報道被害：マスコミが誤認逮捕の容疑者を犯人断定で実名報道

2013/4/25：
●報道被害：マスコミが誤認逮捕の容疑者を犯人断定で実名報道
2018/04/22：
●松本サリン事件など…繰り返し起きているマスコミによる報道被害
2021/12/24追記：
●嘘の供述で課長を誤認逮捕して起訴 検察が自ら取り消す異常事態に　【NEW】
●取調官の「課長は話している」と嘘…この嘘に犯人側が合わせしまう　【NEW】


●報道被害：マスコミが誤認逮捕の容疑者を犯人断定で実名報道

2013/4/25：ボストン・マラソン爆弾テロ翌日に発覚した、オバマ米大統領らに猛毒リシンを混入した封書が送り付けられた事件。＜別の容疑者が浮上＝逮捕男性の訴追取り下げ－米リシン事件　時事ドットコム＞（2013/04/24-09:13）によると、連邦司法当局は、逮捕していたポール・ケビン・カーティスさん（４５）の訴追を取り下げました。

　連邦捜査局（ＦＢＩ）は、真犯人とみられる別の男性の自宅を捜索中。カーティスさんについては事件と無関係と判断したもようです。ＦＢＩはカーティスさんに恨みを抱く人物が罪を着せようと企てたとの見方を強めているということですけど、まんまと騙されてしまったわけで、これは言い訳にはなりません。
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2013042400094

　タブロイド紙なので仕方ないといえばそれまでですが、逮捕の時点で産経新聞社の夕刊フジ(ZAKZAK)が問題あるタイトルの記事を書いていました。＜リシン郵送犯「ＫＣ」は田舎のプレスリー　物まねレパートリー７０人＞(2013.04.19)として、タイトルで犯人だと断定していたのです。この後、夕刊フジは何食わぬ顔で真犯人は別だったって続報を書いています。アメリカの件であり、日本の三流紙が何か書いた程度で実害はほとんどないでしょうけど、ここらへんは反省する必要があります。
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20130419/frn1304191535002-n1.htm


●松本サリン事件など…繰り返し起きているマスコミによる報道被害

2018/04/22：また何か問題ある報道があれば追加しますが、とりあえず、過去の報道を。有名なのは「松本サリン事件」でしょう。こういうときWikipediaがまとまっているので、わかりやすいです。報道被害 - Wikipediaでは、以下のようにまとめられていました。

＜第一通報者の河野義行が、自らも被害を受け、特に妻がサリンで重体に陥った（2008年に死亡）にも関わらず、農薬からサリンを合成したとの疑いで、長野県警察の捜査対象となった。その後、農薬からサリンを合成することが化学的に不可能であるにも関わらず、半年以上もの間、長野県警発表および警察の故意のリークにより、日本全国のマスコミが『あたかも河野義行が犯人であるとの前提』で報道を行う。後に真犯人は、オウム真理教の信者である事が判明＞

　上記と同じページでは「三億円別件逮捕事件」というさらに古い事件が紹介されていました。ただ、逮捕されたのは1969年と古いものの、報道による被害は最近まで長く続いたものでした。マスコミによる報道被害の恐ろしさがわかる象徴的な事件だと言って良いと思われます。

＜府中市の自動車運転手が容疑者として逮捕されるが、後にアリバイが確認され、三億円事件に無関係であることが確定。しかし釈放されるまで、新聞各社が犯人扱いで学歴、職歴、性格、家庭環境まで事細かく暴露。このため本人は職を失い、家族は一家離散。さらにその後も真犯人の見つからない中で「三億円事件の容疑者として逮捕された」との世間の偏見と事件に関するコメントを執拗に求めるマスコミ関係者に悩まされ職を転々とし、2008年9月に自殺＞


●嘘の供述で課長を誤認逮捕して起訴 検察が自ら取り消す異常事態に

2021/12/24追記：今回は注目された事件ではなく、マスコミが大々的に犯人と決めつけて報じてはおらず、報道被害はそれほど大きくなかったようなのですが、また誤認逮捕があったので追記。誤認逮捕された高知県香南（こうなん）市の市住宅管財課長は、国などを相手取って損害賠償請求訴訟や、刑事補償法に基づく補償金の請求を検討しているそうです。
(起訴取り消しの市課長側「国賠訴訟を検討」　高知・香南市の談合事件：朝日新聞デジタル　2021年12月10日より)

　この件は検察の当初のシナリオでは重要人物ではなかった香南市長のWikipediaでなぜか詳しいです。このページによると、2020年12月7日ごろ、市内の建設会社のK社長はS市議に、市営住宅解体工事の一般競争入札の最低制限価格を市職員から聞き出して自分に教えてほしいと頼み、S市議は了承します。

　ただ、S市議の供述から、市の住宅管財課長が最低制限価格（2,890万円）に近い金額をS市議を通じて建設会社のK社長に伝えたとして、警察が課長を逮捕。一旦釈放されたものの、今度は高知地検が逮捕して起訴しています。ところが、これが事実無根だとわかったため、高知地検自身で勾留取り消しを請求して釈放、後に起訴も取り消すという異例の事態になりました。


●取調官の「課長は話している」と嘘…この嘘に犯人側が合わせしまう

　私はなぜS市議が嘘の供述をしたのか不思議だったのですが、S市議は「取調官から『課長は話している』と言われ、課長さんが容疑を認めていると思って乗ってしまった」と説明。弁護人との接見で課長が否認していることを知り、「胸が苦しくなり、弁護人に本当の話をした」と供述を変えた理由を明かしたそうです。

　これはまず取調官が「課長は話している」と嘘をついたということですから問題。これでも課長が認めているとS市議が誤解したというのは不思議なのですが、検察がシナリオを決めて誘導したパターンならありそうな感じ。また、課長の上司とは話がついていたため課長も了承していると誤解したり、この課長の上司の関与を隠そうとしたりしたかったという可能性もあるかもしれません。

　というのも、S市議は、最低制限価格を聞き出したのは課長からではなく、本当は市長からだったと証言し始めたため。これでやっとWikipediaの項目名になっている市長が登場。ただ、市長ははこれを受けて「全く身に覚えがない。どうして自分の名前が挙げられたのか分からない」と述べ、官製談合事件への関与を否定しており、こちらもまた確定ではありません。

　市長は一方で建設会社社長のKから商品券10万円を受け取ったことは認めており、「なのに潔白を訴えている」とわかりづらい形に。どうもこれは「当選祝い」の名目なので別件という論理のようです。また、他に商品券10万円の寄付も後に判明。これも談合とは無関係としているようですが、Kから寄付を受けていたことの道義的責任を取りたいとして辞職。さらに、一部の商品券は賄賂とも報道されており、わかりづらくなっています。

　ちなみに市長は、ともに自民党に所属していた山本有二衆議院議員、福井照衆議院議員の秘書を務めた後、香南市の合併前の自治体の一つである夜須町長に就任。その後の高知県議時代は無所属でしたが、香南市長への転身ではやはり自民党からの推薦(民主党などとの相乗り)を受けてた…という経歴の方でした。


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