2013/9/30:
●IT技術や機械の発達が人類から仕事を奪う?
●個人情報がわたること自体がなんとなく不安という人々
●現在のラッダイト運動をネオ・ラッダイトと呼ぶ
●現在の経済に問題がある!その対策の選択肢がネオ・ラッダイト
2016/5/15:
●既にネオ・ラッダイトを実践?仕事奪うと批判でロボット販売終了
●本当にロボット販売終了とリストラは関係あるのか?
●ネオ・ラッダイトの成功ではなく、単にロボットがお粗末だった?
●IT技術や機械の発達が人類から仕事を奪う?
2013/9/30:
仕事の効率は悪い方がいい?労働生産性を上げるAmazonに批判 では、IT技術や機械の発達が人を不幸にするといった主張がありました。そのときには、「人間は似たようなことを繰り返していますので」と書きましたが、実際にそういった例が
個人情報、「集めないサービス」に商機:日経ビジネスオンライン(田中 深一郎 2013年7月10日(水))で載っていました。
作者は、元CIA(米中央情報局)職員のエドワード・スノーデン氏が暴露した、米政府による個人情報の収集問題で、「プリズム(PRISM)」と呼ばれる情報収集プログラムに加わったとされるある米大手インターネット企業の元幹部に会ったことがありました。
その元幹部に「ネット上の情報管理を私企業に委ねることに、反発する人が増えるのでは」と尋ねると、またか、という表情で「そういう批判は、ラッダイト運動と同じだよ」と言われたそうです。
ラッダイト運動というのは、かつて産業革命期の英国で、技術革新による失業を恐れた労働者が起こした「機械の打ち壊し運動」。現代においても、今回の件に限らず、ハイテクが既存産業の雇用機会を奪うとの懸念などから、グーグルやアップルなどに、ラッダイト的な批判が出ることが多いといいます。
●個人情報がわたること自体がなんとなく不安という人々
個人情報の管理は「仕事を奪う」という話ではありませんし、情報の悪用などは私も非難されて当然だろうと思います。記事では、「技術の善悪というよりも、ネット企業が収集した大量の個人情報をどこまで責任持って管理しているのか、というソフト面が焦点のように見える」と書いていました。
ところが、「たとえ各社が個人情報を社内で厳重に管理しているとしても、漠然と気味が悪いと感じる人」がいることを記事では指摘。きちんと管理していてもダメだという人々です。作者はこうした気持ちそのものは認める感じ。彼らのことを、「ばかげているとは言い切れない」と書いていました。
元幹部は「人間が見ていなくても、機械は見ている。ネットにプライバシーなど存在しない。それが嫌なら、便利なサービスを使わなければいい」と言い切っていたのですが、実際、使わない人はいるとのこと。ネットやSNS(交流サイト)の専門家の中にも、ソーシャルメディアなどの利用を「ボイコット」している人は少なからずいるといいます。
ただ、ボイコットするだけでしたら、それは自由で構いません。問題は個人情報を入力するサービス自体を叩くといったところ。記事でも、「こうした問題に対し、ビッグデータや人工知能といった技術そのものを批判したり、規制で縛り付けたりしても仕方がない」としており、現代の打ちこわし運動にまで理解を示すものではありませんでした。
●現在のラッダイト運動をネオ・ラッダイトと呼ぶ
Wikipediaを読んでみると、昔あったラッダイト運動は"最初は衝動にまかせた望みのない破壊に終始"したものの、現在に至るまで重要である労働運動へと繋がったようです。そういう意味では全くの無意味な運動ではなかったみたいですね。
また、Wikipediaには現在のラッダイト運動をネオ・ラッダイトとしており、ページの3割くらいはこの話で占めていました。まず、ネオ・ラッダイト運動については、以下のような説明をしていました。
<現代文明において、端的にはマイクやテレビなどいわゆるメカ、ひいてはAI(Artificial Intelligence)やITなどの
ハイテク技術の進化と台頭によって、個人の雇用機会が次第に奪われていくのではないかと懸念し、それらの開発を阻止し、利用を控えようという考え方がある。これはかつてのラッダイト運動になぞらえ、ネオ・ラッダイトと呼ばれている>
●現在の経済に問題がある!その対策の選択肢がネオ・ラッダイト
ネオ・ラッダイトを考えるには、現在の経済について考える必要があるようで、Wikipediaではそうした説明もありました。
・米クリントン政権の労働長官を努めたロバート・ライシュは自著『勝者の代償』のなかで、IT(情報技術)の恩恵などにより個人が消費者として充実するほどに、逆に生産者・労働者としては不安定になる反比例的な問題点が存在すると指摘している。
・頻繁なコスト削減・付加価値付与・技術革新などの連続するニューエコノミー型経済は、所得や雇用機会の格差による少数の勝者と多数の敗者を鮮明化しその二層化と敗者固定化を深め、かつ身分・資産・サービスなどが固定化されたオールドエコノミー型経済社会と異なり、その勝利(雇用機会や所得の確保)を一時的とせず維持するために、個人生活をさらに犠牲にして長時間低賃金の所得デフレ進行を受入れつつ働かねばならない中で、家庭やコミュニティが次第におざなりとなりついにはそれらさえも商業的価値観に基づいて外注化され選択されるようになる。
こうしたニューエコノミーの矛盾に対して、ロバート・ライシュさんは、三つの選択肢を提示していました。最初の選択肢というのは、ネオ・ラッダイト運動です。調査がないのでわかりませんが、世の中にはネオ・ラッダイト運動に賛同する人がかなりいると思われます。
1.社会的副作用を生み出している技術革新や市場経済化を止める(=ネオ・ラッダイト運動)
2.現在進行している変化を行くところまで行かせる
3.両者のバランスを取る。
しかし、ロバート・ライシュさんも別にネオ・ラッダイト運動を支持しているわけじゃないようで、最後の「両者のバランスを取る」という考え方。上記のような選択肢を示されて冷静に考えると、「1.社会的副作用を生み出している技術革新や市場経済化を止める」を選ぶ人はあまりいないでしょう。極めて非現実的な選択肢です。
●既にネオ・ラッダイトを実践?仕事奪うと批判でロボット販売終了
2016/5/15:で、そのネオ・ラッダイト的なものが成功した例かな?と感じたニュースでがありました。
医療用麻酔ロボット、医者の職を奪うとして市場から追い出される。メーカーは3000人規模のリストラへ - Engadget Japanese(BY Munenori Taniguchi 2016年03月31日 11時20分)というものです。
・ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が、自動的に患者に麻酔を投与可能なロボット Sedasys の製造販売を終了すると発表。理由は売上不振。
・Sedasys は麻酔科医にくらべ1/10のコストで患者への麻酔薬投与ができたが、それは麻酔科医の仕事を奪うことでもあった。
・病院経営者や患者からすれば Sedasys は非常に魅力的な麻酔ロボットである一方、米麻酔医学会などは「Sedasys が誤って使われたときに患者を危険にさらす恐れがある」、「万が一のため麻酔科医がその場にいる必要がある」などと主張。そのため、大腸内視鏡検査や食道胃十二指腸内視鏡検査にその用途が限られてしまった。
・Sedasys だけが原因ではないものの、現在 J&J は売上の低迷により3000人規模のリストラを計画中との報道。
●本当にロボット販売終了とリストラは関係あるのか?
この報道の通りであれば、ネオ・ラッダイト運動を実践して成功させた例というだけでなく、仕事を奪う!と批判して販売中止に追い込んだことで別の人たちの仕事がなくなるという皮肉でもあります。
ただ、普通は経営者側の意向が強く、反対があったからと言って人件費を削減できる魅力的な機器を導入しないという選択がなされるだろうか?と不思議に思いました。そこで
はてなブックマークを見てみたところ、この記事はいろいろと間違いがあるのかもと感じさせるコメントが多くありました。
とりあえず、リストラに関するところでまず一つ。元記事も「Sedasys だけが原因ではない」とは言っていましたけどね。
“J&Jの事業規模を見れば、ロボットの件とリストラは別の問題で、ミスリードを誘っている。”(kananta 2016/03/31)
“それ一発に賭けてるベンチャーならともかく、ジョンソンエンドジョンソンの規模だと一製品の売り上げ云々とリストラは殆ど関係ないだろ。”(hahiho 2016/03/31)
今のレートでなおかつ私の計算ミスなければですが、データは以下の通りで売上高は7兆円、純利益1兆円のイメージ。ロボット一つの売れ行きでリストラする会社ではなさそうです。
従業員数 117,900人
連結の売上高 65,030 Million US$
連結の純利益 9,672 Million US$
●ネオ・ラッダイトの成功ではなく、単にロボットがお粗末だった?
さらに、はてなブックマークでは、私と同じように本当なの?と疑っている人がたくさん。ラッダイトって話も出ていました。
“細かな調整に麻酔科医がいないとダメにしても、一部機械化が進むのはいいことだと思うんだが。本当は、機械の出来がわるかったのではないか。”(hr252 2016/03/31)
“ラッダイト的な事書かれてるけど本当かな。18歳以上の健康な人にしか使ってはいけないらしいので、用途が限られてコストダウンにならなかったのでは?”(hashrock 2016/03/31)
上記のできが悪かったのでは?という疑いはかなり妥当だったのかもしれません。実は言うほどコストダウンできなかっただろうというコメントが多数ありました。
“麻酔科医だが解説しよう。麻酔には鎮静、鎮痛、不動化の三要素が必要。このロボには鎮静機能しかないから単独では患者は痛がって暴れる。つまり鎮痛ロボと筋弛緩ロボも必要だった。あと個人的には合体機能欲しかった”(blackblueash 2016/03/31)
“当たり前だけど、その機械のオペレーターや代わりに麻酔する人の人件費カウントされてない。コストは下がっても案外手間増えるだけだよ。”(houyhnhm 2016/03/31)
“そりゃ患者の容体急変したら正規の麻酔科医を呼ばなきゃいけないわけで、それじゃ間に合わないかもしれないわけで、だったら最初から麻酔科医を貼り付けておくわ、となる。”(kz78 2016/03/31)
これらのコメントが正しいとは限らないものの、元記事よりはこちらの解説の方が納得感がありました。
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