●ユーロ激震の地タックスヘイブン・キプロスはロシアと相思相愛だった
2013/5/1:キプロスと言うと、トルコ絡みで争いの残る国というのと、有名なアンチウイルスソフトのある国というイメージでした。でも、検索しても出てこないので、アンチウイルスソフトは勘違いかも。「Outpost Firewall」というファイアーウォールがキプロス共和国でしたので、これのことですかね…。
とりあえず、以上のように私が持つキプロスの情報はほとんどなし。たぶん多くの日本人にとっては馴染みの深い国ではないでしょう。そんなよく知らないキプロスの記事がありました。<地中海の小国・キプロスの経済危機を収束させた預金者負担の後味>(2013年4月2日[橘玲の世界投資見聞録] ザイ・オンライン)というものです。
こちらによると、キプロスは地中海の東端、「小アジア」とも呼ばれるアナトリア半島の南に位置する風光明媚な島国。こうした点で有名だったのかと思ったら、直後に<今回の経済危機が起きるまで、紀元前に遡る長い歴史のあるこの国に関心を持つ日本人はほとんどいなかっただろう>とも書いていました。
<ローマ帝国の分裂にともないキプロスは東ローマ帝国の所領となるが、1191年、十字軍遠征途上にこの島に立ち寄ったイングランド王リチャード1世がキプロス王国を建国する。当時はイタリアの海洋都市の勃興期で、キプロス王国は十字軍遠征(エルサレム奪還)の最前線であると同時に、レバント(東地中海)貿易の一大拠点となった。その経済はイタリア諸都市に依存し、15世紀末、相続争いの混乱のなかでヴェネチア貴族の娘だった女王が主権を祖国(ヴェネチア共和国)に譲り王国は消滅した。
16世紀、新興のオスマントルコが小アジアを席巻しヨーロッパに攻め上ると、キプロスはその軍門に下る。その後、第一次世界大戦でイギリスに併合され、第二次世界大戦後にようやく独立を達成した。
だが3000年に及ぶ数奇な歴史を持つこの島では、独立後もギリシア系住民とトルコ系住民が対立し混乱が続いた(引用者注:うちの冒頭で書いた「トルコ絡みで争いの残る国」に関連する部分)。
1974年、ギリシアとの合併を求める勢力がクーデターを起こしたことをきっかけにトルコ軍が介入して島の北部を占領、それまで混住していた住民は、ギリシア系は南のキプロス共和国、トルコ系は北のキプロス連邦トルコ人共和国(北キプロス)に分かれることになった。もっとも北キプロスは国際社会の承認を受けていないため、一般にキプロスというと南のキプロス共和国を指す>
http://diamond.jp/articles/-/34155 この後、まずキプロスは「観光」で発展したとのこと。記事で最初に「風光明媚な島国」とあったので、ここらへんを活かした観光産業だと思われます。ただ、キプロスは観光一本ではなく、もうひとつの大黒柱があり、キプロス台頭の要因となりました。それが、「金融業」だったのです。
<キプロス住民のほとんどはギリシア系だが、イギリス統治下にあった歴史から英語がごくふつうに通じる。金融機関の公用語は英語だから、これはキプロスがタックスヘイヴンになるにあたって大きなアドバンテージとなった>
公用語が英語であるのなら、英語圏の国と密接な関係を築きそうなものですが、そうはならなかったようです。それどころか、英語圏の国と仲悪そうな国と親密。キプロスがオフショア金融センターとして存在感を見せはじめたのは、ロシアからの富の受け皿になったからだというのです。これは宗教の関係でした。
<東ローマ帝国はギリシア人の国であり、そこではカトリックに対抗する正教(オーソドックス)が信仰されていた。(中略)
正教会は旧東ローマ帝国の各地に分裂し、ロシア皇帝(ツァーリ)が正教の正統な後継者を名乗るようになる(ロシア正教)。こうした歴史的経緯からロシアとギリシアには宗教的・文化的なつながりがあり、ロシア人の南(地中海)への憧れもあって、キプロスはロシアの富裕層にとって代表的な避寒地となった(中略)。
財を成したロシアの富豪は、その富を守るために海外で蓄財しようとする。その格好の機会を、キプロスの金融機関が提供したのだ。
こうして90年代以降、キプロス経済は観光と金融を両輪に急速に成長していくことになる。キプロスの1人あたりGDPはいまでは3万ドルに達し、欧米の先進国と肩を並べるまでになった>
このロシアとキプロスは「相思相愛」の関係にあると言えそうです。公用語が英語であるのなら、英語圏の国と密接な関係を築きそうなもの…と書いたのですが、後発のタックスヘイヴンであるキプロスには、そもそもヨーロッパの富裕層を顧客に獲得することができなかった理由があるとされていました。
<いつ戦争が始まるかわからないような国に大金を預けようとするひとはそれほど多くない。
一方、ロシアの企業や富裕層はコンプライアンスに問題があり、欧米の金融機関は資金を受け入れたがらない。すべてがロシアマフィアの裏金ということはないだろうが、正規の業者でも、電信送金では記録が残るため、ロシア国内で闇両替したドルの現金を大量に持ち込もうとするのだ>
つまり、キプロスは怪しい資金を受け入れていたようですから、キプロス自体も問題があるといえますね。また、キプロスが高い金利を実現していた方法も不安定なものでした。どうもあの"ギリシア国債をせっせと買っていた"ようなのです。こりゃあ、ギリシャが崩れればひとたまりもありません。運命共同体ですね。
<キプロス共和国自体は、信用力がないため国債を発行することができない。キプロスのひとたちは自分がギリシア人だと思っているのだから、日本の銀行が日本国債を買うように、「安全」で高金利なギリシア国債を購入するのは当然だったのだ(おまけにキプロスにはギリシア系金融機関のオフショア子会社もたくさんある)>
詳細な説明は省きますが、このキプロスはユーロ危機で銀行預金のカットを行うことに。ひどい!と思うかもしれませんが、本来であれば半分以下になってしまう預金がEUの金融支援によって9割も戻ってくるのだから、預金者にとっても悪い話ではありません。
ただ、預金者にとっては良い方……と言っても納得しませんよね。会社員も給料カットの方が会社倒産よりはマシなのに、そんな冷静なことは考えられません。で、キプロス政府がどうしたのか?と言うと、預金封鎖を強行し、強制的にすべての預金に課税しようとして大混乱を引き起こします。
<地中海の小さな島国をめぐる春の椿事は、結局、ヨーロッパ諸国で一般に預金保険が適用される10万ユーロまでの少額預金を全額保護し、10万ユーロ超の大口預金をペイオフ(保護対象外)とすることで決着した。これによってキプロス政府は有権者の同意を得やすくなるが、その代わり大口預金者の負担は大きくなり、最大手のキプロス銀行で預金の最大損失は60%、破綻処理が決まっているライキ銀行に至っては損失割合が80%にのぼるとの試算も出ている。これでは資産没収とほとんど変わらない>
たいへんなことになりましたけど、これが通った驚きの理由があります。このような極端な措置がキプロス議会を通過したのは、大口預金者の大半がロシア人(個人と法人)で、その多くがグレイなものだから表立って抗議できない、という事情があるからだろう…とのこと。笑っちゃいました。どこにも置けない汚いお金だったようです。
<キプロスがEUに金融支援を求めてから今回の混乱まで8カ月以上たっている。本来ならその間に安全なところに資金を移してしまえばいいのだが、ロシアに戻すことも、スイスなど信用力の高い金融機関に送金することもせず、キプロス国内に留まったままだったということが、こうした大口資金の性質を示している>
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