東北大学元学町の不正疑惑の話をまとめ。<怪しい井上明久東北大前学長論文不正問題 損害賠償裁判では勝利>、<東北大の井上明久前総長の研究不正疑惑 外部調査しないと幹部が決定>、<不正なし断定は不可解…同じになることはあり得ない画像が同じに>、<日本金属学会元会長らも申し入れ、不正指摘の論文がついに撤回>などをまとめています。
2023/02/03まとめ:
●東北大の井上明久前総長の研究不正疑惑 外部調査しないと幹部が決定
●不正なし断定は不可解…同じになることはあり得ない画像が同じに
●実は内規違反!内規では調査委員会を設置するだったはずなのに
●井上明久前総長の研究不正疑惑がくすぶり続ける理由
●日本金属学会元会長らも申し入れ、不正指摘の論文がついに撤回
●怪しい井上明久東北大前学長論文不正問題 損害賠償裁判では勝利
2013/9/4:うちでやっている論文不正疑惑では、井上明久東北大前学長の問題も有名なようです。
Wikipediaでは、<日本の金属学者。東北大学第20代総長、同総長特別顧問。専門は金属物性、無機材料・物性、構造・機能材料>との説明。大学は姫路工業大学だそうですけど、大学院以降はずっと東北大。途中文部科学省科学官」をやっていた時期もありますが、併任だそうです。
今回、もう一人の重要人物となるのが日野秀逸さん。Wikipediaはありませんが、こちらも東北大の方で、名誉教授のようです。今回の件はややこしいのですが、たぶん以下のような流れだと思われます。
日野秀逸名誉教授らが井上明久東北大前学長の論文不正の告発状を東北大に提出
↓
井上明久東北大前学長がこれに損害賠償を求める
↓
日野秀逸名誉教授らが反訴して逆に井上明久東北大前学長に損害賠償を求める
そして、今回言い分が通ったのは井上明久東北大前学長という結果になりました。
・河北新報 内外のニュース/「論文不正」東北大前学長が勝訴 告発側に賠償命令(2013年08月29日木曜日)
<論文に不正の疑いがあると告発されて名誉を傷つけられたとして、東北大の井上明久前学長が、告発した日野秀逸名誉教授ら4人に1650万円の損害賠償を求め、名誉教授らが反訴して約2400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁(市川多美子裁判長)は29日、名誉教授ら4人に計110万円の支払いを命じた。反訴は棄却した>
http://www.kahoku.co.jp/news/2013/08/2013082901001344.htm 判決理由について市川裁判長はまず「論文に直ちに捏造、改ざんがあるということはできない」としています。そして、おそらく本来なら「学術論争において決着を図るべきだ」ったということで、直ちに捏造とは言えない告発によって「(名誉教授らは)井上前学長の社会的評価を低下させた」と判断したようです。
なお、この問題はまだ調査中のようです。<論文不正訴訟:「告発で評価低下」認める 仙台地裁判決>(毎日新聞 2013年08月29日 19時48分(最終更新 08月29日 21時43分))では、<大学関係者によると、同大学は前学長の論文について「研究不正対応ガイドライン」に基づく調査委員会で、4月から不正の有無を調査している>としていました。
http://mainichi.jp/select/news/20130830k0000m040052000c.html 裁判は以上のようになりましたがWikipediaを読むと、井上明久東北大前学長に怪しい点が見えます(以下、改行は変更)。まず、以下はまだ井上明久東北大前学長に問題があるようには見えない部分です。
<井上は一部の論文に関して二重投稿やその他の不正行為の疑いを受けた。
2007年5月、井上の実験結果の一部に再現性がないと主張する匿名の告発文が文部科学省に送付され、同省は東北大学に調査を求めた。東北大学は理事の庄子哲雄を長とする委員会を設置して調査を行い、再現性があることを確認した。
2009年に日野秀逸、大村泉らが井上の実験結果の捏造の可能性を指摘したが、検討にあたった東北大学の外部委員らは不正を疑うべき根拠がないと回答し、井上は2010年7月までに名誉毀損で大村らを提訴し大村らは反訴した>
ところが、この後おかしなところが出てきます。
<2011年6月、井上がApplied Physics Letters(英語版)誌に投稿した
論文が二重投稿にあたるとして同誌から取り下げられた。それを含む井上を著者・共著者とする
計7報が、二重投稿だったとして2012年までに取り下げられた。これらの二重投稿について調査するため東北大学は2010年12月に有馬朗人を長とする調査委員会を設置した。同委員会は2012年1月の報告書で二重投稿の事実を認めて井上に反省を求め、井上はこれに従った。
御園生誠を長とする科学技術振興機構の調査委員会は不適切な二重投稿の存在を認めた一方で、同機構が助成した「井上過冷金属プロジェクト」の成果の主要な部分には影響しないと2012年3月に報告した。井上はデータの捏造については2011年までに否定し、二重投稿については事故や共著者との行き違いが原因だったと2012年に説明した。
井上の複数の論文に渡る同一資料写真の不自然な使い回しなどに関して科学技術振興機構が2012年までに調査を求めていたのに応じて、東北大学が調査委員会の設置を決めたことが2013年3月に報じられた>
とりあえず、二重投稿は認めていて、これは確実に前学長が悪いようです。問題は最後の写真の使い回し……なのですけど、これは典型的な不正パターンであるため、やはり疑われるのも無理はないかな…という感じ。検索してみましたけど、この写真の使い回しについてはやはりかなり突っつかれています。また、「二重投稿」という見解すら正しくないという主張もありした。
<(2)論文撤回に際してAPL編集長が井上氏の行為を「犯罪」とまで呼んだ理由は、
(a)APLの内容を、APL誌に先行して公表した学術誌では、二重投稿をしないように公告されていたのを破ったこと、
(b)
同じ写真が別の論文で合金組成や実験条件が異なる形で投稿(もちろん引用はない)されている事実などがあったからと考えられること、
(3)従って、有馬委員会報告のように、井上氏の二重投稿を、あくまで単なる「不適切な行為」として済ましてしまうわけにはいかない>
http://www.forum.tohoku/ 「同じ写真が別の論文で合金組成や実験条件が異なる形で投稿」した場合それは二重投稿ではなく、写真の使い回しによる捏造ということでしょう。論文数は研究者評価の重要な要素となっているようです。したがって、「二重投稿」は業績の水増しですから、この時点で悪いのは間違いありません。ただ、上はそれ以上に悪質だという主張なんでしょうね。
また、先にあった"委員会を設置して調査を行い、再現性があることを確認した"というところにも疑義が生じています。どうも研究者らによる主張が一定ではないようなのです。
センチメーター級直径のバルク金属ガラスの捏造について - 井上明久事件 - 世界変動展望
http://blog.goo.ne.jp/lemon-stoism/e/484b0979498bfffafd29bbdac37759c01. 2007年に配布された匿名投書では、井上らが作製したと主張するセンチメーター級の直径を持つ
完全なバルク金属ガラスの再現性が得られないと主張するものだった。
2. 調査委員会(委員長 庄子哲雄理事(当時))は論文の主張は「
結晶の含まれない高品位の直径16mmの金属ガラス棒ではなく、結晶が均一に混じったガラスの形成」であり、完全なバルク金属ガラスができないという指摘は告発者の誤解だと斥けた。
どうやら調査委員会が「再現性があることを確認した」というのは、不完全なバルク金属ガラスのようです。発表済み論文という問題は依然として残るものの、これは"完全なバルク金属ガラスができないという指摘は告発者の誤解"という主張を貫いていれば、それなりに通ります。ところが、これと異なる主張が共同研究者から出てきてしまいました。
3. 共同研究者の張が、
論文で述べた作製法は従来の水焼き入れ法ではなく改良水焼き入れ法であり、この方法を使うことで
ガラス単相のバルク金属ガラスができると述べ、再現実験も行った。
井上明久さんはこの路線ではないようで、裁判では「不完全」なバルク金属ガラスという話を繰り返しています。
4. 名誉毀損裁判でも井上は「完全なバルク金属ガラスを作製したとは一切論述していない」と主張した。
何だか変なところばかり…なのですが、裁判は前述の通り、井上明久さんが勝ちました。この問題は犯罪における「推定無罪」のような難しさがあり、確定前に非難すべきではないという判決の説明はわからなくもないです。ただ、この件のようなやり方がそれほど悪質だっただろうか?仮に悪質だったとして、では、"学術論争において決着"とは具体的にどういった方法を想定しているのか?という疑問が残ります。
また、裁判という手段に訴えたことを考えると、むしろ逆に井上明久東北大前学長が"学術論争において決着"を図らなかったとも考えられます。今回の裁判結果は、不正告発を萎縮させ、論文捏造を助長させてしまわないか?と心配になるものでした。
(要するに名誉毀損での損害賠償を求めることによる不正告発潰しです。スラップ訴訟的な効果があります)
●東北大の井上明久前総長の研究不正疑惑 外部調査しないと幹部が決定
2014/10/5:もう終わったのかと思っていた東北大の井上明久前総長がニュースになっていて、あれ?と思いました。
研究不正疑惑、東北大が告発不受理 外部調査見送る:朝日新聞デジタル(小宮山亮磨 2014年10月5日05時45分)という記事が出ていたのです。たいへん不可解な不正疑惑ものでしたので、今さらでも蒸し返してくれるのは大歓迎ではあります。
記事によると、どうも東北大の斎藤文良名誉教授と矢野雅文名誉教授の2人が、2013年11月に告発書を提出していたみたいです。しかし、大学幹部らによる調査で「不正ではない」と判断。"外部識者のいる調査委員会にゆだね"て、調査することすら否定されました。
理由は?というと、11年に別の人物から似た内容の告発があったときの調査で「研究不正にはあたらないと確認された」ため、「告発を受け付ける必要はないと判断した」という説明のようです。私が終わった話と思ったのは、たぶんこの以前の拒否があったせいだと思います。
しかし、大学側は9月16日付の文書で、指摘については「表示の誤りである可能性が高い」としているんですよね。つまり、画像に問題があることを認めながら、「不正ではない」と結論しているのです。
●不正なし断定は不可解…同じになることはあり得ない画像が同じに
井上明久前総長は複数の問題が指摘されており、今回の告発でも複数の不正に触れています。ただ、前述の大学側の回答は「複数の論文で同じ画像が使い回されている疑い」についてだけだと思われます。
2001年に井上前総長らが発表した論文において、金属を電子顕微鏡で撮影するなどして得たとされる画像が、1999~00年発表の別の論文と同じだったり、極めて似ていたりするという問題です。
告発書では「論文全体が極めて不自然。写真を取り違えたなどの単純ミスというより、新しい実験データに基づいて書かれた論文を偽装した研究不正が強く疑われる」としていました。論文に掲載された金属の作製条件は、それぞれ異なるため、同じ画像になることはあり得ないため、不正の疑いが濃厚だという理由です。
しかし、その画像の問題を認めながら、なぜか不正ではないと断定。STAP細胞問題・小保方晴子さんの問題でもよく似た話が何度も出てきました。極めて不自然です。
なお、「誤り」を認めつつ「不正ではない」と判断した理由については、東北大広報課は朝日新聞の取材に「秘密保持となっているため、お答えできない」としているそうです。ひどいですね。
●実は内規違反!内規では調査委員会を設置するだったはずなのに
さらにひどい話の上塗りなのが、東北大は内部規定で、研究不正の告発を受けた場合には、学外の識者らでつくる調査委を設けることになっているということ。
それなのになぜ調査委設置が今回に限って見送られたのか?と言うと、告発への「初期対応委員会」を理事や副学長らで設置し、この委員会で告発の不受理を決めたためです。
この規定がもともとあったのであればまだわかる話なのですが、何がひどいってこの初期対応委員会、
井上前総長の疑惑が指摘され始めて以降の09年に決定しているということ。井上前総長を守るために作られたようにしか見えません。
STAP細胞問題やノバルティス・ディオバン問題以外でもひどい不正疑惑は多いですが、この問題はその中でもトップクラスだと思いますよ。今のところ朝日新聞しか報じておらず、例によってそのまま風化しそうなのですが、他紙も報じて火をつけてくれませんかね?
●井上明久前総長の研究不正疑惑がくすぶり続ける理由
2017/05/18:この後も何度かこの問題には書いているので、どこに追記しても良かったのですが、適当にこの投稿に決めました。すると、ちょうど同じ朝日新聞の記事を取り上げたものでした。今回のものは、
くすぶる東北大の論文不正 前総長の研究めぐる疑惑:朝日新聞デジタル(小宮山亮磨、嘉幡久敬 2017年5月18日07時34分)というタイトルです。
2016年12月に東北大がまとめた報告書によると、同じ画像を複数の論文に使い回したとする指摘について、井上前総長らは調査委に「外観が似ているためにミスをした」と弁明したとのこと。その一方で、故意ではないことを裏付けるデータについては、「海難事故で失われたので提出できない」と主張しました。
調査委は「故意が疑われるという(委員の)少数意見もあったが、それを証明できる証拠もなかった」とし、大学の調査委員会は報告書で「意図的とは言えない」と不正を否定しました。
しかし、東北大は以前の調査でも、その他の疑惑について「誤りの可能性」は認めつつ、不正はなかったとの立場を示しています。偶然起きる都合の良い「ミス」が多すぎます。そのため、疑惑を告発してきた大村泉・名誉教授は、「総長まで務めた一流研究者が『ミス』を何度も繰り返すとは、とても信じられない」と話していました。
あと、そもそも調査委の「故意が疑われるという(委員の)少数意見もあったが、それを証明できる証拠もなかった」がおかしいような? 他でも繰り返し書いているように、文部科学省のルールでは、証拠を出せなかった時点で不正。今回の場合も、正しいデータを提出できなかった時点で不正確定だと思われます。
また、07年の論文の名誉毀損訴訟では、当時の部下が「科学的に不適切だった」「井上氏に辞任を促されて精神的に追い詰められていた頃に、井上氏の強い指示で研究を始めた。決して逆らえないと感じていた」という告白も出ています。記事が「くすぶる東北大の論文不正」としていたように、到底「これで納得」という結末ではありません。
●日本金属学会元会長らも申し入れ、不正指摘の論文がついに撤回
2019/09/28:
東北大が捏造改竄告発無視の井上明久元学長の不正研究論文、撤回されるで書いたように、えらく時間がかかりましたが、ついに不正が指摘されていた論文が撤回されました。日本金属学会元会長らも申し入れをしていたとのことで、やはり極めて悪質な論文だったようです。
今回はさらに進んで、
東北大名誉教授ら総長に要求「研究不正認定を」 井上元総長の論文撤回問題 | 河北新報オンラインニュース(2019年09月27日金曜日)というニュースです。
東北大金属材料研究所元所長鈴木謙爾、東北大電気通信研究所元所長矢野雅文の両名誉教授ら61人が、井上氏の研究不正を認定するよう求める大野英男総長宛ての文書を東北大に提出したとのこと。ただ、東北大広報室は「コメントを差し控えたい」としているそうで、また無視されて終わりそうな気がします。
【本文中でリンクした投稿】
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