(水) 20:42配信 読売新聞オンライン)という記事が出ています。
<防衛省防衛研究所の研究報告書を執筆した同研究所研究員の岩田英子さん(55)が、同省から盗用を行ったと公表され、名誉を傷つけられたとして、国に損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決が11日、東京高裁であった。村上正敏裁判長は110万円の賠償などを命じた1審・東京地裁判決を変更し、休職による損害を上乗せして計約194万円の支払いなどを命じた>
<判決は、報告書は内部部局向けで同研究所が内規で定める「研究」ではないと判断。同研究所が十分な調査や検討をせずに「研究活動の不正」として公表したことは違法だと指摘した>
https://news.yahoo.co.jp/articles/688e349c6d6fd7eecaf27a6302d6c178c13e77d7
なお、例によって説明不足な記事であったため、ヤフーニュースのコメント欄では「記事を読む限り、公表したことが違法であって、盗用であることは間違いないんだな。なら、どっちもどっち」「万引きを公表するなんてヒドイって感じの裁判なのね」などの反応が出ていました。読売新聞の報道も問題だと思われます。
というか、記事本文を読み直してみると、<同省は2016年10月、海外の女性軍人に関する報告書を執筆した岩田さんが盗用をしていたとして、氏名や概要を公表>という書き方のみ。「自分が執筆した報告書」からの「盗用」疑惑であることがわかりやすく書かれていません。読売新聞の記事自体が名誉毀損な感じです。
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