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知識と経験どっちが大事?大学に行かずに映画を作った諏訪敦彦映画監督のスピーチ


2021/03/23:
●経験がむしろ邪魔になる?成功体験に囚われて失敗することがある! 【NEW】


●大学に行かずに映画を作った諏訪敦彦映画監督の入学式のスピーチ

2013/4/20:h学長式辞「いいね!」2.5万件 東京造形大、挫折語る 2013年4月18日16時6分 朝日新聞によると、カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受けた「M/OTHER」(1999年)などを制作し、映画監督としても知られる東京造形大の諏訪敦彦(のぶひろ)学長(52)の入学式での式辞が、名スピーチだと話題になっているそうです。

 話題になったせいか、大学で公開していました。2013年度入学式 諏訪学長による式辞というものです。こういったものを私が読むというのは珍しいのですが、珍しく気が向いたのでちょっと読んでみました。読んでみると、大学の入学式の話なのに、「大学いらないんじゃ?って流れ」だったんですよね。

 高校生のときに映画カメラを手に入れた諏訪敦彦さんは、自分の身の周りのものを撮影するようになると、自然に自分の表現として映画を作りたいと思うように。高揚し、希望に溢れていた思いで、東京造形大学に進学したものの、大学ではないところに夢中になってしまいました。

<会った彼らは無名の作家たちで、資金もありませんでしたが、本気で映画を作っていました。彼らは、大学という場所を飛び出し、誰にも守られることなく、路上で、自分たちの映画を真剣に追求していました。私はその熱気にすっかり巻き込まれ、彼らとともに映画づくりに携わることに大きな充実感と刺激を感じました。それは大学では得られない体験で、私は次第に大学に対する期待を失っていきました。大学の授業で制作される映画は、大学という小さな世界の中の出来事でしかなく、厳しい現実社会の批評に曝されることもない、何か生温い遊戯のように思えたのです。
 気がつくと私は大学を休学し、数十本の映画の助監督を経験していました。最初は右も左も判らなかったのですが、現場での経験を重ね、やがて、半ばプロフェッショナルとして仕事ができるようになっている自分を発見し、そのことに満足でした。そして、大学をやめようと思いました。もはや大学で学ぶことなどないように思えたのです>


●知識と経験どっちが大事?現場主義が重要というのは本当だった?

 ただ、いきなり大学は辞めず、ふと大学に戻り、初めて自分の映画を作ってみる…ということもしました。自信はあったそうです。同級生たちに比べ、多くの経験があると考えていたため。大学を休学し、数十本の映画の助監督を経験していましたからね。半分プロなので、大学生なんかに負けるはずがないと思いました。

しかし、その経験に基づいて作られた私の作品は惨憺たる出来でした。大学の友人からもまったく評価されませんでした。一方で、同級生たちの作品は、経験も,技術もなく、破れ目のたくさんある映画でしたが、現場という現実の社会の常識にとらわれることのない、自由な発想に溢れていました。授業に出ると、現場では必要とはされなかった、理論や哲学が、単に知識を増やすためにあるのではなく、自分が自分で考えること、つまり人間の自由を追求する営みであることも、おぼろげに理解できました。驚きでした。大学では、私が現場では出会わなかった何かが蠢(引用者注:うごめ)いていました>

 朝日新聞はこのスピーチについて「ど真ん中のテーマ」としていましたけど、学長のスピーチという意味ではそうであっても、今回のエピソード自体は実はなかなか新鮮なんじゃないかと思います。それこそ映画のような創作の世界でありふれているのは、座学では得られないもの、教科書や本では教えてくれないものが実際の経験にはある……というテーマのものでしょう。


●「経験」という牢屋に閉じ込められていた…とはどういう意味か?

 しかし、このスピーチでは経験と知識の立ち位置が全く逆になっているんですよね。諏訪敦彦映画監督は、< 私は、自分が「経験」という牢屋に閉じ込められていたことを理解しました>とした上で、以下のような説明をしていました。諏訪敦彦映画監督の場合、現場で働くことを止めて、大学に戻ったともいいます。

<私が仕事の現場の経験によって身につけた能力は、仕事の作法のようなものでしかありません。その作法が有効に機能しているシステムにおいては、能力を発揮しますが、誰も経験したことがない事態に出会った時には、それは何の役にも立たないものです。しかし、クリエイションというのは、まだ誰も経験したことのない跳躍を必要とします。それはある種「賭け」のようなものです。失敗するかもしれない実験です。それは「探究」といってもよいでしょう。その探究が、一体何の役に立つのか分からなくても、大学においてはまだだれも知らない価値を探究する自由が与えられています。そのような飛躍は、経験では得られないのです。それは「知」インテリジェンスによって可能となることが、今は分かります>
<卒業後、私が最初に制作した劇場映画は決められた台本なしにすべて俳優の即興演技によって撮影しました。先輩の監督からは「二度とそんなことはするな」と言われました。何故してはいけないのでしょう? それは「普通はそんなことはしない」からです。当時の私があのまま大学に戻らずに、現場での経験によって生きていたなら、きっとこんな非常識な映画は作らなかったでしょう。しかし「普通はそんなことはしない」ことを疑うとき、私たちは「自由」への探究を始めるのです。それが大学の自由であり、大学においてこの自由が探究されていることによって、社会は大学を必要としているといえるのではないでしょうか>

 ただ、これで経験がいらないか?と言うと、そうではないでしょう。経験はもちろん大事です。先程書いた「座学では得られないもの、教科書や本では教えてくれないものが実際の経験にはある」というのもまた事実でしょう。私は大体こういう結論になり、中道的で嫌だと思われるかもしれませんけど、経験も知識も両方大切なんだと思います。


●経験がむしろ邪魔になる?成功体験に囚われて失敗することがある!

2021/03/23:ということで、諏訪敦彦映画監督のスピーチは経験がむしろ邪魔になったといった話でした。読み直していて思ったのは、経験がむしろ邪魔になる…というのは、ビジネスの世界でも結構あるということ。「失敗は成功のもと」というのですが、私は「成功は失敗のもと」であることも強調しています。成功体験に囚われて失敗することが多いのです。

 また、経験を過大評価して失敗する…といった問題が起きやすいところ。「今までこれでやってきたから次も絶対大丈夫だろう」というものですね。そもそも人間は自分の経験を重視してしまいがち…という問題点があります。経験も大事ではあるのですが、バイアスの問題を考えると、むしろ経験を重視しすぎないようにとアドバイスした方が良いかもしれません。

 一方で、経験も大事だという例としては、前述の「失敗は成功のもと」も大いに正しいと研究で確かめられているということがあります。成功企業では、小さく失敗しながら成長する企業も多いです。なので、過去の経験に固執せずに失敗体験を重ねながら成功を見つけ出していく…といったものが良いでしょう。


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