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伝統は継承せず壊せ!能作の世界初錫100%食器は曲がるやわらかさ


 伝統は守らずに変えて成功って話をたびたび書いていますが、今回は能作(のうさく)という鋳物メーカーの話をやります。

 能作の変化の一つは、仏具や茶道具の下請け企業から、自社ブランドの食器やインテリア雑貨企業への転身。そして、もう一つの変化が、業界の常識からするとダメな食器としか思えない、曲がる錫100%食器を作り出してヒットさせたことです。

2018/02/01:
●食器・雑貨とは程遠い…仏具や茶道具の下請け企業だった能作
●伝統産業とは異なるものを作りたい!その理由は伝統批判ではない
●伝統は継承せず壊せ!能作の世界初錫100%食器は曲がるやわらかさ
●変わらないことは良いことか?伝統産業も時代に合わせた変化が必要
●真珠のデザインの伝統を捨てて成功したTASAKI(田崎真珠)という例も
2020/06/25:
●医療機器や入れ歯、マスク用の板材…異分野に次々と進出していた


●食器・雑貨とは程遠い…仏具や茶道具の下請け企業だった能作

2018/02/01:富山県高岡市にある鋳物メーカー能作(のうさく)。もともと仏具や茶道具などを手掛けている企業でした。下請け企業であり、製品に名前が出るような企業もでありませんでした。直接一般の消費者の目に触れるタイプの企業ではなかったのです。

 そんな能作が、01年に東京・原宿のギャラリーで自社の技術を見てもらおうと展覧会を開きます。インテリア雑貨店の担当者が展示作品の中にあった真鍮製のベルに着目し、取り扱いが決まりました。しかし、これで華麗に転身…というわけじゃないのです。この真鍮製のベルは、全然売れなかったんですわ。

 本当の転機となったのは、1人の店員が口にした言葉。「能作のベルはきれいでスタイリッシュ。だから、風鈴にしたらどうですか」。そのアイデアを商品化したところ、大ヒットしたといいます。この時点で既に、企業としての伝統を変えてしまっていると言えるでしょう。
(能作の「錫の食器」はなぜ営業不在でも売れるか:日経ビジネスオンライン 長江 優子 2017年12月11日より)


●伝統産業とは異なるものを作りたい!その理由は伝統批判ではない

 能作はその後、自社ブランドで食器やインテリア雑貨を手掛けるようになったののですけど、これも店員の声を生かした商品作りの結果でした。今の能作を代表する錫(すず)の食器が生まれたきっかけは「金属の食器が欲しい」という店員からの一言だったそうです。

 能作社長が調べてみると、真鍮製の食器は衛生面から商品化が困難。そこで能作が取り扱う素材の中で、食器に適したものを探したところ、候補に挙がったのが錫でした。

 うちのタイトルでは「伝統は継承せず壊せ!」としたのですけど、"錫の食器は、大阪錫器や薩摩錫器など既に地域の伝統産業として存在している"として、普通の作り方のものは避けました。そして、違う方向性を目指すというのが、伝統に倣わずに変化させるという内容になっています。

 よその地域の伝統産業とは異なるもの…そう考えた末に行き着いたのが、錫100%の食器を作ることだったといいます。実はこれが、たいへん非常識なものだったのです。


●伝統は継承せず壊せ!能作の世界初錫100%食器は曲がるやわらかさ

 なぜ非常識なのかと言うと、錫は軟らかすぎるため。通常は金属特有の硬さを出すために、ほかの素材を混ぜます。前述の大阪錫器や薩摩錫器も錫合金でできており、「錫100%の食器は世界になかった」といいます。そして、むしろ能作社長はそこに革新性があると感じました。

 通常の鋳物メーカーであれば、素材が軟らかいために、商品が曲がるというのは「金属は硬い」という固定概念に反するため、考えられないことだったといいます。伝統を守ろうという意識では、至ることができなかった発想でしょう。

 「伝統を頑なに守る頑固職人」みたいな話を好きな人が多いですけど、そうした産業は廃れることが多くあります。そして、職人も愛好者も「客の見る目がなくなった」と消費者を攻撃しがちです。でも、求められていないのですから、消費者のせいにするのは間違いでしょう。

 逆に画期的な発想の転換ができるのは、部外者ということが結構あります。能作社長ももともとはカメラマンという全く関係ない仕事をしていた人。鋳物業界出身ではなく、婿として能作家に入った「よそ者」。逆転の発想で、曲がることをPRポイントにした商品ができあがったといいます。


●変わらないことは良いことか?伝統産業も時代に合わせた変化が必要

 私は伝統を変化させるという話が好きで、過去にも伝統とは変わらないことではない 虎屋黒川光博社長は「伝統は変化の連続」と理解というのを書いています。

 和菓子の虎屋の黒川光博社長は「伝統は革新の連続」だとしていました。「革新」という大げさなものですらなく、変わって当然だともいいます。虎屋はフランスに進出し、「カラフルで小ぶりなものがいい」「香りのするものがいい」といったフランスの方々の声を直接聞き、考え方を変えられたとのことでした。

 そして、能作社長も、伝統産業も、時代に合わせた変化が必要だと指摘していました。「いい意味で伝統を壊して変革させないといけない」とのこと。また、「海外進出はその代表例で、現地の生活スタイルに合わせて、提案する食器を変えないと成功しない」としており、やはり海外に目を向けていました。


●真珠のデザインの伝統を捨てて成功したTASAKI(田崎真珠)という例も

 もう一つ、虎屋以外にも別の伝統を変化させた例を挙げましょう。田崎真珠(TASAKI)復活は品質のこだわりではなくファンド出資のおかげで書いたTASAKIの場合、成功した理由が複数あったものの、その一つが「真珠のデザインの伝統を捨てたから良かった」というものでした。

 TASAKIは伝統的に真珠の品質にこだわっており、その評価は高かったものの、売れませんでした。「デザインがいまいち」だったのです。

 そこで、伝統的なデザインではないものを求めます。冠婚葬祭用を脱却し、「様々な洋服に合わせて楽しめる、デザイン性の高いジュエリーに」という方向性です。そして、宝飾デザイナーではすらない服飾デザイナーを起用し、「丸ければ丸いほど美しい」と言われていた真珠の既成概念をくつがえすデザインが次々と出てきたことが成功した理由の一つだったといいます。

 一つ前の虎屋の投稿では、そもそもなぜ「伝統」と言われるほど長く続いてきたか?と考えるとどの時代にも必要とされてきたためなのですから、時代に応じてむしろ変える必要性があるのでは?という話も書きました。特に衰退産業に従事している方は、発想を変えてみるべきでしょう。


●医療機器や入れ歯、マスク用の板材…異分野に次々と進出していた

2020/06/25:能作の別記事も読んでみようと探して見つけた鋳物の能作社長「伝統工芸のM&A相談増える」  :日本経済新聞(2020/6/10 17:00)という記事。ただ、タイトルの話は前向きなものではなく、新型コロナで業績が悪化して伝統工芸の会社を買わないか、という話が能作克治社長のもとに、よく持ちこまれるようになったというものでした。

 とりあえず、能作としては、この買収に前向きな様子。「象眼や彫金といった細かい技術は途絶えると再生が難しい。可能なものは(買収で)取りこみたい」としていました。技術の取り込みはより選択肢を広げて、今までになりものを作ることにもプラスになるかもしれません。

 能作克治社長は商品戦略について「デザイン性を追求してきた」と説明。ただ、これも新型コロナウイルス流行を踏まえて、新路線を考えている模様。「心に余裕がないときには響かない。今後のキーワードは『効果・効能』だ」としていました。

 すでに錫(すず)の抗菌性を利用した、医療機器や入れ歯の容器を商品化してきたとのことで、また違うところにチャレンジしていますね。本当すごいですわ。また、マスクを着けたときに眼鏡が曇らないよう、鼻の上部に付けて息漏れを防ぐ錫製の板材を7月に発売予定だともしていました。


【本文中でリンクした投稿】
  ■伝統とは変わらないことではない 虎屋黒川光博社長は「伝統は変化の連続」と理解
  ■田崎真珠(TASAKI)復活は品質のこだわりではなくファンド出資のおかげ

【関連投稿】
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