日本の論文数が、数十カ国の調査で他国がすべて増える中で唯一減少しているという話を聞いて驚きました。原因については、国立大学法人化、若手研究者の減少などの説が出ています。
2013/5/31:
●世界で唯一減少の科学立国日本の研究論文
●原因は、国立大学法人化、若手研究者の減少などの説
2017/12/11:
●日本の研究論文は不正が多く、重要度の高い論文も少ない
●成果主義失敗で論文数低下、研究不正も増加か?
●科学軽視の日本政府の方針が致命的すぎる
2020/08/01:
●競争主義を取り入れて逆に競争力を失った日本の大学
●海外の大学は競争主義でうまくやっているというのは本当か?
●世界で唯一減少の科学立国日本の研究論文
2013/5/31:日本は実を言うと、研究不正が多い国です。こういった論文の不正が絶えない理由として、ある方は教授らの評価として論文数が重視されるからだとしていました。論文の中身が正しく評価されないために数だけの勝負となり、また論文の内容を精査できないために不正も見抜けないということになるという悪循環です。
そういったご指摘がありましたので、日本の論文数はてっきり増えているものだと思っていました。ところが、全然そうじゃないらしいという話を知って驚愕しました。
ある医療系大学長のつぼやき(「ある地方大学元学長のつぼやき」後継版)
鈴鹿医療科学大学学長、前国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog
あまりにも異常な日本の論文数のカーブ 2012年06月27日
そして、資料の中で私が目を留めたのは、エルゼビア(Elsevier)社のスコーパス(Scopus)という学術文献データべ―スによる、日本の学術論文数の変化を示したグラフでした。(中略)
さて、この図をみると、少し太めの赤線で示されている日本の論文数が、多くの国々の中で唯一異常とも感じられるカーブを描いて減少していますね。いつから減少しているかというと、国立大学が法人化された翌年の2005年から増加が鈍化して2007年から減少に転じています。他の国はすべて、右肩上がりです。
http://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/26f372a069cbd77537e4086b0e56d347
えええ、むしろ下がっているんですか!? エルゼビア社のデータで出ている国は数十カ国ありますが、日本以外の国はすべて右肩上がりです。それもやや右上がりなんてものじゃなく、はっきりとした上がり方でした。
それに対して日本は唯一、本当に唯一がくっと下がったときがあり、今は横ばいかやや減少気味という傾向です。調査対象を増やせば、世界で唯一ってことはなくなるかもしれません。しかし、これだけでも十分すぎるほど、衝撃的な結果でした。
●原因は、国立大学法人化、若手研究者の減少などの説
豊田長康鈴鹿医療科学大学学長は"データベースによって、その“くせ”のようなものがあり、一つのデータベースだけにこだわって分析をすると、過ちを犯すリスクがあると思います"ということで、トムソン・ロイター社のデータベースによる分析(5年移動平均値)についても触れています。
こちらは"日本の論文数は少し早く2000年頃から停滞を示しており、エルゼビア社ほどはっきりと増減を示していません"ということで、減少と言うよりは横ばいだとは言えます。とはいえ、別データを使っても、やはり増加傾向ではないことは確かなようです。
元サイトではこの理由を国立大学法人化に求めています。
エルゼビア社のデータベースでは、2004年の国立大学法人化の数年後から論文が顕著に減少しており、これを見ると、まさに国立大学法人化、あるいは、法人化の時期と一致して起こった何かが原因であることを思わせるデータですね。減少に転じるのが2004年から少し遅れているのは、何らかの原因が論文数に反映されるのにはタイムラグがありますから、それで説明できるかもしれません。
エルゼビア社のデータでは、唯一日本だけが異常なカーブを描いており、これは、徐々に、自然の流れで生じたことがらではなく、突然に、人為的・政策的に生じた現象であることを思わせます。
このカーブを見せられたら、たとえ法人化そのものが原因ではなくても、他の国は国立大学を法人化することを躊躇するでしょうね。まだ韓国と台湾が国立大学を法人化していないのも、わかるような気がします。
これについては異論があり、私としては何とも言い難いです。ただ、理由についてはともかくとして、日本だけが増えていないという異常な状態は概ね受け入れられているようです。
Unknown (通りすがり)
2012-06-28 09:49:45
原因は2000年頃から始まった若手研究者の減少でしょう。
大学法人化と結びつけるのはちょっと無理があるのでは。1990年代からの長期的な変動や、国際的に共通した論文数の変動傾向を鑑みれば、2000年頃から始まったコンスタントな論文生産者の減少が理由ではないかと。
また、"米国と中国は他の国よりもはるかに多くの論文を書いており、スケールが違う"という注意書きがある通り、グラフで見ると日本は絶対数としても世界のトップではなく、人口で劣るドイツ・イギリスに負けています。
問題は「量より質」と思うかもしれませんけど、最初に書いた通り現在捏造論文はブームのごとく次々と発覚しています。(
東邦大藤井善隆元准教授の全論文193本に不正・捏造の疑い、世界新記録か?なんかはすごいスケールです)
日本ダメだ論は嫌いなんですが、この事態は懸念せざるを得ないんじゃないかと考えています。
●日本の研究論文は不正が多く、重要度の高い論文も少ない
2017/12/11追記:最後の「量より質」という意味でむしろダメだということに関しては、日本の不正が多さについての投稿を新たにいくつか書いています。
■
研究不正大国日本 撤回本数世界一など、トップ10の2人が日本人 ■
世界一の研究捏造大国日本 2000年から急激に不正が増えた理由は? また、重要論文数でも減っていて問題だといった話についても、同様にいくつかの投稿をしていました。
■
日本の科学研究レベル低下、ネイチャーも指摘 中国・韓国・ドイツの逆を行く日本の政策 ■
中国が主要分野で重要論文数世界一に 日本人のノーベル賞は将来激減する●成果主義失敗で論文数低下、研究不正も増加か?
今回追記したのは、上記の話を書きたかったからではなく、東大不正に絡んでのNHKスペシャル「追跡 東大研究不正 ~ゆらぐ科学立国ニッポン~」が話題になっていたため。
(関連:
東大不正、渡邊嘉典教授のみ捏造認定は忖度か?医学系は全部シロ判定)
感想を見ると、どうも成果主義的な研究資金の配分が、日本の科学技術レベルを衰えさせたといった番組内容だったみたいですね。これは以前より言われている主流な見方の一つです。
ただ、この話の流れで、全く逆と言って良い「2位じゃ駄目なんですか」の考え方が蔓延しているせい、と言っている方がいて驚きました。逆ですよ逆。
失敗が指摘されているのは、「2位以下ではダメなので研究資金を減らして、1位を狙えるものにだけ集中させる」という考え方。理研のスパコンのように1位になれそうなところに集中投資して、他の資金を削るというやり方を政府が進めてきたのです。企業では成功している方法で、
GEジャック・ウェルチは嫌われ者だった 徹底した選択と集中に非難などで書いています。
しかし、研究の世界では、これがうまく行きません。ノーベル賞の研究でそういうものが多いように、偶然の産物であったり、非主流派の手法から画期的なものが生まれたりすることがあるためです。企業でも実はこういったやり方で成功しているところが多く、失敗するチャレンジを推奨しているところがあります。
なお、理研のスパコンは、そもそも天下りや不可解な出費の多さが問題視されたとも言われており、「2位じゃ駄目なんですか」発言だけクローズアップされたせいで誤解された可能性もありそうでした。
(関連:
理研のスパコン京の無駄 コストパフォーマンス最悪でランキングも低下)
●科学軽視の日本政府の方針が致命的すぎる
あと、「2位じゃ駄目なんですか」に関して言うと、民主党が政権にいたのはわずか数年で、政府の方針を決めたのはその前後の自民党政権であったことも補足しておきます。最初の投稿であった国立大学法人化もそうですよね。
こうした政府の方針では、前述の競争主義の適用だけではなく、そもそも科学予算が他の国と比べて少なすぎるという科学軽視・教育軽視の問題も非常に大きいです。今回の感想でも以下のようなものがありました。
ということで、残念なことに、日本の凋落は偶然ではなく、政府の方針が生んだ当然の結果だと言えます。
●競争主義を取り入れて逆に競争力を失った日本の大学
2020/08/01:
なぜ東大の予算は2500億円で、スタンフォード大は1兆円超なのか:日経ビジネス電子版(武田 安恵 2020年5月22日)では、日本の大学の競争力が低下したのは、「アカデミック・キャピタリズム(大学教育の市場化)」の台頭のためとしていました。
市場原理、競争原理を働かせて、競争力のある優れた研究と評価されるものにお金が付く仕組みを取り入れたところ、逆に競争力が低下してしまった…という話です。16年に文部科学省が行ったアンケートでは、約6割の教員が所属機関から研究者に支給される個人研究費の額を「50万円未満」と答えるなど、ひどいことになっています。
記事では、国の財源が逼迫し、大学の研究や教育にまとまった額の予算が割けないという事情があるとしていました。ただし、政府は自分たちの好きなことには結構なお金を使っていますからね。教育関係の費用を優先している国もあるため、これは言い訳にはできないでしょう。
ところが、記事はこの政府の方針をむしろ正当化する内容でびっくり。内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の上山隆大常勤議員の「大学側の戦略策定やマネジメント次第で改善できる」としていました。外部からの資金獲得を各研究者任せではなく、執行部がうまくやるべきという話です。ただ、実際、それがうまく行っていないから現状があるわけで、精神論のような気がしますね。
●海外の大学は競争主義でうまくやっているというのは本当か?
記事では、海外ではうまくやっているという主張でした。タイトルの「なぜ東大の予算は2500億円で、スタンフォード大は1兆円超なのか」は、どうも東大は執行部の資金獲得が下手で、スタンフォード大学はそれがうまいという差だという主張みたいです。1970年代、米ハーバード大学の大学基金も800億円だったのが、今や4兆円近くにまで増えています。これは寄付金が主体だと記事では書いていました。
ただ、別記事なんか読んでいると、記事で軽く触れているだけであった<1970年代以降、米国で大学への寄付が増えた背景には、寄付を後押しする税制改正も大きく関係していた>が、実はポイントだと指摘している人もいるんですよ。この税制は「寄付」と言いつつ、事実上の税金だと指摘されているのです。
また、今回の記事で別の成功例とされていたシンガポールでも、大学が集めた外部資金に対して、1.5倍の報奨金が国から出るしくみということで、やはり国から税金が出ることがポイント。外部資金も獲得するインセンティブを与えよう、という主張だけならわかるものの、海外大学の研究費も基本は税金。政府の失敗をまず認め、先にそちらを是正すべきでしょう。
なお、アメリカの大学の場合、寄付する人が好きな大学に寄付するために大学の格差が出ており、実はこれもポイントじゃないか?と思っています。有名大学の卒業生は当然出身有名大学に寄付するために、偏りが出ます。低レベル大学にはお金が行かず、高レベル大学にお金が偏るということになるでしょう。
一方、日本では首相の友達が運営するFランク私立大学に特別な資金を投入する、国立大学弱体化・私立大学重視的な政策をとるなど、むしろ競争力が高い国立大学への資金を減らしている形に見えます。日本は大学数そのものが相当増えており、限られた資金を奪い合う形。このように低レベル大学に資金が流出しているという可能性も気になるところです。
【本文中でリンクした投稿】
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日本の科学研究レベル低下、ネイチャーも指摘 中国・韓国・ドイツの逆を行く日本の政策 ■
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