ちょっと遅くなってしまったのですけど、アメリカの記者が日本への原爆投下について質問した件。
「(共同)」とありますので元ネタは共同通信かな?と思いますが、ネット上には見当たらないため産経新聞から。
「原爆投下も国際法違反か」シリア化学兵器使用でロイター記者が米国務省に質問
2013.08.29
原爆投下も化学兵器使用と同じ国際法違反か-。米国務省の定例記者会見で28日、ロイター通信の記者がシリアの化学兵器使用疑惑をめぐり、米国による広島、長崎への原爆投下の例を挙げて軍事介入の正当性について追及した。
米政府はアサド政権による化学兵器使用を断定。この日の会見でハーフ副報道官は国連安全保障理事会による武力行使容認決議なしに軍事介入することを念頭に、多数の市民を無差別に殺害したことが一般的に国際法違反に当たると強調した。
これに対してロイターの記者は「
米国が核兵器を使用し、広島、長崎で大量の市民を無差別に殺害したことは、あなたの言う同じ国際法への違反だったのか」と質問。ハーフ氏はコメントを避けた。(共同)
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20130829/frn1308291335008-n1.htm 見ての通り非常に短いです。
ここでは"ハーフ氏はコメントを避けた"としかありませんでしたが、具体的に何と言ったかなど、もう少し詳しい話が載っていたのはこちらの記事です。
「原爆も化学兵器と同じ国際法違反になるのか」 ロイター記者の質問にネットで称賛の声 (1/2) : J-CASTニュース
2013/8/30 19:39
質問したのは、ロイターで米外交政策を担当しているArshad Mohammed記者だ。
米国務省サイト上で公開されている2013年8月28日の会見動画を見ると、ハーフ副報道官は、アメリカの軍事介入の正当性を示すものとして、シリア政府が化学兵器を使って多数の市民を無差別に殺しているとし、これは国際法違反に当たると説明した。これに対し、Arshad記者は、ハーフ副報道官にこう問いかけた。
「アメリカが核兵器を使った結果、広島や長崎の多数の市民を無差別に殺すことになったのは、あなたの言う同じ国際法違反になるのですか?」
すると、ハーフ副報道官は、むっとした表情になって、「その質問は、受け入れるつもりさえないですよ、Arshadさん」と即答した。そして、Arshadが何か言おうとすると顔をそらして、「はい、次の質問は?」と話題を変えてしまった。
http://www.j-cast.com/2013/08/30182648.html 極めて不誠実な対応です。
ここでシリア化学兵器問題の背景を軽く書いておきます。
記者は今回のシリアへの軍事介入におそらく懐疑的だったのでしょう。この質問は介入へ批判的な意味を込めたものだったと想像できます。
というのも、今回のアメリカの軍事行動には賛成が少ないためです。
たとえば、この質問について扱った以下の記事では、軍事介入の問題点を挙げています。
「アメリカのシリアへの軍事介入は、広島・長崎への原爆と同じか」記者がハーフ副報道官に質問
この軍事介入については、正当性があるのかという点を問題視する声もある。国際政治学者イアン・ブレマー氏は「米国がシリアに軍事介入する本当の理由」と題したロイターのコラムで、「
米国が本当に守ろうとしているのはシリア国民ではなく、化学兵器使用を禁じる国際基準と、そして何よりも自国の威信だ」と指摘している。オバマ大統領はこれまで、シリアでの化学兵器使用は「レッドライン(越えてはならない一線)」だと明言していたが、実際に行われたことで面子を潰された状態になっている。
アメリカ国務省のマリー・ハーフ副報道官は28日、記者会見において、一般人に対する化学兵器の無差別の使用は、国際法違反と強く避難。しかし、
具体的にどの国際法に違反するのかとの質問に対しては、明確な回答はなかった。http://www.huffingtonpost.jp/2013/08/29/syria_atomic_bombs_n_3839475.html また、イギリス議会が介入に反対し、イギリスが参加しないことになったことはご存知のとおりです。
もう一つ、国連・アラブ連盟共同特別代表の発言も紹介。
時事ドットコム:米欧の軍事介入けん制=「安保理決議が必要」-国連特別代表
【ジュネーブ時事】シリア内戦の調停役を務めるブラヒミ国連・アラブ連盟共同特別代表は28日、ジュネーブの国連欧州本部で会見し、アサド政権による化学兵器使用疑惑をめぐる米欧の空爆計画をけん制した。ブラヒミ氏は「
軍事介入には国連安保理決議が不可欠だと国際法は明記している」と述べた。
ブラヒミ氏は、多くの市民が犠牲になったダマスカス郊外での攻撃に関し、「何らかの(化学)物質が使われた」と明言。
(中略)ただ、軍事介入が現実化すればシリア情勢に大きな影響を及ぼすとし、事態収拾は「軍事的な解決ではなく、政治解決しかない」と改めて強調した。
ブラヒミ氏はさらに、シリアで危機が続いている一方で「安保理は過去2年まひしている」と懸念を表明。「(常任理事国は)世界の平和と安全保障に対する責任を持っていると言えるのか」と米ロ英仏中の対応を強く非難した。(2013/08/28-21:31)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201308/2013082800882 その他で特に重要なことに、アメリカ国民の賛成が過去の軍事行動でダントツで低いというのもあります。
こういった背景があり、この質問もアメリカの国内事情によるものと言えなくもありません。
ただ、アメリカ人にとってはシリア介入への批判だけでなく、自分たちにもダメージのある質問です。
J-CASTに戻りその後半部を読んでみると、やはり原爆投下は当時の国際法に照らし合わせても違反だと言えそうです。
中国新聞(本社・広島市)の2007年8月6日付朝刊記事によると、当時の日本政府は、長崎への原爆投下の翌日、国際法違反であるとしてアメリカ政府に抗議していた。
それは、原爆使用は、ハーグ陸戦条約の付属書陸戦の法規慣例に関する規則第22、23条に違反しているというものだ。条文では、交戦国は兵器の選択について無制限の権利を持っておらず、不必要の苦痛を与える兵器などを使うことを禁じている。これを受けて、日本政府は、使用を禁じられている毒ガスなどの兵器を原爆が凌駕しており、多数の市民を無差別に殺していると非難していた。
そして、戦後になっても、この問題は残り、東京地裁は1963年12月7日、原爆投下は国際法違反であるとした判決を下し、そのまま確定している。
しかし、アメリカは日本にばかり反省を求め、"政府は、原爆投下について正当化はしても、これまでに国際法違反と認めて謝罪したことはない"とのことです。
朝日新聞の08年3月10日付夕刊記事によると、それはアメリカの伝統的なやり方に沿っているらしい。
東京大空襲の前、沖縄で空襲が行われ、日本政府は「国際法違反だ」としてアメリカ政府に抗議していた。ところが、アメリカも、日本軍による中国への爆撃について、国際法違反と批判していた事情があって、抗議を黙殺することを決めた。
"日本軍への主張と矛盾し、認めれば米兵捕虜に危害を加えられる恐れがある"という理由もいっしょに載っていたのですけど、これでは意味が通じませんから要するに自己都合でしょう。
今回話の出た原爆投下や空襲による民間人殺害を元にアメリカを今責めるべきかとなると話がまた別となるのですが、少なくともアメリカが非人道的な行いに無反省なことは道義に反します。
アメリカの身勝手さがまた垣間見えた一件でした。
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