ニュースは人種問題に焦点を合わせたものが多かったのですが、これはフロリダ州特有の正当防衛の問題もあるんじゃないかと思います。
私は事件の少し前に
海外の変わった法律 自国では合法だけど他国では違法なことを書いてきて、そこでフロリダ州の話が出てきたために今回気になりました。
私はこっちを強調したいのですが、先に事件を振り返る意味も込めて、人種問題をメインにした記事を紹介します。
ここで出てくるフロリダ州法の「Stand Your Ground Law」が、後で述べる特殊な法律です。
殺されたのはトレイボン・マーティン君(当時17歳)。雨の降る真夜中、近くのスーパーで菓子を買った後、高級住宅地の一角にある父親の愛人宅に戻ろうとしていたところ、事件に遭遇した。頭からフードをすっぽりとかぶっていた。
射殺したのはボランティアで自警団長をやっていたジョージ・ジマーマン氏(29歳)。父親がドイツ系、母親がペルー出身のヒスパニック。風貌はどちらかというと白人に近い。銃の所持を許可されていた。少年を「不審な人物」と見て後を追いかけ、口論の末、格闘となり、引き金を引いた。
陪審員6人のうち5人は白人女性、1人はヒスパニック女性。黒人は1人もいない。黒人サイドはこれを不公正としているが、人口比から見て陪審員構成に法的な問題はない。第18巡回裁判所管轄地区の人口構成(2010年)は白人が33万人(78.22%)、黒人は4万7000人(11.14%)(ヒスパニックは人種としてのカテゴリーがなく、白人と黒人のそれぞれに含まれている。ヒスパニック系白人もいればヒスパニック系黒人もいる)(中略)
事態を重視したオバマ大統領は14日、特別声明を出し、「我々は法治国家の国民だ。陪審員による評決は出た。若い息子を失った両親は、我々に冷静な対応を求めている。すべての国民はそのことを尊重してほしい」と訴えた。
これを受けてホーランド司法長官は、この件に対して連邦レベルで再調査する方針を明らかした(具体策は示していない)。同長官は、15、16日の両日、「全米黒人地位向上協会」(NAACP)などの黒人集会に出席して、オバマ政権の方針を改めて説明した。それでも、「少年が黒人だったから殺され、被告は無罪になった」とする黒人サイドの感情を沈静化するには至っていない。
他になかったこの記事での指摘としては、検察の戦術に無理があったのでは?というものがありました。
法律専門家の中には、今回の裁判でフロリダ州検察当局が「戦術」上の失敗を冒したと指摘する者が少なくない。「失敗」とはジマーマン被告に対し「第2級謀殺」容疑を適用したことだ。これは、有罪になれば、終身刑が課せられる重罪だ。素人の陪審員に有罪か無罪かを質せば、無罪と答える可能性が高い。少し罪の軽い容疑で訴えていたならば、有罪と答える陪審員が多くなったかもしれない。
ジョージ・ワシントン大学法科大学院のジョナソン・ツーリー教授は、むしろ別の攻め方があったのではないかと指摘する。
「集めた情報や証拠を見ると、被告を第2級謀殺で裁くことには無理があった。むしろManslaughter(故殺罪)――殺意なく引き金を引いた――か Assault(暴行罪)で攻めれば、検察は有罪を勝ち取れたかもしれない」
ただ、これは黒人にとっては、敢えて罪にならないような戦術を取ったとも捉えかねません。
初期報道ではヒスパニック系ではなく、白人というものもありました。結局これは間違いでした。
そのせいで、ヒスパニック系VS黒人なので人種問題ではない……としている方もいるのですが、話はそう単純なものではありません。
今回の射殺事件とその後の動きを追っていくと、いやが上にも見えてくるのは人種間の憎しみの激しさだ。司法省の調べだと、2003~2011年の間にヘイト・クライムの被害を受けた者は年平均25万人。英語が不自由なため警察に届け出ないヒスパニックも少なくないため、実際にはこれを超える市民が人種的偏見による暴力行為を受けているとされる。
特にロサンゼルスやフィラデルフィアなどでは、黒人マフィアとヒスパニック・マフィアとの抗争が頻繁に起こっており、双方が自分たちの「縄張り」に入ってきた他人種に容赦なく危害を加える事件が相次いでいる。一般市民が巻き込まれるケースも少なくないという。(中略)
なぜ、ヒスパニックは黒人を嫌っているのか。ロサンゼルス近郊のアルハンブラに住むヒスパニックの弁護士、トリニダード・ロペス氏は筆者にこう説明した。
「ヒスパニックにとって白人は愛憎相半ばする存在だ。土地を略奪され、奴隷にされた歴史があるにも関わらず、ヒスパニックは白人に憧れ、尊敬の念を持っている。ドミニカ共和国の独裁者、ラファエル・トルヒヨなどはイタリア人やフランス人を輸入してドミニカを『白人化』しようとした。黒人に比べれば自分たちは白人に近いと思っている。メディアや映画の影響があるのだろう。白人は善、黒人は悪というイメージを持っている。それに今のアメリカでは黒人とヒスパニック、特にメキシコ系とは仕事の取り合いをしている。生活面でもライバル同士なのだ」
今回の事件を巡って発言しているブログコメントの中にこんなものがあった。書いたのは白人のようだ。
「茶色い肌の男が黒人を殺しても白人のせいにできるのはアメリカだけだな」("Only in America can a Brown man kill a Black man and they still blame White people)
また、"ジマーマン被告がなぜ、フードをかぶったマーティン君を追いかけたのか。もし彼が白人だったら特に気にかけなかったかもしれない"という話も出ており、これもやはり「黒人だから」という結論になります。
あるユダヤ系コラムニストである、ワシントン・ポストのリチャード・コーエン記者は「不審に思っても当然だ」とする。「一例を挙げれば、ニューヨーク市に住む黒人は全体の23.4%なのに、銃を発砲した者の78%は黒人だ。市が『Stop-and-frisk Program』(不審人物に対する尋問、身体検査)を行うのは当然だ」と言い切る。
かってオバマ大統領はフィラデルフィアで演説し、「自分の(白人の)祖母は道で黒人の男とすれ違う時の恐怖について告白したことがあった」と明かしたことがある。コーエン記者はそのエピソードを引用しながら、「この事件は、誰が何と言おうとも人種がファクターだ」と結論づけている。
「ジマーマンは間違いなく、(黒人の)マーティンをプロファイルしたに違いない。銃を握りしめて追いかけた。捕まえれば手柄になると考えたとしても不思議ではない。そして、その結果は、典型的なアメリカの悲劇(a quintessentially American tragedy)となってしまった。不審な人物と思われても仕方のない少年の死。彼は黒人だった。それゆえに死んだのだ」
("Blinded Under a Hoodie," Richard Cohen, Real Clear Politics, 7/16/2013)
この記事からは以上です。
で、私が気になっているフロリダ州の「正当防衛」の問題です。
海外の変わった法律 自国では合法だけど他国では違法なことで使ったサイトでは、フロリダ州の「正当防衛」について次のページをリンクしていました。
私はリンクと短い引用部だけ見ていて中身を確認していなかったのですけど、どうもこのページも今回と同じ事件について扱っていたみたいですね。
こちらのページでもヒスパニックではなく白人という間違いがありますので、いろいろ間違っているところがあるかもしれませんが、他でなかった話で気になったのはこちら。
ちょっと検索すると、少年の動きが雨の中で傘をささないなど不審で、薬をやっているように見えたって話もありますね。
ここでやっと法律の話。問題の法律は以下のようなものです。
2005年にブッシュ大統領の弟、ジェブ・ブッシュが知事をつとめていたフロリダ州で “Stand Your Ground Law” という法案が成立した。自分の命が危険にさらされていると感じた場合に、武器をもって防衛する権利を認めるものである。それまで、まず逃げることで危険を回避することが必須とされていたのが、新しい法律下では、身の危険を感じたかどうかにかかわらず、不法侵入者に対して武器をとることができる。また対象となる場所が家からボートや車といった広範囲にまで拡大された。この法律が成立して以来、フロリダ州では正当防衛を訴える事件が3倍にのぼっているという。
対象となる場所の「家からボートや車といった広範囲」という書き方だと、今回の事件のように尾行してというケースだと対象地域に入らないように見えますが、最初の記事にはちゃんとこう書いてありました。
フロリダ州法の「Stand Your Ground Law」に基づき、「正当防衛」を認めた
車に乗って尾行……というのがポイントかな?と思いましたが、これも検索してみると少年に「襲われた」ときは結局車外で、車に乗って逃げようとしたが暴行を振るわれたので銃で打ったといった記述がありました。
これでも法律適用の範囲内とみなされたようです。
さらに懸念されるのが、この法律がフロリダ州だけじゃなく他にも広まっているということです。
"Shoot First"、"Make My Day"とも呼ばれる"Stand Your Ground"またはそれと同様の法律は、フロリダ州だけでなくアラバマ、アリゾナ、ジョージア、アイダホ、イリノイ、インディアナ、カンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシガン、ミシシッピ、モンタナ、ネバダ、ノースキャロライナ、オクラホマ、オレゴン、サウスキャロライナ、サウスダコタ、テネシー、テキサス、ユタ、ワシントン、ウェストバージニアといった23州で成立している。
今回の判決が人種的な要因であった場合、「殺した相手が黒人なら無罪」という結論になります。
これはもちろん問題なのですが、人種的な理由がなかった場合には、今度はこの法律の出来の悪さがいっそう目立ってくるという別の問題が発生します。
今回のケースからすると、"Stand Your Ground"のような法律のある地域では、「銃の保持や問題の起きた場所などは関係なしに、生き残った方が正当防衛を主張して認められる可能性が高い」と、人々は考えるはずです。
もしかしたら報道されていない決定的な証拠が、別にあったのかもしれません。ただ、それがアメリカ人に知られていなかった場合、結局同じことです。人々が「生き残りさえすれば大丈夫」と考える可能性は高いと言えます。
そしてそうなると、殺したもん勝ち……という恐ろしい世界が、できあがります。
やはり私はこの法律に問題があると思います。
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