社員同士で家族を作り、長女や四女みたいな役割まで決めるという奇妙な疑似家族制度があるそうです。実際離職率低下に効果はあるみたいなのですが、辞めづらくしているだけという可能性があります。
また、「社員は家族」という会社は、身内であるがゆえに他人にはできないような強い支配力を持つため、ブラック企業になりやすいともいわれています。(2017/09/14)
●疑似家族制度導入の万協製薬紹介のガイアの夜明けに反響
2017/09/14:2017年8月29日にテレビ東京で放送された『ガイアの夜明け』。ここで紹介されていたスキンケア製品を開発・製造している万協製薬株式会社の制度が注目を浴びていました。
高い離職率に悩まされていた万協製薬は、社内アンケートや辞めていく若手社員から「社内に相談できる人がいない」「上司は自分を評価する人だから話しにくい」との声があったことに注目。所属部署以外で相談できる人間関係を作り、新入社員が会社に馴染めるよう、複数の社員でバックアップする体制を作ることにしました。
ここまでは極めてまっとうに思える話なのですが、この解決策というのがぶっ飛びです。「プチコミファミリー制度」という疑似家族のシステムを導入してしまいました!
新入社員も含めて所属や世代が違うチームを作って「長男」や「末っ子」など役割まで決定。グループごとに二泊三日の「家族旅行」も実施されます。旅行にかかる費用は全グループで年間700万円ですが、これもすべて会社が負担するそうです。
おそらくそれだけ費用をかけても、離職率を下げる方が得だということなのでしょう。かつて20%(業界によりますが、20%なら離職率としては一般的にはもともと高くない数字です)を越えていた同社の入社3年以内の離職率は、制度の導入で5%にまで改善するなど効果はあったとされています。
(
会社に「疑似家族」を作る制度に『Twitter』で違和感続出! 「ヤクザの手口」「企業体質に問題があるのでは」 ガジェット通信 2017年9月1日 07時30分 (2017年9月1日 20時20分 更新)、若手の離職を防ぐため「疑似家族」制度導入した会社に注目集まる 先輩社員と兄弟になるってどうなの? キャリコネ 2017年8月31日 13時10分 (2017年9月4日 16時15分 更新)より)
●疑似家族制度はヤクザの手口?
ということで成功しているわけですけど、ネットではネガティブな反応が多数でした。
「他部署の人間を10人くらい集めて『家族』に分けて交流。い、嫌すぎる。話が合う人とか自然と見つかるだろうし、誰と話すかくらい決めさせてくれよと思わず」
(新入社員の女性が、家族旅行でメンバーから就職祝いのボールペンを贈られていたことから)「贈り物まで貰って、辞めづらくなっているだけでは?」
特に強烈なのはヤクザの手口ではないかという指摘です。
「ガイアの夜明けで、若手社員がすぐ辞めるのを防ぐために、「長男」とか「四女」とか擬似的な家族関係を設定するっていうのやってるんだけど、それヤクザの手口じゃないの」
●労働環境が悪いままで単に辞めづらくなっただけでは?
いくつかの問題を指摘できそうですが、最も問題なのは「社内に相談できる人がいない」「上司は自分を評価する人だから話しにくい」以外の離職率の高い理由を改善していないことです。そもそもこれらが万協製薬で最も多い離職理由だったかすらわからないのですけど、一般的には離職理由として多いものではありません。通常はもっと深刻な問題があるものです。
なので、それらを改善せずに疑似家族制度だけで離職率が下がっていた場合、本当は辞めたい理由は変わっていないのに、辞めづらくなっただけという可能性があるんですね。
先程の「贈り物まで貰って、辞めづらくなっているだけでは?」がまさにそういうもの。また、実際、似たような制度を導入している会社の社員だという人からは、「辞めるタイミングを失っている」といった声があったそうです。
「若手がやめないには完全週休2日、賞与年2回以上、手取り30万程度、労基法遵守、残業ほぼ無しにすればいいだけ」という反応もあったように、本来、労働環境を改善すべきであり、問題をより深刻化している可能性すらあります。
●「社員は家族」という会社にブラック企業が多い理由
また、そもそも社員を家族とみなすやり方は、ブラック企業になりやすいという話が、以前やった
終身雇用制度などの日本のイエ文化は、ブラック企業を生み出す源泉で紹介した記事で出てきました。家族であるからこそひどい扱いが許されるようになるという指摘です。
実際にはこれすら全く守られていないものの、
学校体罰は違法行為、明治以来日本は法律で禁止 擁護者は法改正を訴えようでやったように、学校での体罰は明確に禁止されています。一方で、家族の中ではそれが許されている状態です。家族相手の方が厳しくできるということになっており、家族だから丁重に扱われるということになっていません。逆なんです。
ブラック企業をなくすには、日本の“イエ”文化を解体するしかない(2013年3月5日 [橘玲の日々刻々] ザイ・オンライン)では、法は人間関係が疎遠なほど強い影響力を持ち、近しくなるにつれて効力を失い、家庭内では民法や刑法が問題になることはほとんどないと指摘していました。「家族のためだから」で、本来なら許されないひどい行いもOKだと考えやすくなると思われます。
逆に私はもう「社員は他人」と見た方が良いと思うんですよね。力関係で弱い下請けなどは別ですけど、顧客や取引先やその他の第三者に対し、普通はめちゃくちゃなこと言わないでしょう。そちらの方が健全です。
●「社員は家族」の会社ワタミがやったこと
こうした「社員は家族」という会社がブラック企業だという例としては、<渡邉美樹会長「ワタミのどこがブラック企業なのかわからない」>でやったワタミが最もわかりやすいでしょう。
渡邉美樹会長(当時、現在は自民党の議員)は、「僕は企業というのは一つの家族的な集合体だと思っているんです。だから、社員は家族だと思っています」とおっしゃっていました。
その結果が社員を追い込んで死なせてしまって、なおかつその後も自己正当化を繰り返したのですから、「社員は家族」という経営者の企業を信じてはいけないことがわかります。
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