●腑に落ちる・腑に落ちたの意味は?間違った用法?腑に落ちないじゃないの?
2013/6/23:
ヤフー知恵袋で「腑に落ちた、という表現、日本語として正しいですか?」という質問が出ていました。<ヤフー辞書には、この表現は載っていません>とも言っています。「普通には腑に落ちないだよね?間違っているよね?」という回答を求めた質問だと思われます。回答者もこれに応えて、「腑に落ちた」叩きとなっていました。
質問 <今朝の毎日新聞の新聞小説で、宮部みゆきさんが「腑に落ちた」という表現を使っています。
この表現には違和感がありますが、日本語の表現として妥当でしょうか?>
回答 hico_omocoさん
<「腑に落ちない」:大辞林には慣用表現とあります
なので慣用句だとしたら「腑に落ちた」は日本語として誤りです
例えば慣用句として一つの言葉である「とんでもない」を丁寧に表現しようとして
「とんでもございません」などと言う間違いと同じです
これを丁寧に言うなら「とんでもないことでございます」が正しい表現です
「おとな気ない」も慣用句だとしたら「おとな気ある」も誤りです
大先生が使っていたから正しいとは限りません
弘法も筆を誤る、ですかね
洒落でわざと間違った表現をしている場合も少なくありませんが>
回答 deibbitoさん
<私個人としては、質問者さんと同様、「腑に落ちない」のですが、あの今をときめく大宮部先生が、普通に使用しているならば、それが常識となるまで、時間はかからないでしょう。
言葉って、生きてますからね>
●「腑に落ちた」は、そもそも本当に新しい表現なの?実は昔から使われてる…
宮部みゆきさんは大衆小説家であり、国語の権威ってタイプじゃないので、「弘法も筆を誤る」とか「大宮部先生」とかってのはどうかと思いますが、まあ、たぶん「作家のくせに間違ってやがる」という嫌味を言いたかったのでしょうね。おふたりとも嫌味が非常にうまい文章で、変に感心してしまいました。
それはともかく、過去に何度も書いているように、最後の人が書いていた「言葉って、生きてますから(誤用でも浸透することがある)」は真実。言葉は変わりゆくものなのです。ですから、こうやって鬼の首を取ったように言葉の間違いを指摘してやろう…というのにも、同意しかねます。
ところで、この「腑に落ちる」「腑に落ちた」は、そもそも本当に新しい表現なのでしょうか? 実は、回答者でも「最近使う人が少なくなりましたが、由緒正しい日本語です」(fontomanieさん)としている方いがいて、実際に使われている例文を紹介していました。他の方も昔からある用法であることを指摘しています。
<つまり、「腑に落ちる」ということ。青木先生は、頭の上っ面だけで理解した、あるいは理解したような気になったことを、徹底的に疑う人だった。それをとことんまで考えて、すとんと【腑に落ちた】ときに、初めて納得する、そういう人だった。青木先生はヘンリー・ジェイムズを読むときに、そのような態度を貫いた。腑に落ちない文章を、【腑に落ちる】までいつまでも考え抜いた。だから、青木先生の翻訳によるヘンリー・ジェイムズはよくわかる。わかり方のレベルが違うということが、わたしのような読者にもよくわかる>
mephisto1808さん
<近時聞きませんが、菊地寛の短編小説『入れ札』(大正10年:国定忠治を描いたもの)に、「それじゃあみんな、腑に落ちたんだな。」(納得したんだな)という表現がありますから、以前は普通に使われていたと思われます>
you_asakura_shamanさん
<正しいですよ。
「腑に落ちた」ですから、「納得がいった」って事でしょ。
「腑に落ちない」の反意語で「腑に落ちる」と表現します。
この表現は聞き慣れないでしょうが、間違ってはいません>
●なぜか馬鹿な人ほど偉そうに断定する傾向!「誤用」との主張が間違っていた
今回は単に宮部みゆきさんを叩きたかっただけに見えますが、質問者はわからないからヤフー知恵袋に来ている可能性があるので、物を知らないのはある程度仕方ありません。ただ、ヤフー知恵袋の場合、質問者も回答者もどや顔で間違ったことを言ってしまう人が多いです。
私のブログのコメント・メールもおかしなこと言う人の方が、大抵やたら偉そうな物言いをします。一方で、正しい指摘をしてくれる方は、気を使って穏当な言い方をしてくれる傾向があるんですよ。不思議ですね。上記のように質問サイトでもちゃんと知っている人もいるのが、救いなんですけど…。
なお、
語源由来辞典の場合はさらに痛烈で、誤用だというのが誤解だと断定。まず、肯定形の「腑に落ちる」は明治時代の文献にも見られ、「納得がいく」「納得する」という意味で用いることは誤用ではないと説明。その上で、一般に「腑に落ちる」の形で用いられることが少なくなり、使い慣れない・聞き慣れない言葉を使われる違和感から、「正しい日本語ではない」と誤解されることが多くなったとしています。
前述したようなまさに変わりゆく言葉の典型で、正しかった用法が誤用とされるように変化している真っ最中のようです。ですから、既に市民権を得ている場合「腑に落ちる」を誤用と言っても良いのですが、間違いだとする回答者の理解は時系列を間違えており、使われ方の変遷を理解した上で言っていたわけではないのは確実でした。
●「ヤフー辞書には、この表現は載っていません」からして実は嘘だった!
あと、これは誰も気づかなかったようで指摘されていないのですが、そもそも質問者の<ヤフー辞書には、この表現は載っていません>からして実は間違いなんです。以下の通り、普通にヤフー辞書に載っていたんですよ。「腑に落ちる」は今でもネット辞書に載るほどに、メジャーな表現でした。
腑(ふ)に落(お)・ちる
納得がいく。合点がいく。
ヤフー辞書 じゃあ、何でこの人は見つけられなかったの?と思い、最初にあったヤフー辞書のリンクを踏んでみたら、「腑に落ちた」と過去形のままで検索しています。そりゃ出るはずありませんわ! 私もときどきこんな感じで活用形のまま検索して「あれ、出ない?」とアホなことをすることがありますので、このことで馬鹿だとかアホだとかは言いませんけど、人を嘲笑するような表現をするならもう少し調べないといけませんね。他山の石としたいところです。
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