東京オリンピックは新型コロナウイルス問題で延期となってコストがかさんだ上に、安倍首相の主張した「完全な形で開催」も事実上不可能で簡素化の開催、さらにはそれすら無理で中止の可能性もあり、当初喧伝されたような利益がなかったことは確実です。招致成功は経済的にもマイナスの方が大きかったかもしれません。
こうした感染症拡大による延期や中止は完全に想定外だったのですが、実を言うと普通に開催できた場合でも、オリンピック開催国の経済にはマイナスになることが多いという指摘は以前からありました。最近、東京オリンピック中止に関する報道が多いので、再投稿しておきます。(2021/01/30)
2021/05/21:
●オリンピックを開催するとむしろ経済成長率は鈍る…別論文でも指摘 【NEW】
●東京都は海外選手だけでなくマスコミやスポンサーにも無料で医療 【NEW】
●東京五輪招致費用、2億円でやりますと言って158億円使って落選
2013/9/12:
前回の五輪招致費用予定2億・結果158億 東京都の発表は信用できる?で書いた、入れたかったけど入れられなかった記事を。五輪の経済効果に関しては他にも書いており、
オリンピックの経済効果 ロンドン1.5兆円・東京100~150兆円や
経済効果は新たな付加価値とは別 支出先の変更・需要の先食いも経済効果?も参考にしてください。
招致活動というのは当然負ける可能性があるため、私は負けてしまえば無駄金だと思っていたんですよ。今回で言えば、スペインやトルコがかわいそうなことになりましたし、前回は今回選ばれた東京が
前回の五輪招致費用予定2億・結果158億 東京都の発表は信用できる?のタイトル通り、日本は158億無駄にしちゃいました。
この投稿ではオリンピック開催後に景気悪化する話や借金に悩まされる話を書きましたけど、たとえそうであっても開催国に選ばれれば当たり、選ばれなけらば外れというギャンブルみたいなもの…それが私の理解でした。
●経済効果は当てにならない…実際にはマイナスになる可能性がある
ところが、この私の理解は逆かもしれない…と書かれてる記事を読んで仰天しました。158億円も使っちゃった石原都知事時代の東京都はさすがにマイナスかもしれませんが、負けた方が良くなるケースの方が多いとのこと。開催国に選ばれれば外れ、選ばれなけらば当たりだというのです。
そのことが書かれた記事、
オリンピックの「純」経済効果は不透明:日経ビジネスオンライン 慎 泰俊 2013年9月10日では、まず、ロンドンオリンピックの経済効果について紹介しています。
<経済効果は、準備の段階から始まり、開催後まで続く。Oxford Economicsによる「2012ロンドン五輪の経済効果(The Economic Impact of the London 2012 Olympic & Paralympic Games)」というレポートによると、ロンドンオリンピックの開催は2005年から2017年にかけて、165億ポンド(1ポンド=156円で換算すると、2.57兆円)の経済効果をもたらしたという>
ただし、何度も紹介しているように、経済効果の数字は額面通り受け取れません。この経済効果は、グロス(総量)の測定であって、ネット(純量)で実際に効果があるか、については意見が分かれていたとのこと。ネット(純量)の経済効果はマイナスとなる可能性がありました。
●オリンピックの経済効果、実はマイナス?招致活動は負けるが勝ちか
オリンピックの招致活動は負けるが勝ちではないか?と示唆するおもしろい研究の話はこの後。米カリフォルニア大学バークレー校のAndrew Roseさんとサンフランシスコ連邦準備銀行のMark Spiegelさんが以下のような研究結果を発表していたそうです。オリンピック開催国はマイナスが多いのです。
<Rose氏とSpiegel氏の結論は、実際にこうした大きなイベントをホストすること自体よりも、
招致に向けた活動がもたらす「シグナリング」(情報の伝達)が五輪の経済効果(貿易に対するプラスの効果にあらわれる)をもたらすというものだった。そして、
五輪開催そのもののもたらす純経済効果は明確でないことが少なくなく、マイナスになることも多いと、同氏らは説く>
勝つか負けるかはわからないのでやはりギャンブルですね。ただし、当たった方が負けという変わったギャンブルです。ロシアンルーレットみたいなものですかね。本当かなぁと信じられませんけど、落っこちた方がお得だとのこと。どうしても無駄金使った気がするんですが……。
ただ、まあ、招致に向けてお金をかけた分、アピールで得られる利益が必ず増すと約束されたものでもないでしょう。前回の東京都の2億円しか使いませんと言って158億円まで積み上げてしまったとか、今回のスペインのように後先考えずに設備にお金使っちゃったとかは、やはり無駄になる可能性が高いでしょう。これはこの次の話でわかります。
●オリンピックの純経済効果がほとんどマイナスになっている理由
記事では、オリンピック開催で経済への影響がマイナスが多くなることについては、おもしろいたとえをしていました。厳密ではないものの、オリンピックの招致を単純化すると、「持ち回りでやっている大パーティを、7年後に自分の家でやることになった」ようなものだとしていたのです。
<もてなしのために家の掃除や設備更新をしたり、近所と騒ぎを起こさないようにしたりする。そうすることによって、近所の工務店などの景気がよくなるだけでなく、その設備更新などが長期的に我が家の過ごしやすさを高めるとともに、世間における印象が良くなり我が家にやって来ようと思う人が増える、というのがオリンピックの経済効果だ>
設備更新すれば確かに近所の工務店は儲かります。しかし、お金をかければかけるほど良いという意味ではありません。ネット(純量)の経済効果がマイナスになる場合があるというのは、パーティにかこつけて無駄遣いをしたら後で財布がキツくなる、という当たり前のことだと指摘されています。
<実際に五輪開催準備がプラスの効果をもたらすかマイナスの効果をもたらすかは、一言でいえば「無駄遣いをするかしないか」にかかっているのだろう。多くの公共投資がそうであるように、様々な利害関係者がいる状況で無駄遣いをしないことは容易ではなく、だからこそ多くの国においてオリンピックの純経済効果はマイナスになっているのではないだろうか>
開催にしても招致活動にしても、無駄遣いすれば元を取り返せない…ということです。こうやって書いてしまうと、当然すぎて馬鹿にしてるのか?そんなの誰でもわかるよ!と感じるかもしれませんけど、わかっていないから多くのオリンピック開催国で経済効果がマイナスになっているのです。
●東京オリンピック開催が日本を復活させる?データを冷静に見ると…
もう一つ、経済効果に関してはロイターの記事がありました。五輪開催を正当化しがちな日本人じゃなくて、外国人が書いたもの。これは興味あります。なお、
東京オリンピック開催決定・海外の反応 韓国紙は安倍首相評価!で紹介したように、ロイターは五輪招致の決定に関して安倍首相を絶賛していました。特に安倍さんを嫌っているマスコミってことはないと思います。
<五輪開催は、安倍晋三首相が進める日本の自信回復にとっては追い風となる。しかし一方で、
五輪関連の投資活動が日本をデフレから脱却させるとの期待は見当違いだ。(中略)2020年五輪で使われる競技場などについては、東京は既存施設の利用を掲げており、追加投資は控えめな規模となる。投資予算額は約44億ドルにとどまり、既にある準備金から拠出される予定。五輪運営にかかる約34億ドルはチケットや関連商品の販売、スポンサーの資金提供によってカバーされる>
(
コラム:東京五輪決定、経済効果には疑問符 | コラム | Reuters By Peter Thal Larsenより)
いや、でも、
前回の五輪招致費用予定2億・結果158億 東京都の発表は信用できる?で書いたように、東京都が言っていることなんて信用できませんよ……と思ったら、続きで「五輪関連の支出が当初の予算を大幅に上回ることはよくあることだ」と書いていました。また、以下のように効果はそう大きくなく、「需要の先食い」に過ぎないといった主張もあります。
<東京は昨年、五輪開催が3兆円の経済波及効果と15万人の雇用創出につながるとの試算を発表した。これは国内総生産(GDP)をわずか0.5%押し上げるだけにすぎない。また、投資の中には以前から計画されていたが、実施が前倒しになるだけのものも含まれる>
スポーツとナショナリズム ヒトラーの「ナチ・オリンピック」が最高傑作では、オリンピックの歴史は政治利用の歴史だということでした。そこで挙げた例とはスケールが違いますが、東京オリンピックも政治の道具として立派に使われている感じです。招致の段階で政治家が絡むのでどの国でもそうなのかなぁ?と思いますが、「じゃあ、仕方ない」ってわけにもいきません。やっぱりオリンピックってのは汚れているなぁと思います。
●オリンピックを開催するとむしろ経済成長率は鈍る…別論文でも指摘
2021/05/21:
2050年のメディア:第60回 五輪に経済効果はもともとない。衝撃の英名門大論文=下山進 | 毎日新聞(2021/5/18 05:00)という記事が出ていて、「ココに来てとうとう五輪に経済効果がないとまで言う方(ノンフィクション作家)が現れた。オリンピックを叩き潰す又とないチャンスに必死なのがよく分かる」という反応が出ていました。ただ、そもそも世論では開催反対は少数ではないので、この人が五輪開催に必死な感じです。
また、コメント内容も間違いだらけ。記事で紹介されているのは専門家の論文であり、非専門家による主張ではありません。中身をまともに読んでないか、読解力が低すぎるんでしょうね。さらに、もともと書いていた上記までの話を見ればわかるように、五輪の経済効果がマイナスになることがあるというのは以前から指摘されていました。急に言われ出したことでもないんですよね。
以前から指摘されているということからすると、今回の論文も以前と同じ研究のことを言っているのないか?と思ったのですが、違う論文でした。前回はカリフォルニア大で今回はオックスフォード大ですし、新しい論文です。論文は一つ出て決まりではないため、複数の論文で同じような見解が出たことで、より信頼性が高くなってきました。
<ベント・フライフヨルグ、ダニエル・ルンらオックスフォード大学の三人が昨年9月に発表した論文「テールへの回帰―なぜオリンピックは破綻するのか」を読んで、そもそもオリンピックに経済浮揚効果があるかは極めて疑わしいということがわかり愕然とした。むしろ経済を考えれば、オリンピックはしないほうがいい、という調査結果なのだ。
フライフヨルグはビジネススクールの教授、ルンは統計学の専門家だ。
1960年以来の各都市で開かれたオリンピックのその国の経済成長率への寄与を見てみると、オリンピックを開催するとむしろ経済成長率は鈍る>
●東京都は海外選手だけでなくマスコミやスポンサーにも無料で医療
五輪開催で経済成長率が鈍る理由はこれもまた以前出てきたように、無駄遣いが多すぎるためとの説明。1960年以来、オリンピックに実際にかかった費用は、平均で172パーセント当初予算をオーバーしており、。夏のオリンピックだけみれば、この数字は213パーセントだとのこと。東京オリンピックも嘘ばかりで、めちゃくちゃ出費が多くなっています。
<論文では、2004年のアテネオリンピックによる負担は、ギリシャの経済を弱め、2007年の経済危機につながったとし、また予算を352パーセントオーバーした2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、リオデジャネイロ州が財政非常事態宣言を出すまでになったと書いている>
なお、記事では、IOCと結んでいる開催都市契約によれば、東京都は、選手だけでなくオリンピックで入国するメディア関係者、放送権を持つ放送機関、スポンサーなど全員に、無料で医療を提供することが義務づけられていることも紹介。ちょうど今日本では、五輪選手らのための病床確保を知事らが拒否する…といった事態が起きており、お金だけでなく国民の命も削られようとしています。
(すでに新型コロナウイルス対策をためらって遅れをとるという形で、五輪優先による死者が出てそうな感じですが)
【本文中でリンクした投稿】
■
前回の五輪招致費用予定2億・結果158億 東京都の発表は信用できる? ■
オリンピックの経済効果 ロンドン1.5兆円・東京100~150兆円 ■
経済効果は新たな付加価値とは別 支出先の変更・需要の先食いも経済効果? ■
東京オリンピック開催決定・海外の反応 韓国紙は安倍首相評価! ■
スポーツとナショナリズム ヒトラーの「ナチ・オリンピック」が最高傑作【関連投稿】
■
文化・芸術・宗教・海外との比較についての投稿まとめ
Appendix
広告
【過去の人気投稿】厳選300投稿からランダム表示
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
|