Appendix

広告

Entries

日本だけ漁業衰退の原因は政治 先進国は人気成長産業で収入数倍


 当初は、"漁業衰退は政治の問題 先進国は成長産業なのに日本だけ衰退の謎"というタイトルでやっていました。その後、ノルウェーの話を加えて、"日本だけ漁業衰退の原因は政治 先進国は人気成長産業で収入数倍"というタイトルにしちゃいました。厳密に言うと、人気職業であること、収入が数倍であることというのは、先進国全般ではなくノルウェーの情報です。

2021/01/31追記:
●失敗は日本だけじゃない!魚の獲りすぎで4万人以上が失業したカナダ


●先進国は成長産業なのに日本だけ衰退の謎

2013/9/12: 先進国では成長産業なのに日本だけダメ…という話だと林業を思い出します。どうも漁業もそういうものになっているみたいです。
惨憺たる日本の漁業 実は先進国では成長産業 分かりきった改革がなぜ進まない?  WEDGE Infinity(ウェッジ) 2013年08月19日(Mon)  勝川俊雄 (三重大学生物資源学部准教授)

 漁業従事者の高齢化は、ここ数年間に始まったことではない。何十年も新規加入が途絶えた状況を放置してきた結果である。日本の漁業はすでに産業として成り立っておらず、一般の企業だったら、とっくに倒産している状態を補助金で維持している。漁業者の平均所得は、200万円程度。年金の足しにはなるが、これから家庭を持つ若者が、夢を持って参入できる環境ではない。「仕事がきつい。収入は悪い。そんな漁業には、いくら息子といえども、入ってこないのは当然です」と、年配漁業者は肩を落とす。

 漁業の存続には、漁業収入の改善が急務である。中長期的に安定した収入が期待できれば、後継者は必ず戻ってくる。北海道のホタテの養殖や、駿河湾の桜エビ漁業のように、安定して高い利益をあげている地域では、地元の若者が漁業を継いで、豊かな生活を送っている。後継者が順番待ちをしている浜もある。地域経済を支えられるような、自立した水産業を日本でも育てなければならない。

 日本では、「人件費の高い先進国では、一次産業は衰退するので補助金で支えないといけない」と広く信じられているが、そんなことはない。ノルウェー、ニュージーランド、アイスランド、米国、豪州など、多くの先進国で、漁業が持続的に成長している。これらの国では、漁業への補助金は、ほとんどない。世界的に見れば、むしろ、途上国よりも先進国の方が、漁業の収益性が高い。先進国なのに、漁業が衰退している日本の方が例外なのだ。

●漁獲量は減らすが高く売ることでうまくいく

 勝川俊雄准教授によると、先進漁業国で徹底されているのは、以下の2点です。

(1)漁獲規制で魚を十分に獲り残す
(2)獲れた魚を高く売る

 魚や貝などの生物資源は、子を産んで再生産するので、十分な親魚を残しておけば、半永久的に利用できます。しかし、現在の人間の漁獲能力は、自然の再生産能力を遥かに上回っているので、漁獲規制をしなければ、あっという間に獲り尽くしてしまいます。したがって、長期的な漁業経営の観点からは、魚を多く獲ることよりも、しっかりと残すことが重要なのです。

 そして、漁獲量を増やさずに漁業の収入を増やすには、魚の価格を上げるしかありません。当たり前の話に聞こえますが、逆に言うと、日本はこの2点ができていないようです。


●日本は子供の魚まで捕るので当然魚は減っていく

 日本の例としては、日本で最も重要な水産資源の一つであるマサバ漁業のケースが出ていました。マサバは産卵場も回遊ルートも日本の排他的経済水域(EEZ)で完結しており、中国・韓国などの外国船は漁獲できません。日本が排他的に利用できる資源であり、海外の影響を受けません。

 逆に言うと、マサバが減る理由を外国のせいにできないわけです。で、そのマサバの年齢別漁獲尾数推移をみると、1980年代からの乱獲で、資源の大部分を獲り尽くしてしまったことがわかってしまうのです。自業自得でした。

 こうなると、普通の先進漁業国なら、禁漁にして資源の回復を待つという選択をします。しかし、後進国である日本は全く逆の方向に舵を切りました。

 「親がいなければ、子どもを獲ればよい」という発想により、漁具メーカーと漁業者が共同で、稚魚を効率的に獲るための漁具を開発。

 そして、90年代にはすっかり未成魚中心の漁獲に切り替わってしまうという恐ろしいことが起きてしまいました。日本のサバが卵を産むのは2歳からなのですが、90年代以降は、0歳、1歳といった未成魚が漁獲の中心を占めているのです。

 なお、こうしたサバの未成魚を日本人は好まないので、一般消費者の目に触れずに、養殖のえさになるか、捨て値で途上国に輸出されるかがほとんどだとのこと。これでは当然利益が出づらいです。
(2017/11/27追記:後に書いたサンマ不漁が台湾・中国のせいは嘘?乱獲多い日本に「お前が言うな」のニシンの話と同じです)


●価格を見ると一目瞭然 子どもを捕ると貧乏になる

 価格については、具体的な話が出ていました。

0歳のサバ 100グラム 10尾漁獲 約60円
3歳のサバ 500グラム 自然死亡で減り3尾 1尾80円で240円

 漁獲重量は1.5倍、漁獲金額は4倍に増えるということで、圧倒的でした。


●漁業衰退は政治の問題 政府の設定がひどすぎる

 対策については、漁獲枠の設定の改善というのが一つあります。「改善」とあるように、今でもあります。日本政府は、97年から、サバを含む7魚種に漁獲枠を設定しているのです。しかし、全くこれに効果がないってことなんですね。

(1)漁獲枠の設定を改善する

 なぜそうなっているか?というと、漁獲枠が捕れる魚の量よりはるかに多いので、物理的にこれを超過するようなことはないとのこと。捕れる量だけでなく、過去にはマイワシの漁獲枠が、海にいる魚より多かったことさえあるとのこと。つまり、全く設定していないと同じことでした。規制する気なしで、バカじゃねーかという話です。

 上記の時点で既に問題外なのですが、これが改善されたとしても、次の問題が漁獲枠の設定の仕方です。

(2)漁獲枠の個別配分

 現在の日本の漁獲枠は、全体の総漁獲量を決めているだけ。誰が漁獲枠を使うかは早い者勝ちになってしまいます。この早い者勝ちというのが実はすごく悪いことなのです。この方式は、ダービー方式(オリンピック方式)とも呼ばれます。(ダービー(オリンピック)方式 - 勝川俊雄 公式サイトより)

 なぜこれがまずいのか?というと、早獲り競争でたいへんなだけでなく、スピード勝負なので前半で指摘されたような子供の魚まで捕るということが起きてしまうためです。


●早い者勝ちのやり方をやっているのは日本だけ?

 早い者勝ちの漁獲枠設定をしているのは、日本ぐらいである。他の主要漁業国は、漁獲枠をあらかじめ個々の漁業者に配分しておく方式(個別漁獲枠制度、IQ方式)に移行しているといいます。そして、この「個別漁獲枠制度」どうせ獲るのなら儲かる魚を獲ろうとするという質の向上に繋がります。
 ノルウェーの漁業者は、漁獲枠の上限が決められる代わりに、相場を見ながら、大型の価値のある魚を狙って獲ることができる。だから、ノルウェーサバの品質は安定しているし、値段が安くならない。漁業の生産性を高めるには、個別漁獲枠制度の導入が不可欠だからである。

 さらにコスト削減につも繋がるということで、良いことづくめ。
 個別漁獲枠制度を導入すると、漁業のコストが大幅に削減することが知られている。アラスカのカニ漁業は、05年に個別漁獲枠制度を導入してから、燃油消費量が半減している。筆者が現地の漁業者から話を聞いたところ、早獲り競争の時代は、ライバルよりも早く漁場に着くために、常に全速力で走っていたが、現在は一番燃費が良い速度で走っているということである。

 有名なイカ釣りも無駄の嵐のようです。
 日本のイカ釣り漁業は、強力な集魚灯をつかうので、燃油高騰の影響を受けやすい。イカを釣るだけなら、それほど多くの光量は必要がない。昔は、ローソクや50㍗の裸電球で、イカを釣っていた。現在の過剰な光量は、漁業者間のイカの争奪戦の結果である。誰かが抜け駆けして光量を増やすと、イカがそっちに集まってしまうので、他の漁業者も追従せざるを得ないのだ。

 個別漁獲枠制度を導入すれば、光量を増やしても、自分が水揚げできるイカは増えない。漁業者は、経費削減のため、必要最低限の光量まで落とすはずである。現在の2~4割の光量が適正水準であると言われており、大幅な経営改善が期待できる。

●政府は個別漁獲枠制度の導入を見送った過去

 先にサバの話が出てきましたが、日本は"世界に冠たる水産王国となる可能性を持つ"そうです。じゃあ、何でしないの?と言うと、これまた政治の問題でした。

 実を言うと、麻生政権時代に、規制改革会議によって、個別漁獲枠制度の導入が議論されたことがありました。しかし、水産庁が以下のように回答し、結局、実現しませんでした。

(1)日本では、漁業者による自主的なきめ細かい操業規制が行われており、公的機関が規制を導入して、漁獲競争を緩和する必要がない
(2)管理コストがかかるので難しい

 「緩和する必要がない」としているものの、前述の通り、これは大嘘。国内だけを見ても、海外と比較しても、日本の漁業の苦しさは明らか。政治家が放置し続けた結果が今の日本の漁業になっているのです。


●ノルウェーの漁業は人気成長産業で収入は日本の数倍

2017/11/27追記:先進国では漁業が成長市場ということに関し、ノルウェーの例を追加。ノルウェーは2017年の水産輸出額が1000億クローネ(約1兆4000億円)前後と、10年前の約3倍まで拡大する見込みだそうです。

 組合員の平均年収は50万~60万クローネ(約690万~830万円)と日本の漁師の約3倍とされていました。最初の投稿だと漁業者の平均所得は、200万円程度だったので、この数字を採用すれば4話程度です。ノルウェーでは漁師はみな金持ちなので、新規参入の希望者も格段に増えたといいます。

 これが書かれていた記事は、ジム付き漁船、ノルウェーの贅沢な漁師たち:日経ビジネスオンライン(武田 健太郎 2017年8月31日より)というタイトル。船内にはフィットネスジムやミニシアター、システムキッチンに小さなパーティールームなどを備え、まるでクルーズ船のような豪華設備となっているそうです。

 ただ、注目すべきは、本業の方の機械化でしょう。船には最新のクレーン機器などが搭載され、船員による肉体作業は少なくなっています。力持ちよりも、機械を管理する大学出身のエンジニアの割合が多くなっているというほど。林業でも先進国では高学歴者が必要だと言われていますので、似たものを感じます。


●ただし、ノルウェーは痛みを伴う改革を行っていた

 ただし、ノルウェーのやり方は痛みを伴います。漁師の数はかなり減らされているのです。1980年代に2万5000人いた漁業専従者は今では9000人まで減少。最初の投稿のときにもあったIQ方式を採用するにあたって、漁獲枠のライセンスを小規模の非効率的な漁業者には与えないこととしました。効率化を進めるため、昔ながらの古い漁師は排除されたのです。

 IQ方式を厳密にやるには、漁獲量を船上で測定し、衛星通信などで即時に報告する機能を備える必要があります。日本は遅れており、小型の古い漁船が多く、これができません。また、水産庁の長谷成人長官は以下のように主張しています。

「日本に多い定置網などの漁法では、意図した魚種以外が網の中に入ることが多く漁業管理は難しい。ノルウェーに比べて魚の種類も豊富。管理方式をそのままぽんと持ってくれば、全てうまくいくとは思っていない」


●日本は現状「みんなで貧しくなろう!」を選んでしまっている

 では、日本だけは改革しないのが正解か?となると、そうではないでしょう。前述の通り、そもそも日本は古いやり方を守ることにより自滅し、ノルウェーなどの他の国は成長しています。みんなで貧しくなり、水産資源も枯渇させることがベストの道とはとても思えません。

 また、ノルウェーが最新設備を導入できたというのも、漁師の数を減らしたからこそという側面もあります。漁業者が減ったことにより、一人当たりの漁獲量は増え、所得が増え、漁船に最新鋭の設備を入れられるようになったと記事では、説明されていました。

 非国民殺害事件で保守派産経新聞「日本を貶める日本人をあぶりだせ」では、戦時中の日本政府が自分や自分の家族の安全・生活を守る人を「非国民」と呼んだという話が出てきました。和を乱すくらいならみんなで貧しくなろう!となっちゃうのは、ある意味日本らしいと言えばらしいのかもしれませんが…。


●失敗は日本だけじゃない!魚の獲りすぎで4万人以上が失業したカナダ

2021/01/31:魚を獲りすぎていた国は日本だけじゃなかった!という朗報(?)を。魚の獲りすぎで4万人以上が失業した東カナダの話 | Gyoppy!(ギョッピー) - 海から、魚から、ハッピーをつくるメディア - Yahoo! JAPAN(2019.06.06)というタイトルの記事が目に入り、これは読まなくては!と思ったので読んでみました。

 東カナダのグランドバンクは、かつてマダラ漁が盛んであった大西洋の漁場。寒流と暖流がぶつかり合い、複雑な地形をしたこの恵まれた漁場では、約100年もの間、年間20~30万トンの漁獲量を維持していました。ただ、1960年代になると、急激に漁獲量が増え80万トンに到達すると、漁獲量は激減を始め、1992年には遂に禁漁となってしまいます。その結果、4万人以上の漁業関係者が失業してしまいました。アホだ!と思いそうな話です。

 ただし、このカナダのケースは、魚を全滅させる前に禁漁にしており、参考にできるでしょう。マダラ乱獲で資源を崩壊させてしまった反省から持続可能な漁業を認証する「MSC認証」というものも作りました。海洋の自然環境や水産資源を守って獲られた水産物に与えられるラベルだそうです。

 2017年現在、世界中で獲れる天然魚、約9000万トンのうち12%がMSC認証の対象となっており、2020年までに20%が目標。日本では、イオン、日本生活協同組合連合会が、取り扱う水産物のうち20%をMSC認証(天然)やASC認証(養殖)された魚にするなど、具体的な数値目標を掲げているそうです。

 ウナギは密漁と密売で違法だらけ…イオンで売っているウナギは?で書いたように、イオンはウナギでも適切なウナギを販売しており、イメージとは逆に他社より良心的ですね。マグロ資源管理で違反だらけの国は日本だった ルール守る気なし?でやったように日本はひどいことばかりやっているので、こうした動きが広まってほしいところです。


【本文中でリンクした投稿】
  ■マグロ資源管理で違反だらけの国は日本だった ルール守る気なし?
  ■サンマ不漁が台湾・中国のせいは嘘?乱獲多い日本に「お前が言うな」
  ■非国民殺害事件で保守派産経新聞「日本を貶める日本人をあぶりだせ」
  ■ウナギは密漁と密売で違法だらけ…イオンで売っているウナギは?

【関連投稿】
  ■魚の消費量世界ランキング、日本はとっくに1位転落 なおも低下
  ■捨てられるおいしい魚 魚が売れない理由は高い価格だけじゃない
  ■日本人の魚離れは深刻 あと数年でスーパーの魚売り場はなくなる?
  ■マグロ消費量の推移 日本のマグロ漁業の発展はアメリカへの輸出のため
  ■魚の価格は高い?安い? 漁師は買い叩かれて儲かっていない
  ■食べ物・飲み物・嗜好品についての投稿まとめ

Appendix

広告

ブログ内 ウェブ全体
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示









Appendix

最新投稿

広告

定番記事

世界一スポーツ選手の平均年収が高いのはサッカーでも野球でもない
チャッカマンは商標・商品名 じゃあ正式名称・一般名称は何?
ジャムおじさんの本名は?若い頃の名前は?バタコさんとの関係は?
ワタミの宅食はブラックじゃなくて超ホワイト?週5月収10万円
朝日あげの播磨屋、右翼疑惑を否定 むしろ右翼に睨まれている?
レーシック難民は嘘くさいしデマ?アメリカの調査では驚きの結果に
赤ピーマンと赤黄色オレンジのパプリカの緑黄色野菜・淡色野菜の分類
アマゾンロッカーってそんなにすごい?日本のコンビニ受け取りは?
就職率100%国際教養大(AIU)の悪い評判 企業は「使いにくい」
ミント・ハッカでゴキブリ対策のはずがシバンムシ大発生 名前の由来はかっこいい「死番虫」
移動スーパーの何がすごいのかわからない 「とくし丸」は全国で約100台
ビジネスの棲み分け・差別化の具体例 異業種対策には棲み分けがおすすめ
主な緑黄色野菜一覧 と 実は緑黄色野菜じゃない淡色野菜の種類
タコイカはタコ?イカ?イカの足の数10本・タコの足8本は本当か?
トンネルのシールドマシンは使い捨て…自らの墓穴を掘っている?
ユリゲラーのポケモンユンゲラー裁判、任天堂が勝てた意外な理由
好待遇・高待遇・厚待遇…正しいのはどれ?間違っているのはどれ?
コメダ珈琲は外資系(韓国系)ファンドが買収したって本当? MBKパートナーズとは?
大塚家具がやばい 転職社員を通報、「匠大塚はすぐ倒産」とネガキャン
不人気予想を覆したアメリカのドラえもん、人気の意外な理由は?

ランダムリンク
厳選200記事からランダムで









アーカイブ

説明

書いた人:千柿キロ(管理人)
サイト説明
ハンドルネームの由来

FC2カウンター

2010年3月から
それ以前が不明の理由