2018/06/06:
●カルビーはブラック企業?松本晃会長「残業手当なくせ」がひどすぎる
●「残業1時間100万円なら残業が増える。だからなくせ」という暴論
●現実に多いのはむしろ残業代を支払わない企業
●裁量労働制にしたけど長時間労働は解決せず、政府がほぼ証明済み
●部分的には正しい松本晃会長…なのにどうしてこうなった?
●「生産性を高めて残業代を減らした利益は社員に還元すべき」とも…
2020/04/17:
●松本晃会長「社員の待遇をよくするのはいちばん大事な投資」
●ホワイトそうなサマータイム・朝活、実はブラックな働き方
●カルビーはブラック企業?松本晃会長「残業手当なくせ」がひどすぎる
2018/06/06:日本を代表する「プロ経営者」としてインタビューされていたカルビーの松本晃会長兼CEOの主張がめちゃくちゃすぎて批判を浴びていました。こんな会長でカルビーは大丈夫か?という感じ。
実際には説明に納得しちゃっている方もいましたし、「お前より大企業の会長の方が正しいだろう!」という権威主義に陥る人もいるかもしれません。ただ、そういった権威主義だと自民党の渡邉美樹ワタミ会長も正しいってことになっちゃいますし、実際、言っていることがめちゃくちゃなんですよ。
そこらへんはこの後指摘していきますけど、とりあえず、冒頭で以下のように主張していました。
「日本の働き方において何が一番悪いかといえば、言うまでもなく残業ですよ。残業手当てという制度がある限り、問題は解消されません。
働き方改革に関しては、あながち政府が言ってることも間違ってるとは思いません。裁量労働制にしたらいい。特にオフィスで働いている人たちは、「時間」ではなく「成果」で働いているのですから。」
(
残業手当はすぐになくしたほうがいい カルビー・松本会長 (1/3) - ITmedia ビジネスオンライン 2018年06月05日 08時00分より)
●「残業1時間100万円なら残業が増える。だからなくせ」という暴論
上記の時点ですでにおかしいところがあるのですけど、まず、一番わかりやすいところを。
松本晃会長は、「残業代を払うとなれば、そんなのするに決まっている」としてインタビューアーに「例えば、『伏見さん、明日から残業手当を払うよ。1時間100万円』。しますか?」と聞いて同意を得ていました。また、「松本さん、あなたカルビーの会長だけど残業代払うよ。1時間10万円」なら「やるに決まってますよ」とも言っています。
しかし、そもそも残業1時間100万円なんて企業はありません。1時間10万円でも全くありえないでしょう。正社員の全国平均時給は諸説ありますが、例えばかなり高い2000円説を採用しても、法定外残業であれば25パーセント以上を上乗せした割増賃金を支払う必要があるのは2500円です。たった2500円ですよ、10万や100万なんてあり得ません。
(
正社員の全国平均時給はいくら?最低賃金・アルバイトとの差は?より)
これを10万や100万と言って印象操作して、「もらっている給与に対して、残業手当は高いです。あんな悪しき制度を作っているから社員は使うんです」とした上で、残業代をなくせと主張するのはあまりにもひどすぎます。
●現実に多いのはむしろ残業代を支払わない企業
また、現実に1時間10万円や100万円の残業代を支払っている企業なんていないだろうという話で言うと、逆に現実によくあるありふれた企業のことを完全に無視していました。
残業を実際にしているのに残業代すら支払わない、あるいは、規定通りの金額を支払わない企業というのは、数えきれないほどたくさんいることがすでにわかっています。現実には、会社側が法律やルールを破って、社員から搾取していることが多いのです。
このように現実で起きていることを完全に無視して、現実にはありえない想定の話だけをして持論を通そうというのはめちゃくちゃすぎます。とてもまともな経営者とは思えません。
●裁量労働制にしたけど長時間労働は解決せず、政府がほぼ証明済み
さて、最初の話ですけど、「裁量労働制にしたら残業問題がなくなる」というのも嘘です。「あながち政府が言ってることも間違ってるとは思いません」と言っていたものの、これはむしろ政府が裁量労働制で働いている人の労働時間を捏造したことで判明しました。
政府は、裁量労働制で働く人の方が一般労働者より労働時間が短くなる、とデータを用いて主張していました。これはカルビーの会長の言う「裁量労働制にしたら残業問題がなくなる」と同方向のものです。
しかし、このデータは捏造だったことが判明。裁量労働制で働く人には1日の「労働時間の状況」を聞いた一方で、一般労働者への質問は、1日の残業時間について1カ月のうちの
「最長時間」を尋ねていました。普通の労働時間と「最長の労働時間」を比較すれば、そりゃ「最長の労働時間」の方が長くなるに決まっています。
(関連:
裁量労働制はブラック企業の目印 36時間連続勤務後体調悪化→過労死)
しかも、そもそもこれだけひどい捏造をやっても、わずか20分しか違わないという結果に。政府は再調査を拒んだのですけど、きちんと調査すれば裁量労働制の労働時間の方が長くなるのは確実でしょう。したがって、裁量労働制導入で残業問題が解決できないどころか悪化してしまうことが、すでにわかっていると言えます。
あと、細かいこと言うと、"特にオフィスで働いている人たちは、「時間」ではなく「成果」で働いている"も詭弁であり、事実と異なるのですけどこちらは説明が面倒くさいので省略します。
●部分的には正しい松本晃会長…なのにどうしてこうなった?
なお、松本晃会長は部分的には正しいことを言っています。例えば、実は今のやり方でも企業にとっては悪くないことだ、と指摘した以下の部分がそうです。前述の通り、そもそも残業代を支払っていない企業もあるんですけど、残業代をきちんと支払ったとしても会社側にかなり得。会社側は今のやり方を望んでやっているところがあります。
「ただ一方で、会社にとっては残業手当の金額自体は高くないのです。新しい人を雇うよりも、今いる人にたくさん働いてもらったほうが採算が合うので。まあ、そんなことやってるから、多くの日本企業はうまくいかないんだけどね」
そもそも労働時間の管理というのは、管理職、さらに言えば経営者側の問題であり、労働者の問題ではありません。経営者のせいで労働生産性が高まっていないわけであり、残業手当のせいでもないのです。経営者がやろうと思えばやれるのにやっていないだけです。
●「生産性を高めて残業代を減らした利益は社員に還元すべき」とも…
経営者がやりたがらないというのは、以下のような提案も。このやり方で残業手当をなくそうというのなら私も賛成できます。
「(引用者注:残業手当をあげる)制度をなくせばいいわけですが、ここで問題なのは、今まで残業手当として支払っていた分を会社が取り込んで、社員に払わなくなることです。今まで払っている金額は、どんな形でもいいので社員に払ってあげないといけません。生産性を高めて残業代を減らしても、節約した分が会社の利益に上乗せされるといったら、社員は動きません。浮いた分は社員に還元すべきです」
健康経営のSCSKとランクアップの長時間労働改革 残業しない人にも残業代を支給などで出てきたSCSKがこうしたやり方でした。逆に言えば、本当はできるのに経営者がやっていないだけの証拠になっていますね。
そして、この考え方ができるのなら、なぜ「残業1時間100万円なら残業が増える。だからなくせ」「裁量労働制にしたら残業問題がなくなる」といったずれた話になるのか?と不思議。「残業手当なくせば残業しなくなる」ではなく、「今までの残業代を残業しなくても払うようにすれば残業しなくなる」といった主張をすべきだったでしょう。
●松本晃会長「社員の待遇をよくするのはいちばん大事な投資」
2020/04/17:松本晃会長のブラック企業発言があったカルビーですが、以前はむしろホワイト企業的な記事が出ていたのを発見。最初に書いたとおり、部分的にはホワイトな発言をしていましたので、良いところだけ見るとそうなるのかもしれませんね。
見つけたのは、2015年12月17日の
カルビーが多様な働き方を推進する理由「社員の待遇アップは、最も大事な投資」 ウートピという記事。松本晃会長が、「従業員はツール(道具)ではない」「社員の待遇をよくするのはいちばん大事な投資」という主旨の発言をしたことがきっかけで、広報に話を聞いてみたという内容です。
広報によると、カルビーは「ダイバーシティ」を経営上の重要な戦略のひとつとして位置づけ、女性の活躍推進にグループ全社をあげて取り組んでいるといいます。2010年4月1日において5.9%であった女性管理職比率は2014年4月1日には14.3%まで上がり、さらに上の30%を目標としているとのことでした。
また、女性活躍推進に優れた企業として、経済産業省・東京証券取引所が共同で選定する「なでしこ銘柄」に2014年・2015年と2年連続で選ばれています。ただ、
なでしこ銘柄(女性活躍推進・ジョカツ企業)の実態 認定はあてにならない?でやっているように、ここも怪しい企業が混ざってる可能性が高そうでした。
●ホワイトそうなサマータイム・朝活、実はブラックな働き方
もう少し具体的な話も。女性社員に限らず社内全体が朝活を推進。サマータイム実施期間は、8時に出社して16時半には退社、早く来て早く帰るという仕事スタイルなので、仕事もプライベートも両立できている社員が多いとされていました。
強制ではないので良いのですけど、実は多くの人にとって「朝活」はむしろブラックな働き方の可能性が高いです。これは、
朝型勤務「ゆう活」やサマータイム制度のメリットとデメリットなどでやっています。
週2回までと少ないですが、在宅勤務も可能というのは、素直に良いところ。「労働時間が長い割に生産性が低い」と指摘されて来た日本の企業への変革のひとつとして、時短制度も取っているようです。これは最初の投稿部分でもあったように、その分給与を削られていなければ、良い制度だと言えるでしょう。
【本文中でリンクした投稿】
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裁量労働制はブラック企業の目印 36時間連続勤務後体調悪化→過労死 ■
健康経営のSCSKとランクアップの長時間労働改革 残業しない人にも残業代を支給など ■
正社員の全国平均時給はいくら?最低賃金・アルバイトとの差は? ■
なでしこ銘柄(女性活躍推進・ジョカツ企業)の実態 認定はあてにならない? ■
朝型勤務「ゆう活」やサマータイム制度のメリットとデメリット【関連投稿】
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ビジネス・仕事・就活・経済についての投稿まとめ
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